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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第九話「アカシックレコード」

1,







学園都市某所 キャンピングカー内

 以前、上条当麻は池服に訪れたことがある。

 この文だけを見れば何の変哲も無い文だろう。池袋は日本の中でもそこそこ有名な都市の一つだし、学園都市と池袋は外壁を挟んで近場と言ってもいい距離にある。外出の申請をちきんと提出していれば行くことに不思議はないだろう。

 が、この場合の池袋には、前に『異世界の』と付く。

 土御門、青髪ピアスの3人で池袋に出掛けたあの日。上条は池袋である2人組の男女に出会ったのだが、その時見せられた『アレ』には驚かされたものだ。脳髄に電撃が走った、とも言ってもいいだろう。

 何故、上条がそんなことを思い返しているというと。

「ほい、持ってきたぞい。9巻までとアンコール3巻」
「──こっちは4巻までとプログレッシブ3巻だ。5巻以降は駄目だったよな」
「うん。そこ置いといてー。あ、超電磁砲みたいな漫画版は持ってこなくていいよ。余計話がややこしくなるから」
「了解だ」
「了解した」

 紅色の髪色の男と上条を逆お姫様抱っこした少女が持ってきた、本が上条たちの目の前に置かれる。置かれた本は表紙にアニメ調のイラストが描かれた、所謂ライトノベルと呼ばれるものだ。主にティーンエイジャーをターゲットとしたこれらは、上条や士道も読んだことがある。電撃文庫やファンタジア文庫という名前もクラスの友人との会話で耳に入っている。

 いや、そんなことはどうでも良くなる衝撃が上条を除くその場の全員の中に走っていた。

 皆が驚くのは当たり前だろう。

 何せ机に置かれた数々のライトノベル。その表紙には──

「……見ろ、シドー。やっぱりこれは私じゃないか?」

 紛れもなく、自分たちと似た服装をした人物が描かれていたのである。

 「とある科学の超電磁砲」「ソードアート・オンライン」「デート・ア・ライブ」と題名のそれらには、自分を二次元キャラにデフォルメしたようなイラストがかかれていた。

「えーと……「とある魔術の禁書目録(インデックス)」新約の10巻までとSS2巻を持ってきたぞ」
「りょーかいりょーかい」

 追加されたものを見て目を見開いたのはインデックスやオティヌスたちだ。そういえばあの時上条と共に訪れた土御門は他の時間の土御門だったはずである。しかし結局ちゃんとした事情を説明され、文庫本を見たのは上条だけだつたし、驚いて当たり前だろう。

 自分たちが載っている小説の表紙をまじまじと穴を開けるように見つめる一同。

 十字路での会合を終えた一同が半ば強制的にキャンピングカーに連れ込まれてすでに10分ほど。

 「色々困惑していると思うけど、とりあえず簡単な話はキャンピングカーの中で。ほら入った入った!」と言う椿の言葉でキャンピングカーに入れられた上条当麻、インデックス、オティヌス、土御門元春、ステイル=マグヌス、浜面仕上、滝壺理后、五河士道、夜刀神十香、四糸乃、よしのん、五河琴里、八舞耶倶矢、八舞夕弦、誘宵美九、七罪、村雨令音、キリト、アスナ、リズベット、シリカ、リーファ、クライン、そしてキリトの携帯電話に入っているユイ。ちなみに、精霊たちは先ほど無理矢理纏わされた霊装を解いていた。

 が、「ウェスト・ランド」で出会った2人の女性がなぜここにいるのかを士道たちが問い詰める前に、「今からここで話すことは他言無用でね。関係ない人に聞かれたらまずいから」という言葉と共に、近くに止まったワゴン車から次々と大量の文庫本が運ばれてきたのである。

「さーて……こんなもんかな。話を簡潔に済ます為に悪いけど遊馬──と──沢ちゃんの方法借り……あれ、そういやこの時空の上条くんは異世界の池袋について覚えているって前提でいいんだよね」
「え、ああ……」

 士道たちと「ウェスト・ランド」にて出会ったはずの女性、椿キーナは机に置かれた文庫本を整理にしながら話題を振ってきた女性に、上条はうなづく。ちなみに聞いたことがある名前が聞こえた気がしたが十香のくしゃみ(二回連続)でよく聞こえなかった。

