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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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後日談1 ゆりかご事件の裏で………

 
前書き
こんにちは、bluecoeanです。

今回から後日談を不定期ながら投稿していこうと思います。………と言いつつ、話の内容はゆりかご事件のあった頃の海鳴市の話なのですが………

因みに主人公はアリサです。 

 
「やあ零治君」
「スカさ……ジェイルさん!!ウーノさん、先輩!!」
「元気そうね2人とも」

俺の診断結果が出た翌日の昼過ぎ。
昼食を食べた影響か眠気が襲ってくる中、スカさんとウーノさん、そして水無月先輩の3人がお見舞いに来てくれた。当然それだけではなく………

「零治!!」
「アギト!!」

元気よくアギトがジェイルさんの後ろから飛び込んで来た。

「お帰り………」
「!!ああ、ただいま………」

俺が言おうとした事を先に言われ驚いたが間違えでも無いのでただいまと返した。

「検査結果はどうだい?」
「リハビリに時間が掛かりそうですが、後遺症も無く復帰出来そうです」
「そうか、それは良かった………」

と安心したのかジェイルさんは深く息を吐いた。やはり心配してくれたのだろう。

「ジェイル………」
「ああ、そうだね」

そんなジェイルさんにウーノさんが小さく耳打ちした。
その様子に明るかった水無月先輩の顔も険しくなる。

………何か少し様子がおかしい。

「零治君、そして桐谷君」
「ふぁい!?」

俺達の様子を見ていた桐谷が素っ頓狂な声を上げた。………無理もない、俺も内心驚いたからだ。俺だけの話だと思っていたが、今から話される話は桐谷も無関係では無いらしい。

「これから話すことなんだけど他言無用で頼む。まだ私達も八神はやてと神崎大悟、加奈君にしか話していないんだ」

しかしジェイルさんはそんな桐谷の反応も気にせず真面目な顔で話を進める。

「………何の話ですか?」

そんな雰囲気に俺達も真面目に聞く態度に変えた。

「話す前に2人の人物を紹介しなくてはならない。ウーノ」
「はい」

そう言ってジェイルさんはウーノさんに指示を出し部屋から出て行った。

そして………

「えっ!?」
「なっ……!?」

入ってきた2人に俺達は思わず声を出して驚いてしまった。

「2人共久し振り………」

そこにはぎこちなく申し訳なさそうに呟いたショートヘアの金髪の女性、アリサ・バニングスと長い髪を後ろで纏めた背の高い男。

しかしその顔は………

「零治………?」

桐谷の言う通り俺そっくりだった。

「初めましてだなオリジナル。俺はコウ。お前を元に造られた戦闘機人だ」












後日談 ゆりかご事件の裏で………










「………どうなってるのよもう!!」

そう叫びながら手に持ったスマホを勢いよく机に叩き付け、深々とため息を吐く。

「アリサちゃん、スマホ壊れるよ………」
「そうなったらあの馬鹿に弁償させるわ!!」

アリサが不機嫌な理由、それは電話を掛けた相手が音信不通状態だったからだ。
連絡が取れないのは夏休み終盤からであったが、そのまま学校が始まっても有栖家の面々の姿は見れなかった。
シャイデに一度、会って話しを聞いてみたが、『大丈夫、心配いらないわ』とはぐらかされてしまった。それから9月に入り、学校を休ませてもらっているらしい。

「でもどうしたんだろうね、夏季にあった特別講習にも来なかったし………」
「はやて達なら何か知ってるかもって連絡を入れてみたんだけど忙しくてゆっくり話せないみたいなのよね………」

そう話している内に2人の中の不安が徐々に大きくなっていく。

(もしかしてまた大きな事件が………?それで零治達有栖家も関係してる?)

