サーガライザーの神統記
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序幕
《アカシャ盤》。別名を、アカシャ年代記。アカシック・レコードと言った方が通りが良いだろうか。
この世界の何処か根源に近い場所に存在する、万物の記録帳。ヴォイド、『 』、エーテル空間などとも呼ばれるこの場所には、前述の通りこの世のありとあらゆる事象が記録されている。
生命の誕生から巨大戦争、絶滅、新興、獣達の本能に、人々の日常や、果ては情事の一片一片まで。微生物の挙動すらもが、そこに記録されている。
驚くべきは、記録されている物事は、過去の事だけではなく未来の事、更には世界が『生まれ変わる』前の事すらも含んでいると言うことだ。
それ即ち──この地上に、未だ神仏、英雄と呼ばれる類いの超常の存在が、その格を顕現させていた、いわば"神の時代"の事までも。このアカシャ盤は、記録していると言うことに他ならない。
初めてそのアカシャ盤にアクセスし、記録を引き出すことに人類が成功したのは、いつの事だったか──もはやそれは問題ではない。
兎も角も、アカシャ盤から引き出される超常の力は、人類に大きな繁栄をもたらした。超古代の超越文明の力を手に入れた人類は益々発展し、様々な分野でアカシャ盤は活躍した。
──しかしアカシャ盤は、同時に大きな災禍をも、人類にもたらした。
人類がアカシャ盤に到達するのとほぼ同時期に、まるで彼らを阻むが如く世界に姿を表し始めた異形達。その形と大きさは千差万別であるが、例外なく驚異的な戦闘能力を持ち、人類を優先して《削除》しにやって来る。加えて陰のように歪んだ彼らには、通常の兵器は通用しない。
得に強大な、後に《大絶滅》と呼ばれることになる《ソレ》らが、とある国を崩壊に追い込んだ事によって、世界は彼らをあまりにも遅蒔きながら危険視し始める。
調査の結果、それらはアカシャ盤自身によって産み出された存在であることが判明する。最初は、アカシャ盤の防衛機構なのか、と考えられた。
しかし。
それらが、アカシャ盤の《記録》を蝕み破壊し始めている事が判明すると、人類は異形への対処に乗り出した。
西欧に本拠地を構える巨大組織、《聖堂教会》の主導の下、アカシャ盤の敵対者──《邪悪》、あるいは《ヴァイラス》と呼ばれる事となったそれらに対しての反撃が始まる。
アカシャ盤に記録された、戦いと破壊の記録。その中でも得に、神仏や英雄らの力は圧倒的な成果をもたらした。
それを己に下ろし、新たな神話を産み出すもの達が、世界各国で育成され始める。
神々の力を引き出す彼らは、神の記録を記した歴史書、《神統記》の名をとって、《神統者》と呼ばれる事になった。彼らの力は絶大無比。アカシャ盤の奥層まで神々の記録を辿れる者達は、たった一人で巨大な上位ヴァイラスを討滅せしめる。
何時しか《神統者》と《邪悪》の争いは、終わりが見えないほど激化し始め。
後に──《神界大戦》と呼ばれる時代が、訪れたのである。
***
今でも時折夢に見る。
黄金の炎に包まれて、世界が変わったその日のことを。
+++
「うぉっ……空がたっけぇなぁ、オイ」
見上げた空は晴れていた。都会の真っただ中なので、もっとどんよりくすんでいるのかと思いきや、思ったよりも綺麗な青色だ。
大気汚染を解決する技術が《アカシャ盤》から引き出されたのはそれほど最近の話ではないので、当然と言えば当然か、と考えながら、神裂真門は歩き出した。
舗装された道路に違和感がある。今まで真門が暮らしてきた場所は、どちらかと言えばあまり整備されている、とは言い難かったから。
けれどこの先暫くは、ガタガタの道路の往復に何時間も費やして、足腰を痛める、と言った事には気を配らなくてもよさそうだ。それはその通りのことを経験してきた真門にとっては嬉しくも少し寂しい事であった。
真門はこの街に住む姉から送られてきた、一枚のメモ用紙をズボンのポケットから取り出した。そこに描かれていたのは何らかの地図……の様なのだが、一見して何を指示しているのかはさっぱり理解できない。
「相変わらず汚ぇな、姉貴の字と絵は……っと、こっちか」
それでも真門はその意味を理解できた。迷いなく方向を転換する。
目的地は、《私立神典学園》だ。
世界中に発生した《アカシャ盤》の敵対者――――《ヴァイラス》を駆逐するために戦う存在、《神統者》の育成を行う学院。極東では最大手であり、中等部・高等部に分かれ、そして卒業後は附属の研究機関で研究生活もできると、至れり尽くせり。全寮制であるため、身寄りのない子供でも、能力さえあれば誰でも通える。
ただ……能力がなければ、入学さえ認められない。その点では、真門は自信を持っていた。
真門はこの春から、高等部に編入する運びとなっていた。編入の際には通常の受験生と同じく、筆記試験と実技試験を行う必要がある。
今日がその受験日だ。だから真門は、会場である学園本棟に向かっているのだ。
この街――――《架原》は、《神典学園》の為の学園都市。至る所が《神典学園》の生徒をサポートする為の物だ。故に目印さえ見つけてしまえば、方向音痴でなければ比較的簡単に学園に到着する。
するのだが――――
「……迷ったぞ」
見事にこの少年は迷ったのである。
