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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか

作者:海戦型
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7.絶望の淵に立ったもの

 
前書き
今回は、ブレイブリー全開です。フルブレイブでいきます。
ダンまちとクロスしていることもあり、双方の原作通りの展開でない部分が多くなりますが、ご了承ください。

 7/18
7話と8話を入れ替えていたのを元に戻しました。普通に判断ミスでした。すいません。
それと、元々ここにはティズ視点の話がもう一つあったのですが、時系列的にここにあるのは妥当ではなかったため削除しました。ティズが目覚めたら改めて書こうと思います。重ねてお詫びします。  

 
 
 全てが、崩れていく。

 それは余りにも突然で――気付いた時には、既に手遅れで。

 家が、風車が、草木が、羊たちが、大地そのものが。

 噴出する極光と共に、大地の穴へと落ちていった。

 家族同然に過ごしたおじさんの悲鳴が、親友の懇願が、隣人の助けを求める声が。

 一切合財を葬り去るように、化物の咢に呑まれる。

 立ち上る光が、僕たちの世界を壊していく――村が、目の前で壊れていく。

 あまりにも儚くて、あまりにも呆気なくて。

 そして大穴は、僕の一番大切なものさえも、奪おうとしていた。

 崩落した大地の底。奈落と呼ぶには明るすぎるその死の亀裂の淵で、僕は今にも落ちようとしている弟の手を必死で握った。腕一本で支える弟の体重は想像以上に重くて、いつのまにか大きくなっていたんだな、と場違いな感想を抱いた。

「う、ぐぅっ……頑張れ、ティル!!」
「離して!このままじゃお兄ちゃんまで――!」

 こんな時まで人の心配なんて、本当に人がいい。
 歯を食いしばりながら震える腕を必死に引き上げようとするが、思うように上がらなかった。
 いつだったか。お前は人が良すぎると言うと、ティルはいつだって「兄さんも人の事は言えない」って笑って、周囲がうんうん頷いた。僕たちは、そんな兄弟だった。
 平凡な日常だったが、それが僕たちの幸せだったんだ。

 父と母は流行り病で亡くなっていたから家族はティルしかいなくて、だからずっと一緒だと思ってた。放牧しながらノルエンデの村で暮らして、老いていくのだろうと信じていた。まさか、それがこんなにも儚く潰える幻想だったなんて、思いもしなかった。そして、認められなかった。

「絶対に離すもんか……!諦めるな、ティル!!」

 こんな不条理があっていいはずがない。こんな事を、神が許していい筈がない。
 僕たちは、ここで静かに、つつましく、穏やかな時を過ぎしていただけなのに。

 だから、認めない。命に代えても護ってみせるって、心の中で決めていた。
 こんな所で、滅茶苦茶な事態に巻き込まれて、何も分からないまま弟まで失うなんて、認めたくなかった。

 唯一の肉親、唯一の兄弟。

 唯一の――宝。

 でも、別れはとても呆気なくて。


 一際大きな揺れが起きた。

 元々不安定な足場で、しかも握力も限界に近づいていた。
 
 だから――

 だから――

「うわあああああああああああああああああああああああッ!!!」

 声ひとつ出なかった。
 僕は、悲鳴を上げて大穴に落ちていく弟を――どんなに手を伸ばしても決して届かない場所へ遠ざかっていく弟を、呆然と見ている事しか出来なかった。
 心の中で、決定的な何かが壊れた音がした。


 粉塵と瓦礫に塗れた道に倒れ伏した僕には、もう何も残されていなかった。

 もう、誰もいない。

 村の皆も、弟も。

 瓦礫に全身を打たれたぼろぼろの身体を大穴から立ち上る瘴気が蝕む。

 肺が痛い。喉も、頭も、全身が悲鳴をあげていた。

 だが、もう僕には悲鳴を上げるほどの体力すら残されていなくて。

 ずるずると崩れ落ちた僕は、自分がこれから死ぬことを自覚した。

 心臓の音が、やけに耳に近く聞こえる。

 鉛のように動かなくなった体から、熱が抜けていく。

 皆の逝った所に、僕も逝けるんだろうか。

 それなら――

 それでも、いい――


「………ティル。すぐ、そっちにいく、よ………―――」


 その言葉を最期に、僕の意識は夜の闇に融けていった。



 = =



「ッ!?」

 一瞬――ほんの一瞬だけ、ヘスティアは今までにただの一度でさえ感じたことのない悪寒を感じた。奈落の底で口を開ける化物を覗きこんでしまったような、全身を絡め取る痛烈なまでの悪意。
 それは、ほんの一瞬しか感じなかった。
 だが、これは断じて気のせいではないだろう。
 なぜならば――

