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真田十勇士

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巻ノ二 穴山小助その四

「それがし実は忍術もしております」
「やはりそうですか、そういえば先にもお会いしました」
「どなたとでしょうか」
「優れた剣豪とお見受けしますが」
 先に会ったあの大柄な武芸者のことも話すのだった。
「あの方も忍術をしておられましたな」
「そうなのですか」
 雲井は驚いた顔のままだ、幸村に応えた。
「その方も」
「忍術もまた武芸の一つ」
 幸村は確かな声で言った。
「収めていて損はありませぬ、実はそれがしも」
「幸村殿もですな」
「収めています」
「何でも真田家の忍術を極めておられるとか」
「父上から皆伝を頂いています」
 忍術の方もというのだ。
「剣術や手裏剣、水練と共に」
「武芸十八般の中で」
「そういったものを」
「それに兵法もですな」
 自分からだ、雲井は幸村に言った。
「七つの兵法書を全て読まれたとか」
「孫子、呉子等をと」
「様々な兵法書も読まれてるとか」
「父に読む様に言われ」
 そしてというのだ、幸村も。
「全て読みました」
「そうですな、お名前は聞いております」
 穏やかな笑みと共にだ、雲井は幸村に幸村自身のことを語った。
「まさかこの様な場所でお会いするとは」
「それが縁なのでしょうな」
 穴山がこう述べた。
「人と人が会うことは」
「縁によるものと」
「それがし思いまする」
「では穴山殿と幸村殿が会われたことも」
「はい、そのことも」
「縁ですか」
「今穴山殿が言われた様に」
 まさにというのだ、雲井も。
「それがしが幸村殿と会ったのもまた」
「そうなりますな、確かに」
 幸村は雲井のその言葉に頷いた。
「ではその縁を大事にせめば」
「なりませぬな、では」
「はい、これより」
 三人でだと、このことを約してだった。
 幸村は穴山、そして雲井と共にだった。賊がいるというその山に入った。山は深い木々に覆われていたが。
 そこに入るとだ、すぐにだった。
 賊が三人出て来た、人相の悪い者達が刀や短い槍を持ってそのうえで幸村達の前に出て来た。ここでだった。
 幸村は賊達を見据えたうえでだ、刀に手をかけずに問うた。
「御主達が麓の人達や旅人を悩ませている賊だな」
「だったらどうだってんだ」
「わし等をどうするつもりだ」
「ものを盗んだことはあるな」
 幸村は柄悪く応える彼等にまた問うた。
「そうだな」
「何言ってんだ、そんなの当たり前だろ」
「わし等は賊だぞ」
 これが賊達の返事だった。
「ものを盗んでそれで生きてるんだ」
「言うまでもないだろ」
「人を殺めているか」
 幸村は賊達にまた問うた。
「それはどうなのか」
「おいおい、幾ら何でもな」
「わし等をどう思っているんだ」
 賊達は柄の悪いまま幸村にまた答えた。
「幾ら何でもな」
「わし等そこまでしないぞ」
「盗みはすれど非道はせずだ」
「それがわし等だ」
「そうか、ならばよい」
 幸村は賊達の返事を聞いて静かに頷いた、そのうえで。
 刀に手をかけてだ、こう言った。 
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