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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第一七話「世界の核」

1,







「『平均化』の魔術……?」

 インデックスは10万3千冊の魔導書を脳内に記憶している、文字通りの魔導書図書館である。

 対魔術師戦となればそれらを総動員し、相手の魔術の特性や弱点を瞬時に割り出すことが容易に出来る。もし仮に、アレンジされた物や、完全に新しく生み出されたオリジナルの物でも、大抵は解析が可能だ。現に、彼女は異世界での会合の際にも、その能力で味方のサポートを行い、敵の特性を見抜いていた。彼女の能力は、異世界の魔術にも通用する物なのだ。

 しかし、そんな彼女にも『平均化』の魔術など、聞いたこともないし、見当もつかなかった。

「私の中の10万3千冊にもそんな魔術はない。それはどんな魔術なの?」
「私も見当はつくが、確信がない。聞かせてくれ。その魔術はどのような効果を持つ?」

 オティヌスですら確信が持てない物だというと相当の物だろう。もちろん魔術に対してはエキスパートというレベルを通り越している自分やオティヌスが匙を投げるほどの物なので、上条やキリト、フラクシナスの面々はおろか、必要悪の教会の面々にもどのような物かは見当がつかないだろう。

『そうですね……簡単に言うならば』

 と、賀川の目線がキリトに向けられる。彼はキリトを見ながら

『桐ヶ谷くん』
「あ、はい。俺……ですよね?」
『はい』

 うなづくと、賀川はキリトに一つの問いをした。

『桐ヶ谷くんにとって、魔術というものは馴染みあるものですか?』
「え?いや……ゲームとかでは魔法は出てきますけど。ALOにも魔法は出てきますし」
『あ、すいません。聞き方が間違っていましたね』

 恐らく、彼が聞きたいのは「魔術」という単語自体ではなく

『魔術という現象……それによって現実におこる現象について、あなたは馴染みがあるのかと』
「……いや。少なくとも、俺はここに来るまで、魔術なんてものが現実に存在することも知らなかった」

 ……そういうことか。

 賀川の質問に隠された意図。それにインデックスは気付いた。それと同時に、「平均化」の魔術がどのようなものかがはっきりした。

 それは

『そうです。桐ヶ谷くん達の世界には、魔術というものは、少なくとも架空の存在でしかありませんでした。
 しかし、上条くん達の世界では一般に認知されているわけではないといえ、魔術は確実に現実に存在しています。士道くん達の世界や合成されたもう一つの世界にも、形には違うとはいえ魔術というものは確かにあります』
「成る程」

 それを聞いて確信ができたのだろう。隣の上条の頭の上のオティヌスが納得がいったようにうなづいた。恐らく、その答えは自分と同じ物に違いない。

「『平均化』の魔術……それは、ある世界における特異な部分を、それが存在しない世界と合成させることによって打ち消す魔術だな。違うか?」


 ⚫︎


 強くうなづく青年を見て、オティヌスは全ての合点が合った気がした。敵が施した物の正体も。それで何故下の馬鹿がねらわれることになったのか。

 ……そういうことか。

「……どういうことですか?」
「五和も言っているが、俺たちも少し理解しずらいのよな」

 だが、やはりまだ全てを分かっている人物は少ないらしい。どう説明するべきか。と考えてみると、いい例えが思いついたのでそれで説明してみる。

「そうだな……簡単に飲料水あたりで例えをしてやろう」
「飲料水……。お前もそういう例えをする辺り、いい具合に染まってきたなー」

 黙れ、と一応言っておいた。

「別に普通のジュースでいいが……近頃コンビニに売っているあの普通の水にトマトやらみかんやらりんごやら味を加えたジュースなんだかミネラルウォーターなんだか分からん飲料水があるだろ」
「ああ。いろ○すですね」

 アスナが取り出した簡単につぶせるペットボトルに入った飲料水。それ見てオティヌスはうなづく。

「そう。それだ。普通あれの違う味同士をごちゃまぜにして一つにすれば、それぞれの味が混ざったよく分からん飲料水が出来上がるだろう」
『よしのんは飲むことできないけどなにそれ超不味そう……』
「同意。以前耶倶矢とともに興味本位で試してみたら、それぞれの良さを潰しあった、絶望的な味に仕上がりました」

