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結局のところ俺の青春ラブコメはまちがっている

作者:みしん
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こうして鷹巣隆也の間違った青春が幕を開ける

 青春なんて無かったんや!
 俺は心中で叫んだ。
「青春」その単語は聞く人によって様々な意味合いを持つ不思議な単語だ。例えばうら若き乙女には彼氏とイチャイチャしたり友達とばか騒ぎする様な脳ミソハッピーセットな物をイメージするだろうしスポーツに入れ込んでいる者にとっては仲間と力を合わせて汗水流すスポコン的な何かをイメージすることだろう。では、俺みたいな人間はどうだろう。他の人の事は分からないが少なくとも俺はこう思う。「リア充よ、爆発しろ!」と。
 当たり前だがそれでもそんな事を声に出すわけにもいかない。そんな事を口にしてみたら俺が今まで積み上げた交友関係が断たれてしまうこと請け負いだ。といっても俺が積み上げた交友関係なんて大したものじゃない。ただ、特定のグループに所属し話を聞くだけ、時々相槌を打っては当たり障りの無いことを言うだけの無意味な関係。そんなどうしようもない関係を俺はこの一年の学校生活で築いていた。まったくそんな関係を作る自分が嫌になる。嘔吐感MAXだ。けどまぁそこまでしてそんな関係を作る事には勿論意味はある。これは俺が中学校生活で学んだ事に由来する。
 あれは中学1年の時の事だった、当時バカだった俺は思った事を直ぐ口にしちゃう素直な子だった。「べ、別にあんたの事なんて好きじゃないんだからね!」なんてツンデレ的思想はまったく無かった時代だ。自分で言うのもアレだが俺は思想が人とはちょっとどころか結構違う。しかも、子供なんて物は残酷な奴等でちょこっと悪目立ちすれば直ぐに罵倒雑言の的になってしまう。そう、あの夏頃の事、佳奈ちゃんに告白した翌日から俺は叩かれまくって一週間不登校になった。そして帰ってきたらぼっちなっていた、不思議!
 中学では思い出したく無いような事が沢山あるがそれはまた別の話だ。とにかく俺はそれ以来高校に入ったら目立たないようにしようと思っていた。それこそ好きな食べ物は何ですか?と聞かれて「カレー」と答えたりするくらいには目立たない人間になることを目指した。
 事実それは上手く行っていた。先程も述べたように上部だけの付き合いだが一応ぼっちでは無くなった。流石に女子と会話するほどの事は無いが特に不満は無い。誰かと付き合うとか面倒だから嫌だし特に好きな人とか居ないからね。
 学校での成績も上のの中くらいをキープしている。そこそこ頑張ってこれなんだから大したことはないのかもしれない。一年の時に本気で勉学に励む人間はほんの一握りだろうから今はまだこの順位に居られるがこの先は受験もある。本格的に勉強する奴も現れてくるだろう。俺の順位も下がってくるかもしれないから注意しなくてはならないな。
 話が少し逸れたが俺は今の学校生活に十分満足していた。この何も変化のない毎日、別に学校内では少し不満はあるがそれは些細な事だ。家では素の自分をさらけ出しているので特別ストレスも堪らない。これこそ俺の求めた青春なのだろうと思っているしそれに文句も無い。だからこそ、俺が犯した失態は許されざる物だったのだと言えるのだが。
 そんな事を思いながら俺は重く、大きな溜め息を吐いた。
 平塚静という教師に呼び出された俺は放課後一人職員室へと向かって歩いていた。
 普段歩いている廊下。こんな何気ない所でも最近はちょっとした変化が生まれた。
 前方から見知らぬ二人の女子生徒が駆け足で俺の隣を通りすぎていく。俺が知らないのは記憶力が弱すぎるとかそう言うわけでは勿論無く、この学校にも新入生という奴が入ってきたのだ。窓から見える校庭の桜も加わって春真っ盛りであることを実感させられる。
 春というのは出会いの季節でもあると同時に別れの季節でもあるという。さしあたって俺は今日、友人との別れを経験したのだ。
 だからといっていくら過去を後悔しても何も始まらない。俺は過去を振り返るのを止めて前だけを向くことにした。
 そう思った矢先には職員室の目の前まで来ていた。さて、これから起こるのは説教か反省文か。
 俺を呼び出した教師に会いに行くべく扉を作法に乗っ取り3回ノックした。そして扉を開けて室内に入る。見渡すと室内は皆が何かしらの仕事をしていて、入り辛い雰囲気だ。その空気が普段から職員室に来ない俺にとっては少々息苦しく感じる。だからと言って一度入ってしまったものを何もせずに退室するのも馬鹿馬鹿しい。俺は意を決して目的の教師の元へと向かった。
 腰下まで伸びる長い黒髪のストレートヘアーの持ち主である、俺を呼び出した教師の元まで行くと何故かカップラーメンを食べていた。普段着ている白衣は今はイスに掛けられており、体のラインが強調された黒のスーツを着ているのが見てとれる。推測するに白衣にラーメンのスープでも溢したく無かったのだろう。でもスーツに溢した方が不味いって僕は思うな!
 俺の存在に気づいた先生、平塚静(ひらつかしずか)は箸を止めてカップ麺と箸をデスクの上に置いてイス事こちらを向いた。

