Dead!?お笑い部。
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5の巻 全ての罪人が口に含むもの
「うぎゃああ!遅刻だ遅刻ー!」
米田 砂種はトースターを加えながら行き慣れた道を走っていた。
「って、ん?」
前方に一筋の光が見える。砂種はすぐに自分を庇うように鏡を持ちだした。
ジャオオ!
「ふぅ……ったく、こんなことしてる場合じゃないってのに!」
防御を終えると、砂種は再び走りだした。
「まーた遅刻したのね」
「うっせーやい」
結局度重なる襲撃に対処したせいで、遅刻をしてしまい、生徒指導の教師から叱られてしまった。いつものことである。
「いい加減、何か具体的な対策を練った方がいいんじゃないか?」
「対策、か……」
勿論、対策というのは早起きするなどといった呑気なことだけではない。
砂種の親友、暮家 智野と塚見 一男には、砂種が最近遭っている被害について話している。流石にこの2人に隠し事をするのは、良心が咎めるし何より隠しきれないだろう。
「……もう警察に任せた方がいいんじゃないの?」
智野は案じるような声色だ。
「だけど、警察に言ってもどうしようもないだろ。前みたいにテキトーにあしらわれるのがオチだ」
「そうだけど……」
それはあの2人の警察官が例外なのかもしれない、智野はそう言いたいのだろう。
しかし、砂種はあの時の警察官の、犬かきをする蜘蛛に猫パンチするような表情が頭にこべりついてしまっている。
「……もっと大事になったら、警察に言おう」
「……」
智野は黙った。
「…………まぁなんだ、安心しろ。俺も早めに防具作るから」
一男は空元気にニヤリと笑った。
「ああ、ありがとう」
謎の光に対抗出来る手段は限られている。前に謎の光に襲われた時、砂種はフライパンで庇ったが、フライパンを突き抜け眉間を強くやけどした。
今回も特製の鏡で事無きをえたが、その鏡に亀裂が走っていた。もうすぐ駄目になるだろう。
だが、砂種の頭を悩ますのは、謎の光だけではなかった。
「ごめん、流石に1日2日ならいいけど、ずっと行き続けるのは……」
「話が違うじゃねぇか。俺はおしぼり4つでお手玉したぜ?」
「でも……ごめん、まさか幽霊しちゃいけないとは知らなかったんだよ」
「……」
「ほんっとごめんな。埋め合わせはどっかでするから」
じゃあな、と言って逃げるように生徒は走っていった。
砂種は、お笑い部という部活をやっている。いや、やっていた。しかし、先輩達が卒業してしまい、部員が足りなくなったのだ。
砂種はお笑い部を存続させる為にあらゆる手を打ったが、厳格な校長による厳しい校則によって、寄せ集めの部員を確保しにくくなってしまったのだ。
そのせいで砂種以外に部員を募ろうとしても、その事実を知ってからすぐにひきつった笑顔で声をかけてくるばかりだ。
「はぁ、先輩達、どうやったんだろ……」
砂種は先輩に勧誘されて、快く入部した。そしてそこには、少なくとも10人の部員がいた。砂種はそれが当たり前だと信じて疑わなかった。
先輩に直接聞いてみたいが、先輩達のメールアドレスなり電話番号は把握していない。学校から渡された個人情報で家の電話に繋ぐのも、何か違う気がする。
一応これでも遅刻のしすぎについて校長直々に説教された帰りだが、頭の中は逃げられた部員候補のこと、お笑い部のこれからのことで一杯だった。
「「はぁぁぁ……」」
……
「「ん?」」
2回連続でハモった。
「もしかして……君も何か悩み事かい?」
少年は砂種と同じ学年のようだ。
「いや……、ちょっとな……」
(これも何かの縁かな)
そう思った砂種は廊下の脇に寄ると、見知らぬ少年へ口を開いた。
「先輩がどうやってきたのか、よく分かんなくてなってさ……」
「……そうだ、悩みを明かすなら、いい場所があるんだ」
「いい場所?」
砂種が聞き返すと、少年は頷いた。
「どこだそれ?」
「それは……」
少年は少し上を向いた後、砂種に向き直って、
「楽しみにしていて下さい」
ニヤリと笑った。
「「カンパーイ」」
砂種は乾杯を終えた後、高く上げたグラスの中身を一気にあおった。
「……ップハー!いいねぇ!いいねぇ!」
「喜んでくれて何よりだよ」
テンションが上がっている砂種を見て、少年は微笑んだ。
「さーってもう1杯」
「あんま飲み過ぎないようにね」
「わーっあるって」
砂種はもう1杯水を注いだ。
「ングッ、ングッ、ッップハァー!」
「ふふ、」
少年もグラスを少し傾けた。
「んでよぉぉ、」
砂種はだらっと口を開いた。
「うん」
「お笑い部がよぉ、」
「うん」
「お笑い部がよぉ、」
「うん」
「消えちまうかもしれねーんだよぉー!」
砂種は机をバンバンと叩いた。
「それは……なんでだい?」
「そりゃあお前もう、そりゃあ、あう、……」
砂種の身体が、後ろに大きく傾いだ。
「ちょ……、救急車救急車!」
後ろ向きに倒れた砂種は、完全に目を回していた。
「ちぇー……」
高級車の中で、少年は不満そうな声を漏らした。
「また別のやつに話聞くかー、あぁぁあ、あいつ絶対学校のこと色々知ってるよなーあー惜しい!」
少年は頭をわしゃわしゃと混ぜた。
「ったく、どんだけ計画立ててもあっさりおじゃんになるんじゃ、立てたかいが無いぜ……」
「……大々旦那様は、こう仰られていたそうです」
運転手が、ゆっくりと口を開いた。
「んー?」
「『千の失敗をするなら、万の挑戦をせよ』と」
「ったく、簡単に言ってくれるぜー」
少年は内装に見合わないふてくされた顔で窓から外を見た。
「そりゃ計画が2億3億浮かんだら上手くいくもんはあるだろうけどよ……」
少年が車の速さで流れていく景色を観ていると、車が減速した。
「通行制限ですか。私の調べ不足でした。申し訳御座いません」
「爺やがどーにか出来る問題じゃねーだろ」
少年は景色を眺めながら言った。
少年が見る変わらない景色を、鳥がすいぃと横切った。
後書き
砂種「そういや最近、新しいゲーム買ったんだけどさぁ」
智野「そんな話ばっかり!地球滅亡と肉じゃがどっちが大事なの!」
一男「やはり木綿豆腐はフォークソングを歌いながらパトロン食いするに限る」
夜騎士「次回、最終回、『冗談みたいに無名』」
砂種「ゲームは人生だ!祭るぜ俺達のジェスチャー!」
最終回なのはガチ by作者
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