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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第一四話「暴走と流動」

1,







 戦徒(アミカ)とは先輩の生徒が後輩の生徒とコンビを組み、1年間指導するという武偵校に存在する二人一組(ツーマンセル)特訓制度であり、間宮あかりは神崎アリアが、風魔陽菜は遠山キンジ、佐々木志乃は星枷白雪が現在育成している戦妹(アミカ)なのである。

 今回の依頼において、早急な人員の補給を必要としたアリアは、実力もあり、信頼できる自分の戦妹と、その仲間たちを呼び寄せることにした。彼らには実戦の経験もあるし、今回の任務は彼らにとっても、いい経験になるかもしれない。もちろん、その役割はあくまで「バックアップ」だが。

 アリアに直々に指名された武偵校のメンバーは間宮あかり、佐々木志乃、火野ライカ、島麒麟、乾桜、風魔陽菜の6名である。高千穂麗や夾竹桃も視野に入れられてたが、チーム内の雰囲気の安定や彼女たち自身が別の依頼を受けているなどの理由で不在だったため、残念ながら彼女たちには声をかけることはなかったというわけだ。

 武偵校を通じてアリアの指示を受けた彼女たちは、上級生に頼りにされたのを内心では喜び(特にあかりの喜びようは尋常ではなかった※ライカ談)同時に、先輩たちが手こずっているという依頼に、自分たちがどう役に立てるのか不安になりながらも、武偵校にて出来る限りの準備を行い、来るべき時の備えを進めていた。

 同時に、キンジたちはキンジたちで、武偵校にて必要な物資と共に待機していた彼女たちを武藤と不知火が回収しに行き、残った内のバスカービルのメンバーはDEM社での会合に臨んでいる。


 そしてことは起こった。


 プライベーティアの一部の暴走。彼らによって引き起こされたというテロ行為により、学園都市は既に騒乱の渦が出来上がり始めていた。

 これは流石のDEM社も予測の範囲外だったらしく、掛かってきた電話口の後ろからはドダバタと何かが行き交う音が聞こえている。大方、予定よりも早く動くことになった魔術師やDEM社の職員たちが大慌てで調整を行っているのだろう。

 それは自分達にも言えることだ。

 何せあの会合の後、ホテルに戻ってきたとほぼ同時にこの連絡である。碌な準備など出来てはいなかった。

 準備と言っても装備面での準備は特に問題ない。迅速な行動を必要とする武偵ならこれより酷い装備で事件に当たったことなどアリアほどになるといくらでもあるし、武藤たちが武偵校から物資を運んできたおかげで、その面ではまるで問題はなかった。

 問題は精神的な面。

 要は心構えである。急な戦闘に慣れている自分達はともかく、1年生たちは来ていきなり碌な学園都市に対する情報も無いまま戦闘に巻き込まれることとなる。

 念のため、武藤が運転する車の中での依頼内容についての詳細な説明や学園都市の地形についての情報は一通り済ませてある。心構えも彼女たちのことだ。いくらかは出来ているだろう。

 しかし、悪いことは立て続けに起こりやすい。

 それを裏付けるかのように最大の問題があかり達がホテルにもうじき着くという連絡が入ったと、中空知が言った直後に起こった。

「……アリアさん、緊急事態です」
「──!レキ、どうしたの」

 アリアやキンジ達が状況の判断の為、ジーサードリーグを始めとするあちらこちらから情報を連携し集めている間、窓の近くにて愛用している狙撃銃ドラグノフを抱えながら体育座りしていたレキが突然立ち上がり、アリアに何かを訴え出た。

 もちろん、アリアやキンジ・白雪や理子がもたらされた学園都市内の情報を整理して起こっている事態に対する自分らが取るべき行動を模索し、中空知やジャンヌがジーサードリーグやDEM社と通信を行い情報収集を、ワトソンと平賀が装備の調整を行っている間、ただ何も考えずに座っていたわけではない。

