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化かす相手は

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4部分:第四章


第四章

「わし等が聞いているのはきんきん声だけじゃったぞ」
「そうじゃ、どうしてそのきんきん声がおらずにこの信長とかいうのがおるのじゃ」
「きんきん声か」
 男はそのきんきん声という名前を聞いて微笑んだのだった。
「面白い仇名じゃな」
「仇名なのか?」
「名前ではないのか」
「すると姿が見えぬその方等はじゃ」
 男はまた彼等に対して問うてきた。
「あれか。織田信長という男は知らぬのか」
「織田信長?そういえばいたか?」
「何か都で名前を聞いたようなそうでないような」
 つまりはよく知らないということであった。
「いたような気がするがな」
「何かしておるのかのう」
「どうにも頼りないのう。まあよい」
 男はここまで聞いたうえでまた声を出してきた。
「それでじゃ。きんきん声をどうしたいのじゃ?」
「それは決まっておる。化かすのじゃ」
「化かすとな」
「左様。何でもそのきんきん声とやらはかなり怒りっぽいと聞く」
「そのうえ今この日の本の国で最も偉い男と聞く」
 彼等にとってはまず怒りっぽいことが前提条件らしい。
「それではじゃ。そうした者なら」
「是非化かして驚かせてやらねばのう」
「また随分と変わった考えじゃな」
 男は彼等の話を聞いてこう述べた。
「普通は密かに殺してしまうとかなるであろうに」
「馬鹿を言え、わし等は人と違う」
「違うのか」
「左様、つまりな」
「わし等はだ」
「あやかしか」
 男の方から言ってきたのだった。
「そうじゃ、あやかしじゃ」
「妖怪だの化け物だとも言われるがそれはよい」
 話が砕けていたせいであろうか。彼等は自分達からこのことを言い出していた。また随分と迂闊と言えば迂闊である。自分達では気付いてはいないが。
「呼び名はな」
「それでじゃ」
 またしてもきんきん声からの言葉だった。
「そのきんきん声じゃがな」
「知っておるのか!?」
「何処におる」
「まあ待て。話を聞くのだ」
 笑いながら彼等に対してまた言う。
「今はおらぬ」
「おらぬだと」
「無駄足じゃったか」
「じゃが。わしからやりたいものがある」
「やりたいものとな」
「それは一体」
「これ」
 ここで彼はぽんぽんと手を叩いて人を呼んだ。するとすぐにあの小姓が出て来たのだった。
「何でしょうか」
「酒を持ってまいれ」
「酒ですか」
「肴とな」
「それは宜しいのですが」
 だが彼はここで難しい顔になるのだった。
「しかし」
「無論菓子や果物じゃ」
 笑ってこうも注文をつけてきた。
「それも酒と同じ位な。よいな」
「そうですか。ならば」
「すぐに山程度持って参れ」
 笑いながらまた小姓に対して述べる。
「わかったな」
「畏まりました」
 こうして彼の言葉に従い酒や菓子が持って来られた。それはすぐに男の前に置かれた。彼はそれを前にして妖怪達に対して告げた。
「ささ、遠慮はいらぬぞ」
「むっ、まさかこれは」
「ひょっとして」
「そのまさかよ。ささ、飲んで食え」
 さらに勧めてきた。
「思う存分な」
「いいのか」
「それで」
「だから遠慮はいらん」
 彼はそれをまた妖怪達に対して言うのであった。
「遠慮はな。だから好きなだけやれ」
「ふむ、それでは」
「言葉に甘えてな」
「わしはこうした時はな」
 男はふと苦笑いになったうえで述べてきた。
「酒は飲めんのだ」
「ほう、意外じゃな」
「飲めんのか」
「うむ、飲めん」
 このことをまた言ってみせる。
「じゃから菓子じゃ。それでもよいな」
「よいぞよいぞ」
「結構なことじゃ」
 妖怪達はまだ姿を見せてはいないがそれでも声は笑っていた。
「騒げればそれでいい」
「ではそろそろ」
「姿を見せい」
 彼の方から妖怪達に告げる。
「そうして楽しくやろうぞ」
「うむ、それではな」
「皆でな」
「今日はあやかしも人もない」
 男もまたもう菓子を手にして上機嫌であった。
「無礼講じゃ。よいな」
「無礼講こそわし等じゃ」
「では遠慮なくな」
「やらせてもらおう」
 こうして彼等は男と共に宴に入った。既に姿を現わし馬鹿騒ぎをやってどんちゃんとやっていた。そして随分と酒も菓子も食べ楽しんだ後で。ぬらりひょんがふと男に言って来た。
 
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