ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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神の宴
前書き
一応、ニシュラ和尚のプロフィールにて、バルドル・ファミリアの団員の絵を貼っています。
興味のある方はご覧ください。
てか、作者の俺がこのページに貼るやり方を知らんのです
「それじゃ、いってくるよ。 パディ、お願いね」
「はい、畏まりました」
『豊饒の女主人』での騒ぎから二日後。
昨日、しっかりと絞られた俺は御者のパディさんを除く八人でホームの玄関にたっていた。
バルドル様の見送りである。
怪物祭を数日後に控えた今夜、毎年のように開かれる【ガネーシャ・ファミリア】主催の『神の宴』があるのだ。
きらびやかな正装に身を包んだバルドル様が馬車に乗りこみ、それでは、と言ってパディさんが馬車を出す。
ゆっくりと進みだした馬車が角を曲がった所で、俺達残り組はホームへと戻った。
「あの、『神の宴』ってなんですか?」
ホームのリビングに戻ったところで、スウィードが疑問の声をあげた。
「そのままの意味だよ。 神様達が集まるんだ」
その疑問に答えたのはハーチェスさんだ。
『神の宴』というのは、まぁ、名前が示すように、神様が集まるのだ。
下界に降りてきた神様達がみんなで集まろうぜ!というノリで集まってくるらしい。
宴をやりたいと思った神様が、勝手に開く。そんな感じだ。
呼ぶ神様の数は、開催するファミリアの規模による。
大規模ファミリアである【ガネーシャ・ファミリア】はその豊富な人員によって、ここオラリオに住むほぼすべての神様に招待状を配ることが可能なのだ。
うちが開こうとしても、せいぜい懇意派閥を含めた十数くらいだろう。
「ま、何はともあれ、俺達にはあんまり関係ないイベントだ。気にすることはないぞ」
「わ、分かりました」
多分、ウィザル様やイルマタル様も来ているだろうし、バルドル様は今夜、遅くなるかもしれない。
パディさんは時間までバルドル様を待つと言ってたし遅いだろう。
「……あれ? なんかデジャヴ」
「ああ、式もっすか? なんか、去年のこのあとの記憶がないんすよ」
「お、てめぇらもか?」
「………」コクリ
うん?と、全員が全員の顔をみて首をかしげた。
あれ? 何がどうなってんの?
「ハーチェスさんは覚えてますか?」
「…………………………………ど、どうかな~」
なんだ、今の間は
視線を部屋のあちこちへとさ迷わせ、乾いた笑い声をあげながら尋常ではないほどの汗をダラダラと流すハーチェスさん。
「団長、どうしたっすか?」
「な、なな何でもないよ? だ、だだ大丈夫だ」
「全然大丈夫そうにみえねぇぞ?」
「そ、それはヒルの勘違いじゃないかな?」
誰の目からみても分かるほどに動揺するハーチェスさんの様子に、いよいよ何かが怪しいと疑いを持ち始めた俺達。
と、そこでふと、アルドアさんがあることに気付いた。
「あれ? リリアは?」
そう言った瞬間、全員の視線がハーチェスさんに集まった。
「………」カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
……めっちゃ動揺してる
「……なあ、変な匂いがしねぇか?」
「そういえば……これは、食堂の方ですかね?」
そして、俺達は気付いた。
パディさんがいないこの現状
いつも料理を作る人がいない今の状況
ここにいないリリアさん
そして、食堂から漂ってくるこの匂い
「ま、まずい、逃げないと……!!」
「くそっ! 何で今まで忘れてたんだよっ!」
いち早く危険を察知した俺とヒルさんが玄関へと駆け出そうとし……
襟をハーチェスさんに捕まれる
「ハーチェスさんっ!?」
「団長っ!?」
「……また今年も、皆で逝こうね」
やっぱりこの人ぐるだった!!
