異世界系暗殺者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
自律の時間(2016/05/16 一部修正)
前書き
多駆動A・Tギプスと汎用玉璽内蔵型・ファントムの技術で、律の人型の体を用意できると思うんですが、どうでしょうか?
【視点:樹】
「庭の草木も緑が深くなって、春の終わりと共に近付いている初夏の風を感じますね♪」
「…………ひ、一晩の内に随分とボキャブラリーが増えた上、饒舌になったな。もう、固定砲台の面影が皆無だ」
俺がそう呟くと、サーバマシン(仮)のは昨日と同じ様に重火器を展開した。
「そんなことありませんよ。この通り、重火器の展開も可能です♪」
「うおっ!けど、確かにイッキの言う通りたった一晩でえらくキュートになったな」
「ちょっと待て、悠馬!俺は別にキュートとは言ってねぇぞ!!」
悠馬の言葉を黙認したら、何かヤバいと俺の第六感が警鐘を鳴らした為、すぐさま否定した。いや、可愛いとは思うけどな。俺がそんなことを考えていると、今度は自分の席に座っている寺坂が口を開いた。
「お前ら、何あっさりとそいつのこと受け入れてんだよ。結局の所、あのタコが組んだプログラムだろうが。愛想がよかろうが、機械は機械。どうせ、授業中に人の迷惑考えずに射撃すんだろ」
寺坂がそう吐き捨てると、サーバマシン(仮)は液晶を寺坂に向け、震える声で話し始めた。
「寺坂さんの仰っていること、十二分に分かります。昨日までの私は愚かでした。どれほどの暴言を口にされても返す言葉がありません」
液晶の中でサーバマシン(仮)は泣いている。これを見ると、寺坂の方が悪者に見える。
「あーあ、寺坂が泣かせた」
「二次元の女の子泣かせちゃった」
ちょ、片岡さんと原さん。その言い方は誤解を招くと思うんだが!?寺坂はそんなキャラじゃないだろう!
「おい!その誤解を招く言い方は止めろ!!」
「いいじゃないか、2D……。女はDを1つ失う所から始まる」
「「「竹林!そんなのがお前の初台詞でいいのか!?」」」
…………いや、もうこのままだと俺も本格的にツッコミ要員になりそうだから、これからはボケ的な会話を受け流すことにしよう。
取り敢えず、この後行われた殺センセーの説明からサーバマシン(仮)が協調の重要さを学習したということは分かった。
そして、授業が始まるとサーバマシン(仮)は、有言実行する様に授業中の砲射撃を控え、寧ろ授業中に当てられた生徒のフォローをするなどのサービスをして見せた。
その他にも休み時間中、クラスの要望に応えてプラスチックを使った造形をしてみたり、ボードゲームなどを行ったことで一気に受け入れられた。
というか、現在進行形でサーバマシン(仮)―――もうメンドイな。本来の名称が自律固定砲台だし、律でいいか。律は龍之介と将棋を、俺とチェスをしている。
「千葉君、王手です」
「……3局目でもう勝てなくなった」
「律、チェックメイトだ」
「……イッキさんは御強いですね。先手後手入れ替えて、5局全敗です」
「チェスや将棋みたいなボードゲームは二人零和有限確定完全情報ゲームだからな。10の120乗倍――無量大数以上の局面を把握できれば、グランドマスターを敗れるプログラム相手でも必勝できる。つまり、俺から言わせればこの類のボードゲームは○×ゲームと大差ないってことだ」
「こいつの学習力も凄いが、南の頭の中は更に凄いな。規格外過ぎるだろ」
「はい。イッキさんの頭は最新のAIを凌駕しています。ところでイッキさん」
「ん?何だ、律?」
「その、先程から言っている律というのは一体何なのでしょう?」
「お前の名前だよ。自律思考固定砲台とか、サーバマシン(仮)なんて呼称は長過ぎだろ。俺のイッキと同じお前の愛称とでも思え」
「いいねぇ~。安直だけど、響き的にも可愛いし」
適当に名付けた愛称は、クラスでも割と好評だった。名付けられた当人も―――
「お前はそれでいい?」
「……嬉しいです!皆さん、以後私のことは律とお呼び下さい!!」
……適当とはいえ、満面の笑みで喜ばれたら嫌な気分にはならないな。こんな感じで、この日はE組のほぼ全員が律を交えて平穏に過ごせた。そして、翌日――
「オハヨウゴザイマス、皆サン」
律はたった1日で退化していた。烏間先生曰く、開発者が律の進化に不必要なものが多いと判断し、分解して元に戻したそうだ。全く、余計なことを!!
しかも、開発者からの要望で殺センセーだけでなく、俺達生徒も律に拘束を含むあらゆる危害を禁止された。ぶっちゃけ、その開発者とやらは一体何様のつもりなんだ!?
……まぁ、いくら愚痴った所で現状が改善される訳でも無いし、いざとなったら風系技である風の障壁か、轢藍の道の 無限の空、無限の轍で攻撃を妨害するか。攻撃の妨害は危害に含まれない訳だし。
と、こんな説明をしている間に1限目の数学の授業が始まった。クラスの皆は、律の砲射撃がいつ始めるかを警戒している。
そして、律から砲射撃を開始する際に聞こえてくる起動音が教室に響いたかと思うと―――
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」
クラッカーの様な破裂音と共にプラスチックでできた造花の花弁が教室内を舞った。
「花ヲ、作ル約束ヲシテイマシタ。殺せんせーハ私ノ本体ニ……、計985点ノ改良ヲ施シマシタ。ソノ殆ドハ、開発者ノ判断ニヨリ削除。撤去・初期化サレテシマイマシタ。
デスガ、私個人ハ学習シタE組ノ状況カラ強調能力ガ暗殺ニ不可欠ナ要素ト判断シ、消サレル前ニ関連そふとヲめもりノ隅ニ隠シマシタ」
律の言葉にクラスの皆は顔を明るくし、笑みを浮かべて行く。殺センセーも思わぬ律の成長に笑みを浮かべている。
「素晴らしい。つまり、律さんあなたは―――」
「はい!私の意思で開発者に逆らいました!!殺センセー、こういった行動を反抗期と言うのですよね?律は悪い子でしょうか?」
律が少し恥ずかしそうに液晶内で髪を弄りながらそう尋ねると、殺センセーは―――
「とんでもない。中学3年生らしくて大いに結構」
顔に丸模様を浮かべながらそう答えた。こうして、俺達のクラスには機械ではなく、自我を持った1人の暗殺仲間が加わった。
ページ上へ戻る