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妹がいなくなった

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第四章

「そうだったのかよ」
「意外にも」
「そうだったんだな」
「妹さんがいてか」
「あの強さだったんだな」
「女覇王だったんだな」
「姫覇王だろ、そこは」
 どちらにしても女版項羽である、しかしその項羽がだ。
 今は少し元気がなくだ、拳法にも日常生活にも特に食事でもだった。とにかくあらゆることについてだった。
 キレがなかった、それでだった。
「力は山を抜き気は世を覆う」
「項羽の詩もな」
「四面楚歌の時のあれだな」
 司馬遷の史記の場面だ、ただこの場面が実際にあったかどうかはわからない。司馬遷の創作かも知れない。詩も合わせて。
「その師範代がな」
「今はな」
「そこまでいかないな」
「山を抜き世を覆うまではな」
「精々猛女だな」
「それ位だな」
「名前忘れたけれど孟子に出て来た虎倒す女か」
 古典の話がここでも出て来た。
「あの女位か」
「まあそんなところか」
「いつもと違ってな」
「師範代もな」
「流石に少しテンション低いな」
「飯だってな」
 それもだった。
「いつもでかい碗に五杯でな」
「おかずだって滅茶苦茶食うのにな」
「それでもな」
「今はな」
「四杯でな」
 その飯もだ。
「それにおかずだってな」
「皿一つ分少ないな」
「少しな」
「どうもそれだけな」
「元気がないんだよな」
 こう話すのだった、そして実際に。 
 虞姫は家でも飯を四杯で止めてだ、両親に言った。
「どうもな」
「おい、四杯か」
「四杯だけしか食べてないじゃない」
「食欲がないんだよ」
 少しばかり浮かない顔での言葉である。
「今一つな」
「四杯でも充分多いけれど」
 普通の人間ならだ、父がそのことを言った。
「けれどな」
「あたしにしちゃだよな」
「一杯でもな」
 それこそだ。
「大きな違いだな」
「何かな、花姫がいないとな」
 やはり原因はそこにあった、虞姫が今一つ元気がないことのそれは。
「どうもな」
「まあそれはな」
「あと少しだけよ」
 ここで母も言って来た。
「あの娘が帰って来るのは」
「事故とかないよな」
 ここでだ、こうも言った虞姫だった。
「旅行中の」
「大抵はないぞ」
「幾ら何でもね」
 両親はその虞姫に言って安心させた。
「流石にしょっちゅうそうした事故があってたまるか」
「だから安心しなさい」
「花姫がいなくてしかも心配なのはわかるが」
「絶対に帰って来るわ」
「だからそれまではな」
「いつも通りにしていたら?」
「あたしもそうしたんだよ」
 自分自身もというのだ、虞姫自身も。 
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