 試したことあんの……?とどこからともなく呆れの声が上がってきた。いかん。話がずれている。

「と、ともかくだ。味はともかく普通ならそれぞれの味は混ざったとはいえ残るはずだ。
 そこは良くなるか悪くなるかはわからんが、ともかくお互いの要素が混ざり合った物となるだろう。……そこで『平均化』の魔術を使うとどうなるか」
「……どうなりやがるんですか」
「実に簡単だ。りんご味の物にみかんの要素はない。みかん味の物にトマトの要素はない。お互いに無い異質な部分を潰しあい……ただのミネラルウォーターになる。味も何もない、実にシンプルな仕上がりのな」

 一息、区切る。

「お互いの世界の異質な部分のみを消し合い、お互いの世界に共通する部分のみを残す。お互いを平均的にすることで、お互いの良い要素も悪い要素も消す。
 それが『平均化』の魔術だろう」


 ⚫︎


『正解です。流石は、と言っておくべきでしょうか』
「いらん。そもそも、元魔神という身でありながらそんな魔術が発動されたにも関わらず、何も気づかなかったのだ。情けない」

 今の言葉は本心からだ。魔神の力を「妖精化」でほぼ全て失ったとはいえ、一時的にも魔神だった身。それが世界を歪める規模の大規模魔術が発動した片鱗すら感知できなかったのだ。情けないったらありゃしない。

 ……しかし私が何も分からなかったとなると、相当な厄介な相手だな。これを仕掛けた魔術師は。

 力は失ったが、今でも異世界で起こったイタズラの神の策謀程度には気づくことができた。ほんの数分とはいえ、あの戦争好きの馬鹿の体も乗っ取ることができた。そんな自身に何も気づかせずに対界レベルの魔術を使用した魔術師となると、只者では無い。

 ……もしや、また新しい魔神でも。

 そんなことを思って、首を振る。前に上条が言っていたが、そんなに魔神がポンポン、ビールの泡のように現れるわけがない。自身ですらあれほどの苦労と苦心を掛けたのだ。仮にいたとしても、魔術が5人も6人もいてたまるかという話だ。魔神の価値がダダ下がりではないか。

 ……大方出たところで、1人か2人は噛ませになるのが関の山だな。

 新しい魔神の可能性については放置しておこう。第一、そんなことを言い出したら下の奴が心底怯えるに違いない。ここまでの魔神についてのトラウマを作ったのは自分だし、いたずらに怯えさせるのは避けたほうがいいだろう。

「ちょ、ちょっと待てよ」

 と、思案の中にあった者の声が真下から聞こえてきた。上条だ。

「それでなんで俺が狙われなくちゃならなくなるんだ!?」
「それの説明もする前に、1つ確認しておきたいことがある」

 上条が狙われる理由。それにも大体の確信は持てているが、確認の為にも1つ確かにしておかなければなら無いことがある。

「これはまだ疑念だが……恐らく『平均化』の魔術は不可なく発動し、他の分散された3つの世界の異能は、軒並み消えているのだろう?」
『はい。その通りです』

 やはりか。

 となると、上条が狙われるのは明確だ。すなわち

「お前が狙われる理由は簡単だ。実験された『平均化』の魔術がこの世界のみ発動しなかった理由。それがお前の右手だからだろう」


 ⚫︎


 幻想殺し。

 そう呼ばれる能力が宿る右手を、上条は見つめていた。そして思うことが1つ。

 ……またこれかい。

 この能力は確かに役立つ。これが無ければ乗り越えられなかった問題や修羅場は今まで多く体験してきた。

 だが、そのせいで不幸になるわ、そのせいで魔神の標的になるわ、そのせいで変な連中に狙われるわ。いくら何でもデメリットが高くないだろうか。

 ……この前も調べさせてくれって変なおっさんに懇願されたしな。

「……具体的な説明はできる?」
「勿論だ」

 琴里の要請に上にいる妖精さんがうなづくのが分かる。もうほぼマスコット化していて、あの頃の威厳はあれど、可愛いが先行している気がする。

「……お前今何か失礼なこと考えなかったか?」

 ……気のせいだ、と伝えておく。

「…………まあいい。さて、説明だったな。『平均化』の魔術の効果内容について大方の理解はできただろう」
「その世界の異能を、異能がない世界と融合させることで、消してしまうってことですよねー?」
「誘宵の言っている通りだ。本来ならば『魔術』『超能力』『精霊』『超能力(ステルス)』……もしかすると、『VRMMO』という物も消されていた可能性があっただろう」
「えっ」

