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ルドガーinD×D (改)

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六十一話:デートは楽しくな

 待ち合わせ時間よりも早い時刻に俺は一人待ち合わせ場所で立っていた。
 時間としては十分前ぐらいだけどデートで女性を待たせるわけにはいかない。
 別に一緒に住んでいるんだからわざわざ待ち合わせしなくてもいいんじゃないかと思うかもしれないけど、こういうのは雰囲気だからな。
 無駄な手間をかけるのも悪くない。
 そんなことを考えているとこっちに向けて手を振って来る目当ての人物が見えたので手を上げてこたえる。

「お待たせ、ルドガー。待った?」
「いや。今、来たところさ」

 これぞデートの定番といった感じのセリフを言ってお互いに笑い合う。
 花が咲いた様な笑顔で笑う黒歌のコーディネートは白いブラウスにシフォンのスカートといった清潔感の溢れるシンプルな服装だった。
 シンプルと言っても黒歌が着ているので勿論のことながら可愛い。
 普段の着物姿は綺麗といった感じだけどこういった可愛い系も良い。揺れるシフォンのスカートが魅力的だ。

「可愛くて良く似合ってるよ、その服」
「そう言ってもらえると、色々と迷ったかいがあるにゃ」
「ははは……それじゃあ、行くか」

 少し照れたように笑う黒歌の手を握って俺は歩き出す。今日は一日中遊ぶつもりだ。
 まずはゲームセンターに行ってその後にカラオケにでも行けたら行こうかと思っている。
 それから昼食を食べて買い物でもしようという計画だ。
 まあ、今日は自由に過ごす予定だから計画はいつでも変更可能だけどな。

「こうやって、デートするのも何だか新鮮にゃ」
「……そうだな。付き合う前は家でグダグダしてたし、付き合い始めてからは基本的には一緒に行動してたしな」
「ルドガーが離れてた期間は一緒にいられなかったけどね」
「うっ……ごめん」

 痛い所を突かれて頬を掻いてしまう。心なしか黒歌の握る手が痛い気がする。
 あれに関しては本当に悪かったと思っているんだけどな……黒歌を泣かせてしまったのは本当に失敗だった。
 どうしても守りたいからあの行動に出たけど……こんなことになるならずっと傍に居ればよかったな。

「別に責めてるわけじゃないんだけどねー」
「もう、離れないから勘弁してください……」
「どうしよっかなー」

 どこか、楽しげに俺を虐めてくる黒歌に俺は思わず微笑んでしまう。
 そんな俺の様子を疑問に思ったのか訝しげに俺の瞳を覗き込んでくる。
 身長の差から上目遣いになっているので可愛くて仕方がない。俺は軽く声を出して笑いながら素直に自分の気持ちを伝える。

「いや、俺の恋人はやっぱり可愛いなって思ってな」
「も、もう、毎回、毎回いきなり口説いてくるのは反則にゃ! 罰として今日はずっと手を繋いでおくこと!」
「ははは、それは厳しいお仕置きだな」

 顔を赤らめて俺の胸をペシペシと叩いてきながらそんなお仕置きを俺に言い渡す黒歌。
 正直言ってお仕置きというよりもご褒美に近い内容に思わず笑ってしまうが甘んじてそれを受け入れる。
 お姫様の言うことには従わないとな。
 そのまま俺達は先程よりも強く手を握り合わせながら歩いていくのだった。





「ゲームセンターに来たのはいいけど何からするか……黒歌は何かやりたいのはあるか?」
「うーん……あっ! あれ可愛いにゃ!」

 少し思案気に眉をひそめたかと思うと何かを見つけたのか声を上げて指差す黒歌。
 一体何なのかと見てみるとそこにはクレーンゲームの景品として飾られている白猫のぬいぐるみがあった。
 何となくルルに似てるな……まあ、黒歌のことだから小猫をイメージして可愛いって言ったんだろうけど。

「クレーンゲームか……それじゃあ、やってみるか」

 黒歌に腕を引っ張られながらクレーンゲームの前まで行く。黒歌が嬉しそうにお金を入れて操作を始める。
 真剣な目で獲物を狩るように白猫のぬいぐるみを見つめる本気度に驚くけどそんな顔も魅力的なので黙って見るだけにする。
 UFOのアームが白猫をしっかりと掴む。が、スルリと白猫はアームから零れ落ちてしまう。