そう考えるともうこれ以上首をつっこまないほうが良いとアリサは思う。だがそれでも納得できない部分はあった。

「やっぱり嫌だね。分かってた事だけど、私達じゃなのはちゃん達も零治君達も助ける事が出来ない。むしろ邪魔になっちゃう」

アリサの表情を思っていた事を察したのかすずかが暗い顔でそう呟いた。

「そうね………」

分かっている。だからこそ私達の出来る事でなのは達の手伝いをする。と決めていたが結局本当に大変な時には何も出来ない。

「取り敢えず今日は帰ろう。アリサちゃんももうバイトの時間でしょ?」
「えっ!?いけない!!」

時計を見ると16時半を回っていた。すずかとこのカフェで2時間過ごしたことになる。

「ごめん、今日は早めに来てほしいって言われてたの!もう行くね!!」
「う、うん分かった。気を付けてね!」

すずかの返事を聞いて、アリサはカフェを出た………



















「お疲れ様でしたー!!」

アリサのバイト場所は海鳴市の駅前にあるイタリアンレストランだ。バイト自体アリサの家から見えれば必要無いのだが、社会勉強と料理も学びたいと思い、募集していたおしゃれなレストランでアルバイトを始めたのだ。

………もっとも接客を担当しているため、一向に料理の腕は上達していないのだが。

「はぁ、疲れた………」

この日は珍しくまとまった団体客が店に訪れ、店を閉める22時まで休む間もなく忙しかった。
予約客も大勢いたため、早く来てほしいと言われていたのだが、これ程忙しくなるとは思ってもみなかった。

「明日も朝から講義なのに………帰ったらお風呂に入って直ぐに寝ましょ」

そう思いながら早足で歩き、スマホを確認する。
………新しいメッセージ、電話等何も通知は無かった。

「本当にどうしたのよ………」

ここまで来ると気にしない様に思っても気になって仕方がない。恐らくすずかも同様だろう。
事件が起こったなら起こったで教えてくれる位良いだろうと、疲れからか身勝手な考えが次々と浮かんでくる。

「………もう!!」

怒り任せに地面に落ちていた小石を蹴り飛ばすと、小石が何かとぶつかって跳ね返ったのが分かった。

「行けない、何かにぶつけちゃった?」

車に傷でも付けて、持ち主でもいたら………と最悪な状況を思い浮かべたが、特に視線の先にはそう言った物は無かった。

「良かった………ん?」

今歩いている場所は丁度、電灯の光が当たっていない場所で、良く見えない場所であったのも原因だろう。
よくよく見ると、小石が跳ね返った場所に人がうつ伏せで倒れていた。

「よ、酔っ払い………?」

からまれると厄介だな………と思いながら様子を伺う。
しかし倒れていた人は微動だにしない。

「だ、大丈夫ですか!?」

流石に不味いと思い、アリサは慌てて仰向けにして声を掛けてみた。

「えっ………」

そしてその人物にアリサは言葉を失う。
長い長髪で服はライダースーツの様な全身に張り付くようなスーツでその上に白いロングコートを羽織っているだけの姿でいかにも怪しい恰好だが、そのスーツには所々に血痕が付いており、頭からも少し血が流れていた。

そしてなにより………

「零……治………?」

その顔は音信不通の零治にそっくりだった………



















「鮫島どう?」
「頭に傷を負っていますが大事には至らないと思いますが、ちゃんと検査した方が言うでしょうな。明日私が病院へお連れ致します」
「ごめんなさい、鮫島も忙しいのに………私も行きたいんだけど………」
「お嬢様も今の時間までアルバイトでお疲れでしょうし、明日は講義で大変でしょう。明日は私にお任せ下さい」
「ありがとう、何かあったら連絡して」
「かしこまりました………」

不意に出会った零治に似た少年。
似たとは言えかなり似ていて本人だと言われれば信じてしまうほど似ている。

「………やっぱり繋がらない」

風呂から上がった後、念の為連絡を入れてみたがやはり繋がらなかった。

「……まあいいわ、明日本人に確認しましょう。ふぁ………」

小さく欠伸を零し、アリサは布団に潜り眠りについた………










「じゃあお願いね」
「はい。いってらっしゃいませお嬢様」

執事の鮫島にそう言い残し、アリサは家を出た。出る前に様子を確認したがまだぐっすり眠っていた。

(本当に零治………?髪がかなり長くなっていたけど………それに何か雰囲気が違う………)

「アリサちゃん!!」

考え事をしながら歩いていたアリサにすずかが声を掛けた。

「すずか、おはよう………」
「どうしたの?朝から難しい顔してるけど………」
「そうね、どうせ話すつもりだったし………」

と、そこまで話して腕時計を見る。1限目の講義まであまり時間は無く、ゆっくり話している余裕は無かった。

「すずか、今日って空きの時間ある?」
「今日?えっと………2時限目なら空いてるけど」
「そう………なら2時限目にいつものカフェの場所に来てくれない?話したい事があるの」
「え、ええ良いけど………」