真門は方向音痴ではない、と自負している。事実、彼はむしろ地理勘は良い方だろう。しかしここは初めて訪れる初見の街。そもそも真門はつい数日前まで、自分が《神典学園》に編入することを知らされていなかった。それ故に、視察も何もできた物では無い。
故にここは何処だと放浪するうちに、郊外まで出てきてしまった。
そしてそこで。
「うわぁぁああ!!」
「や、やめ……」
「止めろ! 止めろぉぉぉっ!」
「ダメだ、止まらない!」
恐慌で狂い叫ぶ《神典学園》の生徒と思しき少年少女と、
「GOGAAAAAAAA!!!!」
漆黒の、影の様に揺らめく異形を発見したのである。
「うわお」
思わず間の抜けた感嘆詞がこぼれ出る。恐らく真門は、《神典学園》のカリキュラムの一つである、《対ヴァイラス実習》の場面に出くわしてしまったのだ。真門は変な時期からの編入なので、普通の授業は既に始まっているのである。
「GOAAAAAAAAA!!!!」
狂乱する《ヴァイラス》の形は、西洋の龍の様である。俗に『タイプ・ドラグーン』と呼ばれる種類のヴァイラスだ。サイズは比較的小柄なので…とは言っても三メートルは下らないのだが…恐らくはステージⅠ。きちんと形を持ったヴァイラスの中では最弱だ。
しかし、腐っても全体的に見て最強と謳われるタイプ・ドラグーン。高校生にはにが重かったのだろうか。
「くっ……この……ッ! 止まりなさい!」
金色の髪をツーサイドアップにした、西洋系の顔立ちの少女が、ドラグーン・ヴァイラスの前に立ちはだかる。その手には光で構成された二本の剣。《神統者》に与えられた特殊な力、《インストール》によって顕現した神の力の具現化だろう。
「剣か……戦神系か、それとも剣神系か……?」
真門の口から、その素体となっているはずの神格の正体を推察する言葉が漏れ出る。それは聞こえていないのだろう、少女は気合と共にヴァイラスへと斬りかかる。
しかし狂乱の最中に居る影龍に、その斬撃は通用しない。いとも簡単に防御され、代わりにきつい打撃を受けてしまう。
「きゃぁっ!」
「おいおいおい」
目の前に吹き飛んできた少女をどうにかキャッチすると、地面に下ろす。
それによって真門の姿を漸く目に収めた少女は、驚愕にその瞳を見開いて叫んだ。
「あ、あなた……民間人!? ここは危険よ、早く逃げなさい!」
「とは言われてもなぁ……というかあんたら、担当教官はどうしたよ」
こういった場所には、大抵の場合担当の教師が付いている。彼らは腕の立つ《神統者》であり、不測の事態には素早く対処できるはずだが。
しかしその言葉に、少女はバツが悪そうに目を逸らした。
「その……お、置いてきちゃったのよ……」
「はぁ……?」
その状況が信じられず。
「GOAAAAAAAA!!!!」
狂乱するヴァイラスが危険である故に。
「仕方ねぇなぁ……使いたくなかったんだけどなぁ……」
真門は背負ってきた荷物をそこに下ろすと、右手の袖をまくり上げて――――
「アクセス、アカシック・レコード:第一階層――【月天】」
真門の腕に、電子回路の様な奇妙な光が走る。それを見た少女が、驚愕からだろうか、息をのむ。
「それは……!?」
「閲覧領域――――【戦闘神】
∟スラヴクラスタ:ベラルーシ
∟【スヴャトヴィット】カテゴリ――――《インストール》!!!」
そして――――光が、集まって行く。
何処からか溢れ出した光の羅列が、徐々に、徐々に、輝く大剣を形作っていく。デジタルデータの様にも見えるそのデザインの剣が完成した時。
「【豊作の神剣】、ダウンロード・オフ……よっしゃ、はじめようぜ」
真門の手にそれは握られ、同時に彼の髪は燃え盛るような赤へと変わった。
「GOAAAAAAAA!!!」
ドラグーン・ヴァイラスの地を震わせる咆哮。それを聞こえぬとばかりにばっさり無視し、真門はヴァイラスに近づいて行く。
そして不意に、前屈姿勢を取り――――大気が、爆発した。
その場にいた者が目を見張った時には既にその場に真門はいない。一瞬にして、影龍の目の前に出現していた。
「ぜりゃぁぁぁぁッ!!」
堂々たる気合と共に振り下ろされた大剣が、バターの如くドラグーン・ヴァイラスを切り裂いた。
「GUOOOOOOON……」
断末魔の悲鳴と共に、電子配列の様な光となって霧散するヴァイラス。
「……」
《神典学園》の少年少女がその光景を、唖然としながら見つめていた。彼らがあれほど手こずったドラグーン・ヴァイラスを、見覚えのない少年が一瞬で撃退してしまったのだから、驚くのも無理はない。
しかしその当事者はと言えば。
「うわっ、やべぇ、もうこんな時間だ! 試験に間に合わねぇ!」
あたふたと叫んでいた。光の剣を霧散させ、荷物を背負って駆け出しかけて――――
「わりぃ、あんたら、学校の場所おしえてくれ!」
「はぁ!?」
《神典学園》の生徒たちに向かって、そんなことを叫んだのである。
後書き
というワケでノリとネタと名状し難き何かでスタートしました、『サーガライザーの神統記』。当然の様に更新は大陸移動速度、今一よく分からない設定の元で繰り広げられる、現代異能アクション系ファンタジー学園ラブコメという謎ジャンルの本作をお楽しみください。
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