ワールド・エゴ 〜世界を創りし者〜
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world war7-『三柱の王』-
前書き
初めに一つ。Askaさん、申し訳無い。
ましろは駆けた。
破壊しつくされた道。食い破られた世界。
天冠は駆けた。
終わりかけた生。砕けてしまった自然。
凄惨なるその光景を傍目に、二人はその道を駆け続けた。
終わる気のしない長い道。だが、その奥からは留まることを知らない強大な力が溢れ出してくる。
強大だ。
余りにも強大過ぎる。
今更自分達が行ったところで、何も変わりはしないのではないかーー
「ーー甘えるなッ……!」
自分が思いかけてしまった弱音を罵倒する。
「……?どうされました?」
「……いえ、なんでもありません。行きましょう」
心配するような天冠の言葉に答え、先を見据える。
恐怖が無い--と言えば嘘になる。
『 』には、確かに今の自分では叶わないだろう。
だが結局は、『 』とも決着を付ける時は来る。その時までに力を手にしなければならない。
『その力』は、自らの手で手に入れるか否か。それは問わない。
ただ、誰かの役に立てるだけの力があれば--
そんな事を考えながら、ましろはその道を突き進んだ。
◇◇◇
閃光。
そして轟音。
「……ふんっ!」
「シィィッ‼︎」
二つのナニカは宙を踊り、破壊と崩落を撒き散らしていく。
本来、この『セカイ』の物には『不壊』の性質が練り込まれている。
それは、かの《白亜宮》と同等レベルの性質だ。まず壊れる事などあり得ない。
その『あり得ない』を、二人は容易く蹴散らした。
『不壊』の性質すら破壊される。圧倒的な耐久力も、そもそも消し飛ばされては意味が無い。
ぶつかる度に飛び散る火花のような『ソレ』ですら、その温度だけで不朽の大理石を溶かした。
「ハァッ‼︎」
アッシュの魔法が、ソーニャの機動力を更に底上げする。それに呼応する様に、『 』もその速さを増して行く。
「セィァァッ‼︎」
ホロウのトゥルー・エクスキャリバーが唸り、『 』を切り捨てんと迫る。
「……邪魔だッ!」
一振り。
一閃。
一瞬。
一滴。
血が、滴る。
ホロウは、自分の血を見ると興奮するという特殊な性癖を持ち合わせている。
その興奮は時にホロウの力を昂らせ、その剣を速くした。
ホロウは、それに掛けるつもりだった。
普通に受ければタダでは済まないだろう。
だから、防御は間に合った。全属性完全耐性と合わせれば、まだ耐えられる筈だ。
--だが。
--意味は、為さなかった。
「……へ?」
視界が、反転する。
色が反転したとか、左右が反転したとか、そういった超常的な物では無い。
ただ、視界が回転しただけだ。
つまり、それが表す事は--
「ホロウッ‼︎」
ホロウの上半身は、虚しく宙を舞った。
アッシュの悲痛な叫び。
目を見開くダーク。
苦々しい顔をするソーニャ。
無感情な『 』。
惚けたような顔をした、ホロウ。
「……ッ!貴方はァッ‼︎」
「ッ!」
ソーニャの全力の一撃。夢の力が形となり、『 』の刀へと叩きつけられる。
その一撃は、さしもの『 』でも抑えられず、空間の端へと吹き飛ばされた。
「アッシュさん!ダークさん!数秒で構いません!『 』を抑えて下さい!」
言って飛び退くソーニャ。いつの間にか、その着地地点にはホロウの上半身と下半身が並べられている。
アッシュの持つ治癒魔法にも限度はある。威力では無いから、グラン=ロッドでは効果を高められないのだ。
加えてその治癒能力もそこまで高くはない。すぐに治癒できるのは、精々深めの切り傷程度だ。
だが、ソーニャの力ならば関係無い。
「分かりました!ホロウをお願いしますっ!」
「……ッ!来ますよ!アッシュ姉!」
蠢きだす闇。溢れ出す死。
そして、飛び出してくる滅び。
神瞳が効果を及ぼせない事は確かめた。
--なら、これだ。
「--【因子変換】」
以前《主》が《白亜宮》へと招いた少年。その少年の異能を『魔法』にする。
完全に、とはいかないものの、一部だけ再現する事ができた異能。
--その異能の効果は。
--あらゆるモノを、嘘に変える。
「--『偽映の帝』」
アッシュへと飛び出した闇が、嘘へと書き換えられる。
その形は透き通り、アッシュに当たる前に虚空へと溶けた。
「--『嘘の王』」
他の者の思考を書き換える力。自らの命令を他の者の思考の根源へと植え付ける力。
「『平伏しなさい』」
嘘を埋め込む絶対の命令が、『 』の思考を書き換えんと放たれる。
「小賢しいッ!」
バチッ!という電撃めいた炸裂音が響き、その異能は弾かれる。
しかし、一瞬だけ動きを止めた。
「『立ち止まりなさい』ッ!」
「しつこいぞ!」
再び電撃音が放たれ、異能は弾かれる。だが、やはり動きは止まる。
--これだ。
--これで凌げる。
そう思い、次の命令を紡ごうとする。
バクンッ!