「やぁ、鷹巣。何故君を呼んだのか分かっているね?」

 平塚先生の諭すような声音に俺は無言で頷いた。ここで分からないという答えはNGだ。「そんな事すらも分からないのか」とまた面倒な説教が一つ増えてしまう。ここは早く帰るためにも分かっていると言っておくのがベターだ。例え納得が行かなくても理解してなくてもそう答えるのが案牌なのだ。
 俺の答えに先生はやれやれと溜め息を吐いた。

「理解はしてても納得はしてないという顔をしているな」

「納得なんて物は当の昔に捨て去りました。世の中理不尽ですから」

 そう、世の中は理不尽なのだ。どれくらい理不尽かというと言われた通りにやった筈なのに何故か先輩に怒られちゃうバイトくらい理不尽だ。あれのせいでバイト止めちゃったんだよなぁ。

「何処を見ている?まったく、君を見ているとつくづく比企谷(ひきがや)に似ていると感じるよ」

 先生は虚空を見つめる俺に対して新しい人物の名前を出した。「比企谷」この名前には聞き覚えがある。たしか今年度から同じクラスになった人物に比企谷小町という人物がいたはずだ。その人物と俺が似ているというのか?
 俺が頭の中に浮かんだ疑問を尋ねることにした。

「その比企谷って生徒は2年F組の比企谷小町さんの事ですか?」

 俺の質問に平塚先生は意表を突かれたような顔をする。

「いや、そういうわけでは無いのだが、彼女はその比企谷の妹だ」

 先生の話を聞いて俺は一つの疑問が解け納得する。妹だとすれば同じ名字なのは当たり前だし家が近いなら同じ学校に通ってても不思議ではない。その比企谷とかいう生徒は平塚先生の教え子か何かだったのだろう。ここで残る疑問はもう一つだ。

「その比企谷って人と俺が似ているってのはどういうことですか?」

 俺の質問に先生は昔を思い返すように空を見つめた。まるで遠い昔を見つめるように。
 先生はふと我に返ると何事も無かったかのように俺を見た。

「君が気にするような事ではないよ。それよりも君に聞きたいことがある」

 先生はそう言って僅かな間を置き試すような顔で尋ねてきた。

「鷹巣!君にとっての青春とは何だ?」

 先生の質問に少しの間答えを考える。数十秒くらい考えていると答えが浮かんできた。

「『嘘』ですかね」

 律儀に無言で待っててくれた平塚先生は俺の答えを聞いて「フッ」と微笑んだ。

「とにかく、君には矯正が必要だとの上からのお達しだ。よって君には奉仕部への入部を命ずる。異論反論抗議口答え一切受け付けないわかったか?」

「いや、ちょっ――」

 平塚先生があまりにも流れるように言うものだから待ってくれと右手を前に出した。それをどう受け取ったのか先生は差し出された俺の右手首をがっちり掴むと人当たりのいい笑顔で俺を見つめた。嫌な予感しかしねぇ。

「さぁ、行こうか。私が案内してやろう」

「先生。それは案内では無く連行と言うのでは?」

「気にするな!私はこうやって君と手を繋いでいたいのだよ。行くぞ!」

 平塚先生は笑って言うと俺を無理矢理引っ張ったまま職員室を後にした。
 まぁ美人の先生に手を繋いでいたいなんて言われて悪い気はしない。けど一つ不満があるとすれば握る手の力強すぎやしませんかね?
 少しくらい抵抗してやろうと思ったんだけどあら不思議、先生の掴む腕の力が強すぎてまったくほどける気がしない。俺は不安と絶望とで胸を一杯にしながらずるずると引っ張られた。
 俺の平穏な学校生活がぁ!

