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異世界系暗殺者

作者:沙羅双樹
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恋人の時間(2016/05/16 一部修正)

 
前書き
杉野、轟沈。


杉野「燃えたよ。燃え尽きたよ。何もかも、真っ白に……」 

 



【視点:樹】



……俺が神崎に専用A・Tを渡して一夜が過ぎた。そして、今日も今日とでE組の教室でもある隔離校舎がある山の麓で俺は神崎と鉢合わせ、一緒に登校することになった。


「…………」
「…………」


昨日、俺と神崎の間で行った最後の遣り取りもあって、俺達は会話らしい会話ができず、互いに若干俯いた状態でいる。

まぁ、俺の場合は神崎のことを考えて昨日は一睡もできなかったこともあって、話題を考えることに頭が働かなかった訳なんだが。

しかも、偶に何か話題を持ち出そうと顔を上げると、互いの視線が合った瞬間に意識し合ってしまい、また俯いて話しができなくなってしまう始末だ。

俺の考えが正しいなら、昨日の神崎の言葉は俺に対する告白だろう。なら、肉体年齢は同じ15歳とはいえ、精神年齢は上な俺の方から話題を出し、ちゃんとした返事をすべきだ。

しかし、俺は前の世界では彼女いない歴23年の童貞野郎。告白された経験なんて、MMOで性別不明の相手からしかない。

MMOでは割り切れても、現実では割り切ることなんてできる筈がない。それ以前に勘違いだったりしたら、俺がかなりイタい人間になってしまう。

かといって、この空気のままクラスに到着したら、クラスの奴らに絶対に誤解される。主に俺が社会的に抹殺される様な誤解を。

俺が寝不足で普段より働かない頭でそんなことをぐるぐると考えていると、神崎の方から口を開いてきた。


「イッキ君」
「お、おう。何だ?」
「昨日のことなんだけど―――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!その件については、俺の方から言うから!!」
「う、うん」


俺の言葉に神崎がそう返して来ると、俺は隔離校舎へと歩を進めながら深呼吸をした。そして―――


「神z――有希子。デリカシーの無い質問だけど、確認させてくれ。昨日のアレ、告白ってことでいいんだよな?」
「……うん」
「俺。生まれてこの方、異性と付き合ったことなんて無ぇし、今までの行動からも分かる通り、突拍子もないこと仕出かして色々と苦労を掛けるかもしれねぇ」
「うん」
「そんな俺でも良ければ、有希子の彼氏にしてくれねぇか?」
「うん。……こちらこそ不束者ですが、イッキ君の彼女にしてくれますか?」
「おう。迷惑掛けることもあるかもしれねぇけど、これからもよろしくな。有希子」
「私の方こそ、よろしくお願いします。イッキ君」


俺と有希子は互いに彼氏彼女としての挨拶を交わすと、腕を組んで隔離校舎へと向かった。



【視点:渚】



「杉野、意識をしっかり保て!」
「死ぬな、杉野!」
「そうだ、杉野!この世に女は神崎さん以外にも沢山いる!!」


白目で真っ白に燃え尽きた杉野にクラス男子の殆どが声を掛けている。こうなった原因は少し前に教室に入って来た2人組にある。


「ねぇねぇ、渚。イッキ君と神崎さん、やっぱり昨日何かあったのかな?」
「茅野。多分?じゃないと、腕組んで登校なんてしないと思うし」


そう。いつもより少し遅く教室にやって来たイッキ君と神崎さんは恋人の様に腕を組んでいたんだ。で、それを見た杉野がショックの余り真っ白になって今に至っている。

男子の殆どが杉野に声を掛ける中、女子一同はイッキ君と神崎さんの関係が気になるのか、チラチラと視線を向けている。けど、どれだけ気になっていても、2人に直接聞きに行く猛者は―――


「ねぇ、イッキ。神崎さんと腕組んで登校って、もしかして2人って付き合ってんの?」


いたーーーー!猛者がいたよ!!クラス男子で唯一杉野に声を掛けてなかったカルマ君が質問しちゃったよ!!

カルマ君の質問に対して神崎さんは顔を赤く染めて俯き、イッキ君も照れ臭そうに頬を掻きながら、カルマ君の質問に答えた。


「おう。俺ら、今日から付き合うことになったから。んな訳で、男子は今後有希子を厭らしい目で見るな。見た奴は焼き土下座の刑に処す」


このイッキ君の発言にクラスの殆どが目を見開いた。だって、稼ぎはするもののお金に余り執着してないイッキ君が、まさか神崎さんにここまで執着した様なことを言うとは思わなかったからだ。


「やっぱ、昨日何かあったの?イッキ、昨日神崎さんを家に連れ帰ったでしょ?」
「あれは有希子専用のA・Tを作る為だ。頼まれてたからな。あっ、不破のも完成したから、今日持ってきた。取説とかも入れてるから」
「あ、ありがとう。って、あれ?イッキ君、昨日まで私のこと“さん”付けで呼んでなかったっけ?」
「ああ。昨日の放課後の出来事で色々と思う所があって、俺自身E組にかなり馴染んだと思うから、これを期に女子も一部を除いて名字呼び捨てにしようかと思って。別に深い意味は無いから気にすんな」


引き続きカルマ君が質問し、イッキ君はそれに答えると同時に不破さんに少し大き目の箱が入った袋を渡した。っていうか、今更だけどイッキ君、神崎さんのこと下の名前で呼び捨てにしてる。


「あと、俺達の交際に関しては余り気にすんな。できる限り皆に迷惑掛けない様、俺と有希子も自重すっから。
あと、有希子と不破に作ったついでに言っておく。A・Tが欲しい奴は自己申告してくれ。工場にオーダーメイドで発注した部品も順調に量産されてるから、いつでも作れる。
A・Tを使える様になれば、暗殺成功率も上がるだろうしな。A・Tのことが分からない奴はGE●でエア●ギアを借りてくれ」


イッキ君は皆にそう告げると、神崎さんと2、3言葉を交わしてから自分の席に着いた。そして、この日から僕達は目の前で恋人青春物語を見せつけられ、砂糖を吐きたくなる様な日々を送ることとなる。

え?杉野?杉野は灰になりそうな真っ白な日々を送ることになった。クラス男子の殆どが杉野を灰にしない為、励ましの言葉を掛け続けることになったのは、ある意味予定調和なのかもしれない。


 
 

 
後書き
次話はA・Tの話で行きたいと思います。 
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