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異世界系暗殺者

作者:沙羅双樹
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中間の時間(2016/05/16 一部修正)




【視点:渚】



南君がこのE組にやって来て早1ヶ月。もうすぐ、この椚ヶ丘中学校では中間テストが始まる。赴任当初のビッチ先生との遣り取りで南君が言った―――


「学生の本分は勉学だからな。勉学を蔑ろにしてビッチに尻尾振る様なクズい奴はいねぇ」


という言葉が3週間程経っても頭に残っていた僕達は、中間テスト1週間前ということもあって暗殺を控えてテスト勉強に集中する様になった。

そして、僕達に勉学の必要性を説いた当人はというと―――


「神崎さん、その化学式は―――」


殺センセーと一緒に教える側としてテスト勉強強化授業に参加している。生徒なのに何故教師役!!?


「それはですね、渚君。正直、先生には勉学という点で彼に教えられることが何もないからです」
「殺センセー、自然に僕の思考を読まないで下さい」


けど、殺センセーの言う通りだと思う。以前、クラスの皆で殺センセーに南君がやった東大過去問の点数を聞かせて貰ったけど、全教科満点だったんだ。僕達とは頭の作りが違うと思った。けど、当の本人は―――


「日本の大学入試の過去問でオール満点取れても、海外の大学―――ハーバードやMIT、ケンブリッジ、オックスフォードの入試を突破できるとは限らねぇからな。その程度でドヤ顔とかする奴は井の中の蛙だ。だから、別に自慢することでもねぇ」


正直、この言葉をA組の生徒が聞いたら、普通は憤死する勢いで罵倒して来ると思う。まぁ、南君の場合はそれすらさせず、A組ごと全校生徒の心を折るんだろうけど。

つい先日あった全校集会で、全校生徒に転校生として紹介された時も―――


「えー。モブキャラの愚民共、こんにちは。どうした、個性無き愚民共!怪我はないか、その他大勢の愚民共!気分が悪いなら早く帰った方がいいぞ。8割以上がもう出番のない愚民共!
ちなみに俺はE組の生徒を蔑む性根の腐った愚民と仲良くする気は毛頭ねぇから、気安く声を掛けるな。掛けてきた瞬間、OHANASHIの刑に処すからそのつもりで。
あと、校長から名前の紹介があったが、お前らみたいな愚民に自分から名前を名乗る気も毛頭ない。気安く名前で呼んできた瞬間、この世に生まれてきたことを後悔する様な制裁を降すので、その点も了承しろ。てめぇら愚民共に拒否権はない。
ちなみにE組の皆は例外だ。俺のことは気安く、イッキと呼んでくれ。以上、自己紹介を終わる」


と言っていた。最初のアイデンティティを潰す様な挨拶で、生徒会メンバーを始めとした一部のA組生徒以外は全員が崩れ落ちていた。

あと、この集会があった翌日。椚ヶ丘中学本校舎の生徒が1人、家族諸共夜逃げしたという話題がE組で持ちきりになっていた。このことについて南君に尋ねると―――


「ああ、その話なら俺も耳にしてる。俺が聞いた話じゃ、親の銀行の預金残高が全てマイナス数値になっていた上、一夜で身に覚えのない数千万の借金ができていたみたいだぞ。
たった一晩でそんなことができるのは凄腕のハッカーだろうな。大方、夜逃げした家の誰かが凄腕ハッカーにケンカでも売ったんじゃないか?本当、世の中ってのは怖いな」


南君は教室に持ち込んだ自前のノートパソコンを弄りながら、黒い笑みを浮かべそう言っていた。この時、僕だけでなくクラス全員が怖いのは世の中ではなく南君の方だ、と思っただろう。

と、そんなことを思い出している暇なんてない。勉強に集中しないと。殺センセーがマッハの速度を駆使して、分身を作ってまで勉強を教えてくれている上、自分の体力が削られるのを承知で分身数を日に日に増やしてくれている訳だし。

取り敢えず、僕達E組は殺センセーと南君に勉強を教わりながらテスト当日まで過ごした。



【視点:樹】



おう!自称:嵐の王こと南樹だ。実際は空の王だが、嵐の王の方が響き的にカッコいいから、嵐の王を自称している。

いきなりで悪いが一気に時間軸が跳んで、今日はテスト当日だったりする。しかも、テストしている描写なんて面白くないと思うから、テストの問題をモンスターに見立てたVRMMOっぽい描写で話を進めて行こうと思ってるので、そのつもりでいてくれ!