 ◆◆◆

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ昔の話をしよう。この俺、鷹巣隆也はそれはもう平穏な学校生活を送っていた。理想の高校生活、英語で言うとマイハイスクールライフイズベリーピースフル。改めて日本語で言うと平穏な学校生活という奴である。しかし、そんな平穏も今日を持って失われた。
 それは今日の昼休みの事である。俺は昼休み中、特にすることも無かったのでボーッとある一冊のノートを眺めていた。別に友達が居ないからそんな事をしていた訳ではなく俺が飲み物を買いに行ってる間に友達の連中がバスケに行くとか何とか話を纏めたらしくそのまま速攻で体育館に行ったというのを近くの生徒から聞いたため、仕方なくボーッとしていたのだ。まぁ俺の友達の話はさておき俺は一冊のノートを見ていたのだ。ふとしたときに俺がトイレに行くため席を立ったのだがここで悲劇が起きた。俺が席を立っている間に連中が教室に戻ってきており、あろうことか俺のノートを見ていたのだ。そう、俺の「絶対に許さないリスト」をだ。
 このノートにはクラスのありとあらゆる人間の悪口が書かれている。無論それは俺が今まで友人と呼んでいた連中も例外ではない。これを見られた瞬間に俺はぼっち街道まっしぐらとなってしまったわけだ。ふぅん、別に構わん。今まで友達だと思っていた奴だって所詮は上部だけの付き合い。そんな奴といくら縁を切ろうが支障はないのだぁ!と自分を鼓舞してみたがやっぱり辛いものは辛い。そもそも今までは何事も無く過ごすがモットーだったのが唐突にある意味アルティメット平穏なぼっちになってしまったのだ。辛くないはずがない。いや、実際完全スルーだったら問題ない。織れもさして気にせずに学校生活を送れる。しかし、事はそううまくは行かないのだ。奴等は影でこそこそ俺の話をしやがる。俺に聞こえないように話してくれれば良いものをわざとかどうか俺に聞こえる様に言ってくるもんだからたまらない。まぁそんなのは一時の間にだけだろうから暫く待てば止むだろう。まぁとにもかくにも俺の絶対に許さないリストがクラスに出回ったとあう話がなんやかんやで教師にまで行き渡りこうして平塚先生に呼び出され、現在連行されているというわけだ。
 さて、取り合えず腕が辛いからそろそろ放してもらわねばならない。

「先生、別に逃げたりしないんで放して貰えますか?ほんと、お願いします!」

 俺の必死な懇願に先生も何か感じるものが有ったのか拘束を解いてくれた。
 俺はひとまず安堵の息を吐く。
 平塚先生はそんな俺を微笑み混じりで見守っている。先生は一体何を考えているのか、少し情報収集する必要があるな。たしか奉仕部とか言ったか……。

「奉仕部ってなんなんすか?初めて聞くんですけど」

 俺の質問に先生は少し残念そうな顔になった。

「そうか、知らないか。まぁあまり目立つような事はしてないからなぁ」

 俺が先生をジト目で睨むと居心地が悪いの
 か咳払いをした。

「詳しい話は歩きながらしよう。ついてきたまえ」

 そう言って先生が俺の前を歩き始めた。ここから逃げ出すという選択肢も無くはないがそうした場合俺がどんな目に遭う分かったもんじゃない。この人の言うことを逆らった場合どうなるか流石に一年間も同じ
 学校にいれば分かってしまう。
 そんな事を考えていると平塚先生の声が聞こえてきて意識が現実へと引き戻される。

