劇場版・少年少女の戦極時代
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ドライブ&鎧武 Movie大戦フルスロットル
兄弟の絆はどんな形をしているのか?
鋼鉄の花の外へ脱出した龍玄たちが駆けつけた時、貴虎と凌馬の決着はついていた。ついたのだと、機械の残骸とその中に落ちたゲネシスドライバーから察した。
龍玄が笑って斬月に駆け寄ろうとした時――斬月の背後にメガヘクスが現れた。
『君は無価値な感情に支配されている。個の存在は不要だ』
メガヘクスが持つのは、葛葉紘汰が最強形態に変身するための、極の鍵だった。
『戦極ドライバーから得たデータを元にメガヘクスのシステムを更新した。今のメガヘクスはこの力を利用することができる』
極の鍵が、本来の所有者ではない者によって、開錠ボタンを押される。
その光景の、何と無慈悲で屈辱的なことか。
《 フルーツバスケット 》
斬月が止めようとするより早く、メガヘクスは極の鍵を、人間でいう鎖骨の辺りに突き刺した。
極の鍵はデータ分解され、メガヘクスの胸部に取り込まれた。
『黄金の果実の力により、メガヘクスはさらなる進化を遂げた。地球の融合は速やかに完了するだろう』
『させるかぁ!』
斬月が無双セイバーでメガヘクスに斬りかかった。だがメガヘクスは斬月の斬撃を手で容易く受け止め、逆に硬化したほうの腕で斬月に斬りつけた。
『二人はここにいて!』
龍玄は生垣をいくつも飛び越え、メガヘクスを背後からブドウ龍砲で撃った。
メガヘクスの標的が龍玄に移った。
『メガヘクスと融合せよ。それが正しい進化である』
メガヘクスは胸部からヘルヘイムの植物を模した鋼鉄の蔓を伸ばし、龍玄を縛り上げ、地面に叩きつけ、投げ飛ばした――斬月のいる方向へ。
『兄さん! これを!』
ダメージを負って宙を舞いながらも取り出した、メロンのエナジーロックシードを、開錠する。
兄もまた意図に気づいてくれた。
斬月は機械の残骸の中からゲネシスドライバーを取り上げ、自身の量産型ドライバーを外した。
斬月が高く掲げたゲネシスドライバーのバックルに、龍玄は青いエナジーロックシードを叩き込んだ。
龍玄は地面に叩きつけられながらも、確かに見た。
斬月がエナジーロックシードの嵌ったゲネシスドライバーを装着するのを。
メガヘクスが銀の蔓を再び龍玄に放ったが、龍玄を守るように間に斬月が入って、片腕に蔓を巻かれた。
『断る。俺たちは今あるこの世界を守る。世界を蝕む悪意には二度と屈しない! 変身ッ!!』
《 ソーダ メロンエナジーアームズ 》
次の瞬間、メロンの強化装甲が落ち、斬月を鎧った。その反動も加えて斬月は金属の蔓を跳ね飛ばし、完全に斬月・真に変身した。
龍玄は立ち上がって斬月・真と並び、同時にメガヘクスへ向けて、紫のエネルギー弾と、金色のソニックアローを放った。
だが、極の鍵を取り込んだメガヘクスは、硬化した両腕で二つのエネルギーショットを叩き伏せた。
彼らは戦法をロングレンジからショートレンジに切り替えた。
キックやパンチ、銃身と弓による打撃を交替でメガヘクスに食らわせるのだが、メガヘクスは一撃ごとに的確に片方に反撃し、兄弟のヒット&アウェイのタイミングを崩していく。
硬化した両腕の刃の二刀斬りによって、龍玄と斬月・真は地面に転がった。
『せめてアレを何とかしないと…!』
メガヘクスの体内にあってなお煌く、極の鍵。あれがメガヘクスの戦闘力を大幅に上げているのだ。
(あの鍵さえ取り返せれば、チャンスが来るかもしれない。いや、来なくても作る。紘汰さんならきっとそうする)
『俺が何とかする! ハアアア!』
『兄さん!?』
斬月・真は起き上がるなり、走って行ってメガヘクスに体当たりした。
『今だ! 撃て!』
龍玄は立ち上がりながら愕然とした。
撃てというのか。自分に。貴虎ごと?
『でき、ない…できないよ! だって、だって兄さん…っ』
――かつて貴虎は光実の代わりに、オーバーロードの王妃復活の贄となり、光実を解放した。
たった一時のことでも、光実は貴虎を身代わりにしたのだ。
それを今ここで、くり返せと言うのか?
斬月・真は振り解かれても何度もメガヘクスにぶつかり、ついにメガヘクスを後ろから羽交い絞めにした。
『大丈夫だ!』
はっとし、滲んだ視界を凝らした。
仮面があるはずなのに、貴虎の笑顔が見えた気がした。
『兄弟だろう、俺たち』
――それはかつて、殻に閉じこもっていた光実に、ヒカリをもたらしてくれた言葉。
『信じろ!! 撃て、光実ェェェ!!』
龍玄はカッティングブレードを3回切り落とした。
《 ブドウスパーキング 》
『信じる…! 僕たちは、兄弟だから!』
龍玄はトリガーを引いた。
紫色をした龍の息吹は、メガヘクスの胸部に着弾し、大きな爆発を起こした。
「がはっ!」
『兄さん!』
光実は変身を解いて、血だらけで地面に投げ出された貴虎に駆け寄り、貴虎を助け起こした。
「兄さん、しっかりっ」
光実は気づいた。――貴虎の手には、極の鍵が握られていた。
まさか貴虎はメガヘクスの再生速度を超える速さで、胸部からこの鍵をむしり取ったというのか。
「やっぱり兄さんはすごいよ……っ」
光実は抱え起こした貴虎を、さらに強く抱き締めた。光実が回した腕をあやすように貴虎が叩く感触さえ、涙腺を刺激した。
『□□□□! 理解不能! □□□□□!』
はっとして前に向き直れば、メガヘクスが頭を抱えて悶えている。
『制御不能の感情ノイズが迸る! これは、怒りだァ!』
メガヘクスの胸部に光が集まり、青い衝撃波が放射された。
光実はとっさに強く貴虎を腕の中に抱き込み、衝撃波に背を向けた。
昔の兄のように、今度は自分が少しでも兄の盾になれれば――
しかし恐れた痛みはいつまでもやって来ない。
光実は恐る恐るふり返った。
「舞さん!?」
“はじまりの女”の姿をした舞が、不可視のバリアを張って光実たちを守っていた。
後書き
さて。どうして舞が“はじまりの女”に戻れたかは次回明かすとして。
映画でただでさえかっこよかった貴虎の変身を、さらにかっこよくしようとして書き上がったのがこのザマだよ!orz
ただ投げて受け止めるだけじゃなくて、もっと兄弟の距離を縮めたくて色々やりました。
台詞の追加やら、光実が貴虎抱きしめるシーンやらね。
拙作本編では貴虎から光実への褒め言葉で〆たので、今度は光実から貴虎への言葉でお送りしました。
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