 レキが窓際で座っていた理由は、何かホテルに異常が起きた時、迅速に対応する必要があるからである。

 暗部の小組織にはメインとなる構成員の他に、後片付けや運転、隠れ家の整理など彼らのサポートをする下部組織があったという。今は解体されたというが、もしかしたらそれらの元構成員と「アイテム」のメイン構成員に繋がりがある可能性もある。事実、浜面仕上という「アイテム」の構成員の1人は、元下部組織の構成員だったという。

 ここは学園都市。未知の技術が跋扈する都市だ。どこからどう自分たちの情報を盗み取られるかは分からない。

 アリアたちの部屋からなら窓からホテルの正面玄関を見通すことができた。そこでこの面子の中で一番視力の良いレキが、ホテルに何か異常が起こらないかを見張っていたのである。もちろん、搬入口や裏口など他にも出入り口はあつたので、そこには通信機を仕掛け、中空知の耳による防衛戦を張っている。彼女の耳なら僅かな異変の音も聞き取れるだろう。

「正面玄関に少数の武器を所持した集団が押し寄せてきています」

 そしてレキが異常が起こったことを知らせてきたということは、もしかしたら既に「アイテム」が自分たちのことを嗅ぎつけその対処に動いたのかもしれない。

 場に、一抹の不安が過る。

 ただでさえ、依頼主であるヨーロッパ武偵連盟への猜疑心が強くなっている状態なのである。彼らが、こんな不始末を起こすような不安がある組織をそもそも雇うわけがない。もし、彼らがこの事態になることを予測して、それでこちらを嵌めているとしたら。という憶測が過る。何せ連携をしているはずのDEM社ですら、プライベーティアについて詳しくは知らず、今回の事態について大騒ぎしている状態なのだ。根も葉もない憶測だが、それ以外に考え用がないのは確かだった。

 それを裏付けるかのように、部屋に駆け込んでくる者の影があった。

「アリア先輩!」

 アリア以上の低身長に・それに見合った幼児体型・八重歯・ツインテール・アホ毛というなんとなくアリアと共通する要素が多い、キンジたちより1つ年下の武偵校1年生の女子生徒。

 部屋に飛び込んできたのは間宮あかり。アリアが現在育成している戦妹であるDランク武偵だ。どうやらホテルに異常が起こる前に中に入ることに成功したらしい。

「あかり!よく来たわ──」
「先輩!大変なんです!」

 即座に、あかり達の身に何かあったのに気づく。見れば、部屋に入ってきたのは彼女だけだ。一緒に来たはずの他のメンバーや迎えに行った武藤や不知火がいない。

「落ち着きなさい。どうしたの」

 アリアが語尾を和らげながら、あかりを落ち着かせようとする。「武偵としてのパートナー」としての面しかほとんど知らないキンジは、「戦姉」としてのアリアを見て少し驚きはしたが、確かにアリアは年下に対しては面倒見がいい面がある。これも彼女の姿の1つなんだろう。

 そんな思考をチェンソーで断ち切るように、あかりの発した言葉は場に緊張を与えることとなった。

「地下駐車場にて武装した連中が進入してきました!今、武藤先輩と不知火先輩が志乃ちゃんやライカちゃん達と一緒に応戦している状況です!」

 やはりか。苦虫を潰したような顔をするアリア達。

 恐らくは敵の狙いは自分達。学園都市の何らかの組織による襲撃だろう。ホテルを狙ったテロ行為の可能性も無きにしも非ずだが、タイミングが良すぎる。これは、学園都市側による何らかの妨害工作と判断してもいいだろう。

