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キュクロプス

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2部分:第二章


第二章

「存分にな。さあ出るのだ」
「我等を本当にここから出してくれるのか」
「夢の様な話だ」
「夢ではない」
 ゼウスはこのことも彼等に告げた。
「この光が何よりの証拠だ。さあ、今こそこの場所より出るのだ」
「日の光が我等に与えられているのか」
「これが日の光」 
 彼等は今その光を一つ目で見ていた。
「何と美しいのだ」
「我等は。出られたのか」
 彼等はそのことに深く感激した。太陽の世界に出た彼等は自分達の他にウラノスにより幽閉されていた者達を知った。それは五十の頭と百の腕を持つヘカトンケイルだった。キュクロプス達はゼウス達より大きかったがヘカトンケイル達はその彼等よりも遥かに大きかった。その彼等もまた幽閉されていたのだった。
「我々ではなかったのだな」
「幽閉されていたのは」
「私はそなた達を閉じ込めることはない」
 ゼウスはキュクロプス達とヘカトンケイル達に対して言った。
「自由だ。そなた達は自由なのだ」
 そして彼等に自由を与えた。しかしキュクロプス達もヘカトンケイル達もそれでゼウスの前から去るつもりはなかった。自分達を解放してくれた彼に深く強い恩義を感じていたのだ。
 まずヘカトンケイル達はその百の腕でその時行われていたゼウスとクロノス達の戦いに志願した。そうしてその百の腕で岩石を投げクロノス達を散々に悩ませた。
「ゼウス様の為に!」
「我等を閉じ込めていた者達に復讐を!」
 こう叫びつつ岩を投げ続けるのだった。その威力は凄まじくゼウス達の大きな力になった。そしてそれを見てキュクロプス達も思うのだった。
「我等だけ見ているわけにはいかない」
「そうだ」
 彼等もゼウスの為に働くことを決意した。
「それではどうする?」
「我等も戦いに加わるか」
 最初はこう考えた。
「そしてクロノス達を倒すか」
「いや」
 だがここで。彼等の中の一人が言うのだった。
「それよりもだ。いいことがあるぞ」
「いいこと?」
「今ゼウス達の手には武器がない」
 その一人はこのことに気付いたのだった。
「武器がな。その為クロノス達に苦戦している」
「そういえばそうだな」
「確かにな」
 他のキュクロプスもそのことに気付いたのだった。
「ではここは」
「うむ、我等で武器を作らせてもらおう」
 また一人が言った。
「我々は地の奥深くで生きる為に必要なものは全て作ってきた」
「食べるもの以外は」
 流石にそれだけは無理だったがその他のものは全て自分達で作ってきたのが彼等である。だから自分達の手先の技術には絶対の自信があった。
「ゼウス様達の為に」
「あの方々の為に」
 こう言いあって作ることを決意した。そうして作ったものは。
 まずゼウスには雷だった。何者をも焼き尽くし瞬く間にその相手に届く雷を作りそれを彼に手渡した。
 ポセイドンには三叉の鉾だった。それは海に大津波を起こすことができたし鎮めることができた。つまり海を支配する力だった。
 ハーデスには姿を消す兜だった。これを使えば誰にも見つからずに戦うことができた。この三つの武器を手に入れたゼウス達はその優勢を決定的なものにして遂にクロノス達に対して勝利を収めることができた。キュクロプス達の功績であることは言うまでもない。
「全てはそなた達のおかげだ」
 ゼウスは戦いの功労者であるヘカトンケイル達、そしてキュクロプス達を集めそのうえで労いの言葉をかけた。
「そしてだ」
「そして?」
「何でも望みのことを言ってくれ」
 世界を三つに分けゼウスは天を、ポセイドンは海を、ハーデスは冥界を治めることになった。キュクロプス達はそのうちの長兄にあたるゼウスに対して褒章を貰うことにもなったのだった。
「何でもな。言うがいい」
「何でもですか」
「そうだ」
 ゼウスは明るい声でキュクロプス達に告げた。
「欲しいものは何でもいいぞ」
「それでしたら」
 まず名乗り出て来たのはヘカトンケイル達だった。その百の腕と五十の頭を見せつつゼウスの前に控え述べてきたのだ。ゼウスは彼等の前に立っている。雷をその手に持ち。
「クロノス達は捕らえていますね」
「うむ」
 ゼウスはそのヘカトンケイルに対して述べた。
「そうだ。今彼等はタンタロスに幽閉している」
「あのタンタロスにですか」
「それに相応しいと思うが」
 こうヘカトンケイル達に対して問うのだった。その彼等を幽閉していた者達のことを。
「どう思うか」
「いえ、それでは不充分です」
「そう思います」
 しかしヘカトンケイル達はこう言ってゼウスに異を唱えたのだった。
「怨み重なるあの者達」
「どうしてその程度で済まされましょう」
 それぞれ五十の頭の口で銘々に言う。
 
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