「じゃあ言っとくけど一巻は見せないからね。私もあくまでこの件には関わっているけど、チミの今までのことには傍観者として接するからね。私に、チミの人生を変える権利はないから」

 「よし」と机に綺麗に並べられた文庫本を満足そうに見ながら、かつて2人の男女が上条に言ったことと似たようなことを言う椿。

「これ……読んでもいいんですか?」
「いいよー」

 恐る恐るという感じで聞いてきたキリトに対してあっけらかんと答える椿。許可が下りた瞬間、一番先に文庫本に手を伸ばしたのは先ほどから興味津々に見つめていた十香だった。

 それにつられて、その場の皆(上条とオティヌス、椿、霙、紅に赤髪の人物、何故か大人なびた姿になっているイブ以外)の全員が手近の一冊に手を伸ばし、パラパラとページを捲ってみた。

 そして──

「「「「なっ……なんだこれ!?」」」」

 本を読んだ全員の声が見事に被った。

 小説の中に自分の名前または隣に座っている者の名前もしくは知人の名前を見つけ、文章を読み進んだところ、自分自身がもしくは相手が過去に経験した事が小説風に記されていたのである。

「にゃー!?なーんでこの本に『御使堕し(エンゼルフォール)』について所狭しと!?」
「……これは三沢塾の事件か」
「え、これ服部じゃ……これは駒場!?ってかなんでATM強奪の時のカーチェイスが書いてあんの!?」
「これ、はまづらと学園都市を抜けてロシアに行った時のことじゃ……」
「こ、これ何!?ストーカーの日記とかそんなレベルの話じゃないぞ!……もしかして折紙──」
「鳶一折紙でもここまで士道の行動を把握できないでしょ……」
「シドー!なんでこれにはデェトのことがこんなに書いてあるのだ!?」
「え……こ、これってよしのん」
『……間違いなく私たちとシドーくんの出会いだよねこれー』
「む?むむむ?むむむむむ?」
「困惑。何故耶倶矢との対決についてもここまで詳しく書かれているのでしょうか」
「あ、あれれー?なんでこっちにはだーりんのマネージャー体験の話がまじまじとー?」
「なっなっなっなによこれぇ!?」
「………………」
「な……第一層のボス戦じゃないかこれ!?」
「これってALOでのことよね……?」
「えっ。もしかしてキリトさんと上層のクエストに行った時のことじゃ……」
「これってSAOの……第二層のボス戦……?」
「な、なんでお兄ちゃんとALOで初めてあった時のことが……」
「お、おい!この本にキリの字とヒースクリフの野郎の決闘について詳しく書いてあるぞ!?攻略の時に加わっていた帰還者が書いたのかこれ?」
『これは……パパとママと会った時の……』

 「驚き」という反応をそれぞれの形で表す彼らたち。恐らく、池袋でこれを読んだ時の上条もこれと同じ反応を示したに違いない。

「アカシックレコードって知ってるか?」

 赤い髪の問いかけに答えたのはオティヌスだ。

「知っているが……それがどうした?……まさかこれがそれとでも?」
「そのまさかだ」

 驚きを露わにする元魔人の少女。上条の上にいる彼女は本を読むことは出来ないが、それでも文庫本の一冊の表紙に自分を鏡に写したような少女が写っていることは分かっていた。

「え!え!ひょうかとのことも……あれ、なんで取り上げるの!?」

 ある一定程度読んだ後、「とある魔術の禁書目録」については全てが無理矢理回収されていた。

「いやー、これ以上読まれると色々と面倒くさいことになるんですよ。そりゃ因果律とかよく分からない物が働いてこの出来事が無かったことになるとしても危ない橋は渡りたくないわけで」
「?」

 首を傾げる彼女たちや浜面と滝壺のカップル、ステイルだが、彼らは「上条の記憶にまつわるある事」を知らない。上条がそれを懸命に隠していることもあって、知っているのは極一部の人間だからだ。しかしこれにはそれに繋がるヒントが、あるいは答えが転がっているのだ。

 また、彼らがどの時点での彼らなのかよくわかっていない。もしかしたら、彼らがこれから起こることを知ってしまう可能性すらある。これ以上見せるのは得策ではない。椿はそう判断したのだ。

