倭寇
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6部分:第六章
第六章
「散れ!」
「そして各船で、ですね」
「倭寇に対する」
「そうするというのですね」
「そうだ、そうするのだ」
戚継光の編み出した戦術だ。倭寇の持つ鉄砲の威力があまりにも強いのでだ。それであえて軍を散開させてだ。損害を減らしたのだ。
それを使いだ。各自戦えというのだ。
「わかったな」
「了解です!」
「では!」
「いいか、戦え!」
こう話してだ。彼等はだ。
次から次に攻めていく。今は倭寇を圧倒していた。
不意を衝くつもりがだ。思わぬ攻められ方をした倭寇達は総崩れになった。それでだ。
多くの者が捕らえられ本拠地も攻め落とされた。そうしてだ。
捕虜の中にはだ。あの者もいた。
「やはりいたな」
「うう・・・・・・」
「いるだろうと思っていた」
倭寇達の中にだ。あのポルトガルの商人達もいた。彼は倭寇達と共に縛られだ。戚継光の前に引き出されていたのである。その彼を見てだ。
戚継光はだ。さらに言うのだった。
「そなた、我が軍のことを見ていたな」
「その通り」
縛られ項垂れた顔で胡坐で座っている商人はだ。声だけはふてぶてしく答えた。
「その数や武具のことも」
「そうだな。それに館にも入っていたな」
「如何にも」
その通りだとも答える商人だった。
「そうして」
「我々の作戦の話を聞いてだな」
戚継光はその商人を見下ろしながら言っていく。
「倭寇達に話を流していたか」
「貴方達と彼等が戦えばだ」
どうなるか。商人は話すのだった。
「私の武器が売れる」
「鳥銃がだな」
「鉄砲とも言う」
どの呼び名にしてもだ。彼の売るものだった。
それをだ。売ってだというのだ。
「私が儲かる。だから貴方達のことを彼等に知らせていた」
「むしろ倭寇達に暴れてもらっていたな」
戚継光はこのことも見抜いていた。彼の実態をだ。
「そうしてだな」
「何のことだ」
「倭寇が暴れ多くのものを奪い取る」
倭寇の目的は略奪だ。商売に来ている者もいるにはいるがだ。問題になっているのはそうした密売の者達よりも海賊の倭寇なのだ。倭寇とは主に彼等のことを言うのだ。
「その奪い取ったものを自分も手に入れる為にだな」
「私は倭寇に入っていたというのか」
「そうだな」
商人に対して問うた言葉だった。
「違うか」
「そうだと言えばどうするのだ」
「そのことについては何もしない」
彼が倭寇である。そのことについてはというのだ。
「それは言っておこう」
「ふん、確かに私は倭寇だ」
商人は開き直って答えた。実にふてぶてしい態度でだ。
「彼等の中に入ってだ。そして利を得ていた」
「その通りだな」
「しかし。それも終わりか」
商人は俯いてだ。そうしてこう言った。忌々しげな顔で。
「私は」
「わかっているな。捕らえられた倭寇はだ」
「処刑か」
「それはもう決まっている。大人しくするのだな」
「・・・・・・くっ」
こうしてだ。このポルトガルの商人は日本人の倭寇達と共にだ。首を刎ねられたのである。残った倭寇達は明での本拠地を失いだ。日本に逃げ帰った。
そうしてだ。戚継光はだ。部下達のその話を聞くのだった。
「今回はです」
「中々厄介ですね」
「全くでした」
「本当に」
「そうだな。私も今度は困った」
戚継光自身もそうだというのだ。彼等は港で話している。彼等が基地としているその港においてだ。
「内通者はいなかった。では何故倭寇が我々のことを知っているのか」
「しかしあの商人がいた」
「彼が倭寇だった」
「だからですね」
「我々のことが漏れていた」
「そうだったのですか」
「そうだ。倭寇は日本人の倭寇だけではない」
彼等だけではないということはだ。もうわかっているのだった。
「我が朝の奸賊共もいるしな」
「そしてポルトガル人にもですね」
「いるというのですね」
「どの国にもよい者もいれば悪い者もいる」
戚継光はこの現実も話した。
「そういうことだ」
「ですね。提督、それでなのですが」
「今度の戦ですが」
部下達はあらためてだ。彼に話すのだった。
「また別の倭寇が来ております」
「そちらにも」
「わかっている。また戦う」
戚継光は前を見据えながら彼等に答える。
「我等の戦は倭寇が消えるまで続くからな」
「はい、それではまた」
「明の為に戦いましょう」
部下達も応えてだ。そうしてであった。
彼等はまた戦いに向かうのだった。明の名将戚継光は倭寇討伐でその名を残している。その彼の戦の中にはだ。こうした厄介なものもあったのである。だが彼はそれに勝ちだ。倭寇から国と民を守っていた。そのことをここに書き残しておくことにする。
倭寇 完
2011・4・22
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