恋姫†袁紹♂伝
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第8話
「……」
曹操達と食事をした後日、私塾に向かう道で曹操に会いその後公孫賛に会ったが、顔を合わせたことで昨日忘れていた人物がだれなのか記憶が蘇り、重々しい空気が流れた。
「そう不貞腐れるな公孫賛、我等は反省している」
「……」
三人で肩を並べ歩いているが、彼女は一向に顔を向けずそっぽを向いている。
――昨日袁紹たちは会計をし忘れて帰ってしまい、全額彼女が負担することになったらしい。
もっとも高級料亭で食事する予定が無かった彼女は、持ち合わせがたりない分の皿洗いをして来ていた。
「だいたい何で会計忘れて帰るんだよ!?」
「我は、孟徳の勧めで行った場所故、彼女の奢りかと……」
言って曹操に目を向ける袁紹
「あら、私は持ち合わせの多いどこかの名族が払ってくれたと思っていたわ……」
そして曹操も袁紹を睨み付ける様に目を向ける
「ってことは二人とも払う気が無かったんじゃないかーー!!」
「「ごめんなさい」」
互いに責任を擦り付け合うような言葉を口にした二人に、業を煮やした公孫賛が憤怒し、あまりの剣幕に二人は正直に謝罪した。
「本当に悪かった。食事代を含め埋め合わせは必ずしよう」
「もちろん私もそうするわ」
「始めから素直にそう謝ってくれればよかったのに、まったく……でも埋め合わせかぁ、うーん」
そう言うと公孫賛は少し考え込み―――
「いや食事代はいいよ、今回は結果的に私が奢った事になったろ?なら今度私に食事を奢ってくれればそれでいいさ!」
二人とも謝ってくれたしな!、と最後に笑顔で締めくくった。
「「……」」
「な、なんだよ?」
そんな公孫賛を無言で見つめる二人に、何か企んでいるのかと怪しむ彼女であったが、そんな考えとは裏腹に二人の視線は感心に満ちていた。
「いや、良き友を持ったと思ってな」
「そうね公孫賛、あなたはいい子よ」
「な!? い、いきなり褒めたって何も出ないからな!」
正直に感じたことを口にした二人であったが、当の本人は褒められ慣れていないのか、顔を赤くし最初と同じようにそっぽを向いてしまった。
そんな彼女の様子が可愛らしく、だが素直に賛辞を受けれない様子を袁紹と曹操は苦笑しながら見ていた。
………
……
…
突然だが曹孟徳は優秀である。幼少の頃から非凡な才を持ち、最近では覇気さえ纏い始めている。
そんな彼女は同年代はおろか年上たちからも疎まれてきた。纏う覇気も原因の一つとして考えられるが、幼少の頃から才覚を見出されれば通常はそれに惹かれる者も出てくるはずである。
だが現在、彼女の周りには夏侯姉妹と新たに友となった袁紹と公孫賛の二人しか近寄る者は居なかった。
―――何故そこまで彼女が敬遠されているのか、袁紹や公孫賛は最初理解に苦しんだがその日、私塾で開かれた戦術の問答でその原因を垣間見る事が出来た。
「―――だから、この教本通りの策では不十分よ」
「まだ言うか曹操!!どこが不十分だと言うのだ!!」
教本に記された戦術の策について意見が対立した曹操と他の塾生達、あくまで教本の策が最善だと言い張る塾生達に対しそれでは不十分だという曹操、問答が堂々巡りになったところで彼女は席から立ち上がった。
「どこへ行く?孟徳」
問答に参加していなかった袁紹は、曹操が扉に手を掛けた所で声をかける。
「帰るのよ、無駄な時間を過ごしたくないもの」
「に、逃げるのか曹操!!」
扉を開ける彼女に、問答で一番食って掛った塾生が言葉をぶつけたが、―――そんな彼を冷たい眼差しで見遣った曹操が口を開く。
「『逃げる』と言うのは、私が発案した策に対して意見する事もせず、思考停止したように無難な教本の策を祭り上げている人達の事を言うのよ、どこかの誰かさんのような……ね」
皮肉が詰まった言葉をその塾生にぶつけると、今度こそ扉を閉め部屋から出て行った。
―――な、なんだあいつは!?