 次々と「とある魔術の禁書目録」以外にも勝手に文庫本を取り上げしまい始めた椿と逢沢(あいさわ)(みぞれ)を尻目に、赤髪の男が自己紹介を始めた。

「クリム=コードネスダイクというものだ。よろしく頼む」

 頭を下げる青年を衝撃冷めぬ中で見つめる一同。あの本は何なのか。「アカシックレコード」という言葉の意味を知っている者は真意に辿り着きつつあったが、それでもまだ衝撃は抜けなかった。

 この青年の素性なんてどうでも良くなるほどに。

「今回の出来事について、察しがいい奴はすでにあることに気づいていると思う」
「……」
「……」
「まぁ気づいていたとしても、知らない奴には説明しなければならないから、色々と話すがな」

 そんな前振りの後、青年による説明が始まったが──半信半疑というよりも疑いの方が圧倒的に多い出鱈目すぎる内容だからか納得するものは3人を除いていなかった。

多重宇宙(マルチバース)というものを知っているか?
 この世界以外の無数の世界が存在していて、そこではここでの自分と少し違う自分が存在しているというやつだ。
 例えば学園都市に住んでいない上条当麻がいる世界。五河士道が精霊の力を封じ込める力など持っていない世界。桐ヶ谷和人がSAO事件に巻き込まれてない世界。それぞれの性別が違う世界。誰かの年齢がもっと若い世界。逆にもっと年を食った世界。もちろん、お前らがいない世界だってある。まぁ異世界って言われるうちのほとんどが「一人も存在するものが被ることのない世界」だけどな」

 一度区切り、話をさらに続ける

「今、お前らがいた世界は無理矢理くっつかされている状態だ。まぁトンネルなんかで無理矢理に「道」が出来たわけじゃないだが……とにかく、ここにいるお前らは本来なら合わない世界の住人同士ってことさ。」
「……ようするに君達はこの世界が私たちがいる世界と異世界だと言っているのかね?」
「少し違うな」

 令音の確認に、補足を加えるクリム。

「正確には「融合」したのさ。直接的な原因は色々あるが」
「ん、んなデタラメな話──SAOなんかじゃあるめぇしよ」

 大半は納得出来ない。そもそも何を話しているのかさえ理解できない。それは当たり前なのだが、ここにその大半に当てはまらない人物が、少なくとも3人はいる。

「上条当麻。インデックス、オティヌス」

 その3人の名前を呼び、クリムはさらに話を続けた。

「お前らは知っているはずだ。この世界とは別に広がる世界のことを。2つの世界を繋ぐトンネルの発生。世界樹に連なる世界に住む者達の会合。この世界とは、理、法則、定説の全てが違う世界が存在し、そこで誰かが生きていることを」

 そう。上条たちはこれと類似している出来事を何回か経験している。一つは異世界の池袋との間にできたトンネルにより学園都市とその池袋で起きた2つの騒動。もう一つは1人の悪戯好きの神によって起こされ、結果的に死者の国を統べる1人の女神と1人の海の女神を救った一度限りの物語。

 そこで上条たちは出会っている。首から上が無いライダーに。バーテン服を着た池袋最強の喧嘩人形に。眼鏡をかけた妖刀を身に宿した少女に。裏から全てを操ろうとする「人間愛」の塊の情報屋に。「捻れ」など気にせずマイペースに奇跡を謳歌する2人の男女に。

 核兵器にも耐える究極の兵器を破壊して回っている者たちに。神の敵を葬り去る戦乙女と少年に。妖怪に好かれる性質を持つ少年やその少年の周りにいる妖怪たちに。世の不条理(Adsurd)に振り回されながら残忍な事件に挑んだ者たちに。生粋の殺人鬼との殺し合いに生き延びた者に。神格の上の未踏のさらに奥、その頂点に立つ少女とその少女が異常な愛を捧げる少年の影に。

 そしてキリトにも、一つだけ心当たりが浮かんだ。新型フルダイブ実験機のテストダイブ。そこで闘ったあの銀色の翼を持った戦士は、もしかしたら異世界の住人だったのではないか──と。

「……ありえない。と言いたいところだけど──残念ながら一つだけ心当たりがなくも無いのよね」

 そして琴里にも、そのような経験は無くとも一つだけ心当たりとなるものがあった。先日の謎の霊力反応。説明が付くことのなかったそれも、もしかしたら彼が言うそれが原因かも知れない。