「ああ! 捕まえたと思ったのに! 絶対取らせないように出来てるにゃ、これは」

 アームの力の無さに店側の陰謀を感じ取った黒歌が文句を言いながらもう一度チャレンジを試みる。俺はその間に冷静に分析を試みる。
 白猫のぬいぐるみにはひもは付いていないが透明のタグは付いている。
 他の景品を見てもひもが付いている物はほぼない。つまり、このクレーンゲームはひもを引っ掛けて取るという事は想定されていないという事だ。
 次にアームの先の爪を見る。……ああ、予想通り爪の角度が強いな。

「にゃー! また失敗したにゃ。こうなったら数に物を言わせて―――」
「待ってくれ、黒歌。……ここは俺がやる」
「ル、ルドガー?」
「心配するな。このゲームは―――既に読み切った」

 驚く黒歌と場所を代わり、神経を研ぎ澄ませてから硬貨を投入する。
 ゆっくりと動き出すUFO。そのアームはプレイヤーをあざ笑うかのように握力がない。
 だが、俺にとっては関係無い。どんなゲームにも攻略の道が存在する。そこを突くだけだ。
 例え、それがどんなに険しい道だとしても。

「うそ……タグに爪を引っ掛けた?」

 俺の完璧な操作技術に声を失う黒歌。俺はそんな黒歌の様子に満足感を感じながら白猫のぬいぐるみを穴の中に落とす。
 今回の勝因は店側がひもを引っ掛けて取るという事は想定していなかったという点だ。
 想定していた場合は爪の角度が弱くなるためにさっき使った方法は使えないが、今回は想定していなかったために角度が強くタグに引っかけることが出来た。

「ほら、取ったぞ」
「あ、ありがとうにゃ。でも一つ気になるんだけど……なんでそんなに上手いの?」
「一番の理由は金の消費を防ぐために本気で研究したからな。怪我の功名ってやつさ」
「……そんなのだからエルに『器用貧乏』って言われるのにゃ」
「くぅ……」

 久しぶりに聞いた不名誉な称号に情けない声しか出ない。
 仕方ないんだ。以前にエルにせがまれて借金を背負っていても断れなかったから少しでも金の消費を抑えるために本気で研究したんだ。
 俺だって……今日ぐらいは普通に楽しみたかったよ。でも染みついた習性はそう簡単には消えてくれないんだ。
 それと……上手いのには少し恥ずかしい理由もあるんだけどな。

「で、二番目の理由はなんなのにゃ?」
「……………からだ」
「え?」
「こういう事に憧れて練習したからだ……。まあ、エルを除いたら黒歌が初めてだけどな」

 少し、目を背けながら消え入りそうな声で答える。恥ずかしくて頬が発火しそうだ。
 黒歌はそんな俺の様子にクスクスと笑いながら背伸びをして耳元に口を近づけてくる。
 吐息がかかって妙にむず痒い。

「初めてのプレゼントが私ですっごく嬉しいにゃ」

 そのままの流れで俺の頬にキスをして照れたように笑う黒歌に思わず見とれてしまうが微笑み返して返事をする。

「俺も初めてが黒歌で嬉しいよ」
「ふふふ。さ、他にも色々と回るにゃ!」
「……そうだな」





 楽しい一日はあっという間に過ぎていく。
 二人でのカラオケで。

「ルドガーって……もしかして音痴?」
「恥ずかしいことにな……証の歌は歌えるのになんでなんだろうな?」
「でも『S○ng 4 u』はすっごい感情が籠ってて惚れ直したにゃ」
「ああ、何だか感情移入がしやすかったんだ」

 二人での買い物で。

「ルドガー、カップは何色がいい―――」
「ピンク。断然ピンクだな」
「……実は私が今着ている下着も―――」
「っ! ピ、ピンクキストは身に着ける方が好きなんだ」
「すっごい食いついてきたけど、なんだかそれだけでこの反応されるのも今までの苦労は何だったのかと思って複雑にゃ……」

 夕方までデートをして、その後は家に帰って黒歌手作りの『トマトソースパスタ』を食べた。
 これは俺がどうしても食べたかったから無理を言って作ってもらったものだ。
 黒歌は自分が作るより外で食べた方が美味しいと言ったけど俺にとっては何よりも大切な味だから、“大切な日になる”今日に食べたいから、作ってもらった。
 食事を終えた俺は黒歌を誘って二階のベランダへと向かった。今日も想いが通じ合った日と同じように真ん丸な月がとても綺麗に輝いている。