アリサは2時限目にも講義があったが集中できないだろうと思っていたのですずかに時間を合わせた。

「それじゃあ後で」

そう言い、大学に着いた所で互いに別れた………















「お待たせ」

いつものカフェは2人が昼食を摂る時や、談笑する際に利用するカフェだ。大学内に3つあるうちのコーヒーが一番美味しいお店であり、コーヒー好きにはたまらない場所であった。

「先に飲み物も買っておいたわ。アイスカフェオレで良いわよね?」
「うん、ありがとう」

飲み物を受け取ったすずかは軽く口を付け、一息吐いた後、アリサに注目した。

「それで話ってなに?その様子からすると結構深刻な話みたいだけど………」

店に入ってアリサを確認した際、すずかは気が付いていた。何時もとは様子も違う深刻な顔をしたアリサを殆ど見た事が無かったからだ。

「昨日のバイトの帰りにね、見つけたの」
「見つけた?」
「うん。………零治を」
「零治君を!?」

思わず身を乗り出して叫んでしまったすずか。幸運にも授業に出払っていた為、カフェの中は無人だった。

「正しく言えば多分零治に似た誰か………でも凄い似てるのよ。ただ違うのは髪が長いだけ」
「髪が長い………?」
「うん。肩まで伸びていたわ」

そうアリサに説明されすずかは信じられない顔で俯いた。

「別人………じゃないの?」
「私もそう思う。………けどあまりにも似すぎてるのよ………それに魔導師がいる世界だし、私達の知らない常識ってありそうじゃない?だからもしかして何かに巻き込まれてああなったんじゃないかって思ったの」
「なるほど………」

アリサの考えに納得して黙り込む。
何かに巻き込まれた………そう考えると確かに朝の様子も納得出来た。

「その………零治君に似たその人はどうしてるの………?」
「取り敢えず私の家に運んで、鮫島に病院へ連れて行ってもらってるわ。そろそろ家を出た頃だと思うけれど………」

そう話している時、アリサのスマホが鳴った。

「もしもし?」
『お嬢様!!』
「鮫島?如何したの?」
『昨日の彼がいなくなってしまいました!!』
「ええっ!?いなくなった!?」

大きな声を上げながら思わず立ち上がるアリサ。

『申し訳ございません。準備の際、目を離した隙に………』
「分かったわ、私も探してみる。鮫島も周辺を探してみて」
『か、かしこまりました!!』

そう言って通話が切れる。

「アリサちゃんどうしたの!?」
「零治が居なくなったみたいなの!!取り敢えず見つかるか分からないけど探してみるわ!!」
「待って!!」

そう言い残し、出て行こうとしたアリサをすずかが止めた。

「私も探すよ!!私も放っておけない!!」
「………ありがとうすずか!!」

頼りになる親友にお礼を言い、2人はカフェから駆け出した………










さて捜索を開始して1時間が経とうとしていた。

「はぁ、はぁ。………一体どこに行ったのよ………」

鮫島から補足として有力な情報を伝えられ、それを元に街の人に聞いてみているが、未だに目撃証言も得られないでいた。

「零治………」

零治は昨日鮫島が着せた服を着替えた様子もなく、そのままの姿で出て行ったらしい。その証拠に服を探すために部屋を荒らされた様な事はなかったし、鮫島が零治から離れたのはほんの数分。着替えていたらとても抜け出せなかっただ。

何を考えているのか、何があったのか………
色々知りたい気持ちを抑え、アリサは再び歩む足のスピードを速める。

(そう言えば………!!)