「奉仕部というのはな、人を奉仕する部活だよ」

 なるほど、分からん。そりゃ奉仕部って言うくらいだから奉仕する部活だろ。いや、まて。ここで思考停止で文句を言うにはまだ早い。ここは一つ、発想を変えて奉仕とは何かという所から考えていこう。
 そもそも奉仕なんて単語は一高校生が日常的に使うような単語であるはずがなく、年に一回使えばいい方である。我々お金のない凡人が受けることの出来る奉仕なんてメイド喫茶のメイドさんくらいのものである。まさか別名メイド部なんて物では無いだろうし一体全体なんなんだか。

「着いたぞ」

 俺が連れてこられたのはこの学校の特別棟にある一室だ。本来その教室の用途を示すプレートには何も書かれておらず代わりに頭の悪そうなシールがいくつも貼られている。その事が余計にその教室の不気味さを醸し出していた。
 俺は訝しげに教室を眺めていると平塚先生がノック一つせずに扉を開け放った。

「邪魔するぞ!」

 室内は何の変鉄もない教室だ。教室の真ん中辺りには一つと長机が置かれておりその机に向かって幾つかのイスが置かれている。
 そのイスには二人の女性が座っていた。
 一人は窓側に位置する場所に腰かけている。右手で頬杖を突き余った手でスマホを弄っている少女は黒髪のショートヘアーで人懐っこそうな顔をしている女性、俺も知っている人物、》比企谷小町《ひきがやこまち》だ。対してもう一人の女性は俺の記憶に無い人物だった。比企谷の向かいに座る彼女は茶髪の背中辺りまで届くストレートヘアーをしており顔立ちは整っている。今は何かしかの文庫本を読んでいるようだ。
 二人は平塚先生の登場で一斉に入り口に視線を向けた。平塚先生はその内の一人、比企谷に目を向け声をかけた。

「比企谷妹、依頼だ。こいつを更正してやって欲しい」

 依頼を聞いた比企谷は面倒臭そうなジト目で先生を睨んだ。

「何で小町がやらなきゃいけないんですか?」

「彼は鷹巣隆也、根性が根っこから腐っている比企谷みたいな奴だ。君はそういう奴の扱いに慣れているだろう?」

「まぁ、小町はあのお兄ちゃんの妹だからぁ、更正させるくらい簡単ですよ?でも小町にも何かメリットがないとやる気でないですよ」

 平塚先生の依頼に比企谷は嫌そうな顔で文句を言った。てか教師相手に交換条件要求するのってどうよ?
 それに対して平塚先生は重い溜め息を吐いた。

「部活なんだからメリットを求めるな。とにかくやってもらうぞ」

 平塚先生の無理矢理な命令に比企谷は心底嫌そうな顔をする。しかし、すぐにキラキラした顔に早変わりした。

「冗談ですよ。喜んでさせて頂きます。今の小町的にポイント高い」

 比企谷さんはなんかポイントを稼いでいた。何に使うんですかね?
 俺の疑問をよそに話は進んでいく。

「とにかく頼んだよ、比企谷妹。それに舞浜(まいはま)も」

 平塚先生に呼ばれた舞浜というらしい少女は先程まで我関せずと読書に勤しんでいたが名前を呼ばれたからか本をパタリと閉じて先生を見た。

「私もですか」

 何処か自信無さげな言葉に先生は安心させるように優しい声で言った。

「君はまだこの部活に入ったばかりだ。この仕事でどういったものか体験しておくといい、それでは後はよろしく頼むよ」

 先生はそう言って教室を後にしようとした。しかし、言い残した事でもあるのか扉の前で顔だけをこちらに向けた。

「そうそう、鷹巣はこの部活に入部することになった。だからこの依頼は気長にやってくれ。それじゃあな」

 そう言い残し先生は軽く手を振って扉を閉めた。言い残してから扉を閉めるまでの動作があまりにも滑らかかつ一瞬だったので誰も何も言葉を発せずに謎の静けさを生んでいた。
 え、どうすんのこれ?いや、さっきのやり取り普通に聞いてたけど何なの?奉仕部って結局何よ?てか俺歓迎されてないじゃん!歓迎度0だよ!?だってあれだもん、比企谷はスマホ弄ってるし舞浜と呼ばれた子はまた読書再開しちゃってるもん。どうすんのよこれ……。

