真田十勇士
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巻ノ二 穴山小助その一
巻ノ二 穴山小助
幸村は穴山と共に諏訪大社を参拝した、それが終わってからだった。
穴山は幸村にだ、諏訪の社を出てその前にある町を共に歩きつつだ。彼に対してこうしたことを自ら話した。
「それがし実は信濃に生まれまして」
「では拙者と同じですな」
「そうですな、生まれた国は同じですな」
穴山は笑って幸村にこうも答えた。
「ただ、それがしは父と共に長い間傭兵としてです」
「他の国をですか」
「回って戦の中で暮らしていました」
「そうだったのですか」
「その中で鉄砲、そして忍の術をです」
「身に着けられたのですか」
「父はどちらも極めて優れていまして」
それでというのだ。
「それがしは父に教わりです」
「先程の様な術もですか」
「備えました」
「忍の術はお見事ですな」
「鉄砲もです」
穴山は無意識のうちにだ、その背に背負う鉄砲に手を触れさせて幸村に言った。
「外したことはありませぬ」
「一度もですか」
「弾が届く間合いならば」
それこそというのだ。
「一度も」
「それは凄いですな」
「これも持っています」
言いながらだ、懐からだった。
穴山は短筒も取り出した、それを幸村に見せつつ話した。
「こちらも外したことがありませぬ」
「短筒も持っておられますか」
「父から鉄砲を教わりましたが」
それを、というのだ。
「さらに精進しまして、他にも変わった鉄砲も造れます」
「それは凄い、実はそれがし」
「真田家のご子息が旅をされているということは」
このことからだ、穴山は言った。
「他家の情勢を探るのではありませぬな」
「おわかりですか」
「ご子息を一人で行かせるなぞありませぬ」
例え小さいとはいえ大名がというのだ。
「内密に人を探していますか、そしてそれは」
「それはといいますと」
「真田家に優れた者をですな」
「そこまでおわかりとは」
「伊達に傭兵で生きていた訳ではありませぬ」
穴山は笑って幸村に言うのだった。
「頭も回らなくては」
「生きていけぬと」
「これ位のことは察します」
「左様ですか」
「はい、ですから」
それで、というのだ。
「考えましたが如何でしょうか」
「その通りです、それがし今は自分の家臣となり真田家の力となる者を探しております」
「だからですな」
「今旅をしております」
「やはりそうですか」
「では若しもです」
「まずはそれがしの腕を見て下され」
穴山は笑って幸村に答えた。
「それからお考え下さい」
「家臣にするかどうか」
「はい、お願い申す」
「それでは」
「実はこの諏訪も近頃は荒れていまして」
「賊がいますか」
「はい、これまでは武田家が収めていて織田家が代わったかと思えば」
穴山は天下の情勢のことも話した。
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