目撃証言が得られるかもと街を中心に捜索していたが、不意に海鳴市の丘の上に目が行った。

「あそこはまだ行ってないわね………」

歩くと30分以上はかかるのだが、既に姿を消してから1時間以上経過している。
怪我人の足でも到達するのに問題は無いだろう。

「行ってみよう………」

アリサは目的地に向かって駆け出した………
















「はぁ、はぁ………居た………!!」

結果的に、アリサの推測は正解だった。
大きな木を背にその場で座り込んで風で揺らぐ木の葉を見ている。

「ちょっと!!」
「?」

いきなり大きな声で声を掛けられても気だるそうにアリサを見た。

「アリ……サ?」
「私を………!?やっぱりあなたは………」
「いいや、俺は零治じゃないよ………」

そう言ってゆっくりと立ち上がるが、ふらりと体勢を崩しそうになったところをアリサが支えた。

「悪いな、まだ頭がくらくらするんだ………だけど段々と思い出してきた」
「思い出してきた?」
「俺は造られた人間だって事をだ………」










そしてベンチに移動し、零治?は語りだした。








「俺は有栖零治を基に造られた戦闘機人。………まあクローンの身体に機械を埋め込んだ人造人間だ」
「えっ?戦闘機人?人造人間?」
「俺にあった記憶では君はミッドチルダの魔導師とも親しい仲だと認識していたがそう言った話は聞いていないのか?」
「そ、そんな事全然!!………って俺にあった記憶?」
「そう、俺は有栖零治の遺伝子から造られた影響で彼の記憶の一部を持っている。君の事がアリサ・バニングスだと分かったのもそれが原因だ。………もっとも記憶自体はちぐはぐで鮮明に分かるものは少ないのだがな。今この場所に来たのも、この場所がとても大切な場所だと感じたからだ」
「大切な場所………」

そんな大事な場所を零治が話すわけも無いし、当然アリサも知らなかった。

「ま、まああなたが何者かは分かったわ!!正直まだ信じられないけれど………まあそれは一旦置いておいて、でもどうしてあなたはあんな道端で血を流して倒れていたのよ………」
「それまで一緒にいた仲間と仲違いしてな。命かながら転移装置でランダムに跳び、その後力尽きたんだ。………もっとも相手は俺と仲違いしたとは思っていないだろうがな………」
「何か複雑な事情がありそうね………」
「まあ俺達の存在自体が複雑だからな。………さてと」

そう言って零治?は立ち上がった。

「えっ?何処に行くの?」
「さあな。取り敢えず行ける所に行く。当ても無いしやりたい事も無いしな。俺のオリジナルが住んでいる街に長居してはオリジナルにも迷惑がかかるだろう。だったらさっさと偽物は消えた方が良い」
「そんな………」

悲しそうな顔でも無く、諦めた様子も無く、ただ当たり前の様に言う零治?が信じられなかった。

「偽物とか関係無く、あなたはあなたで生きているじゃない!!」
「生きているか………俺は生まれた意味も知らないまま不要と捨てられた。仲間も同じだ。仲間は造った当人に復讐を考えているが、俺にはそんな考えは無い。物騒な事を続けて行く仲間に付いていけず別れたが、別れた後の方が俺は何のためにここに居るのか余計に分からないなった。………いいや、考える様になって答えが出ないのかもしれないな………」

と少し困った顔で答える零治?
そんな様子を見ていて、アリサはわなわなと身体を震わせていたが、我慢の限界だった。

「………だったら答えが出るまで一緒に居なさい!!」

爆発した怒りはそのまま零治?に向かって撒き散らされる。

「何?」

しかしそんなアリサにも物怖じせず、淡々と返した。

「答えが出るまで一緒に居なさいって言ったのよ!!あなたはオリジナルの零治に迷惑がかかると言ったわね。だけどそんな事絶対に無いわ!!だって零治は貴方みたいに諦めて投げやりになるような事なんて無い!!特に家族の事になれば零治は絶対に何があっても諦めない!!」
「家族………?」
「あなたもここで探せばいいわ。貴方の存在意義も生きる意味も!!だからただフラフラとただただ流されるだけになるのは止めなさい!!良いわね!?」
「あ、ああ………」

流石にアリサの勢いに巻き込まれ流れのまま答えを返してしまった零治?

「よし、なら決定!!じゃあ先ずは………」

だがアリサはその返事に満足し、連絡を取り始めた。

(流されるだけになるなと言ったが、これは違うのか………?)

