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井戸の中

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4部分:第四章


第四章

「よく知っているのだ」
「実にな」
「それを伝えていたのだ」
「太古の!?」
 それを聞いて首を傾げさせたムキハであった。
「何だそりゃ。世界は三つの教えの神様達が創ったんじゃなかったのかよ」
「その三つの世界の神々と戦った太古の神々だ」
「それがその神々だ」
「知らないようだな」
「どんな神様連中なんだよ」
 話を聞いていて興味が湧かないと言えば嘘になった。彼は実際にその太古の神々というものに興味を抱いた。そうしてその話を聞くのだった。
「それで」
「教えてやろう」
「それはだ」
「聞きたいのはわかっているからな」
 また言ってきた声であった。
「さあ、見るがいい」
「そして知るがいい」
 この声と共にであった。ムキハの前に形容し難い異様な存在達が出て来た。とてつもなく巨大であり所々に触手が生え腕が無数にあり人と獣、それに魚や他の生物。、それと植物が混ざり合い内臓までもが露わになっている。背中に牙があるものもあれば口が複数にあったり。足がうねっていれば頭が無数にある。目が飛び出て色は黒であったり気色の悪い赤であったり緑であったり。訳のわからないものだった。
「な、何なんだこの連中は」
「これだ」
「これこそがだ」
「これが神々だ」
 それがだというのである。
「太古の神々だ」
「これがだ」
「世界を創造しただ」
 その神々だというのである。
「神々なのだ」
「これがな」
「おいおい、嘘だろ」
 ムキハは声のその言葉をまずは否定しようとした。
「何でこんな得体の知れん連中が世界を創れるんだよ」
「信じないのか」
「我々の言葉を」
「じゃあどう信じろってんだ?」
 逆に言い返す程だった。
「こんなのよ。不気味な奴等がよ」
「では見せるとしよう」
「その証拠を」
「今そなたにもだ」
 声がこう言うとだった。ムキハは突如として闇の中に包まれた。そうして。
 そこは何もなかった。ただ闇があるだけだった。
 ムキハはその中に浮かんでいた。その彼に声が語り掛けてきたのである。
「これが最初だ」
「世界の最初だ」
「世界は最初は闇だったってのかよ」
「その通りだ」
「これがはじまりだったのだ」
 まさにそうだと答えてきた声だった。
「全てな」
「はじまりだったのだ」
「何かな」
 それを聞いてまずは驚きを隠せなかった。
「何もなかったっていうのは想像してなかったぜ」
「それでだ」
「見るのだ」
「全てのはじまりを」
 闇の中からだった。あの異形の者達が出て来たのだ。その太古の神々である。
 それは闇から出て来て蠢いていた。それが絡め合いだし。
 そこからはよく覚えてはいなかった。気付いた彼はあの井戸の中にいた。そこにいることに気付いたのである。気付けばそこにいたのだ。
「何だってんだ、あれは」
 今井戸の中にいるのに気付いてからの言葉だ。
「ありゃよ。何だってんだ」
 自分が見たものを信じたくなかった。闇の中から出て来て絡め合いだしたところで記憶は止まっているのだ。そうして。
 覚えていないのを幸いに思っていた。そのうえで井戸を登り酒場に戻ると。
「よお、どうだったんだ?」
「それで何がいたんだ?」
「グールの奴等がいたぜ」 
 このことだけを話すのだった。
「その連中がいてな。大変だったんだぜ」
「そうか。グールか」
「大勢死んだらしいからな。先の戦いで」
「倒すことは倒したがまだまだ出て来るだろうな」
 ここでは真実を話さなかった。
「だからな。あの井戸埋めちまおうぜ」
「そうだな。そんなのがいるんだったらな」
「多分街で人が朝消えるのも」
 冒険者達もそれだろうと考えた。実際のところムキハもある程度はそうだと思っていた。しかしそれはあくまである程度であり。それ以上に恐ろしいものも予想していた。
 しかしその予想は隠して皆に話すのだった。
「だからだ。井戸を埋めてな」
「封印もしておくか」
「だよな」
「封印はしっかりとしたのにしような」
 こうも言うムキハだった。
「冒険者の中には僧侶もビショップもロードも大勢いるしな」
「じゃあ皆でやるか」
「戒律とか抜きにしてな」
「ああ、そうしないと駄目だな」
 こう一同に話す。
「それじゃあ行くか」
「よし」
「じゃあな」
 こうして井戸は埋められ封印が施されることになった。ムキハは僧侶等の職業にある冒険者達が封印を施すのを見ながらそのうえで一人呟いた。
「見ちゃいけねえものは世の中にあるってことだな」
 こう呟くのだった。
「そういうのは。こうした方がいいってことだな」
 封印は施され井戸は埋められた。これ以降少なくとも街から突如として人が消えることはなくなった。だがムキハは井戸の中で見たことを死ぬまで語ることはなかった。永遠に。


井戸の中   完


               2009・11・2
 
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