吊り天井
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第一章
吊り天井
本多上野介正純についてだ、周囲は嫌悪を感じていた。
「油断ならぬ」
「謀の達人よ」
「一体どれだけの者を陥れたか」
「しかも権勢への欲が強い」
「あまりにもな」
こう言うのだった、正純に対して。
正純は将軍徳川秀忠の傍に老中としていてだ、十五万五千石の大身であった。それで江戸城の中でも常に胸を張っていた。
その彼を見てだ、秀忠の周りの者達が言っていたのだ。
「権現様のお傍にいた時からな」
「頭が異様に切れてな」
「自身の敵を次々と陥れていった」
「己の為には手段を選ばん」
「そうした男よ」
「何をするかわかったものではない」
「今も幕府第一の者となっている」
将軍である秀忠のそのすぐ傍にいて、というのだ。
「何時まで幕府に居座る」
「そして威張るつもりじゃ」
「我等も邪魔になれば陥れるか」
「これまでの者の様に」
彼等は正純の権勢を妬みその謀に危険を感じていた、何時かは自分達もとだ、それは彼の主である秀忠もだった。
彼は正純のいない時にだ、周りの者とよく話をした。
「上野介をどう思う」
「はい、力を持ち過ぎて、です」
「危ういと思います」
「今でも幕府第一の者ですが」
「このままでは権勢がより大きくなりです」
「幕府を牛耳りです」
「そして遂にか」
周りの者達も言うのだった、その秀忠に。
「上様にとってもです」
「危うい者となります」
「これ以上力を持てば」
「何をするかわかりませぬ」
「余は福島に厳しくするつもりはなかった」
福島正則のことだ、かつて豊臣家の重臣であり広島藩藩主であった。
「あそこまではな」
「ですな、しかしです」
「上野介殿が強く言われてです」
「あの様になりました」
「それも潰し方がです」
そのことについても言われた。
「実に汚いです」
「城の改修を許可を得ていなかったと言い掛かりをつけてです」
「先に福島殿の申し出を必要ないと言っておいてです」
「武士にあるまじきです」
「汚い謀を用いてです」
「潰しています」
「もう戦の世は終わった」
ここでだ、秀忠はこうしたことも言った。
「だからこれからはな」
「はい、謀ではなく」
「義によって為すものです」
「ですから上野介殿の様な謀を好まれる御仁はです」
「最早」
「不要じゃな、しかしな」
秀忠は眉を曇らせてだ、側近達にこうしたことも言った。
「訳もなく上野介を退けることはな」
「出来ませぬな」
「それは」
「何もなくそれは出来ぬ」
例え将軍でもだ、むしろここで何もなく正純を退けてはだった。
「幕府が手段を選ばぬとな」
「そう思われますな」
「暴君だと」
「そうじゃ」
暴君と思われてはならない、それが為であった。
正純を退けるにも理由があった、それで秀忠も言うのだ。
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