と疑問に思った零治?だが、他にこの状況を拒否する理由も特に無かった。

(まあいい、このまま適当に動くよりマシだろう。アリサの話だとオリジナルとも俺はかなり違う人物みたいだし問題無い。………だが、違うからこそ俺は………)

そこまで考えて考えるのを止めた。

「よし、それじゃあ先ずは鮫島と私の友達のすずかの所に行きましょう」
「すずかは記憶にある。スタイルの良い、綺麗な大和撫子と呼ばれるような女性のようだな」
「あいつ、妙にすずかの評価が高いわね………因みに私はどう言う風に認識してたの?」
「面白い怪力少女…うごっ!?」

そう言った瞬間頭をひっぱたかれ、思わず変な声を上げてしまった。

「何をする、痛いぞ」
「うるさい!!零治、覚えていないさ………そう言えば………」

怒りの表情に変わったかと思えばケロッといつも通りに顔に変わるアリサ。

(表情豊かだな………)

と内心思いながらアリサの話を聞く。

「貴方の名前は何て言うの?」
「名前………」
「零治と同じ、レイジ?」
「いや、俺は………」

そう呟き、考える。仲間と居る時は互いに管理されていたナンバーで呼び合っていた。

「………そうだな、だったらコウスケとしよう」
「コウスケ?」
「有栖零治の別名らしい。………だが詳しい事は分からない」
「知らないわね………まあいいわ。だったら略してコウと呼ぶわね」
「構わない。むしろそれの方が短くて良いか」
「本当?じゃあ………」

そう呟きながらコウの目の前に立つアリサ。

「これからよろしく、コウ」
「………ああ、よろしくアリサ」

差し出された手をコウはしっかりと握りしめた………























そしてコウが来てから一週間が過ぎた。











「おはよう………」
「おはようございますお嬢様」
「おはようアリサ」

朝起きて、リビングに着くと、そこにはいつも通り作業する鮫島とそれに付き従いながら仕事をこなす執事服を着たコウがいた。

「コーヒーでいいか?」
「コウ、お嬢様にその口調は………」
「鮫島、良いの。流石にコウに丁寧に話されるとこっちが気持ち悪いわ。無理な事を言って申し訳ないんだけど、そう言う風に対応してちょうだい」
「お嬢様がそう言うのなら………」

と渋々納得してくれた鮫島。
あの後、アリサはコウを家の新たな執事として雇うと言う事で家に居れる様にした。両親にも説得済みである。
但し、指導する鮫島にはある程度事情を話し、対応してもらってるが、意外と執事の仕事が合っているらしく、評価は高い。

「そうだ、今日講義が午前中だけだから午後から街を回ってみない?」
「良いのか?」
「ええ。そっちの方がコウの為になるでしょう?」
「ああ、ありがとう」

ここで生活する事を決めたコウ。基本的に生活する上で必要な知識は零治の記憶のおかげで既に持っており、生活する上では問題ないのだが、海鳴市の土地の記憶に関してはかなりおぼろげであり、アリサが時間がある時に2人で色々回っているのだ。

「それじゃあ終わったらまた連絡するわ」
「ああ、分かった」



















「さて、時間は…………早く着いたな」

待ち合わせの大学の近くの公園のベンチに座り時計を見る。まだ14時半であり、約束の時間は15時であった。これでも時間を大いに使いやってきたのだがそれでも余ってしまったのだ。

「これならもっと掃除とか手伝えばよかったか………?」

一応指示された場所は全てやり終え、鮫島にも許可を得てやって来たが、まだまだ仕事をいくらでもある。

「ふぅ………オリジナルなら何をしているんだろうな………」

一週間、アリサの家に住まわせてもらってコウは分かった事がある。





それはアリサが自分を見て、本当は何を見ているかだ。





(有栖零治。………記憶の中の零治はアリサの事を面白い怪力少女、そして優しく気高い素晴らしい女性だと認識していた。だがその感情からは好意の様なものは無い。アリサはそれを分かっている様だが………)

そう考えながら前を見る。砂場で子供が砂で白を作っていて、それをその親が優しく見守っている。

「好意か………」




『02、世界はあなたと私、2人だけでいいわ。私達を捨てたあの男と、あの男が滅ぼした後の世界であの男を殺し、私達だけのユートピアを作りましょう!!』





「!!?」

ふと気が付けば秋の陽気に照らされ、眠っていた様だ。

「嫌な事を思い出してしまったな………」

それはこの世界に来る前の仲間の言葉。最初こそ共に居られて頼もしく、自分にとっても欠かせないっ人であったが、その性格、そしてその思考に、自分の記憶からくる理性が耐えられなくなった。

