日向の兎
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1部
テンテン2
前書き
今後の展開についてアンケートを実施しているのでご協力、よろしくお願いします
「テンテン、いるか?」
本戦前日、珍しく……違った、初めてネジが一人で私の家を訪ねてきた。ヒジリがいるなら兎も角、ネジだけが来るっていうのは意外ね。
「ええ、どうしたの?」
私が玄関を開けると、そこには両手一杯の紙袋を持ったネジが立っていた。彼の表情はなんだか疲れているように見えるけど、ヒジリにしごかれでもしたのかしら。
「ヒジリ様からの届け物だ」
ネジはその両手一杯の紙袋を私に渡した。渡されて分かった、ネジのこの表情の原因は確実にこの紙袋ね。だって、滅茶苦茶重いもん、これ。
私はそんな事を考えつつ、ふと思ったことを聞いた。
「新しい忍具は試験中は渡さない、現状あるものでやり繰りしろ、とか言ってなかったっけ、ヒジリ?」
忍具で強さが大きく変わる私にとって、中忍試験のような実力試験では現時点で持っている忍具での熟練度によって試されるべきだって事でヒジリと約束した筈だった。その手の約束をヒジリが破るっていうのは少し不自然に思える。
「ヒジリ様曰く、これらは全て、現時点の君ではどうやっても扱えない忍具だ。今後、私が君に渡すはずだったであろう忍具なので、君が生涯をかけて使いこなすべき物と言えるな。
だ、そうだ。使用法などは各々の忍具に添付されているから、あとでそれを読んでくれ」
ネジはそう言って、背を向けて帰ろうとしたので私は思わず呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待った!」
「……なんだ?」
「いやいや、色々突っ込みどころが多すぎるんだけど!?」
「はぁ……じゃあ、さっさとその突っ込みどころを解決してくれ」
ネジはうんざりした表情を浮かべつつ、ゆっくりと振り返って私の方を見た。
「あー……まず、ヒジリはどこ?」
「知らん」
「知らんって……いつも一緒にいるんじゃないの?」
「数日前から屋敷には戻ってないんだ。宗家は我関せずといった態度、木の葉の警備関係に問い合わせても目撃情報はない」
「それって不味いんじゃ……」
普段ならこういう心配はヒジリに必要なんてないけど、今は中忍試験本戦の準備期間、他の里からの妨害工作っていうのもあり得なくはない。それを除いたって、多少異質とはいえ白眼を持っているだけで他の里からしたら十分価値がある。
最悪、上忍数人がかりでヒジリを獲りに行くことだって……
「ああ、先に言っておくと拉致されたとかはないだろう。ちゃんと置き手紙のようなものもあったからな。付け加えるならば、さっき言った忍具に関する事も、そこに書いてあった」
「それを早く言ってよ……」
とりあえず、最悪のパターンだけは避けれたみたいだけど、それでもまだ幾つか突っ込みどころが残っている。
「他には?」
「あのさ、手紙の細かい内容は分からないんだけど、私に向けられた内容がまるで、今後会うことがないって言うようなものに思えたのは私だけかな?」
「今後会うことがないという訳ではないようだが、おおよそその捉え方で正解だ。手紙の最後には数年間は帰る予定がないとあったからな。だが、その理由については不明のままだ」
ちょ、ちょっと待って、数年って中忍試験は受けないってこと?いや、ヒジリの性格なら分からなくはないんだけど、余りに唐突すぎる。
確かに、ヒジリの行動はいつだって突飛だったけど、結果からすれば単に最短経路を突っ切ったものだった。常識とかは完全無視だけれど、理屈は大体間違っていないのがヒジリの行動だと私は思ってる。
ってことは、中忍試験より何か優先しなきゃいけない大事な事があるって事?パッと思いつく事と言えば、ヒナタちゃんかハナビちゃん関係だけど、それだったらネジだって把握できてるはず。
……ダメね、欠片も分かんないや。まぁ、ヒジリの事だから心配するだけ無駄かな?彼女、ほっといても一人でなんでもやっちゃうしね。
「で、ネジはどうするの?」
「何をだ?」
「ヒジリを探さないの?」
「本来ならそれも考えたんだが、俺は俺でやるべき事があるんでな」
へー、ネジがヒジリ以外の何かを優先するなんて、意外ね。
「ヒジリ様からお前同様に渡された物と、習得するべき技を課されているんだ」
「ああ……だから、そんなに疲れてるんだ。まぁ、がんばってね」
「他人事じゃないぞ、テンテン」
ネジは随分と疲れ切った表情を私に向けてそう言うと、欠伸を噛み殺しつつ伸びをした。もしかして、睡眠時間削ってるのかしら?
「これで質問は終わりか?」
私がネジのヒジリから与えられた課題について考えていると、彼は少しうんざりしたような口調で私に聞いてきた。
「あ、うん。ありがとね、ネジ」
ネジを見送って、家に戻った私はいそいそとネジから渡された紙袋を漁ることににした。
いやー、女子としてどうかとは思うんだけど、新しい忍具を開ける時の楽しみは何物にも代え難いよね。特にパッと見ただけじゃ、機能が分かるにくい忍具の説明書を見る時が一番盛り上がるんだけど……うん、熱くなりすぎだ、私。
さてと、新しい忍具は何かな?
……いや、確かに私の好みと言えば好みの初見じゃ分からないタイプの忍具だけどさ、これ本当に忍具?
人の首くらいなら軽く落とせそうな大きな鋏、透明なよく分からない素材で出来た棒、この二つは武器って分かるんだけどこの琵琶と風車は何かな?
しかも、全部触っただけで頭がクラクラするくらいチャクラ持っていかれるし……本当に訳が分からない。
「えっと、とりあえず説明書は……これかな?」
鋏の名前は金蛟剪(きんこうせん)で、琵琶は黒琵琶、風車は万刃車、棒は雷公鞭。習得するとしたら金蛟剪、万刃車、黒琵琶、雷公鞭の順番が良い。
特に雷公鞭に関しては、今の私のチャクラを根こそぎ使っても起動すらできないので、今使おうと思ってもどうやっても無理。
というか、ここに書いてる通りの性能なら、雷公鞭って忍具っていうより戦略兵器の類じゃない。普通なら笑い飛ばせるような事なんだけど、作ったのがヒジリでこの異常なチャクラ消費を考えると、あながち嘘でもないっぽいんだよね。
本当にこんなものどうやって作ったの?これってもう、伝説に出てくる霊器とか宝具の域に片足突っ込んでるでしょ?
他の物も雷公鞭よりはランクは下がるけど、十分常識外れの物ばかりだしさ。
確かにヒジリがこういうのに関して凄いっていうのは知ってたけど、これは流石に異常だよ。下忍レベルじゃないとかそういうのじゃなくて、歴史に残るようなレベルの物を、四つも作ってるっていうのは天才でもなんでもない。
友達のヒジリをこんな風には言いたくないけど、人外の何かにしか思えない。正直、少し怖い。
時々、ヒジリは敵に対してゾッとするくら冷たい眼を向ける。もし、その眼が私達に向けられたらって考えると、生き残れる気がしなかったけれど、この武器を見せられると、里すら危ないんじゃないかとすら思える。
……やめやめ、もしかしたらの事を考えて友達の事を悪く考えるのはやめよ。それに例えヒジリが人外だったとしても、私くらいは友達でいないとね。ヒジリのノリに付き合えるのなんて、私くらいしかいないんだからさ。
「さて、と。じゃあ、次にヒジリと会えた時にも、友達として隣に並んでられるくらいには私も強くなっとかないとね」
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