 そして彼が最後に放った言葉は、上条たちが経験し──かつて一大の騒動となったことに同等するものだった。

「現在……世界同士の均衡はお互いが混じり合わないようにギリギリのバランスで保っている。例えば──2つの世界の定義やあり方はかなり違うのだが──異世界の吸血鬼たちが「吸血殺し」という存在に近づかないようになっているだとか、イギリス王室に血が繋がってないはずの王子や姫の関係だとか。それこそ国の大統領や総理大臣や王、組織のトップとかな。色々辻褄が合わないことを無理矢理抑えつけてるような状態なのさ」

 そして一拍置いて、続きを話した。


「だから──この現象を押しとどめて、なんとか形としている存在が瓦解すれば、一気にこの世界の融合は進んでしまうということさ。例えば──「幻想殺し」とかな」







2,







数分前 学園都市 「窓のないビル」

『──ようするにどういうことだい?』
『まぁこれは前座にすぎないってことさ。君んとこの魔神ちゃんが何万回も世界【フィルター】をかけて作り替えたり、あるいは君が【世界の薄皮】をベリベリと破いちゃったり、五河士道が『鳶一折紙』という在り方を根元に近い部分から変えてしまったり、緋緋神に瑠瑠神に璃璃神が本格的に動き始めたり、あるいは『アリス』なんて存在が生まれたり……ありとあらゆる偶然が働いて起こった今回の融合なんだけど、最終的にしっかりした形にしちまったのはソラリスのやつなんだよね』
『──改めて聞くが、君達『保存機関(アーカイブ)』の目的はソラリスのやろうとしている変革を止めることであっているかね?』
『──あいつは変革なんて言って邪魔な連中を潰しているだけさ。現に世界を融合させて得ようとした結果が得られなかったら、その原因となった、色々な意味で邪魔な少年を潰そうとしている。更に、そのためにレベル5の少年少女がどうなろうと知ったことじゃない。自分の目的に心酔して、尚且つそれを他人にも押し付けて、しかもそれが自己欲じゃなくて世界のためなんて思ってる分、君のところの科学者たちよりタチが悪いよ。……君のところには、いそうだけどなそういうの』
『結果的に自分がみんなを救うから別に死のうが絶望しようが地獄に落ちようがいい──か。彼らしい』
『ま、少々おいたがすぎる気はするけどね……』
『確かにね。まぁこちらはこちらでなんとか対策を立てよう』
『君、今大火傷で動けねぇだろう?君の子飼いのゴールデンレトリーバーがいれば話は別だが、彼とて内部と外部同時に相手取るのはさすがに難しいだろ。ただでさえ奴さん、統括理事会の名前も使ってるのに』
『こちらもまだ打てる手が残っているというわけさ。君達の手も借りることになるだろうけどね』
『持ちつ持たれつというやつだな。ま、精々君の逆鱗に触れないように上手くやるさ』







3,







「ま、これについては知っておいて欲しい、くらいのことって考えて置いて。確かに世界の融合も止めなきゃならないけど、本題は別にあるんだよねこれが」

 彼らの困惑を、一度打ち切る声。声の主はこの場の全員が質問攻めにしたいはずである椿であった。

 インデックスや令音に魔術や精霊についての講義を受け、今一番混乱しているはずのキリトたちも、その声に反応して一旦「非日常なもの」への認識作業を停止した。

「じゃ。これから先はツッチーにお願いするよん。お願いねー」
「了解だぜい、椿さん」

 いつの間にこんなに仲が良くなったのだろうか。そう思う上条だったが、これから話すことが自分に深く関わることだと理解し、話に集中することにした。

「さっきカミやんには言ったが、今回の奴さんの狙いはカミやん──正確にはカミやんの右手にある「幻想殺し」にゃ」

 「幻想殺し」についての説明は全員が受けたのだが、説明の直後から十香たちが右手をじろじろと見る視線を感じ、上条は妙に居心地悪いのであった。

「禁書目録や私じゃないのか」
「そうなんぜよ。その理由については後々話すとして、今回の事件には主に二つの大きな組織が関わっているんだにゃ」

 前置きと共に人差し指と中指を立てる土御門。

「一つはヨーロッパ武偵連盟。連中の言い分は「学園都市の科学者たちの非道な実験の研究材料とされている子供たちの救出」らしい」
「胡散臭いわね」

 率直な意見を投げかける琴里。学園都市には闇がある。それは彼女も知ったことだが、だからと言って今更、大人面して「救出」などと言われても胡散臭いだけだった。

「……確かに学園都市には闇があるのは認める。だが、だからと言ってこの学園都市の問題は学園都市に住む俺たちの問題なんだ。外部の連中に手を出して欲しくないし、今まで見て見ぬフリをして置いていけしゃーしゃーと「助ける」と言われてもとてもじゃないが受け入れられない」

