| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

美しき異形達

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十二話 来訪者その十二

「組織の戒律、ルールの中で絶対に破ってはいけないものは破らないんだ」
「最低限のモラルはあるんだな」
「何のモラルもない輩とはまた違うよ」
 如何に山師と悪名高い人物であってもというのだ、人としての最低限のそうしたものは備えているというのだ。
「だからね」
「組織から追い出されないでか」
「活動しているんだ」
「そういうことか」
「そう、彼もまた不老不死の錬金術師で魔術や仙術も極めているよ」
「そっちの伯爵さんもか」
「そうした意味では私と同じ、そして私と同じだけの知識もある」
 伯爵はそのライバルのことを薊達に話していった。
「その彼が君達の最後の敵だよ」
「止めて欲しいものだな」
 薊は口をへの字にして述べた。
「そんなことは」
「絶対にだね」
「ああ、絶対にだよ」
 それこそとだ、薊は言い切った。
「あたし達は平和に暮らしたいんだよ」
「そうだね、では私は戦えないにしても」
 それでもとだ、伯爵は薊に意を決した顔でこう告げた。
「協力させてもらうよ」
「悪いな」
「悪くないよ、君達の生みの親の一人だしね」
「だからか」
「これまでは見守っていただけだけれど」
 人知れぬ場所からだ、そうしていたというのだ。
「時が来たよ」
「それでっていうのか」
「うん、私もね」 
 薊達を助けそうしてというのだ。
「彼を止める、そして君達にはね」
「普通の女の子としてか」
「生活を楽しんでもらって」
 そして、とだ。伯爵は言葉を続けた。
「成長していってね」
「女の子からか」
「女の人になってね」
「就職して結婚して子供も出来て」
「そうした普通の人生を過ごしてもらうよ」
「普通のか」
「そう、普通のね」
 まさにそうした人生をというのだ。
「過ごしてもらいたいから」
「そうか、じゃあ頼むな」
「君達は皆普通に生きたいね」
 伯爵は八人の少女達にこのことを確認した。
「そうだね」
「ああ」
「はい」
「その通りです」
 八人はそれぞれの言葉で伯爵に答えた。
「やっぱり」
「そうしたいです」
「そうだね、では私の全ての力で」
 知識、それを使ってというのだ。
「君達を助け。彼を止めるよ」
「これからはか」
「そうさせてもらうよ」
「悪いな」
「悪くはないよ」
 伯爵は薊の言葉に少し申し訳ない顔で返した。
「むしろこれまで君達を助けてこなかった」
「そのことがっていうのかよ」
「申し訳ない位だからね」
「けれどそれはな」
 薊はその申し訳なさそうな伯爵に言った。
「組織の決まりでだったよな」
「私は直接は戦えないという」
「それなら仕方ないさ」
 これが伯爵への言葉だった、他の少女達も薊の言葉に無言で頷いている。八人の考えは同じだった。
「それは」
「そう言ってくれるんだね」
「その通りだからさ、とにかくこれからは」
「そう、出来る限りね」
 戦うことは出来ないにしてもというのだ。
「助けさせてもらうよ」
「それじゃあ頼むな」
 薊は微笑んで伯爵に告げた、伯爵も微笑みで返した。こうして双方はお互いに協力し合うこととなった。


第五十二話   完


                           2015・3・7 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