 アリアは心の底で舌打ちをした。

 ヨーロッパ武偵連盟に対する疑念も浮かび上がったこの場面で、無理矢理彼らの思惑通りに動かされるようになってしまったことに。





 そしてもう一つ動き出す集団がいた。

 イギリス清教。必要悪の教会。

 対魔術の戦闘に於けるプロフェッショナル達が、科学サイドの総本山たる学園都市に入ってきていた。

 彼らの標的は『ソラリス』と呼ばれる存在。

 「彼の存在を、必ず捕えよ」という、最大主教直々の命令を下され、動いた戦力は少しでもイギリス清教について知っているものなら絶句するほどのものであった。

 まずは『聖人』神裂火織。彼女が投入されるだけでも敵が只者では無いことが伺えた。なにせ世界に20人しかいないという聖人の中でも指折りの実力者。それが神裂火織なのである。それが投入となれば相手はただのフリーな魔術師やそこらの魔術結社でないことは明白であった。

 それに加え、天草式とアニェーゼ部隊という大きな戦力も導入されたと聞いた時のフリーの魔術師の驚きようといえば、言葉にすることはおろか表現できるものではないだろう。何せどちらも並みの魔術結社なら相手にならないような強大な勢力である。

 対魔術師の戦闘なら右に出る者も組織もいないとされる必要悪の教会。

 その中から選抜された、それこそ並みの魔術結社なら1つか2つは軽く潰せそうな大隊は現在、科学の末を集めたような巨大空中艦の中へと招かれていた。





(……やはり、こういう場所は慣れませんね)

 ステイルと土御門の後を続く形でフラクシナスの中を案内されていた神裂はそんなことを考えていた。

 機械が苦手な(機械音痴な)神裂やアニェーゼ部隊の者にとって、周りを機械的な壁で囲まれている状況というのはあまり心許ないものであった。壁ならレンガや木などの自然物で作られた物の方が断然落ち着くし、ここの壁には何か迫ってきそうな感じの圧迫感があった(もちろん、それは神裂達だけでフラクシナスの職員は何も気にしせず廊下を行き来しているのだが)。

 先ほど通された艦橋の大部屋もモニターやら何やらの機械があって、妙にそわそわしてしまい、突如現れた上条が「いやー右手が影響しないでテレポートできる日が来るとは……って神裂?どうしたんだ?」と心配されてしまったほどだ(その間、五和からの目線が急に厳しくなった気がした。気のせいだろうか?)。そこについては幸運とも言える点だが。

神裂(……それにしても「精霊」ですか)

 そのような存在がいるということは小耳に挟んだことがある。しかし、ここ最近精霊が現れるのは日本の天宮市が多いらしいので、実物を見たことはなかった。

 この艦の長だと言うピンクのツインテールの少女から自分たちが知らないようなことも加えられて「精霊」というものについて説明されたが、正直神裂は彼女達の存在について聞かされてもそこまで「特別な存在」と認識することはなかった。

 元々自分が「聖人」などという特殊な存在だからだろうか。彼女達のような力の持ち主がその力故に苦労し、苦難する気持ちは痛いほど分かる。なにせ、かつての自分もそうだったからだ。

 そのピンクのツインテールの少女も精霊との話だったが、どこからどう見てもただの少女であった。彼女たちが、聞いていた「世界を滅ぼしかねないような存在」とはとても思えない。

 何より、彼女たち自身がかつて──人間たちに悪意や敵意しか向けられてなかった時──助けを求めていたというのは神裂にとっても聞き逃せないものだった。

 「Salvare000」。意は「救われぬ者に救いの手を」。

 神裂の魔法名であり、天草式のモットーとも言える言葉である。自らが起こしたくもない災害を起こし、まるで台風か何かように扱われるのは、辛かったことであろう。自分も、「聖人」という力が周りに受け入れられていなければ同じようになっていたかもしれない。