「あのー……」

 とにかくこのままでは居心地が最悪だ。せめて何か状況が変われと思い意味もないような言葉を発した。 しかしそんな言葉でも反応してくれる人はいたようだ。彼女はスマホから俺へと視線を移した。

「あぁ。まぁ座りなよ隆也君」

 そう言って手頃な席を指した比企谷の指示に従い、いそいそとイスに腰掛けた。
 俺は取り合えずほっと一息吐く。ともあれ情報を整理しよう。俺は平塚先生に連れられて奉仕部なる部活に入部することになった。そこは比企谷小町、何かと話に出てくる平塚先生が『比企谷』と呼ぶ人物の妹と、舞浜と呼ばれている二人の女性がいる部活だ。もしかしたら他にも部員はいるかもしれないがその辺りも聞いてみるといいかもしれないな。

「あの、質問してもいいすか?」

 俺の質問に比企谷は人当たりのいい顔で答えた。

「ため口でいいよ、それと、質問もオーケー」

 比企谷の許しを得たので質問をすることにした。ついでに口調をため口に切り換える。

「あまり詳しい話聞かないで連れて来られたんだけどどんな部活か詳しく教えてくれない?」

 俺の質問に比企谷は腕を組んで悩む素振りを見せるとわざとらしく掌を打ち何事か思いついたようなポーズを取った。

「小町閃き!」

 わざわざ言葉に出して頂きありがとうございます。僅かな間の後比企谷は うんうんと頷いた。

「まずは自己紹介からしようかな」

 そう言って立ち上がった比企谷は明るい笑顔を見せた。

「知ってると思うけど名前は比企谷小町、趣味は……料理とかかな。はい、次舞ちゃん」

 そう言って比企谷は席に着いて舞浜を見た。視線に気付いた舞浜はやりたくないのか軽く比企谷を睨む。しかし、ダメだと比企谷が首を横に振る。それで諦めがついたのか渋々席を立ち上がった。

「私は舞浜舞(まいはままい)、国際教養科2年J組よ。趣味は読書かしら」

 それだけ言って席に座った。なるほど、国際教養科なら俺が知らないわけだ。
 国際教養科は俺たち普通科より2、3偏差値が高い。そして何よりその殆どが女子で構成されている。当然俺が近づける様な場所ではなく、俺がその中の人を知ってる人が誰一人居ないくらいには縁もゆかりも無い場所だ。
 唐突に視線を感じその方を見た。見ると、比企谷が俺を睨んでいる。わりと真顔で睨むもんだから「ひぇ」なんていう変な声が出そうになってしまう。
 そんな事を思っていると比企谷はおもむろに口を開いた。

「君も自己紹介しなよ」

 比企谷に言われて半ば反射的に立ち上がった。

「えーと鷹巣隆也です。趣味は~ってか結局ここはなんなの?」

 俺の質問に比企谷はやれやれと外国人張りにかぶりを振った。

「ここは奉仕部。君の様な残念な人を助けるまぁボランティアでやる慈善団体だと思ってくれればいいよ」

 比企谷の説明に「はぁ」と頷く事しか出来なかった。どうやら説明は終わったらしくまたスマホを弄り始めた。推測するに依頼とやらが来るまではこうして暇潰ししているらしい。なら俺もこの時間を有意義に使うとしよう。
 ひとまず席に座る。俺も比企谷を見習い、ポケットからスマホを取りだしネットサーフィンを始めた。
 時計の分針がカチリと数回鳴った時の事だ。突然物凄い勢いで扉が開け放たれた。何事かと室内の全員が扉に視線を向けるとそこには平塚先生がいた。