 意外そうな顔をするキリトに、オティヌスは告げる。

「異能というのは何も超常的なことばかりではない。学園都市の超能力は、あくまで科学的な技術で脳開発することによって得られるものだからな。
 考えてみれば学園都市と外部との技術差は数十年以上あったはずだが、それにしてはVRMMOやこの艦フラクシナスと比べれば技術のレベル差がそうそう無いように思える」
「……考えてみりゃそうだにゃー」

 確かに学園都市外の技術では学園都市では大国でも対抗できないのは、あの第三次世界大戦で立証済みだ。だが、このフラクシナスを見るととてもそうとは思えなくなる。VRMMOも、学園都市では確実に技術的に可能なはずだが、学園都市製のVRMMOというものは聞いたことがない。

「何故こんな単純なことに気づかなかったのだろうな……」
「もしかすると、認識阻害の魔術にでもかけられているのかもしれませんね」
「それはありえるな」

 ステイルと神裂、2人の言葉に頭の上のオティヌスはうなづいていた。

「何せ、今回この魔術を使用したやつは相当な実力者だ。世界を歪めるような大規模魔術を、もしかしたらほぼリスク無しでこなしたのだからな。まぁ、その実験もこいつの所為で失敗したようだが」

 見下しはせず、されど目線を下にしてこちらを見た後、オティヌスはさて、と言葉を続けた。

「『平均化』の魔術が異能を消す魔術だということは理解できたと思う。そして、こいつの右手には」
「幻想殺しだっけか?手に触れたあらゆる異能を消せるって、まぁなんかゲームに出てきそうな能力だよなー」

 クラインの言葉に苦笑いするしかない。まぁ、効果は右手しか存在しないし、先ほどのようにデメリットも多数存在するが。

「そうだ。正確には『世界の基準点』というべきだろうか……。
 ともかくだ。恐らく『平均化』の魔術は発動したものの、こいつの右手が魔術を打ち消したのだろう。私が世界をいじくり回した時にこいつだけが無事だったのと同じ理屈だ。
 そして、それならばここまで同じ世界に異能を象徴するような人物や物が集まったのも分かる」
「……どういうことよ」
「先ほど、確かに知人同士が一つの世界に纏まるというのは聞いた。が、にしたって一つの世界に異能の中心が集まりすぎじゃないか?精霊、武偵、超能力者(ステルス)魔術師(ウィザード)……お前らも含めて、な。
 そしてお前らに知人同士が同じ世界に集まりという理論は効かない。何せお前らが学園都市に来るまで、私たちはお前達フラクシナスのことも、五河士道たちのことも、桐ヶ谷和人たちのことも会ったこともないし知ってもいなかったのだからな」
「……それも考えてみたら確かになのよな」

 この世界には確かに学園都市や必要悪の教会のような上条やインデックスゆかりの組織だけではなく、ラタトスク機関やDEM社といった異能関係の国家規模の組織が集中している。そこはオティヌスの言う通り不自然だが

「それになんだって上条さんの右手が関係あるんですかい?」
「言っただろう?お前の右手は世界の基準点たりうると。
 世界の形を歪める魔術だ。それがお前の右手によって歪められない世界が一つ出来上がった。大方、そこに消される運命だった様々な異能が逃げ場として駆け込んだ、というところだな。
 いくらこの実験の主導者が巨大でも、世界の核までは歪められない。いくら異能とはいえ世界の抑止力たる幻想殺しを消すことはできないからな」
「……核?世界の核って、何?」