 もちろん、彼女らの辛さなど自分には分かりもしないし、彼女達は既に、1人の少年が命懸けで救い出した後であった。しかし、何か助けになりたいと思ったのは事実だ。

「…………」
女教皇(プリエステス)様?」

 くすりと笑った神裂に横で歩いていた建宮が不思議に思い首を傾げた。

 命懸けで世界から拒絶された少女たちを助けた少年。まだ顔を合わせていないが、この艦にいるという少年。

 さぞ、あのツンツン髪の少年と気が合うのではないだろうか。





 精霊たちがどうしても、ということでフラクシナスのバックアップの元、午前中のみ学園都市の施設で少し遊んだ士道やキリト達。1時頃に琴里がイギリスから来るというあのステイルという赤髪の神父や土御門という金髪グラサンの少年の仲間と会って話すというので共にフラクシナスに戻ってひと段落した後、遅めだが昼食を取ることにした一同はフラクシナスの食堂に向かったのだが。

「……なんか…すごいいるな」
「ええ……」

 下手な学校の食堂より明らかに大きなフラクシナスの食堂の席は、シスター服を着た少女やフラクシナスの職員やよくわからない人やらなんやらで埋め尽くされていた。

 部屋を見渡せば皆それぞれで思い思いの食事をしており、例えば野菜やパンなどの簡単な物──悪く言えば質素な物しか取っていない背の高いシスターから、ミートボールがゴロゴロ乗ったスパゲッティを嬉しそうにかきこんでいる幸せそうなおさげの少女、それらの洋食とは打って変わって焼き魚に白米に味噌汁と「日本の朝食」と言うべき和食を食している肌が露出しまくっている女性など、取っている食事は十人十色だった。令音や神無月なども地味に混ざっており、中には食事を摂らず机に座っているだけの褐色のゴシックロリータを着用した女性などもいる。なんとなく士道は、その服装から狂三を思い出していた。

 入り口近くでしばらく固まってしまった一同。大人数で場に固まるとなると当然入り口を塞いでしまうわけで。

「あ、あの」
「あ、すいません」

 おとなしめの、二重まぶたが特徴的な少女の邪魔になってしまったらしく、慌てて入り口を開ける士道たち。そのまま入り口にて突っ立っているのも何なので、流れに乗って神無月・令音がのみが座って、他の席が空いている大テーブルへと座ることとなる。

 そしてすぐに頼んでもいないのにスパゲッティが運ばれてきた。

「……あれ?」

 おさげのシスターが食べていたのと同じ肉団子がゴロゴロ転がっているスパゲッティである。とても、美味しそうである。

「あのー……これは?」

 恐る恐るといった体で、シリカがスパゲッティを差し出してきた女性に目を向ける。

 修道服の上からでも分かる豊かな胸が、シリカや耶倶矢はおろか、アスナやリズベットが嫉妬するにも十分な物で今風のショートの金髪をしているのにも限らず、妙におっとりとした雰囲気の持ち主だった。

 オルソラ=アクィナス。彼女も、上条当麻に救われた者の1人である。元々はローマ正教の教徒だったが、紆余曲折あって現在はイギリス清教に改宗している。

 そんな彼女はニコニコしながら、更にスパゲッティを人数分置いていく。

「皆様、お腹が空いていると聞いたので、ちょうど人数分より多く作っていたのが幸いでございました」

 確かにお腹が空いて食堂に来たのは真実だが、なんと言うか準備がいいと言うか。

 まぁ十香のお腹が先ほど連続して鳴ったことも事実だし、前に出されたスパゲッティが美味しそうなのも事実だ。冷めるといけないので、オルソラに勧められるるがまま『いただきます』と料理を口にした。

「……むっ!うまい!?」
「士道!凄いぞこのスパゲッティ!!ものすごく美味だ!」
「美味しい……私たちが作るのより1000倍は美味しんじゃ……」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!こりゃうめぇー!」

 感嘆する一同。いつのまにか横に座って同じようにスパゲッティを差し出されている令音が「ちなに今並べられている料理、大半が彼女によるものだ」と言ったことで、更に衝撃が皆を襲った。