「か、神様………あの光は、何なんですか?東の方から立ち上ってるみたいですけど………あれ?消えた……」
「…………………………」
「神様……?」
「………ゴメン、ベル君!用事が出来たっ!!」

 気が付けば駆け出していた。
 天を貫くような巨大な光の柱。あれは、明らかにあり得ない。
 あれから感じたエネルギーは、天界の戦神が放つそれさえも上回っていた。
 神でさえも起こせない力――そんなものが世界に現れていいはずがない。

 ――カルディスラ大崩落。不意にそんな言葉が頭に浮かんだ。
 Dの日記帳に書かれていた、カルディスラ大崩落というキーワード。あれが起きるのは、確か今日ではなかったろうか。カルディスラ地方は、たしかあの方角にあったのではなかったろうか。
 日記にあったその内容では、カルディスラ大崩落とは単なる大地震による崩落で、それを切っ掛けに家を失った少年がファミリアにやってくるという内容だったはずだ。

 なのに、あれは何だ。あの世界そのものを貫くような光は――あれでは、崩落どころかカルディスラにいた人々は一人残らず――

「何が……何が起きたぁッ!!」

 ヘスティアは事の真相を確かめるために旧知の神々の下へと走った。
 


 = =



「……大災厄の予兆、か。始まってしまったのう………」

 ある森の奥底にある一軒家。そこに住まう一人の老人が、手に持った紅茶を静かにテーブルに置いた。そのテーブルを囲っていたもう一人の老人もまた、輝く光に目を細めた。

「なんと輝かしく……そして禍々しい。天界の連中もこの危機に気付いてくれればいいんだが……やっぱ無理かね?」
「難しいじゃろう。上の神とは幾度となく話をしたが……殆どは長き刻を経たが故にか頭の固さが化石並みなのが大半じゃ」
「だよなぁ………多分だが、本当の危機が迫ったその瞬間まで動かないんだろうなぁ……」

 二人の老人は、これから起きる激動の時代に思いを馳せた。

「――さて、しみったれたジジイ二人でお茶会してても楽しくないから、もう行くわい。やるべきことをやるために、な」
「ほほっ、儂もまたやらねばならん事が多くあるでな!では、達者でのう」
「ああ――まったく、忙しくなるな」

 来たるべき未来の為に、世界が動き出す。

「ベル……お前もきっと、巻き込まれるんだろうな……」

 濁流のように荒れ狂う激動の時代を、未来へと繋げるために。



 = =



 エタルニア公国は、『六人会議』という最高意思決定機関によってその行く末を決められている。
 6つの席が並ぶ、厳粛なまでの重圧に満ちたその会議室に、知らせが入った。

『元帥閣下ッ!カルディスラ王国のノルエンデ地方に、光が………!』
「とうとう、起こってしまったか……」

 今まで、様々な用意をしてきた。
 アスタリスクの回収、軍備の増強、クリスタル正教徒の融和、オラリオへのスパイ潜入――隣国と協調し、予見と懊悩を重ね、エタルニア公国はかつてないほどの力を得た。
 だが――急激な変化は反発と抵抗を齎す。

 アンチ・クリスタリズム。
 クリスタル正教圏外の神の庇護を受けた国家で起こった思想。仕えるべき神をないがしろにし、驕った急伸を続けるエタルニア公国の勢力拡大は、神々に大いなる反感を買った。神ですら知りえない英知と力を持った人間を、彼らは許せなかったのだ。
 そのせいで、現在クリスタル正教圏とアンチ・クリスタリズム勢力はかつてない緊張に包まれている。表面上は大事に至っていないが、いつ戦端が切られてもおかしくはない。

 もはや、神々と足並みを揃えるのは不可能だろう。
 彼等にとって人間はどこまでいっても玩具、もしくは下僕でしかない。
 たとえエタルニアが全ての戦力と技術力を奉げたとしても、欲深な神たちはこちらの言い分を聞くことはないだろう。エタルニアが何のために興り、何故これほどに急いだのかを決して理解しようとはしないだろう。

 それでは意味がない。その事態だけは断じて避けなければいけない。
 神々にこの世界の命運を委ねる事だけは、してはならないのだ。

「大いなる光、大いなる災厄……これより先は、何が起こるか誰にも予見がつかぬ。そう、神にさえ――」

 だが、希望はまだある。
 神々が大量に降り立ち、正教圏とアンチ・クリスタリズム圏の丁度境目に存在する場所――オラリオ。その地では、自らの力を人と同程度にまで落とし、共に歩もうとする神も存在している。
 あの迷宮都市こそが、世界の命運を握る世界の特異点。すべてはあそこに集約する。
 だからこそ、賭けをする。