 ⚫︎


 やはり鋭いところを突いてくる娘だな、とオティヌスは思った。

 彼女の中にある10万3千冊は使い方によっては魔神に至ることすら可能な代物だ。その豊富な知識が、今の単語に反応を示したのだろう。

 さて、とどう説明するか少し思案するオティヌス。

 言葉をまとめた彼女は

「私が世界を何度も塗り替えたことがあるというのは知っているな」
「はい。……まぁ全く理解できませんけど」

 アスナが言うように、オティヌスが世界のフィルターを弄り、世界を作り変えたことについては説明がなされていた。彼女の正体とともに。

 が、スケールが大きすぎる話に士道やキリトなど、大半は理解が追いつかないのが現状だ。

「そうだ。私は何度か世界を作り変えたことがあった。……その際気づいたことだが、世界には核のようなものがあるのだ。私の能力でも不可侵領域な、この世界の素となるような、な」
「……それはどういうものなんだ?」
「例えばだ桐ヶ谷。世界にとって変わっていけないものとはなんだと思う?」
「え?」

 逆に質問され、困惑するキリト。思案し、考えつく限りで、一つの答えを出す。

「……人間とか?」
「中々察しがいいな。確かに、人間の存在というものは魔神の力を持ってしても、有る無しが左右できるものではない。
 これと同じように、世界を塗り替えることができても、絶対に変えることのできない事象がいくつかある。
 この世界に宇宙があり、その中には、太陽と呼ばれる恒星があり、それが太陽系と呼ばれる領域にてそこの物理的中心になっていること。
 太陽系の第3惑星に、生物が暮らすことできる環境を持つ星が存在すること。
 その星には酸素を始めとする元素が存在すること。その星には海と大陸が存在すること。そこに住む生物の中には、人類という知的生命体がいること。
 それらはいずれ発展し、様々な文化や国が生まれること。そして、世界の基準点たりうる『幻想殺し』が生まれること。
 ……他にも大量に存在するが、大方こんなところかな」

 現に、幾度となく上条を精神的に潰そうとした(今思えば些か大人気なかったことを認めよう)あの世界の塗り替えでも、今話したところは変わることがなかったはずだ。

「いくらお互いの不純物を消し合う『平均化』の魔術とはいえ、核までは犯せない。これは紛れも無い事実だ。私が、保障しよう」
「……仮に世界の、その核とやらを変えることができるやつがいたら?魔神には無理でも……ほら、俺が飛ばされた世界、北欧神話とかなんとかの神様とか。グングニル持ってる」
「オーディン……あの髭面のことか?あれは元々世界を塗り替える能力など持っていない。
 そもそも、核は神でも犯せない物だ。神とは世界に準じる存在。それが世界の核たるものに影響を及ぼすことなどできるわけがない。地球そのもの、と言った自然霊や星の抑止力でも無理だな」

 世界の核。それをそっくり変えることができる存在など、いてはならないのだ。

 ……そんなものがいてたまるか。


 ⚫︎


「……しかしこれは会合を早めに終わらせたほうがいいかもしれんな」
「え?なんでよ」

 突然会合の終了を早めたほうがいいと言い出したオティヌスに、琴里は反論を申し出る。この会合は重要な意味も持つものだ。今回世界を融合させた者の使った手段については納得できたが、それ以外にも分からない点は多い。そこの情報交換は積極的に行おうと思っていたのだ。まだ会合を終わらせるわけにはいかない。

 確かに、眼下の学園都市では今謎のテロ組織だのなんだのと、大きな騒ぎが起きていることも理解している。先ほどから浜面と滝壺と連絡ができないことも気掛かりだ。だからこそ、ここでの情報交換は重要なのだ。

 そして、その意味を理解していないオティヌスでは無いだろう。だから彼女が突如そんなことを言い出した理由が知りたかった。

「簡単だ。私も一度こいつを狙ったことがあるからよく分かる」

 そう言うと目線を下に、上条に向けられる。

「私ですら魔神になりようやく干渉できるようになった異世界に悠々と干渉し、『平均化』の魔術という世界の在り方を歪めるような大規模魔術を使用した奴だ。それがこいつの右手のせいでものの見事に失敗した。
 何故そいつが異能を消そうとしたのか。何者なのか。疑問は尽きんが一つだけ分かることがある」