「なんだ、お前ら!静かすぎだろ!もっと騒げよ!高校生だろ!」

「いや、そう言われましても……」

 何?静せんせいだから静にしろと?
 平塚先生の必死な言葉に思わずたじろぐ。俺に同意してか比企谷も不満そうな顔をした。

「平塚先生、そこは個人の自由じゃないですかね?」

「そうね、無理して騒ぐほどじゃないと思うわ」

 比企谷の言葉に舞浜も賛同した。その二人の様子を見た平塚先生はしょんぼりとした顔をする。

「そうか、まぁそうだよな。結局君らは他人同士だもんな」

 何か凄いこと言われている気がする。事実皆他人だけども。
 なんか先生を見ているといたたまれない気持ちになってしまいついつい声をかけてしまった。

「まぁ、元気出して下さい先生。いつかそんな日も来ますよ」

 そんなこと毛ほどにも思っていないが、それで平塚先生が元気になるなら文句は無いだろう。しかし、先生は俺の予想の斜め上を行く反応を見せた。

「そうだよな。よし決めたぞ、今からバトルロワイヤルを実施する」

「はぁ?」

 平塚先生の唐突な宣言に俺だけでなく他の二人も似たような反応を示す。 先生はそんな視線を意に介さずに話を進めた。

「三人の中で最も奉仕できた人物は他の二人の様子をどちらか一方に何でも命令できるというルールだ」

 なんでもというのは所謂なんでもという事ですよね?ゴクリ。

「今やらしいこと考えてたでしょ?」

 比企谷に言われて俺は首を横にブンブン振った。そんなあれだぞ、世の男子高校生がそんな卑猥なことばかり考えてる訳じゃないぞ。例えば、環境保護とか?あとは得に無いな。

「何でも」

 俺の他にも一人、舞浜が『何でも』という言葉に反応した。舞浜の反応を見た比企谷は溜め息を吐く。

「その勝負、引き受けましょう」

 俺たちの反応を見た先生は満足気に頷いた。

「それでは始めよう。ガンダムファイト・レディ・ゴー!!」

 ガンダムファイトってなんだよ、俺ガンダム詳しくないから知らないんだけど。
 俺達は皆平塚先生に微妙な表情を送っている。そんな注目の先生は凄い悔しそうな表情をしている。

「小町はSEEDの方が好きですねぇ」

 小町は一人呟いていた。

「やはりロボトルファイトの方が良いのか?そうなのか」

 平塚先生は平塚先生でブツブツと独り言を言っている。何なんだよロボトルファイト。
 舞浜に至っては何事も無かったかのように読書を再開する。
 俺はどうしようもない空気になってしまったのを察しつつ先生に尋ねた。

「詳しいルールとかはどうなってるんすかね?」

 俺の質問に先生は何故か胸を張った。その……無駄に大きいバストが強調されて目のやり場に困るからやめて欲しいな。

「勝負は私の独断と偏見で結果を下す。まぁ適当に……適切に頑張りたまえ!」

 先生はそういい残して教室を後にした。その最中「比企谷達よりはいい反応だったかな」なんて呟いている。先生に何が有ったのか考えていると下校を告げる合成音の様なチャイムが鳴った。

「それじゃあ今日は解散って事で!」

 比企谷がこれで終わりと言うかの様に手を叩いた。それが合図だったのか舞浜は文庫本を片付けると「さようなら」とだけ挨拶して教室を後にした。俺も帰ろうかと立ち上る。今更だが荷物の類いは全部教室に置いていったままなのだ。面倒だが取りに行かないと帰ることすらできない。俺はひとまず部室を後にした。

 ◆◆◆

 教室へと向かう廊下で俺はふと窓から外を眺めてみた。空は茜色に輝き夕日がなかなかに綺麗だ。
 外の景色を見るのもほどほどにして俺は目的地を目指すことにした。皆既に下校したのか殆ど生徒を見かけない。それはそれで気楽に動けるから嬉しいのだが附だ湯人がいるところに人が居ないというのは少し寒々しいものがある。最も目的無しに学校に残られたら鬱陶しいだけなのでやっぱり人は当たりの居ない方がいいかもしれない。そこで一つ、問題が有った。