 是非レシピや作り方を知りたいものだ。と士道は純粋に思った。

「作り方を説明した方がいいでございますか?」

 その願いが通じたのか否か。オルソラ誘い入れに乗ったのはアスナや直葉たちだった。ちなみに男性陣3人の中では士道が1人だけ立候補していた。「……さすが士織ちゃん」という声がどこからとも無く上がった気がしたが、気のせいということにしておいた。

 ……彼らが本格的に事件と絡み始めるのは、この昼食後になる。







2,







 キンジたちが無理矢理事件に巻き込まれ、士道やアスナたちがオルソラによる臨時の料理教室を受けている頃、学園都市の各地で騒ぎが起こり始めていた。

 プライベーティア。『脱落者』。

 学園都市にて暗躍する2つの組織により、事態は悪化と拡大の一途を辿っていた。





 本当に何度も世界を救った掛け値無しのヒーローである上条当麻。科学サイドと魔術サイドという2大勢力のどちらの深淵にも近いところにいるという立ち位置を持つ土御門元春。

 一般人はおろか、武偵ですら口を開き驚きを露わにしそうな経歴の持ち主である2人だが、彼らが通う「とある高校」においては、「ただの高校生」「バカ3人組のうちの1人」という立ち位置だった。

 「デルタフォース」も呼ばれるバカ3人組。その内、地球を救ったヒーローや両サイドをハシゴする多重スパイと肩を並べる存在。

 それが青髪ピアスと呼ばれる少年だった。





 11月5日。その日、青髪ピアスは街中を何の目的も当てもなくぶらりと歩いていた。

 本来なら今日はせっかくの連休中である。友人である上条当麻や土御門元春辺りを誘ってナンパでもしながら歩こうと思っていたのだが、何故かどちらにも断られしまったのだ。

「むぅ……なんかカミやんもツッチーもここのところずっと学校休んどったし、ノリ悪いなぁ」

 本人達曰く「重要な用がある」との事だが、一時期まったく学校に来なかった時期もあるし、何かあったのではないだろうかと思う青髪ピアスだった。

 しかし今重要なことは別に2つある。1つは乗ってこないそれはそれで1人でナンパしようと街を出たものの、誰も捕まらないこと。せっかくの連休だということで楽しみに飛び出したというのに、未だにナンパ成功どころか、ナンパアタックすることすらできてない始末だった。

 遊園地である「ウェスト・ランド」でも行けば誰かしら出会えるだろうが、さすがに1人で遊園地は青髪でもキツイものがある。もちろん虚しくなるからだ。こういう時に友達となら喜んで特攻することができるのだが。

 まぁこちらはこれからが本場だ。もう少しすれば繁華街に入るし、そこなら女子の1人や1人、見つかることは間違いないと判断していいだろう。

 そしてもう一つは

「……なんか今日は街に風紀委員が少ないなぁ」

 ──街を彷徨き始めておよそ1時間。未だに職務質問に会っていないというこの状況だった。

 普通なら職務質問にかけられてないこの状況を異常など「は?」と言われるような可笑しなことであったが、青髪ピアスにとってはなんら可笑しいところはなかった。

 何故なら彼の職質回数は今年度──つまり4月から11月までの間にすでに40回を超えているからだ。

 要は週に1、2回は職質されていることになるのである。彼は。

 そんな彼にとっては職質はほぼ日常茶飯事なことである。大抵、1人で街を歩いていれば1時間以内には99%を超える確率で職質される。友人と一緒に歩いていてされた時だってあった。

 それが何故か今日は今のところ職質どころか風紀委員すら見かけていない。女性による職質なら彼にとってはご褒美になるのだが……(ショタでももちろん可)。

 まぁされないならされないでいいだろう。風紀委員も忙しいのだ。たまたま別件で本部だか支部に帰っているのだろうと青髪ピアスは考えることにした。

 と、視界にちょうどバーガーショップが入ってきたことにより小腹が空いてきた感じがしてきた青髪ピアス。時間的にもちょうど飯時だし、ここいらで午後のナンパに備えて腹ごしらえをしておくのもイイだろう。