 一息、区切りを入れ

「それほどのことを仕出かすやつが、こいつを殺すためにどれだけのことをやらかすか。分かるか?」

 かつてラジオゾンデ要塞という縦横20キロはあろう大型施設を墜落させようとしたグレムリン。それは1人の少年のために起こされた事件であった。

 琴里は、そのことを知らなかった。だからこそ、この時点では何が起こるのか、全くの予想が付いてなかった。

 だが

 しかし

「……とりあえず、学園都市がどうにかなる程度の何かが起こることは間違いないな……違うか?」
『お見事です。……最も』

 もうその時点では、それは起こっていたのだ。

『まずいことに……もう手遅れのようですね』







2,






「学園都市に航空艦が落ちてくる?」
「そういうことぢゃ。元々、カナがあのような胡散臭い依頼を受けたのもそれが関連していてな」

 御坂を加えたカナ、パトラの学園都市不法侵入者両名は現在、御坂からの何に協力すればいいのか、そして協力による御坂への見返りとして、とある場所へと車を走らせていた。

 ちなみに2人が運転するのは4人乗りのクラシックカー「ハネムーン号」である。結婚式で走り去る時についているカンをくくりつけたアレはないものの、形状、見た目ともに完全に結婚関連で使われるものに違いない。

 もちろん、後部座席に御坂1人が座り、その前には相変わらずイチャイチャするカナとパトラがいた。黒子が自分にしてくるようなイチャイチャぶりである。これがクラスメイトが言っていた百合というものなのだろうか。別に人の性癖にとやかく言う気は更々ないが、他人の目の前で居心地が悪くなるほどイチャイチャするのはやめて欲しいものだ。前に、知り合いの1人が「男の人は男の人同士で、女の人は女の人同士で恋愛すべき」とか言っていたが友人の行く末が危ぶまれるものだ。

「──あまり驚いてないようね」
「え?…ええ、まぁね」

 何故ここまで落ち着いてられるのか。考えてみれば学園都市に何か落ちてくるなど残念ながら「割とある」ことなのである。

 ……前には学園都市に落ちてくるミサイルや宇宙エレベーターを撃墜したり、パージしたりしたこともあるし。

 更にこの前は自分がシャトルに乗せられて、そのシャトルが危うく学園都市に墜落しそうになったのだ。学園都市にて何か落ちてくるというのは日常茶飯事ではないにせよ、かなり高確率で起こりうることなのだ。

 だから御坂はこう言った。

「何かが落ちてくるって、慣れてるし」
「…………お主も中々ハードな日々を過ごしているようぢゃな」

 いけない。何か変な勘違いをされた気がする。

 慌てて訂正をしようとするものの、それは次に苦笑したカナが言い放った言葉で止められた。

「確かに学園都市に何かが落ちてきたり、墜落したりしそうになるのは多い。けど、今回はその中でも別格よ」
「別格……?」

 何が別格なのか。面積か。体積か。比重か。速度か。それが墜落した際の被害がか。

 可能性を一つ一つ思い浮かべる御坂だったが、ふとカナから一つの質問が投げかけられた。

「一つ聞くけど。前に貴女たち常盤台の子たちが巻き込まれた宇宙シャトルの墜落事件。あの時シャトルの中には常盤台の子たちはどれくらいいたの?」
「えっ?た、確か常盤台の生徒全員が巻き込まれたから200人弱じゃ…………まさかっ!?」

 頭の中であの時の騒動を思い出した御坂だったが、思い浮かべると同時にその質問の意図に気づいた。それは

「……あなたさっき、『240万人を救う為』って言ったわよね」
「ええ」

 その数字はおかしい。学園都市の総人口は230万人で、学園都市を救う──つまり学園都市に落ちてくる戦艦をどうにかするとなると、残りの10万人はどこからか出てくることになる。

 そして、この騒動で10万人がいきなり出てくるとなると、可能性は一つになってくる。

 つまり

「その航空艦……10万人の人々が乗船しているっての!?」
「正確には99300名だったかの?まぁ、これは正式乗員ぢゃから、これよりの可能性は多いにあるのぢゃがな」
「元々落ちてくるものが超大型の航空都市艦だから。流石にその数字を聞いた時は驚いたけど」