「黒歌……『トマトソースパスタ』は俺にとって大切な料理なんだ」
「……うん」
「初めて兄さんに作った料理で、初めて君が俺に作ってくれた料理だから」

 お互いに見つめ合いながら自分の胸の内を明かしていく。
 言いたいこと、伝えたいことがどんどん溢れてくる。

「死ぬほど美味しかった……この世界に来て初めて生きていてよかったと思った……あの時、俺は救われたんだ」

 黙って俺の話に耳を傾けてくれる黒歌だったが心なしか顔が赤く、せわしなく耳が動いて恥ずかしがっているのが良く分かる。
 まあ、真顔でこんなこと言われたら少し恥ずかしいよな……。
 でも、全部言わせてもらうよ。

「火傷や切り傷の残る君の手を見て誓ったんだ。
 ―――この手を守ろうと―――“今”を生きようと」

 あの時から俺の運命は決まったんだ。
 もし、黒歌の『トマトソースパスタ』を食べていなかったらどうなっていたか分からない。
 その位、俺にとっては大切な思い出なんだ。

「その時にようやく気づいたんだ……。君が、俺の―――“生きる意味”だって」

 黒歌の頬を優しく撫でながら微笑みかける。
 どこかトロンとした目でその笑みに答えてくれる黒歌に優しく口づけをする。
 黒歌もそれに応えて優しく壊れ物を扱うように優しく口づけを返してくれる。
 今のままでも幸せすぎる程の関係だ。でも、今日俺は今の関係を壊して新しい関係を彼女と一緒に築いていくつもりだ。
 その為にこの場所に呼んだんだ。

「月が綺麗ですね……」

 不意に黒歌がそんなことを言ってきたので思わず呆けてしまうが、すぐにその意味を理解して笑みを浮かべる。
 以前は意味を知らずに言っていたけど調べて見たら『I love you』って意味だったんだな。
 それなら、俺も返事を返さないとな。立ち上がって月へと手を伸ばして飛び上がる。

「何してるの?」
「ん、月の石でも取ってみようかと思ってな」
「にゃはは。流石のルドガーでも取れないにゃ」
「いや、そうでもないさ」

 俺は飛び上がるのを止めて、ある物を忍ばせた手を黒歌の前に出す。
 黒歌は不思議な顔をしたまま首を捻るが取りあえずといった感じで手の平を差し出してくれる。
 その手の上に自分の手を重ね合わせて手の中の物を落として優しく黒歌に握らせる。

「開けてもいいぞ」
「それじゃあ―――え?」

 掌の中にある物を見て黒歌は目を見開く。
 その手の中にある物は月の光を浴びて薄くしく輝くダイヤモンドを装飾した指輪。
 つまりは―――婚約指輪だ。


「返事が遅れてごめん。今更かも知れないけど、俺と―――結婚してください」


 色々と頭を捻ったけど結局これ以上の言葉は思いつかなかった。
 静かに黒歌の瞳を見つめて返事を待つ。
 本当はもっと後にプロポーズする予定だった。でも、後悔を残したくないから今日にしたんだ。
 俺の寿命はヴィクトルと同じなら残り十年位で、下手すればビズリーに殺されて数日後には死ぬかもしれない。
 それでも、明るい未来の為に歩いて行きたいから道標を作りたいんだ。

「……うん。私も愛してる」

 黒歌の言葉にホッと安堵の息を吐いてしまう。
 それから指輪を黒歌の左手の薬指にはめる。
 黒歌はどこか現実味がないような顔をしながら指輪を眺める。

「ずっと憧れてたの……こうやって大好きな人にプロポーズして貰うのを。でも、私には無理だと思ってた。白音を不幸にしてしまった私が幸せになるなんて出来ない……そう思ってた」
「ああ……」

「でも、ルドガーが私の夢を叶えてくれた……。
 こんな私を―――愛してくれて……ありがとう」

 黒歌が俺の胸の中に飛び込んでくる。俺はそれを受け止めて力強く抱きしめる。
 でも、それだけじゃ足りない。黒歌が足りない。
 ―――愛したい。もっと愛したい。狂ってしまうほどに愛したい。
 俺は今にも壊れそうな理性をなんとか保ちながら黒歌に問いかける。

「黒歌……君の全てが欲しい。俺に全てを捧げてくれないか?」
「言わなかったかにゃ? 私の全てはあなたの物。
 それに私は既にあなただけのもの……未来永劫ね」
「ありがとう……俺も永遠(とわ)に愛しているよ……黒歌」

 俺は、はやる気持ちを抑える様に愛の言葉をささやいて口づけを彼女の額に落とす。
 そして、黒歌を抱きかかえてベッドへと歩いて行くのだった。


 今夜は俺の人生で一番の夜になるだろうな。

 
 

 
後書き
感想が二十以上来たらこの後のシーンを書いてやろう(ゲス顔) 
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