「……あ……」
闇が。
アッシュの左半身を、喰らった。
「うあああああっっっっ⁉︎」
アッシュの異能と、自ら自体の強さ故、感じた事もなかった激痛。
熱い。熱い。痛い。熱い。痛い。痛い痛い熱い痛い痛いいたいあついいたいイタイイタイイタイアツイ--
「アッシュ姉ッ!」
「死ねッ!」
手を伸ばすダーク。
振り下ろされる漆黒の剣。
『設定』すら両断するその力の前には、『負けない』と云う設定など無力。
--終わった。
--自分は。
--死んだ。
--マスター……
「--撫で斬りにいたします」
「--僕の大切なレギオンメンバーに、何をしているのかな?」
一太刀。そして一閃。
「ッ⁉︎」
漆黒の剣は、更に濃い闇に喰い潰される。
そして、『 』自身も、美しい輝きを放つ日本刀の軌跡に呑まれた。
一瞬にして『 』の体に、幾つもの傷跡が刻み込まれる。
「ぐっ……」
現れるは二つの人影。
片や、真っ白のローブを着た、途轍もない威圧感を放つ青年。
片や、藍色の着流しを着た、長い黒髪を櫛で纏めた長身の女性。
《主》と呼ばれた少年神と、『天冠』と呼ばれた刀神、その人だった。
「やあやあ、ごめんねアッシュ、ホロウ、ダーク。遅れてしまったよ。やはり僕でも勝てないコイツの相手は荷が重すぎたね」
《主》が笑って右腕を振るう。
それを知覚した時には、ホロウとアッシュの傷は跡形もなく再生していた。
「痛かったろう?君達は大き過ぎる傷には慣れてないからねぇ、尚更か」
笑って謝罪し、そして『 』へと向き直る純白神。
その瞳に映る感情は--『憤怒』。
「──《惟神》──
《 憤怒》 」
今の彼の感情を表す、その名を紡ぐ。
現れるは神の槍。かのグングニルの遥か上を行く、文字通り『最強の矛』。
その槍を、『 』は受け止めきれない。
幾ら『管理者』としての力があろうとも、かの絶対者である『真偽の神』の様には行かない。
故に流す。
『真偽の神』の様に捻じ伏せるのでは無く、勢いをいなす。
軌道を変えられた絶勝の槍は、目的を捉える事なく、『 』の背後の壁を貫いた。
「ちぇっ、最近僕の力が通じない奴増えてきたなぁ……」
「……かなり危ないがな。だがまだ浅い--」
--フッ
「ッ‼︎」
咄嗟に背後へと体を仰け反らせる。
元いた場所にあった空間は、切り払われ、そして亜空へと葬られた。
「……天冠か」
「--今、此方側に話している次回は存在しません。よって、貴方を即刻排除させて戴きます」
「なら--やってみるといいッ!」
『 』の手に再び暗黒の剣が形作られ、その闇を振るう。
--幾度目かの光景が、再び宙を覆う。
『夢』が、『闇』を包み込む。
「……ふう、遅いですよ《主》さん。天冠さん」
「ごめんよ。でもキミはまだ本気出してないだろう?」
「あんまり出したく無いんですよ。下手すれば物語に支障をきたしかねません」
「今まさにその『物語』に支障が出かかってるんだけどね」
苦笑混じりに話す《主》。だがその瞳からは殺意が常に溢れ出している。
--その矛先は、勿論『 』。
--と、そこで。
「……ましろさん、準備は出来ましたでしょうか?」
「はい!十分ですッ!」
『 』の視線からは、天冠の影に隠れていた台座に、ましろが辿り着いていた。
そして、その手に持つは--
「……『歯車』ッ!」
初めに反応したのは、『 』だった。
爆発音と共に、その影は光を上回る速度でましろへと迫る。
--だが。
「何処へ行こうって、言うんだい?」
純白神が、それを許さない。
「--行かせません」
刀神が、それを許さない。
「まあ焦らないで下さいな」
夢の主が、それを許さない。
「--ッ!退けッ!」
『 』は抗う。
『歯車』は渡さない。
其れだけを願い。
力を、解放する。
「--『物語ノ始マリ始マリ』ッ!」
これまでとは比べ物にならない、膨大な闇。
それは《主》の結界を抜け、天冠の剣閃を潜り抜け、ソーニャの夢を貫いて--
ましろへと、迫る。
同時に、ましろは呑み込む。
『歯車』に--否、『歯車』だった光の束に、口付けをする。
同時に、魂の最奥に、光が差し込む。
その深層心理。その眠り続ける筈だった力。ましろ自身の、才能。
--それは、『歯車』の干渉によって__
引き出される。
ドクンッ
--眠れる異能は、その姿を表す。
世界転生まで、あと40時間。
《滅びの依り代》の完成まで、あと38時間。
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