「何で付いて来てんの?」

 俺は立ち止まり後ろを振り返った。すると俺の後ろにいた彼女も足を止めて後ろを振り返った。

「いや、貴女だからね?」

 俺が言うと比企谷は「イシシ」と笑った。

「それはモチロン、君と話がしたいからですよ、隆也君」

 そう言って比企谷は満面の笑みを浮かべる。俺はその顔にあまりいい気分はしなかった。

「それはなんだ、今日の事件の事でも気になってるの?」

 意識せず声音が攻撃的になってしまった。比企谷も俺と同じクラスならほぼ間違いなく。今日の俺のぼっち化事件を知っていて、俺の事は問題児だと理解しているはずだ。そんな俺にちょっかいを出してくるのはおちょくりたい奴くらいだろう。流石にそんな奴を相手にすると思うと声も鋭くなってしまう。部室では特に触れて来なかったから問題は無かったがわざわざ地雷を踏みに来たんなら何か一言くらい言ってやろうか。
 なんて言おうか考えていると、比企谷は何とも言えない表情で後ろ髪を掻いていた。

「なんていうかさぁ、あんまり気にしない方が良いよ?」

「はぁ?」

 比企谷の意外な言葉に思わず聞き返してしまった。しかし、比企谷は特に意に介した様子もなく笑顔を見せた。

「あの程度でヘコタレてたらきっと身が幾つ有っても足りないよ?」

 比企谷の優しい?言葉に俺はすこしだけ警戒心を解いた。こいつはそこまで悪いやつじゃないのか? 俺がそう思った矢先意外な一言が飛んで来た。

「小町が友達になってあげよっか?」

 彼女の優しい口調に俺は言葉を詰まらせた。
 友達か……、別に今更友達が欲しいなんて言うつもりは無いし思ってもいない。所詮上部だけの付き合いなのだから居ても居なくても変わりはしない。今までは平穏を保つべく仕方なく作っていたが今はその必要は無い。なら友達になる理由も無かろう。
 断ろうと思い口を開きかけるが先に比企谷が声を出した。

「今の小町的にポイント高い!」

 いつの間にかポイントを稼がれていた。

「いや、別に友達とか要らないから」

 やっとの思いで出た言葉に比企谷はまた愉快そうに笑った。

「行こっか」

 そう言うと、彼女は俺の一歩前に出た。俺は彼女の二歩くらい後ろを付いていく。
 比企谷も教室に用が有ったらしく、教室に着くと自分の机から何かしら荷物を取り出し始めた。
 俺の席は教室の奥側にある。対する比企谷は入り口に近い。元々荷物をある程度纏めていたにも関わらず比企谷の方が先に教室を後にした。だからといって何も問題は無い。俺は荷物を手に取り教室を後にする。しかし、何故か教室を出たすぐの所で比企谷が待ち伏せていた。
「何?」と視線だけで問うと、比企谷は無言のまま歩き出した。それはこの俺について来いと言っているような気がした。
 別に一緒に行く義理は無いが何となく後ろをついていく。玄関まで行き、靴を履き替えた所で比企谷が口を開いた。

「隆也君はほんとお兄ちゃんに似てるね」

「いや、お兄ちゃんとか言われてもわからないから」

 比企谷の兄、確か平塚先生も同じような事を言っていたと思う。比企谷小町の兄は一体どの様な人物なのだろう。大体似ているなんて何を根拠に言ってるんだ。俺の事なんて赤の他人がどれ程理解しているだろうか。俺の事を理解しているのは俺だけだ、他の誰に理解されてたまるか。

「多分だけど似てねぇんじゃねぇかな」

「そっか」

 俺の言葉に比企谷は楽しそうに頷いた。比企谷も自転車通らしく一緒に自転車を取りに行き何だかんだで一緒に校門を出た。
 二人とも無言で自転車を漕いで行く。少しすると、一つのT字路の分かれ道についた。

「んじゃ、俺こっちだから」

「ん、じゃね」

 二人とも素っ気ない挨拶だけして道を別れた。
 今日は散々だった。ぼっちになるわ変な部活に入部させられていきなりバトルロワイヤルとか何とか、一体俺の未来はどうなることやら。
 俺はチラリと後ろを振り返った。もうすでに、比企谷は見えなくなっておりそこには誰の姿も無かった。 
 

 
後書き
まずはじめに、読んで頂きありがとうございました。
勢いだけで書き始めた俺ガイルの二次創作です。できるだけ頑張りますがキャラ崩壊等あるかもしれないですが多目に見てくるると嬉しいです。
また、この後書きで原作の自分の解釈なんかを書いていけたら良いかな?と思います。まぁ大した事は書けませんが。
それではもう一度、読んで頂きありがとうございました。 
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