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真田十勇士

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巻ノ一 戦乱の中でその五

「よいな」
「それがしのですか」
「そうじゃ、わしの家臣ではなくな」 
 幸村自身のというのである。
「御主の家臣とせよ」
「それは何故でしょうか」
「わしには家臣がおる」
「真田家代々の」
「その者達は源三郎にも受け継がれる」
 信之が真田家を継ぐからだ、そうなるのは道理だ。だが昌幸はそのうえで幸村に強い声で言うのである。
「しかし御主は違う」
「それがしは真田の家臣として兄上にお仕えするのでは」
「いや、御主はそれ以上の器じゃ」
「それがしが」
「わしの見たところ御主は天下一のもむのふになれる」
「天下一のですか」
「この上田から出て天下に名を馳せるまでにな」
 そこまでの器だというのだ、幸村は。
「大名になれぬかも知れぬがもむのふとしてじゃ」
「天下にですか」
「名を馳せる」
「そうした者になれるのですか」
「そうじゃ、だからじゃ」 
 それ故にというのだ。
「御主はその者達を家臣としてな」
「天下にですか」
「名を馳せよ、よいな」
「父上がそう仰るのなら」
 幸村は父の言葉に頷いた、そうしてだった。
 すぐに上田を出て旅をする支度をはじめた、まずは彼一人で出ることになった。その時に彼の支度を手伝っている信之が言って来た。
「これより旅に出るが」
「はい、支度の手伝い有り難うございます」
「それはいい、これから長旅になるな」
「そう思いまする」
「一人でよいのだな」 
 信之は弟に問うた、彼の部屋で支度の手伝いをしつつ。
「それでも」
「はい、最初は一人ですが」
「家臣を見付けていきか」
「やがて一人ではなくなります故」
「だからか」
「最初は一人でも構いませぬ」
 幸村は信之に毅然とした声で述べた。
「そしてです」
「さらにか」
「はい、この上田に帰り」
「戦うのじゃな」
「城に来る敵と」
「それまでに戻るな」
「そうします、出来るだけ急いで」
 幸村は兄にこうも答えた。
「二年、いえ一年半で」
「うむ、まずは上杉が動くな」
 信之は己の見解も述べた。
「川中島の方にな」
「そうですな、上杉家の拠点春日山から川中島は近いです」
「海津の城も手に入れる」
「そうしてきますな」
「そして北条と徳川も動く」
 このことも間違いないというのだ。 
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