 10万人を乗せた航空艦が落ちてくるとなると、話はかなり違ってくる。その航空艦を撃退することはもちろんできなくなるし、迂闊に手出しはできなくなってしまう。対処の仕方が限られてくるのだ。

 しかし10万人が乗る航空都市艦などとなると、先端科学技術の街である学園都市でも聞いたこともない代物だ。

「どんだけ大きいのよ?その航空都市艦」
「全長約8キロ。全幅約2キロってところだったかしら。どっちにせよ学園都市に落ちてくれば、大人災になることは間違いないわね」
「……ッ」

 大きさも存外なものだ。そんな物がこれから学園都市に落ちて来ようとは。これが本当に何者かの仕業であれば、その者の正気を疑うのはもちろん、そこまでする理由も気になるものだ。

「なんでそこまでどデカイ航空都市艦が学園都市に落ちて来なきゃいけないのよ!」
「なんでも敵の目的は『上条当麻』をどうにかするため、その一点らし……おい、どうしたのぢゃ」
「……またアイツ関連か」

 頭を抱えたくなるのも当たり前であろう。本当にアイツは年がら年中何かのトラブルに巻き込まれなきゃならない呪いにでもかかっているのか。その度に次々と女性の影も周りに増えているがそれも呪いの一種なのか。

「アイツ1人のために240万人を巻き添えにって、どんだけアイツは重要な位置づけなのよ……」
「敵がどれだけ上条当麻に重要性を抱いているのか分かるわね。まったく、彼が何をしたってのかしら……?」

 大方予想がつくがそれについては考えないでおこう。

 ともかくあいつもだが、この事態を見過ごすわけには当然いかない。学園都市には大切な友人や妹達がいるのだ。その為に動かなければ。

 と、顔を上げた時に、それは目に入ってきた。

「あっ……ごめん。ちょっと車を止めてくれない」
「ん?どうしたの?」

 疑問を抱きつつも、とりあえず車を止めてくれるカナ。車のドアを開き、車道へと降りた御坂は、近くの歩道に立っているその人物に声をかけた。

「アンタ!どうしてこんなところにいるのよ!」

 そこにいたのは──







3,







 学園都市の第七学区の南西端には「学舎の園」という、常盤台中学を始めとした5つのお嬢様学校が共同運営する男子禁制の乙女の園である。

 当然、ここを攻めるメンバーを決める際、プライベーティア内では欲望に忠実な男達が殴り合いに発展したのは仕方ないと言えよう。

 結局くじで決められ、乙女の園への攻撃権を得た勝者は自らの幸運に笑い、攻撃権を得ることができなかった敗者は自らの運のなさに絶望したものだった。

 しかし、この場にいる男達は一転、学舎の園を襲撃することになったことを自らの幸運ではなく、不運として嘆いていた。

 何故なら

「誰だよ……学舎の園は大小8のゲートさえ押さえればどうにでもなるって言ったのは……」

 装甲車の裏に隠れながら、男は絶望的な呻きを漏らした。

 確かに学舎の園のセキュリティが高いことは知っていた。侵入するのが容易にいかないことも分かっていた。警備ロボがいるのも聞いている。

 が、これほどの物とは男達は思っていなかったのだ。

「……こんな、こんなゴテゴテの警備ロボがいるなんて聞いてねぇぇぇー!!」

 直後に発射されたレーザーで男達は吹き飛ばされる。

 学舎の園。そこは衛生地図も非公式な、2458台の監視カメラが見張る乙女の絶対不可侵領域。そこはもちろん、物理的にも学園都市最強クラスのものに守られているのだった。


 ⚫︎


 学舎の園に存在する大型の警備ロボは系24台。現在それら全てがフル稼働で学舎の園と外界を繋げる唯一の門を守護する役目を担っていた。

 配置された警備ロボはかつて、宇宙エレベーター「エンデュミオン」の一件でエンデュミオン内に侵入しようとした警備員対策にレディリー=タングルロードが用意したものと同型機である。警備員相手に微動だにしなかったそれは、学舎の園を襲おうとする不届き者に対しても鉄壁の守りを誇っていた。一体でも無理なのにそれが三体もいるのだ。いわゆるオーバーキルである。