「――イデアをここへ呼べ」
「ブレイブ……いいのか?彼女は確かに成長したが……」
「それをこれから確かめるのだ。この日の為に、あやつを育ててきた……」

 会議のメンバーに動揺が走る。

『閣下。恐れながら……彼女はまだ精神的に幼すぎます。このままオラリオに送り込めば、邪な考えに惑わされて――』
「いいや、あれはそんなに流されやすい頭をしていない。むしろ、あやつは見なければいけないのだ。世界というものを」

 エタルニア公国元帥、ブレイブは信じている。
 例えその決断が彼女にとって知りたくなかった事実や、別れを伴うとしても………必ず『答え』を導き出すだろう、と。

「あの子はまだ純粋無垢だ。だからこそ、我らには導き出せぬ新たな希望を見つけるとしたら――イデアしかいない」

 イデア。イデア・リー。我が最愛の娘よ。
 私はお前のその小さな背中に――可能性という名の希望を託す。



 = =



「――神殿は、どうなりましたか」
「さあ、な」

 消え入るような少女の問いに、ナジットは感情の籠らない返事を返した。

「修道女たちは、皆は、私を庇って………ッ!!」

 クリスタル正教直々の巫女護衛依頼。ナジットにとって重要なのはやるべきことではなく、それを為した時に得られる報酬でしかない。故に、ナジットの後ろで涙を流す少女にかける声もなかった。報酬さえ得られればそれで良く、後の事に興味はない。
 だが、ナジットとて何の感慨も抱いていない訳ではない。

(あの魔物たち……明らかに風の神殿の制圧を目的に動いていた。それゆえ裏をかいて巫女を逃す事が出来たが………あれは、なんだ?テイムモンスター……か?)

 異様に統率されているようで、その節々では野生らしい狂暴さを見せる魔物たちは、瞬く間に風の神殿を包囲してきた。ナジットも水の神殿襲撃の事件こそ把握していたものの、現実に遭遇してみると驚いた。
 この付近に住む野良魔物たちとは比べ物にならないほどに強かったのだ。
 これで護衛がナジット程の実力者でなければ巫女の命はなかった。うぬぼれる訳ではないが、それほどの電撃的襲撃だった。巫女アニエスを救出し、無事に脱出できたのは僥倖と言わざるを得なかった。

「私は、これからどうすれば……!!」
「一先ず、迷宮都市オラリオへ赴く。それから足を確保し、お前をクリスタル正教総本山ガテラティオまで送り届ける。ガテラティオまでの道は険しい……商人の行き来に便乗するのが安全だろう。それで、俺の依頼は終了だ」
「そういうことを言っているのではありませんッ!!貴方は……貴方はあの光景を見て何も感じなかったのですか!?」

 アニエスの責めるような言葉がナジットの背中に浴びせられる。
 今、彼女は居場所を奪われ、家族同然の修道女たちを殺され、孤独と不安、そして恐怖に蝕まれている。その不安を和らげてやることもまた、仕事の一部と言えなくもない。それに、ナジットは無感動な男だが、感情のない男でもなかった。

「敢えて言うならば、修道女たちの覚悟の深さならば目に焼き付いている。俺の見た修道女全員が、正教騎士団の援軍が間に合わぬことすら厭わずお前の盾になっていなければ、俺とて依頼をこなせていたか分からぬ」
「……………!!」
「命を賭してまで守りたい者を得る人生は貴重だ。そして、そのために殉じるほどの行動を取れるような高潔なものは、正教内でもそう多くはいまい。――誇れ、お前の家族たちを」
「う、ぐっ……ひっぐ!うぇぇ……うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 その涙に込められた意味を、ナジットは知らない。
 ただ、座り込んだままの彼女を背に背負って歩くだけだった。彼女が泣き止むのを待っていては日が沈んでしまう。ここナダラケス砂漠は、悲しみに暮れる巫女にとって優しい場所ではなかった。

「砂漠の水は貴重だ……泣くのは今日だけにしておけ」
「そんなこと……で、できませんっ……ひっぐ!拒否、します………!!」

 ――世界を司る四つのクリスタルのうち、二つが魔の物の手に落ちた。

 その意味を知る者を、アニエスはまだ知らない。
 はるか遠くで一瞬瞬いた光の意味も、まだ知らない。
 その華奢な身に、途方もなく大きな使命が背負わされることになることも――まだ。



 = =


 
 ――貴方、哀しい目をしてるわ。

 ――何っていうか、そう。必ず守ると決めた約束を破ってしまった。

 ――そんな、今にも自責に押し潰されそうな目をしてる。

 ――でも、そんな貴方が諦めてしまったら、辿り着けなくなる未来があるの。

 ――お願い、その未来から目を逸らさないで。

 ――貴方がやり遂げることで、得られる未来なの。

 ――私も、必ず貴方の手助けをするから。

 ――それじゃ、またね。……待ってるから。
  
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