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トップアイドルプロジェクト

作者:たいゆう
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第1話 僕のクラスメイト

青春。
青い春と書いて青春。
なぜ青なのかわからない。
なんで赤とか黄色とかじゃいけないのか。
赤春、黄春。
なんか響き的に危険な感じがする。

まあそんなことはどうでもいい。
僕は今青春真っ只中の中学3年生。
そこそこ友達もいて、まあ自分で言うのも何だが
どこにでもいる普通の中学生だ。

だけど。

これでいいのか!?

いや普通なことが悪いことではない。
だけどなにか刺激がほしいと思ってきている自分がいた。
なんてことを考えつつ、ふとクラス中に目を見やる。
ふとあるメガネを掛けた女の子に目がいった。

前川みく。

その名前こそ彼女の名前だ。
彼女はいつも窓際の一番後ろの席で、一人本を読み耽っている。
だれかとわいわい話してるところを見たことがない。
いつもその席から動かず、ひたすら本を読んでいる。
見た目はかわいいのに、もったいない。

しかし、彼女はこんな毎日でつまらなくないのか。

何年後かに就職活動でよく聞かれる、「学生時代どんなことを頑張りましたか」なんて
聞かれた時にはどうするつもりなのか。
「毎日本を読んでました」なんて答えるつもりなのか?

それじゃだめだ。
いやそれ以前にお前は彼女のなんなんだよて感じだが。
そんな事を考えながら、ただただ時間が過ぎていった。

***********************************

放課後。
はぁ、すっきりした。
たく帰りのホームルームが長いせいで、あやうく漏らしかけるところだった。
トイレからの戻り道ふとあることに思考が及んだ。
前川みくのことだ。
彼女はクラスで明らかに浮いている。このままで彼女はいいのだろうか。
余計なお節介かもしれないが、もっと彼女には一度しかない学生生活を大切にしたほうがいいと思った。
しかし、なぜこうも彼女のことを考えてしまうのかというのは
単に彼女の見た目がドストライクという超邪まな理由だからだ。
我ながら最低の理由だと思う。

なんてぼんやり考えながらあるいてると、体になにかがぶつかる衝撃。
教室から出てきた誰かと思わずぶつかってしまったみたいだ。
僕も相手の人物も思わず尻餅をついてしまった。
「あ、ごめんなさい」
ぶつかったその人物はそう言うとぶつかった拍子でバックから飛び出たものを慌てて拾い上げた
「こちらこそ、ごめん」
僕はその子のバッグから飛びてた本を拾い上げてその子に渡した。
ふとみるとその人物は、さっきまで僕が考えを巡らせていた前川みくその人だった。
そして、その渡した本のタイトルをふと目がいく

「目指せアイドル!~次のトップアイドルは君だ!~」

「・・・アイドル?」
そう僕がつぶやくと、彼女は顔を真っ赤にして、何も言わず本を勢い良く奪ってその場を走って去ってしまった。

*************************************

その日の夜。
僕は自分の部屋のベッドの上に寝そべって、ぼーっと考えていた。
彼女、前川みくは傍から見ていて超がつくほどの文学少女だと思っていた。
たぶん僕以外の見解も同じだろう。
それが、バックから出てきたあの本。
他にバックには本らしきものは入ってなかった。
となると、休み時間あんなに一生懸命読んでいたのはあの本だろう。
彼女とアイドル。
普段の彼女からは決して交わらいであろうこの二つ。

彼女はアイドルになりたいのか?
はたまたもしかしたら本屋でたまたま面白そうだから買って読んでみた
なんてていう線もありえる。
うーんなんか、唐突な組み合わせになんともモヤモヤな気分である。

翌日の放課後。
僕はホームルームが終わるとさっさと帰り支度を済ませ、
学校の正門の前に待ちかまえていた。
「前川さん!」
昨日からのモヤモヤを解消したいその一心で、不審者覚悟で待ち構えていた。
自分が呼ばれると思ってなかったのか、猫のようにビクッと体を震わせ
こっちに目をやる。
「な、なんですか」
平静を装っているが明らかに目が泳いでいる。
「前川さんって・・・そのさ、アイドルになりたいの?」
そう彼女に問うと、彼女は昨日と同じく顔を赤くし、何も言わず走りだし
その場を走り去ってしまった。
結局このモヤモヤは解消されないままであった。

その日の夜。
僕は近くの河川敷にいた。
周りに何もなく静かで何か悩み事や考え事をする時よくこの河川敷に来てぼーっとしている。
前川みくのこと。すごく自分の好奇心や興味だけなのだが、一度触れてしまった以上
なんだか、真実を突き止めないとなんだか気持ちが収まらない。
彼女にしてみればはた迷惑かもしれないのだが。
恐らく彼女自身誰にも知られたくない真実なんだろうけど。
すると、微かであるが誰かの歌声が耳に入ってきた。
どこかで聞いたようなそんな曲。
しかしその声は心地よく、思わず引き込まれそうになりそうなそんな歌声。
僕はその声に引き寄せられるように、歩を進めていった。

そこには女の子が一人。川に向かいただただ歌い続けていた。

僕は彼女に気付かれないよう、後ろの草むらに座り込みその歌声を聴き続けた。
めちゃくちゃうまいわけでもない。けれどなぜだかわからない、人を引き込む歌声。
こればっかりは努力だけではどうしようもない、才能である。

最後まで聴き終わると、僕は思わず拍手をしていた。
その拍手に気づき彼女はこっちを振り向いた。
暗くてわかりづらいが、きっとさっきみたいに顔を赤くしているのだろう。
「もう逃げちゃダメだよ」
僕は立ち去ろうとした前川みくに向かってそう言った。
彼女は何も言わず、再び僕に背中を向け俯く。
「前川さんやっぱりアイドルになりたいんだね」
「・・・なにか悪い?」
「いや・・・その教室ではいつも物静かだから意外だなと思って・・・」
少しの沈黙の後、彼女は再び口を開く。
「どうせみくなんかにアイドルなんかなれっこないとか思ってるんでしょ」
彼女はそう言いながらこっちを睨むように振り返る。

「僕はそうは思わないよ」

僕の言葉に更に目をきつくした
「適当な事言わないで!みく友達も全然いないし、それどころか知らない人と
 話すの怖いし、どこを見てそんなことを言ってるの!!」
「でも今こうやって僕とふつうに話せてるじゃん」
するとはっと彼女は口を開いた。
「・・・さっきの歌声すごく良かった。正直違う世界に引き込まれていく感覚になった」
「うそ。みくにそんな才能なんてない・・・」
「そんなことないよ!」
僕は思わず彼女の両肩を掴み訴えかけていた。
そうそんなことない。僕が感じたあの感覚は間違いじゃない。
「前川さん!自分に自信を持って!前川さんなら必ずトップアイドルになれるよ!!」
「お世辞はいらないよ。私なんかがアイドルなんかに」
「じゃあ前川さんはなんでこうやって、こんな時間にこんな事していたの。
 アイドルになりたいと思ってるからじゃないの」
「・・・なりたいよ。なりたい!アイドルに!!でも・・・でも・・・みくは・・・」
涙をためながらそれを言う彼女は、理想と現実とのギャップに悩んでいるようにも見えた。

その瞬間、僕は決意を決めた。
「前川さん!僕に君をプロデュースさせてほしい!!」
「・・・え?」
彼女は意表をつかれ、ぽかんと間の抜けた表情を見せる。
「僕が前川さんを一流のアイドルにさせてみせるから!!」

こうして前川みくトップアイドルプロジェクト(仮)が始動した。
 
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