ハロウィン
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1部分:第一章
第一章
ハロウィン
今日はハロウィンである。それこそアメリカ中がお祭りになる日である。とかく陽気でお祭り好きだという彼等がとりわけ楽しみにしている日である。
子供達はそれぞれ銘々の妖怪や幽霊の格好をして。お菓子をねだりに行く準備にかかっていた。
「ああ、あんたの格好それなの」
「そうなんだ」
日系人の女の子サエコに対して中国系の男の子であるリンチェンが応えていた。見ればサエコは日本の幽霊の白装束に三角の布でありリンチェンがキョンシーの格好である。
「お父さんがこの格好用意してくれてね」
「ふうん、そうなの」
「似合うかな」
あらためてサエコに尋ねるリンチェンだった。
「これで」
「いいんじゃないの?それでボブはそれね」
「うん」
今度は黒人の男の子がサエコの言葉に頷いた。彼は悪魔の格好である。
「これにしたんだ。今年はね」
「いいんじゃないの?似合うわよ」
「そうかな。何か合わないんじゃないかって思うけれど」
「いい感じよ」
少し自信なさげな顔になったボブに対して述べる。
「似合ってるから。安心して」
「だったらいいけれど」
「僕はどうかな」
最後にソバカスが目立つ白人の男の子がサエコに尋ねた。見れば彼はフランケンシュタインである。
「フランケンなんだけれど」
「あんた去年のドラキュラじゃないの」
「趣向を変えてね」
こう答えるのであった。
「それでなんだ」
「去年の方が格好いいけれどね」
「けれどさ。これでも別にいいだろう?」
「まあね。それはね」
サエコは彼の言葉に頷いた。そうは言っても納得はするのだった。
「これでビルがフランケンで」
「あとはカルロスだけだけれど」
ボブが言った。
「あいつまだかな」
「後で合流するって言ってたわよ」
サエコが彼の問いに述べた。
「何でもね」
「ああ、そうなんだ」
「そうよ。だから私達だけで行きましょう」
「よし、それじゃあ」
リンチェンが言う。
「行こうか、皆で」
「ええ、皆でね」
「お菓子を貰いにね」
こうして楽しいお菓子を貰う行脚に出るのであった。まずは適当な家の玄関を叩く。しかしふとその時ボブが皆に言うのであった。
「けれどさ。注意しないとね」
「注意って何が?」
「いや、ここの家の人は知ってるじゃない」
「エマおばさんよ」
サエコ達にいつも優しくしてくれる一人暮らしのお婆さんである。既にそのことは調べて訪問しているのである。彼女達も驚かすというかお菓子をねだる相手は選んでいるのだ。
「だったらいいけれどさ。やっぱり知らない人だと」
「そうそう」
ビルも言うのであった。ここで。
「いきなりドア越しにどかんとね」
「あったよね、ニュースで」
リンチェンも顔を顰めさせて言うのであった。
「そうなったら洒落にならないからね、やっぱり」
「全く。物騒よね」
サエコもそのことに顔を顰めさせていた。
「銃なんて何がいいかわからないわ」
「自分を守る為だけれどね」
「けれど。そこまでいったら」
「極端なんじゃないかな」
男の子達もそう思うのであった。流石にハロウィンでいきなり撃たれてはたまったものではない。だからこそ言うのである。
「まあとにかくエマおばさんはそんなことないから」
「安心してお菓子貰えるね」
「何かな、それで」
こうしてとりあえず銃のことを気にしつつお菓子をねだる彼等であった。
そのお菓子を食べつつ次の家に行ってまたねだって食べて。三軒程そういうことをしていると彼等のところにオレンジのカボチャに三角の目と鼻、それにギザギザの口の人が来たのであった。
「ああ、やっと来たよ」
「遅かったじゃない」
皆はあそのカボチャ頭を見て声をかけるのだった。
「けれどよくここだってわかったわね」
「そうだよね」
サエコとボブが言った。
「やっぱりあれ?追いかけてきたのかな」
「僕達を」
リンチェンとビルはこう考えたが皆もそれは同じだった。こうして彼等はそれで納得してカボチャ頭を迎えるのだった。
「さあ、カルロス」
「カルロスって?」
そのカボチャ頭はサエコに声をかけられて少し驚いた声になっていた。
「僕はジャックだよ」
「ああ、そうね。ジャックね」
彼に合わせてかその言葉に頷くサエコだった。
「そういう役なのね。わかったわ」
「役って。あの、僕は」
「いいからいいから。それにしてもあんたまた徹底してるじゃない」
そのカボチャ頭を見て言うのだった。
「よくできてるわよ、そのカボチャ頭」
「そんなに?」
「ええ、雰囲気出てるわよ」
面白そうに笑って彼に言うのだった。
「ハロウィンに相応しいわ」
「そうだよね。やっぱりハロウィンはカボチャだよね」
「そうそう」
男の子達もサエコのその言葉に頷く。ハロウィンといえばカボチャというこのことは既にお約束となっているのである。それもオレンジで顔を作ったカボチャは。
「カルロスも気が利くね」
「それじゃあ一緒にね」
こうしてそのカボチャ頭が何か言おうとする前に彼等は彼を連れて行くのであった。こうして彼等はそのカボチャ頭を先頭にしてお菓子をねだるのであった。
「トリック=ザ=トリート」
「さあ、お菓子頂戴」
「おいおいおい」
最初に彼等の訪問を受けたおじさんがそのカボチャ頭を見て喜んだような顔になった。
「またよくできてるな、そのカボチャ」
「そうでしょ。私達もびっくりしてるのよ」
「カルロスがね」
「作ったんだよ」
こう笑顔でおじさんに話すのだった。お化けの格好で。
「僕達も驚いてるし」
「だから驚いてよ」
「いやあ、本当に驚いたよ」
おじさんも笑って言う。驚いていることは驚いているがその驚きの内容はかなり違っていた。彼等の怖さに驚いているのではなくカボチャのその出来に驚いているのだ。
「いや、ここまでよくできたカボチャはないよ」
「そ、そうですか」
「カルロスだよな」
おじさんはしきりに褒められて戸惑っているカボチャ頭を見て言った。気のせいかカボチャ頭から直接汗をかいているようにも見えるがそれもよくできたものだと思えていたのだった。
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