「だからこそ俺は逃げ出した………01、彼女は今どうしているだろうか………?」

離れて良かったと心から思えるが、狂っているとはいえ、彼女はかけがえのない仲間の様な存在。
せめて連絡位取れる様にしておけば良かったと思ったが………

「大丈夫よ02。私に不可能は無いの」
「!?」

後ろから声を掛けられて、飛び上がるようにベンチから立ち上がった。

「0……1………?」
「久しぶり02。駄目じゃない、勝手に未完成の転移装置を使って………お蔭で探すのに苦労したでしょ?」

紫の髪を無造作に伸ばした少女は狂気じみた笑みでそう優しく声を掛ける。

「何で………ここが?」
「私の造った物なんだから分かるに決まってるじゃない。それよりも………」
「がっ………!?」

そう言葉を切ってコウの首を掴む少女。

「どうしてあんな真似をしたの?私がどんなに心配したか分かってるの?」
「あ……ぐ………!!」

掴まれた手を解こうと相手の腕を掴むが、その手の力にびくともしない。

「何が不満なの?02が望めばどんな事もしてあげるのに………」

そう言って更に力が加わる。

「ぐ………!ぐ………!!あ、あ………」
「何?何か言いたいの?」

今度はコウの言葉を聞こうと最初に掴んだ時よりも少し弱めに力を解く少女。
コウはその隙を見逃さなかった。

「あ、IS、質量転移!!」
「!?」

そう叫んだ瞬間、ベンチが消え、少女の真上に一瞬の内に現れた。

「ふん………!」

しかし少女は微動だにせず、そのベンチを片手で払いのけ、ベンチは直ぐ近くにあった木に叩き付けられた。

(今!!)
「きゃ!?」

コウは少女の手を今度こそ払いのけ、足払いをし、転ばせた。

「もう、何を………!?」

尻もちをついた少女だったが、その少女に追い打ちをかける様に上からゴミ箱、自動販売機、更には小さな遊具まで降り注いだ。

「えっ………」


遠巻きで見ていた子供や大人達もあまりの現実離れした光景に言葉が出ず、固まった。
そんな中、コウだけはその場から走りさる。



暫くその場には静寂が包み込んだ………





















「ふぅ、遅くなっちゃったわ………コウまだ待っているわよね?」

それから30分後。アリサは遅れて待ち合わせの公園へとやって来ていた。
講義が長引き、遅れるとコウに貸したスマホに連絡を入れておいたが、肝心のコウからは返事が無い。

「怒ってるかしら………?」

まだ起こったところを見た事が無かったが、無いからこそ怒らせたら大変だとアリサは考えている。

「急がないと………」

自然と足が早足になっていき、最後には駆け足で公園へと向かう。

「………あれ?」

公園が見えた辺りでアリサは異変に気が付いた。

「人が大勢?パトカーも止まってるし………何かあったのかしら?」

そう呟きながら人ごみの中から中の様子を見る。

「えっ………」

そこは異様な光景だった。
手前の砂場付近にはブルーシートが被さっており、奥のベンチ付近では人の手では不可能な事が起きていた。

「自販機にベンチに遊具やゴミ箱が積み重なってる………?」

まるでオブジェの様に積み重なったその光景に野次馬達は皆スマホのシャッターで画像と撮っていた。

「かわいそうね………」
「ええ、即死だそうよ………まだ若いお母さん方と幼い子供なのに………」

と野次馬のおばさんの話が聞こえてきてアリサは耳を疑う。

(こんなの普通じゃ無い………となると魔法………?でも海鳴市にこんな事する魔導師なんて誰も居ないのに………)

そう考えて、思考が止まる。不意に浮かんだ考えを否定したかった。………だがそれ以外今のアリサに考えられなかった。

(コウが………やったの………?)

未だに連絡が取れない事、そしてこの公園にいた唯一魔法が使えそうな人物。

「嘘よ………」

アリサはふらつく足取りながらゆっくりと公園から離れて行った………  
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