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井戸の中

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2部分:第二章


第二章

「喜んでな」
「一人で行くのかい?」
「あんた一人で」
 冒険者達は口々に彼に問うた。
「それで井戸の中には」
「あんた一人が」
「そうさ」
 素っ気無く答えた彼であった。
「今回はパーティーは組まない。俺一人だ」
「あんた一人でって」
「また無茶な話だな」
「無茶じゃねえよ」
 しかし彼自身はこう言うのであった。
「それはな」
「無茶じゃないって」
「幾ら何でも無謀だろ、それは」
「普通の奴だったらそうだろうな」
 ここで彼は楽しそうに笑って述べた。
「けれど俺は忍者だぜ」
「忍者か」
「ああ、それさ」
 まさにそれだというのだ。忍者であると。とにかく特殊な職業であることは知られている。数多い職業の中でもとりわけ特殊なものであるとだ。
「だから大丈夫なんだよ。まあ見ていなって」
「そこまで言うんだったらな」
「行って来るといいさ」
「ああ、それじゃあな」
 こうしてムキハは井戸の中に入って行った。彼は鍵爪やロープを使ってその中をするすると降りていく。忍者特有の身のこなしとホビットの敏捷さが彼の動きをそうさせていた。
 中に入るにつれて暗く湿っぽくなっていく。その中を入っていくとだ。
 一番下に着くと前に道があった。人間族がやっと通れる位の大きさの穴だ。
「ここを行けばいいってわけかよ」
 ムキハはその道を見て呟いた。
「まずは行ってやるか」
 身構えながら慎重に先に進む。そうすると暫くして。
「おっと」
 いきなり落とし穴が開いた。彼はそれを左に跳び壁にへばりついてそれをかわしたのだった。ここでも忍者独特の動きを見せた。
「あぶねえあぶねえ」
 こうしてそのトラップをやり過ごしたのであった。
 そしてさらに進むと今度は。巨大蜘蛛が前からやって来た。
 それは手裏剣ですぐに倒す。一撃であった。
 手裏剣を収めてから先に進む。今度は落盤が来たがそれもかわした。
 暫く先に進むとだった。急に道が広くなった。そして次第に明るくなってきた。
「光苔だな」
 何故明るくなったのかすぐに察した彼だった。見れば周りの壁や床や天井が光っていた。それはまさにその光苔であった。
 その明るさだとわかった。その先をさらに進むとだった。廃墟に出て来たのだ。
 古代の石造りの街だろうか。何もかもが破壊され崩れ去っていた。残骸と骸骨だけが見える。足の踏み場もないまでだったが彼はその上をひょいひょいと進んでいくのであった。
「忍者にはこんなのは何てことないぜ」
 こう言いながら先に進むのであった。
 そうして先に進むとだった。左右からグール達が出て来たのだ。
 彼はそれを右手に持っている苦無で切り裂く。そして左手に持っている手裏剣も投げる。手裏剣は回転しながらグール達を切り裂きブーメランの様に動いて彼の手元に戻る。彼はグール達は何なく倒してしまい廃墟のその先をさらに進むのであった。
 先を進んでいくとやがて何か神殿を思わせる建物の前に来た。それは複数の太い石の柱に支えられている四角いものだった。その前に来たのだ。
「ここに何かあるな」
 ムキハは直感でそれを悟ったのだった。
「さてと。それじゃあな」
 その中に入ろうとする。ところがだった。
「その必要はない」
「ああ、出て来やがったな」
 その声を聞いて軽く笑ってみせたのであった。
「あんたがここの主か何かか」
「ムキハだな」
 今度は彼の名前を言ってきたのだった。
「そうだな」
「何っ!?」
 名前を呼ばれてだった。彼はそれを聞いて怪訝な顔にならざるを得なかった。
「何で俺の名前を知ってるんだよ」
「そなたの心を読んだ」
 だから知っているというのである。
 
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