って、そんな説明をしている間にワニっぽいモンスターならぬ問スターがやって来た。


「うわぁ!来た来た来た来た!!」
「ナイフ1本じゃ殺せねーよ!!どうすんだよ、この問4」


E組の生徒は問スターから逃げ惑う者と立ち向かおうとする者がいる。ってか、何で逃げてんだよ。こいつの解き(バラし)方なんて俺と殺センセーが教えただろうが……。

そんなことを思いながら、俺は向かってくる問スターに対して空の玉璽(レガリア)で牙を放ち、その身を三枚に卸した。


「お前ら、この程度の問スターにビビり過ぎ。分割して見極めれば、その全体像は大したことの無い小魚だろうが」


現実で俺の言葉が届いている訳じゃないけど、それでも全員が俺と殺センセーの授業を思い出したのか、この問スターをあっさりと解い(バラし)た。

その後も問5から問10までほぼ全員が問題なく、問スターを解い(バラし)ていった。が、問11の問スターが現れた瞬間、E組の大半が吹き飛ばされ、再起不能となった。

現れた問スターは明らかに本来のテスト範囲から出題されるものではなかったのだ。こいつに立ち向かえるのは俺を除けば真面目に予習をしている奴くらいだろう。

現に生き残っているのは、俺を除けば赤羽、磯貝、片岡さん、神崎さんの4人だけだ。けど、この後も問スターはまだ3体もいる。4人中何人が生き残れる?

……こうして、予想外の不意打ちを受けながら俺達E組の椚ヶ丘中学1学期中間テストは終了した。そして、それから1週間後――


「申し訳ない。先生がこの学校の仕組みを甘く見ていたばっかりに……。君達に顔向けできません」


答案用紙が返却され、殺センセーは俺達に背を向けながらそう言ってきた。そんな殺センセーに向かって、俺と赤羽はほぼ同時に対殺センセーナイフを投擲する。

え?何でこのタイミングでナイフを投げるか?だって、テストが終了した以上、暗殺を再開するのが普通だろ。まぁ、あっさりと避けられた訳だけど。

「にゅやッ!?」
「殺センセー、そんな堂々と背を向けられてたら、ナイフ投げたくなっちまうよ」
「そうそう。俺達に殺して下さいって言ってる様なもんだしね。無抵抗で殺されて、センセーは満足なの?」
「イッキ君!カルマ君!!今先生は落ち込んで―――」


殺センセーがそう言い出すと同時に、俺と赤羽は自分達の全答案を教卓に放り投げた。答案の内容は俺が全教科満点、文句なしの総合1位。赤羽は5教科平均98.8の総合5位。


「うお…、すげぇ」


「問題解き終わった後、問題文の駄目出しを答案の裏に書いといたんだけど、各教科の先生は余程屈辱だったんだろうな。赤丸や点数が歪んでる。こう見下して来る奴の鼻っ柱を砕くのって、超気分いいよな」
「あっ、それ俺も分かるわ。まぁ、俺の場合は殺センセーが俺の成績に合わせて余計な範囲まで教えてくれたから、解くことができたんだけど」
「俺はこのクラスから出て行く気なんてないけど、赤羽はどうするんだ?」
「俺?俺も出て行く気なんてないよ。前のクラスで過ごすより、暗殺の方が断然面白いし」
「出て行かない理由が暗殺かよ!まぁ、俺が出て行かない理由も、本校舎の全生徒にE組所属の生徒以下ってレッテルを張り続けたいっていうのだけどな」
「南って、かなり腹黒いよね。イッキって呼んでいい?」
「むしろ、愛称で呼んでくれ。実は名字で呼ばれるのって慣れてないんだよ。ってか、お前も十分腹黒いだろ?カルマ」


俺とカルマが笑いながらそう話していると、苦笑ではあるもののクラスの皆が漸く笑ってくれた。


「で、殺センセー。俺とカルマ以外のE組の成績が振るわなかったからって、今後も俺達と向き合わないつもり?それって、教師って立場から逃げてるよな?」
「もしかして、それを大義名分にしてこの暗殺教室から逃げようとか思ってないよね?もしそうなら、殺されるのが怖いってことになる。殺センセーって、結構ビビり?」


俺とカルマの挑発に対して、殺センセーは顔に青筋を浮かべ、クラスの皆も俺とカルマの挑発に便乗する。


「なーんだ。殺センセー、ビビってたのかぁ(笑)」
「それならそうと言ってくれたら良かったのに(笑)」
「私達に殺されるのが怖かったら逃げていいよー(笑)」


クラスのほぼ全員が挑発に加わったことで殺センセーの青筋が増え、顔色が変わっていく。


「にゅやーーッ!!先生、ビビってなんていませんし、逃げたりもしません!!期末テストでは倍返しでリベンジしますよ!!」


俺達、中学生の挑発に子供の様にムキになって反応する殺センセー。その反応が面白くって、俺達は大いに笑った。俺にとって、やっぱりこのクラスは最高のクラスだ。


 
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