少年と女神の物語
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第百十一話
一日かけてあの九人目の対策について考えたものの、結局いい案は浮かばなかった。というか、まだ相手の権能について正体までつかめてるの一つしかないし。
そういうわけで割と時間はないので、梅先輩との待ち合わせ場所についた俺はスマホのメモ欄に今ある情報をまとめていく。
「まずは、分かってるのからやるか・・・」
というわけで、一つ目の権能についてまとめていく。
おそらく・・・というか、まず間違いなくあの剣は北欧神話に登場する魔剣、ティルヴィングだろう。見た目も完全に一致したし、そもそも『願い』とか『望み』とかが強く関わる魔剣の類なんて、他にはそうそうないだろう。
そうなれば、あの権能が一体何から簒奪したのかも絞ることが出来る。この魔剣の歴代持ち主の中のいずれか、もしくはこの魔剣を作ったドグウェルであるドヴァリンとドゥリン。こんなところだ。さらに、前回の戦闘の結果からもう少し絞り込むことが可能になる。俺の即席工場を・・・鍛冶の権能を操った以上、鍛冶師であるドグウェル二人ではなく、さらにそういう類の伝承を持つのは・・・
「ま、こいつだよなぁ」
どれだけ考えても一柱しか思い浮かばなかったので、その名前を打ち込む。なんにしても、これで一柱は特定できた。まだ破壊者の効果が続いている以上こっちから破壊することはできないけど、明日以降になれば効果時間は切れ、また使えるようになる。その時に使えばいいだろう。火の知恵者の仕掛けは・・・さすがに、あの権能には使いたくねえなぁ・・・
さて、次はどうするか・・・
「・・・水のやつで行くか」
と言っても、これについては・・・どころか、残りの権能についてはまだ何一つ特定できていない。簡単な内容くらいだ。この水のやつについても、俺の『万水千海』のように水を操れるらしい、ということしかわかっていないのだ。
「あ、いや。そうじゃないか」
と、そこでつい昨日。立夏と氷柱がそれぞれいくつかの霊視を得たことを思い出した。なんでなのかはわからないが、どの権能についてなのか分かるという具体的なものだったから、助かるには助かるんだが・・・後々が怖いな。何が来るのやら、って感じで。使える情報だから使うんだけど。
「あーっと、確か・・・豊穣神としての顔も持つ水神、だっけ?」
伝えてくれた本人、立夏もなんだか曖昧な言い方をしていたので、俺自身もまた曖昧な感じになってしまう。『水神というか、精霊というか、幽霊というか・・・う~ん・・・なんだかよくわかんない!』とか言われてみろ、どうしたらいいのかわからなくなること間違いなしだぞ。せめてそこは特定してくれ、って感じで。しかも満面の笑顔だった。駄目だコイツ、と思った俺は悪くない。とはいえ、それしか情報がないため打ち込む。
で、それを眺めて考えた結果・・・
「わかるかこんなもん」
投げ出した。もうこれどうしようもない。なんもわからん。万水千海使っても意味ないぞ、向こうが使ってきたらこっちも使えー。これくらいでいいだろう、うん。
で、次に吸血系統と思われる権能について。こっちについても、氷柱が霊視した情報がある。とはいえ、たった一言『怪物』と言われただけなんだけど。
「まあでも、それだけでもかなり助かるんだよなぁ・・・」
少なくとも、実在した人物という線は消えた。女神というよりは怪物系統。そういう感じの側面を持つ女神っぽいやつ。うんうん、世界中の神話を探せばそこそこに居るんじゃないかな?多くはなくても、複数はいそう。調べてみないとわかんないけど。
「・・・ま、まあ。それでも、ある程度は絞り込めたし。何より、実在系よりは神話系のほうが俺も知ってるし」
それが一体どれほど効果があるのかは怪しいが、そうでも思わないとやってられない。そういうことで自分を納得させ、次に進む。