アルドアさんとデルガさん、加えてスウィードはもうすでに沈められており、床に倒れてピクピクと痙攣していた
「さぁ!皆!今日は私が作ったわよ~!」
そして聞こえるリリアさんの声。
俺にはあれが死を告げる呪いにしか聞こえてこない。
「……さぁ、皆で逝こう」
ハイライトの消えた目で俺達五人を引きずっていく。
ーーーーーーーーーー
「ん? 今、悲鳴が聞こえなかったかい?」
「? いえ、僕には何も」
「そうか……なら、気のせいかな」
「どうなんでしょうね……っと、バルドル様、到着いたしました」
「うん、ありがとう」
パディにお礼を言い、僕はよっ、と馬車から降りた。
今日はガネーシャのやつが開いたパーティー。怪物祭の前には必ず開いてるから、毎年ここにくるけど、相変わらずあいつのホームはでかいや
【ガネーシャ・ファミリア】ホーム、【アイアム・ガネーシャ】
三〇Mもある象の建物はまさに異質で奇怪。
僕も、初めに顔を出したときはビックリしたものだ。
「それじゃパディ。 帰りも宜しく頼むね」
「畏まりました」
執事らしく頭を下げるパディに、うむ、と満足気に頷いた僕はそのまま【アイアム・ガネーシャ】の入り口に向かう。
ちなみに、何を思ってそうしたのかは分からないが、この建物の入り口は座った象の股関部分である。
「たくさん来てるな~」
ここまで来る間に、親交のある神と言葉を交わしながら入り口へと歩を進める
僕と同じく、今回の宴に呼ばれた神達が続々と股間を潜っていく。
「あら、バルドルじゃないの」
僕が知り合いはいないかと辺りを見回していると、不意に後ろから声をかけられた。
振り返ってみると、深緑の髪に翡翠色のドレスを身に纏った女神
その瞳は緑玉で、溢れんばかりの双丘を胸に抱えていた。
「あ、イズン! 久しぶりだね!」
「そうね。元気だった?」
「もちろんだよ! 僕のファミリアは絶好調なんだからね!」
「なら、今後とも御贔屓にしてね?」
イズンはそう言って、ふふっ、と笑った。
【イズン・ファミリア】はオラリオないで野菜などの食料品を扱うファミリアだ。
【デメテル・ファミリア】も有名ではあるが、僕はやっぱり、天界の頃から中のいいイズンのところに注文している。
それに、イズンのところの団長とパディは仲が良いらしいし。
「そう言えば、あなたのファミリア、新しい眷族が入ったらしいわね?」
「うん。 スウィードって子だよ。 皆が許可しただけあって、筋はいい」
【アイアム・ガネーシャ】へと入りながらイズンと話を続ける。
最近はどんなことがあった、とか、眷族の子がこうなの、とかそんな話だ。
中には自慢話もある。
「ねぇ、バルドル? あなたのところの執事君、うちに改宗させる気はない?」
「いくらイズンのお願いでも、それはダメだよ。パディはうちのライフラインなんだから」
そう言うと、イズンは、そう、と一言残念そうに言葉を漏らした。
パディはほんと、いろんなところが欲しがる万能執事だ。
あの子とヒルが幼馴染みだなんて、とてもじゃないけど考えられないほどに、だ。
……まぁ、それ以上に驚くような子がいるんだけどね
「あら、イルマタルじゃないの」
「おう? なんじゃ、お主らも来ておったか」
「イルマタル、久しぶり~」
ようようと向かった先は、既に料理に手をつけている男装の麗人。
【イルマタル・ファミリア】主神、イルマタルである。
「ほれ、お主らも飲め。 駆け付け一杯というやつよ」
「そうさせてもらうわ」
「あ~、うん。少しだけならね」
近くにいた【ガネーシャ・ファミリア】の団員の給仕に頼み、ワインを貰う。
「なんじゃい。バルドル。 ノリというのが悪くないか?」
「イルマタル。バルドルはあまり飲むと……その、ね?」
「……おお、そうじゃったな! いやしかし、あれはあれで楽しいぞ?」
「僕が恥ずかしいんだよ!」
カカッと笑うイルマタルに、思わず叫んだ。
昔から治らない、酔うと変な小躍りをしてしまうという変な癖
これで、これまでどれだけ他の神達の笑い者にされてきたことか……!!
「まぁまぁ、そうカリカリするでない。 ほれ、ここの料理はうまいぞ?」
「……フンッだ」
食べるけどね!