 そう思った青髪はそのバーガーショップに入っていく。店内は程よく混んでおり、1人でも座る席があるかどうか分からないほどだった。

 とりあえず席を先に取るか、注文をしようか店先で立ち止まった青髪ピアス。

 すると

「あれ?青髪じゃない」
「ん?」

 テラス席の中の一席。そこに一人ぽつんと座っていた知り合いから話しかけられた。

 吹寄制理。上条や青髪と同じ「とある高校」に通う彼らのクラスメイトで、レベル0の少女だ。一流フラグ建築士である上条のフラグ建立をやすやすと無力化する、1年7組対上条の最後の砦である(ちなみによく学級委員と間違われることがあるが、彼女は大覇星祭実行委員であり、上条のクラスの学級委員は青髪ピアスである。あしからず)。

「おお、委員長やないか。しかし珍しいなぁ。健康オタクの委員長がハンバーガーとは」

 吹寄はクラス内の誰もが知っている健康オタクである。たまに通販で買ったという「ホントにこれ健康にいいのか?」という物を持ってきたり食したりしてるが、それでもあんまりこういう店に来るイメージは無かった。

「まぁね。ファーストフード店は行かないけど、ここはちゃんとしたところだから」

 確かにこのバーガーショップ、店前に置かれた品が載せられた看板を見てみれば値段が普通のハンバーガー主体のファーストフード店よりはかなり値段が高めである。少し青髪の財布にはキツイ物があった。

 材料の産地まで書かれているから相当である。どこぞの常盤台のお嬢様あたりが通っていそうな店だった。──まぁ本物ももっと「隠れた名店」的なところへ行っているのだろうが。

 知り合いを見つけたのはいいが財布事情に厳しい店だ。退散するべきかと青髪ピアスは考えてたりしている。

「ちょうど良かったわね。あんたも手伝いなさいよ」
「?手伝うって何をや?」

 それを見越していたのか顎で何かを指す吹寄。見るとバーガーショップの中からトレイに乗せて何か大量の物を持ってきている一団がいた。

 見ればそれは──

「小萌先生に、姫神ちゃんに……そこの赤毛ツインテールもどきちゃんは誰?」
「……なんか知らないのが一人増えているだけど」
「あれ、青髪ちゃんじゃないですかー?どうしてここに?」
「……重い」

 トレイに大量の多種多様のバーガーを持った3人の女性。

 上条たちのクラスの愛すべき合法ロリ担任、月詠小萌。以前上条に助けられた1人である天然の能力「原石」の持ち主、姫神秋沙。それに小萌の家にお世話になっている結標淡希だった。





「──ふむふむ。ようは姫神ちゃんが貯めに貯めたここのクーポンの消費に委員長と小萌先生が呼ばれて、で、小萌先生宅に居候しているという赤毛ツインテールもどきちゃんも誘われたってわけか」
「…そういうこと。クーポンの使える期間が明日までだったから。無駄にしたら勿体ない」

 「なるほどなー」と言いながら次のテリヤキバーガーを包み紙から出し、口にする青髪ピアス。見た目はそこらのファーストフード店の物と変わりないし、青髪ピアスの舌には別にこれと言って違いが分かるわけでは無かったが、美味しけりゃなんでも良かった。

 現在、5人は計36個のバーガーへとアタック中であった。1人頭大体7個という計算だが、男子である青髪もいるしギリギリいける量だろう。全部同じ種類のバーガーではないので、飽きが来ないのもあるから大丈夫そうだ。以外だったのが結構小萌先生が食べることができることである。あの体で。

 ちなみにこの状況、俗に言うハーレムというもので青髪自身「春やー!春が来たんやー!」と叫んだら、思い切り吹寄に腹パンさせられた。何故だ。解せぬ。

 しかし状況維持には成功できているので、どっちみち青髪には美味しい状況に違い無かった。こんなラッキーなことは中々無いだろう。

(すまんなカミやん、ツッチー……俺はお前らを越えていくで!)
「……なんでこいつ、さっきからニタニタしてるの?」
「深く考えないほうがいいわよ。どうせ気持ち悪いことは間違いないんだから」