最後に残ったのは・・・あ、あれか。カオス状態のやつ。
神速やら鎧やら腐敗やら治癒不可能な攻撃やら・・・なんか多すぎる権能。元の神不明。権能についてもまだまだ出てきそう。つまり何が飛び出してくるのかわからないブラックボックス。要注意、と。
「ま、こんなもんかね」
「なにがですか?」
切り上げてメモ機能を閉じようとすると、目の前からそう声をかけられた。顔をあげてみると、そこにいるのは予想通り梅先輩で。
「おはようございます、武双君。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「おはようございます、梅先輩。そんなに待ってないので、気にしないでください」
ある種テンプレともいえる挨拶を交わしてから、俺は携帯を梅先輩に渡す。スクロールしながらそれを見た先輩は納得した様子で、一つ頷いた。
「現時点で分かったことをまとめたんですね」
「そういうことです。つい一昨日の戦いだとか妹たちの霊視だとかを含めてまとめてみれば何かわかるかなー、と」
「それで、何かわかりましたか?」
「それが、全然でして」
「まあそうですよね」
お手上げ、というジェスチャーをするも特に反応がなかった。少し寂しくなったけど、話は続く。
「そもそも、最初の一つ以外はテキトーですし・・・最後の一つに至っては、これで一つの権能というよりは複数の可能性の方が高いですし」
「あ、その権能については護堂パターン・・・それ全部で一つですよ」
まだ増えるかもですけど、というと先輩は固まった。
「・・・これで、一つの権能?」
「はい、そうです」
「その情報はどこから?」
「ナーシャが霊視しましたので」
より正確に言うと、あれに初めて会った日のいくつかの情報でほぼ確定していたのに、昨日のナーシャの霊視でダメ押しが入った、って感じなんだけど。
「まあ何にしても、一つの神についてかなりの情報を霊視した感じがするそうなんですよ。そうである以上、それで一柱と考えるしかありません」
「この統一性の欠片もないものが・・・あ、いえ。それは問題ないんですね」
「と、いいますと?」
かなり悩んでいたはずの梅先輩が急に納得したので、不思議に思った俺はその理由を尋ねた。あそこまであっさりと納得されると、さすがに気になる。
「ああ、いえ。大した理由はないですよ。ただ、ウルスラグナ然りヴィシュヌ然り、化身に統一性とかありませんし」
「あぁ・・・確かに」
言われてみればその通りだ。なぜ今まで気づかなかったのか。そして化身に統一性がない以上、その簒奪した権能の内容に統一性がないのも頷ける。
だから、『神速』『外骨格の鎧』『酸化』『治癒不能の一撃』なんかが来ても、しかも月齢によって変わったとしても、何もおかしくない。アハハー、何それ笑えない。
「・・・あ、あともう一つ。こっちの水神とかかわりがる、とか言ってたっけ」
「それなら、そちらが分かれば何とかなりそうですね」
ほんの少し、小さすぎる希望が見えてきた。うん、小さすぎ。
「・・・よし、これ以上考えても無駄だということが分かったので、行きましょう梅先輩」
「そのあっさりとした切り替えはさすが神殺しといったところですかね・・・」
神殺しと一般人の思考回路の違いがあるということは、いい加減馴れてきた。つっても、考えても無駄なことは考えない、ってのは普通のことだと思うんだけど・・・
◇◆◇◆◇
とりあえず大きめのデパートですべてそろえてしまおう、という意図から少し遠くなるが電車で移動してきた。で、まずは文房具の類から。
「何がいるんでしたっけ?」
「会議の際に使用するホワイトボード用のマジックと、文化祭の貸し出しで無くなった色太ペンにあの無駄に大きな絵の具など、例年通りのものが足りなくなっていますね」
「じゃあ、まずはそれから」
カゴを一つとってそれらがあるところに向かい、梅先輩が入れやすいように持つと・・・すごい勢いでドサドサと入れてきた。一瞬ひるむ。え、こんなに?