―――あれが曹孟徳の合理主義か
―――でも、さっきの策は理にかなっていたよ
―――机上の空論だ、あんなのは策ではない!
―――ハァハァ
彼女が出て行った塾内は途端に騒然とし、熱くなった塾生達を公孫賛がなだめるように声を掛けていた。
(ここは公孫賛に任せても大丈夫そうだな)
しかし、五十は超えるであろう人数を彼女一人で抑えれるわけも無く、公孫賛はこんな時に頼りになる名族に目を向けたが、そこにいるはずであろう友の姿は無く空席だった。
………
……
…
「あら、貴方も帰るの?」
「……」
自分を追いかけてきた友の姿に、冗談めかしに彼女が言う。
「孟徳、我は」
「連れ戻しに来たのでしょう?残念だけど戻る気はないわ」
そう言って踵を返そうとしたが、
「勘違いするな」
「え?」
「我は孟徳が発案した策の穴を言いに来たのだ」
「っ!?」
予想外の言葉におもわず驚愕の顔を見せる曹操、それもそのはず。先に提示した彼女の策は短時間で考案されたものであったが、どこまでも効率と合理性を追求したものであり彼女の自信作であった。
「……へぇ、じゃあ説明してもらおうかしら」
少し驚いたものの、すぐにいつもの調子に戻る。そんな彼女を見ながら袁紹は口を開けた。
「まず、お主の策には高い錬度を持つ軍が必要となる。そして一昔前ならともかく今の時代にそこまでの軍はそんなにいない」
「……」
「次に、その軍を手足のように使いこなす優秀な将が必要になる」
「でもそれなら、策の穴とは呼べないでしょう?」
「フハハ、策は人なしで成る物ではない、そして彼等の想像する『平均的な軍』と『平均的な将』では孟徳の策が成せる事は出来なかったであろう。」
「っ!?」
曹孟徳は優秀だ、しかし優秀すぎるが故に彼女は周りにも同じ高みの視点を強要していた。
「どうだ孟徳、高みばかりを気にしていては見えぬ事もあるであろう? たまには目線を落として周りを見るのも一興ぞ」
―――我が言いたいのはそれだけだ、と最後に付け加え袁紹は踵を返した。
「待ってちょうだい」
「む?」
「私も戻るわ、今回の件は説明不足な所も有ったし、貴方の指摘どおりに穴もあったもの」
「ほう、では?」
「ええ、非が全て私にあるとは思えないけど、勝手に見下して語ったことに頭を下げる事にするわ」
「それは重畳」
そして二人は肩を並べて来た道を引き返し始めた。
「……」
「……」
その道中で曹操はふと、隣の袁紹に目を向ける。
今まで彼女の考案した戦術や策を、頭ごなしに否定する者は居ても彼のようにその理由を説く者はいなかった。
そのため彼女は多大な鬱憤を溜め込んで来ていたのだが、今回の一件でその原因は自分が相手に要求する水準が高すぎるものだと知り、気が楽になっていた。
(まさか知らず知らずのうちに自分と同じ思考を強要してたとはね……、皆が何かと私を敬遠してきた理由がわかったわ、……それにしても彼はさすがね、それを理解して私に教えることが出来るなんて、私が彼に劣っているとは思えないけど学ぶところは多そうね)
そして袁紹も物思いにふけていた
(一見頑固なようで自分の非は認める器量、さすがは未来の覇王と言う訳か)
二人は互いを評価しあいながら歩き続ける
「……ありがとう」
「ん?」
「な、なんでもないわよ!」
礼くらい言わねばと思った曹操であったが、いざ口に出してしまうと何故か恥ずかしくなってしまい、即座に否定してしまった。
「ほう、孟徳の礼とは貴重な言葉を聞いたな」
「聞こえてたんじゃないっ!!」
「フハハハハハ、お主の声は良く通るのでな!」
「あっ、待ちなさい!!」
突然走り出す袁紹を追いかけ始める曹操、自然と笑みを浮かべておりその笑みは、いつもの他者を見下したような冷たさは無く心の底から笑顔になっていた。
………
……
…
しかし私塾に戻った二人に鬼のような形相で公孫賛が迫ってきたため、二人はまず最初に彼女に謝ることとなった……
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