 それらが守る中、8箇所の入り口に集結しつつある影があった。

 風紀委員の少女たちだ。

 少数だが、この街に遊びに来たり、パトロールなどで偶然いた彼女たちは、それぞれで連絡を取り合い、それぞれが一番近い入り口へと集結していた。

 警備ロボがテロリストをなぎ払う様を見ながら、初春飾利はつぶやく。

「……正門ゲートを囲んでいる勢力の内、残りのは10人ちょいだと思います」

 学舎の園の壁に取り付けられた監視カメラを一時的に借り、外の様子を覗き込んでいた彼女は、正確にこの場の状況を自らの相棒である白井黒子へと伝えていた。

「了解ですの。このぶんなら、早目に場の鎮圧が見込めますわね」
「はい。……ただ」

 抱えたパソコンを覗き込む初春。そこには学園都市中の風紀委員から次々と様々な場所で起こり始めている騒動についての情報が、引っ切り無しに届けられていた。一部で電波のシャットダウンが行われているところを入れれば、その数は更に膨大な物になるだろう。

「問題はこの街を抜けた後ですわね。……学舎の園の内にいる一般人は備え付けられた各所のシェルターから外に脱出するとして……私達はどうしたら…」
「とりあえず、御坂さんと合流しした方がいいと思いますよね」

 と、横から聞こえてきた声、本来ならここにいてはならないはずの声に、初春はギョッとする。

 その声の主は

「さ、佐天さん!?他の一般人と一緒に風紀委員の指示で脱出するように言ったじゃないですか!」
「あはは、それがさ……イテッ!」

 学舎の園に一緒に訪れていたものの、ここにいるはずがない初春・白井の友人、佐天涙子が罰が悪そうに笑う。どうにも理由らしき物を言い出すのかと思えた佐天だったが、それは白井から与えられたゲンコツによって打ち切りとなった。

「まったく………だんだんと変なところがお姉様に似てきましたわね、佐天さん」
「あ、いや御坂さんほどでは……」
「……確かに、お姉様がこの事態に手をこまねいて何も首を突っ込んでいないというのはあり得ないですが……。ともかく、私が送り届けるので、貴女は一般人と一緒に脱出してください。いいですわね?」

 呆れながら佐天を言い聞かせるように小言を言う白井。この白井黒子という少女。普段(彼女がお姉様と呼ぶ相手、御坂美琴がいる前)は奇行が目立つ白井だが、公私混同はかなりしっかりしている方だ。常に風紀委員の仕事に御坂や佐天という一般人を巻き込まないように動いているし、誰よりもこの学園都市のことを思って行動している。

 何より、こんなんでも自分の相棒なのだ。しっかりしてもらわないと困る。

「……初春。貴女何か変なこと考えませんでした?」
「何のことですか?」
「…………まぁいいですわ。じゃあ、行きますわよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!通りゃんせが聞こえたから確認したくて外に出たんですよ!それだけですから!」
「通りゃんせ?…………ああ。貴女が前に言っていた都市伝説ですか。馬鹿馬鹿しい。そんなことより早く脱出を──」

 その時だった。白井の胸のポケットがブルブルと震えたのだ。

 胸ポケットからバイブで震える携帯電話を取り出し、通話の相手を確認して瞬時に通話のボタを押す白井。

 ……この反応の仕方だと相手はおそらく…。

「お姉様!?」
『ああ黒子?やっとかかった…ようやく電波遮断地帯から出られたわね』
「今どこにいますの!?」
『ん?もうすぐ学舎の園。そうそう。今、黒子たちも学舎の園でしょ?どのゲート辺りにいる?』
「しょ、正面の一番ゲートですが……」
『じゃあそこだけ警備ロボの起動止めてくれない?攻撃されて、壊しちゃったりしたら勿体無いし』

 そう言うと、御坂の声が、携帯電話の通話口からこちらに聞こえるほどのしっかりとした声で聞こえてきた。

『とりあえず正門の周りは整理しておくから。そしたら一旦合流しましょう。紹介したい人もいるし』







第一七話「世界の核」 完
 
 

 
後書き
2015年 5月 11日
新しく出てきたf Fate/GOのキャスターに「子安ゥゥゥゥ」と叫ぶ常盤赤色 
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