グラスをテーブルに置いて料理を口に運んでいく。
そんな僕の様子に、二柱は苦笑いをしているが、今は食べる。
「む? 来ていたのか……」
「むぐ? ……ングッ、ウィザル!」
口につめていたものを飲み込み、現れた友人の名を呼んだ。
【ウィザル・ファミリア】主神、ウィザル。
天界からの神友同士で、この下界でも最も懇意にしているやつだ。
顔は整っているが、スキンヘッド無表情で強面だから、他の神は怖がっているのもいるけど、根はかなりいいやつなのだ。
「おお! ウィザルか。相変わらず」
「久しぶりね、ウィザル」
「……あぁ」
表情を変えずに頷いたウィザルはそのまま視線をこちらに移す。
それで、こう見えて女神慣れしていない。
これはあれだ。二柱の女神に話しかけられてなんと言っていいか分からないから僕に助けを求めている目だ。
長いこと付き合いがあるから、こういうのはすぐにわかる。
「この間は、うちの留守番ありがとうね」
「……気にするな。 困ったときは頼む」
「任せなって」
ちなみに、ウィザルの背は高い。
僕が一六〇ないのにたいして、ウィザルの体躯は一九〇を越える。
同じ男神としては羨ましいくらいだ。
「ふむ、こうしてみると、まさに美女と野獣」
「あら、面白いこと言うわね、イルマタル」
「こら、そこ。 僕は男神だ」
そう言うと、冗談よ、と笑うイズンとイルマタル。
だが僕は知っている。
ここに来ているほとんどの神達が同じようなことを言ってることに!!
『お、バルたん来てんじゃねぇか』
『お、マジだ。それにウィザルのやつも』
『うっはぁwww美女と野獣のコンビwww』
『誰かぁ! バルたんにありったけの酒をもってけぇ!』
「……泣いてもいいかい?」
「止めとき。他のが喜ぶだけじゃ」
だよねー、と僕は肩を落とした。
「しっかし、あれじゃの。今日の宴は珍しいのが出とるわい」
「ん? 誰か来てるの?」
グラスをグイッと煽ったイルマタルが、ほれ、あれ、と指を指す方を見る。
そこにいたのは、オラリオで唯一、ダンジョンでの稼ぎがなくともファミリアを運営できている【ヘファイストス・ファミリア】主神、ヘファイストスと……
「フレイヤ?」
「じゃな。 普段バベルに引きこもっておる奴が珍しい」
僕達神の中でも、頭金一つ飛び出た美しさを持つ美の神、フレイヤ
【ロキ・ファミリア】とともに最大派閥と言われている【フレイヤ・ファミリア】の主神。
確か、オラリオ唯一のLv7、【猛者】オッタルはそこのファミリアだったはずだ。
「お主らが来る前に、こっちに挨拶しに来おったからのお。軽くじゃが、喋った」
「何を話したのかしら?」
「いや、単なる世間話じゃ。こっちが拍子抜けしたわい」
そう言うと、イルマタルは給仕にワインのおかわりを要求する。
「他にもテュールとかもおったしの。そんでほれ、あっちみてみ」
テュールにはイズンと会う前に会ったよ、と心のなかで思いつつ、クイッと親指で自身の背後を示すイルマタルにつられて、僕とイズンとウィザルの三人はその方向へと目を向けた。
「(さっ! さっ! さっ!)」
見ると、そこには背を低くしながら、料理をタッパーに詰めていく黒髪ツインテールの幼女神
「……ヘスティアだね」
「そうね」
「……うむ」
去年まで全く見なかった知り合いの神の哀れな姿を見て僕は呟いた。
……ていうか、それはどうかと思うよ?