 「ま、椿さんの話じゃ元々違う世界のまったく接点の無い二つの組織らしいがにゃー」と付け加える土御門。上条や浜面、滝壺を似たような気分であった。

「──けど、それは貴方たち学園都市の問題でしょう?私たちには関係ないわよね」

 しかし、彼女たちは学園都市の外部の人間である。はっきり言って何故自分たちがそんなことを聞かされているのかがわからない。「聞いたらもう戻れない」などと理不尽なことを言う者たちには見えなかったが、それでも琴里は警戒を解くことは無かった。

「──おい、琴里」
「あ、いいにゃいいにゃ。本当のことだし。ま、本当にまるで関係なければ言えるんだけどにゃー」
「……どういう意味だい?」

 意味深な土御門の言葉を聞き、意識を集中する琴里と令音。

 精霊という人知を超えた存在を守る側にいる彼女たちにとっては、その力で何かをしようとして精霊を求めるような連中には、到底気を許すことはできない。

 厄介ごとに巻き込まれ、相手の都合で士道や精霊たちを傷つけることなど、自分たち『フラクシナス』がさせるわけがないからだ。

 だからフラクシナスの中でもトップの位置にいる少女と女性は気を張り、次の言葉を待っていた。

 そしてそれはキリトたちにも言えることだった。何故このような「魔術」だの「精霊」だの訳がわからない事態に自分たちが巻き込まれなくてはならないのか。それをそろそろ理不尽に感じ始めていたところだった。

 それらの視線を一点に受けながら、それでも飄々とした態度を変えずに土御門は言い放った。

「いや何。もう一つの組織がDEM社で、学園都市にいる「幻想殺し」を使って何かしようとしている。そして相手方がこの学園都市内でレベル5を巻き込んだ戦争を仕掛けようとしている──ってだけだ」
「「「「!!」」」」

 DEM社。士道たちにとっては最も聞きたくない会社の名前であるが──。それよりも「戦争」というキーワードが彼らを震わせた。

 奇しくも、第三次世界大戦が終わってまだ日も浅い。彼らも「戦争」というキーワードに少し敏感になっていた。

「おい!どういうことだ!?この学園都市で戦争って!?」
「連中はなんとしてもお前の「幻想殺し」を手に入れたいようでな。より捉えやすくするため先ほどの「学園都市の罪を世に知らしめる」というお題目を掲げて、学園都市に突っ込もうとしているらしい。表向きの指令は「学園都市のモルモットとなっているレベル5の7人ともう1人の重要人物の保護」としてな」
「そして連中は攫いやすくするために──学園都市に精霊やVRMMOすらも巻き込む、大規模な抗争を起こそうとしているってことにゃ」







4,







同時刻 学園都市 とあるホテルの一室

「──というわけよ」

 学園都市にある大規模なホテルの一室に、現在武偵校の面々はいた。普通のホテルよりもグレードも高いこのホテルの、更に通常より広い一室に性別体格髪色肌色が違う同年代の少年少女が集まっていた。同年代以外はまるで違う見た目の彼らだが、もう1つだけ共通していることがある。

 そのいきなりの真実の告白からか……全員がいい顔はしていなかったことだ。

「……はっきり言って納得できないね」
『騙したことに関しては本当に申し訳ない。謝ろう』

 と、アリアの携帯電話から1人の男の声がした。

 キンジたちは先ほどまで知らなかったが──その声こそアリアに、しいては武偵校に依頼を入れた、まったく存在など()()()()()()()虚偽の製薬会社の専務であった。