「驚いたかもしれませんが、ウチの学校は全てのクラスに貸し出しを行っていますので・・・かなり、なくなります」
「いや、それはわかってますけど・・・会計ですし」
学校側にこれだけなくなったぞー、という報告書を出したのも作ったのも俺だ。だから分かってるんだけど、ここまでなくなってはなかったような・・・
「そして、他の事にも使いますから」
「納得しました」
うん、完全に忘れてた。別にイベントごとは文化祭だけじゃないんだよな。そうやって使っていけば、どんどんなくなっていくはずだ。だから、棚にあるのがほとんどなくなっていたとしても・・・やっぱりおかしくないか?どれだけ盛り上がってるんだよ、うちの学校。生徒会が慣れてないと疲労死しかねないくらいでしたね、知ってましたよコンチクショウ!
「必要なのは・・・これくらい、ですね」
「一つ目から予想外なレベルで驚いているのですが」
「去年などに比べれば金属類を買わなくていいので、少ない方ですよ?」
「・・・それ、どうやって買い物してたんですか?」
荷物の量が、どう考えても女性にはつらいはずなんだけど。
「これまでは、委員会の方から手伝いとして甘粕さんが」
「・・・上司に押し付けられたんだろうなぁ・・・」
しかも、『神代家』について間近から報告するのに必要なこと、となるのだ。文句を言いつつも動かないわけにはいかなかったのだろう。あんな上司を持ってしまったことには同情する。合掌。
「そういうわけで例年は甘粕さんをこき使っていたのですが、普段とは違ってあとは食料品売り場だけです。武双君にそこまでの苦労はさせません」
「・・・そっか。普段は、金属類も必要だったんだ」
それを俺が・・・例えば椅子が壊れたなら金属部分だけ作ってあとは取り付けた感じで直したから、今年は少なめであると。あの人の仕事本当にブラックすぎねえか?
「食料品売り場には何を買いに?」
「ティーバッグやお茶葉、インスタントコーヒーなどがそろそろなくなるのでついでに補充して、お茶菓子も補充して、お客様用のお茶菓子もそろえておこうかな、と」
「そういえば、そろそろなくなりますね」
女子率の高い生徒会なので、お菓子の減りは早い。やることはちゃんとやりながらもどんどんお菓子が減っていく様には最初驚かされたし、全部終わってからの雑談タイムでの消費量もまたすごい。俺も多少は食うけど、そんなのくらべものにもならないくらい食べていくので、生徒会室の冷蔵庫の中や棚の一部には常にお菓子がある。俺が参加できない話題なんかも出てきたりするためお菓子に手を伸ばしづらく、俺はさらにお茶を飲む量が多くなっていく。ハーブティ、おいしかったです。あと、たまにある誰かの手作りのお菓子も。
・・・話がずれたな。まあ何にしても、そう言う事情から生徒会室には飲み物の類もお茶菓子の類も必要である、というのが定説とされてしまったので、買いに行く必要があるのだ。男女比というのは、権能をもってしても乗り越えることのできない壁である。
「それで、今回は何を買うんですか?」
「この間買ったクッキーが中々に評判が良かったのでそれと、あとはいつも通りに飲み物を」
また重くなりそうだなぁ、とか考えながら歩き、エレベーターやエスカレーターを使わず階段で下の階に降りる。少し面倒ではあるけど、蚊帳吊り狸で荷物をしまうには誰かに見られる場所ではいけないのだ。
「・・・本当に、日常的に権能を使うのですね」
「便利なものは可能な限り活用するべきでしょう」
「知っていますか?それだけでも、いまだ顕現していない神に刺激を与えることがあるのですよ?」
「それを言い出したところでどうにもなりませんよ」
ヴォバンとか、死せる従僕常に使ってるしなぁ・・・アレクも移動手段として使って居かねないし。まったく、神殺しってのはどいつもこいつも・・・
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