「風の噂やけど、あれもようやくファミリア作ったらしいぞ。まだ、構成員は一人って聞いとるけどな」
「まぁ、作ってなかったらこんなところ来ないだろうしね」
僕らの他の神も、ヘスティアに気付いたようで、『ロリ神来てるぞ』とか『生きてたのか』とかの言葉がかわされている。
「本日はよく集まってくれたみなの者! 俺がガネーシャである! 今日の宴もこれほどの同郷者に出席して頂きガネーシャ超感激! 愛してるぞお前達! さて積もる話はあるが、今年も例年通り三日後にはフィリア祭を開催するにあたり、みなの【ファミリア】にはどうかご協力をお願いしたくーー」
バカデカイ肉声で前にたつ象の仮面をつけた【ガネーシャ・ファミリア】主神、ガネーシャの言葉を聞き流しながら、食事と話を同時に続ける。
親交のあるファミリアはまだまだあるが、特に仲のよいのがこの三人のファミリアだ。
僕のところと同じ探索系のファミリアであるイルマタルやウィザルとはたまにであるが遠征を行っていたりする。
イズンのところの団長も、時おりパディと二人でダンジョンき潜っているという話も聞いている。
「ああ。いい忘れとった。バルドル、またカーマの奴がいろいろ言うておったぞ」
「またなのか」
うむ、と面白そうに頷くイルマタルには、他人事だと思ってぇ!と叫びたくなる。が、実際他人事である。
【カーマ・ファミリア】主神、カーマは何故か僕に因縁をつけてくる相手だ。
はっきりと言っておくが、僕はなにもしていない。
しなさすぎて怖いくらいだ。
この前、他の神に、こっそりと理由を聞いたときには呆れ返ったものだ。
曰く、男神のくせに自身よりも人気のある僕が妬ましいとか気にくわないとかそういうこと。
……僕悪くないよね?
望んでこんな容姿になったわけじゃないし、僕だってもっと男神らしくなりたかったよ。
ていうか、同じ男神に人気があっても全然嬉しくないよ!!
「まぁ、そういうても聞く耳もたんのがあやつだからのぉ」
「バルドルも大変ね」
「……うむ」
「うぅ~っ……面倒くさいぃ~……」
頭を抱えて思わず座り込みそうになる。
そんな苦笑いで僕を見るなら、誰か助けてよねぇっ!
ーーーーーーーーーー
『おい、あれ、見に行こうぜ!』
『ヒャッハー! またわロリ巨乳とロキ無乳か!』
『賭けだ賭けだ!』
何やら向こうの方が騒がしい。
気になった僕らは、野次馬根性丸出しでその喧騒の原因である二柱を見に行った。
多くの神が取り囲むその中心にいたのは先程話していたヘスティアと、普段は見ない、ドレスに身を包んでいたロキの姿。
ロキを見て、僕は思わずゲッ、と顔をしかめた。
僕、あいつ苦手なんだよな……
「おぉーなんか、オモロイことになっとるのぉ」
「あらあらウフフ」
ロキがヘスティアの頬をつねりながら、上下左右に振っている
「ふみゅぐぅぅううううううううう!!」
揺れて揺れて
それにつられて、見た目には釣り合わないヘスティアの胸が大きく揺れている。
……ロキ、君はなんで自分の無乳を刺激するようなことをしているんだい?
苦手なやっだが、すこしかわいそうに見えた
「ふ、ふん。今日はこんくらいにしといてやるわ……」
(((((めっちゃ動揺してる)))))
この場にいる全員が同じことを思った……気がする
「ッゥ……! 今度現れる時は、そんな貧相なものをボクの視界に入れるんじゃないぞっ、この負け犬めっ!」
「うっさいわアホォーッ! 覚えとけよぉおおおおおおおおおお!!」
ロキがヘスティアから逃げるようにして会場を後にする。
あれを見ると、ロキのやつ、おてつもない小者臭がしているのだが、ロキ自身は気づいているのだようか?
「……まぁ、いいや。帰ろ」
「ん? バルドル、お主はもう帰んのか?」
「うん。 面白いものもみれたしね。それじゃ」
イズンやウィザルにも手をふって僕も会場を後にした。
外では僕の退場に気づいていたのか、パディが馬車の扉を開けて待っていた。
「お待ちしておりました」
「うん、ありがとうね。 それじゃ、帰ろっか」
「はい。畏まりました」
僕が乗り込んだのを確認して、パディが馬車を発進させる。
皆がみんな、頑張っている。僕もこれから、もっと頑張らないと!
一人、馬車のなかでふんっと気合いをいれる。
ホームに帰ると、リリア以外の面々がもう眠ってしまっていた。
なんでも、食事と同時にこうなってしまったようだ。
テーブルには食べかけの料理のような何か。
……おう、リリア。君が犯人か
後書き
むぅ……式以外の視点はムズいな
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