『これは極秘の任務だったのだ。それに元から本当の目的を話したら、君たちが学園都市に入りずらくなると思い──』
「そこじゃねぇんだよオッさん」

 静かな呟きは武藤からの物だった。彼はそのまま、この場の全員の言葉を代弁するかのように、電話の相手に話を続けた。

「武偵の間じゃ罠はハメられる方が間抜けって言われているし、嘘っぱちの会社に気づかなかった俺らにも責任はあるっちゃある」

 「けど」と前置きしながら更に続ける武藤。

「俺らが納得出来ないのは、その本当の依頼ってやつについてだよ」

 一呼吸付き──そして武藤は問題の部分について物怖じせず言い放った。

「なんで俺が──学園都市のレベル5なんてのを誘拐するなんてことしなきゃいけないんだよ」




 色々なことを知った。学園都市外部の者たちが、わざとこの日に合わせて学園都市に誘われたこと。「敵」が東京にある武偵校の武偵に嘘の依頼をし、その手引きを必要とされた最中にヨーロッパ武偵連盟の動きを察知したイギリス清教が土御門に武偵たちの動きを監視させ、必要悪の教会からステイル、追って様々な人員を──それこそ神裂火織すらも──送りこもうとしていること。連中の狙いはあくまで「幻想殺し」だが、中にはどさくさに紛れてレベル5や精霊という戦術級の力を攫おうとしている者もいること。そしてVRMMOを使って、更に場を混乱に貶めようとしていること。

 そして「敵」の一部が統括理事会の1人に化け、レベル5に「自身と自身の大事な物を「保護」の名目で狙う連中がいる」と。

「恐らくあの十字路の出来事すら、レベル5からあそこにいた武偵たちへの戦線布告ってことにされているだろう」

 それを言われている上条の脳裏に自分の服のフードを引っ張って助けようとした少年と自分に倒れこんできた少女の顔が思い浮かぶ。あの騒ぎで細部までは覚えてないが、それでも自分と歳がまるで変わりのない少年少女が武器を持った戦闘のエキスパートの卵(どころか大人に混じって修羅場を乗り越えているものもいるが)だと知り、自分のことを棚に置いて驚いた。

「じゃあなんだ!?麦野たちは攫われるかもしれないってことかよ!?」

 それに何よりも反応したのは浜面と滝壺だ。彼らは『アイテム』という組織に所属しているが、同僚である麦野沈利も、「原子崩し(メルトダウナー)」と言われるレベル5の超能力者である。

「そういうことになる……」

 多分、麦野は襲いかかってくる敵を間違いなく返り討ちにしようとするだろう。更に今回は自分たちが彼女の「戦う理由」になっているやも知れない。彼らは数少ない麦野沈利という女性の友人でもあるのだ。

 麦野の実力は一度相対した浜面も重々承知だ。しかし、同時に彼は、武偵という存在の中に過激な者がいることや、DEM社と呼ばれる存在が国すら動かすことのできる大きな存在であることも知っていた。更に、非合法な実験や人命を犠牲にするのを厭わない、学園都市の闇と同じ面があることを。

「……これは黙って見過ごすわけにはいかないな」

 そして、連中の手引きで学園都市に誘われた彼らも、この話を聞き完全に部外者だとは言えなくなってしまった。

「──けどVRMMOを使ってって──どういうことだ?」

 その都度に精霊や魔術についての説明を受け、混乱し続ける頭の片隅に浮かんだ疑問をキリトは投げかけた。

椿「ねぇキリトくん」

 突然に話題を振られたキリトは椿の顔を見て──続く言葉に絶句した。

「キリトくんはPISって知ってる?」

 ──へ?
 聞き覚えがあり、それが何か分かっているからこそ、「それ」の真意を理解した時に最初に浮かんだのが「ありえない」という思いだった。

「……嘘だろ。もしかして、それで──!?」

 しかし、少年の目の前にいる科学者は少年の理解などの範疇に入る人物では無かった。

 椿キーナ。クリム=コードネスダイク。逢沢霙。イブ。そして先ほどの黒髪の剣士や怪傑、鋼鉄の騎士。彼らは「とある魔術の禁書目録」の世界の住人でも、「ソードアート・オンライン」の世界の住人でも、「デート・ア・ライブ」の世界の住人でも、ましてや「緋弾のアリア」の世界の住人でもなかった。

 まだ上条たちは知らない。この4つ以外にも融合に()()()()()()世界があると。

 だからこそ、彼女はキリトの理解の範疇を超えた。

「見てみたくない?ゲームがリアルを超えるってやつをさ」

 しかし、最後の台詞はクサかったな。とみんな少しは思ったが口にはしなかった。








第九話「アカシックレコード」 完
 
 

 
後書き
2015年 3月 1日
来週からテストのくせに電撃vsの下着イラストと禁書vsデュラに興奮してまるで勉強に手を付けない常盤赤色 
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