 結標としてはいきなり小萌に声をかけられ、暇だったから来てみれば、以前小萌の家に訪ねてきたのが何度かあったので一応顔見知りという程度の人物のクーポン消費に手伝わされることになり、その上こんな変態を絵に描いたような糸目のヤツまで出てくる始末だ。ため息が出そうだった。

 ちなみに今日の結標はいつものような桃色の布で胸を隠しただけの上半身にブレザー目立つ格好ではなく、悪目立ちのしない私服仕様だ。サラシなどつけていたら青髪からもれなく変な名前で呼ばれていただろう。「赤毛ツインテールもどき」もどっこいどっこいだが。

「何言ってるや!ボクぁ目の前にナイスバディな社長秘書風の眼鏡熟女と幸薄系北欧ブロンド美少女が居たら、母子に見えようとも『姉妹で観光ですか?』とお世辞を言いつつ脳内ではその2人がボク自身の姉と妹だったらと妄想する事でパラダイムシフトからパラダイスシストするぐらいには空気読める男なんやで?だから気持ち悪いとはなんぞや!」
「どっちみち気持ち悪いことに変わりは無いじゃない。ってかあんた上条や土御門とは別ベクトルで気持ち悪いわね……」
「そりゃぁカミやんは管理人のお姉さん、ツッチーは妹属性という貴賎を設けてるからなあ。けどボクは属性に貴賎は設けへん!なんせボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を迎え入れる包容力を持ってるんよ?たとえ相手が局地的災害を起こす人災少女だろうと月光を浴びるとリアル狼男に変身してしまう呪いにかかった少女でも友達の復讐を掲げてお門違いの八つ当たりをするショタでも美味しくいただけるんや!おとなし目のドジっ子だと思ったら二重人格で、猿の尻尾生やしながらレーザー打ってきた?それがどうしたごっつぁんです!!」
「悪い意味で凄い。悪い意味で。大事なことだから二回言った」
「あの青髪くん?明らかに女性じゃないのが一個混じってるですがそれは……」

 呆れる他3名だったが、1人「ショタ」という青髪の言葉に反応した者がいた。

 言わずとも分かろう。学園都市のレベル4の「座標移動」の能力者。「グループ」の一員。そんな肩書きを持つ少女、結標淡希だ。

 訂正する。目の前の糸目の青髪とは素晴らしい同士になれるかもしれない。今日は素晴らしい日だ。

 そんなことで彼に人目も降らずランドセルと小学生の制服の素晴らしさについてどれだけの知識と情熱があるか確かようと、口にしていた海老カツバーガーをトレイの上に置く。

「────?」

 吹寄が何かに気付いたのもその時だった。

「?吹寄ちゃんどうかしたのですか?」

 急に虚空に目線を向け始めた吹寄に、小萌が心配そうに語りかける。青髪や結標、姫神も吹寄に目を向けた。

 と、全員がそれに吹寄と同じく気付いた。

「…………歌?」

 それは歌だった。周りに座ってバーガーを食べていた人や通行人も顔をしかめ虚空を見ていることから、自分たちの難聴や空耳ではないことは確かだ。

 更にそれは

「『とおりゃんせ』……?」

 そのメロディーは江戸時代に成立したわらべうた。野口雨情による作とも伝えられる『とおりゃんせ』に聞こえた。

 鼻歌のような歌声は宙に静かに響き渡る。

 しかし、それには一つ、子供の頃やどこかで聞いたあの歌とは違うところがあった。

「……あれ?この歌、歌詞違うくない?」

 その歌は──







第一四話「暴走と流動」完
 
 

 
後書き
2015年 4月 13日
鈍器(ホライゾン)を読みながら眠たくなってきている常盤赤色。 
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