| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

始まりはこの日から……

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

夢と現実の境界線

 
前書き
あの女の話です 

 
酷い頭痛で目が覚める。
碌な事の無い人生の新たなる朝をまた迎える。
昨晩の自棄酒は度を超しており、私の体内はカオス状態だ。

「うぇ……きもちわる……これは迎え酒の出番のようね」
そう独り言を呟いて起き上がり、散らかりきった部屋を出て、やはり散らかりきった台所へと向かった。そこに行けば冷えたビールがあるからだ……冷蔵庫に。

冷えたビールを手に布団まで戻ろうとするが、足がもつれて真っ直ぐ歩けない。
盛大に転びそうになったが、何とか踏ん張って体勢を整えようと試みる……が、
(バギッ!)という音と足の裏に痛みを感じ、結局スッ転んでしまった。

「いたたたた……何を踏んだ!?」
散らかった部屋で転び積み上げてた本やらCDやらに雪崩を起こさせても景色に代わり映えはなく、何を踏んだのかさえ不明のままだ。

「くそぅ……昨晩の深酒の所為で……」
そう独り言を呟いて昨日の出来事に怒りを蘇らせる。
そう……華の金曜日だという昨日の出来事を。

時計の針は16時50分を指し、もう少しでこの面白味のない仕事から解放されそうになった時……
(つぼね)のババアが『大神(おおかみ)さん。ちょっと残業をお願いします』と声をかけてきやがった。
顔を顰めババアに視線を向けると、

“どうせ今夜も予定はないのでしょう?”と言いたそうな面で私を見下ろすババア。
その後方3メートルにはニヤニヤこちらを伺う後輩OL4人の姿が……
どうやら奴等が終わらせられなかった仕事を私に押し付けてきたらしい。

『これ……あの()達の仕事でしょう。あの()達に残業させるのが筋なんじゃないですか?』
『仕様がないでしょ、彼女達はこの後予定が入ってるのよ。貴女は普段から残業せず直ぐに帰ってしまうのだから、偶には残業代を稼ぎなさい』

余計なお世話だ馬鹿女共!
私は就業時間内に自分の仕事を終わらせてるんだから、他人に残業の事を言われる筋合いはない。……尤も、他人の仕事を一切手伝わず、ひたすら自分の仕事だけを終わらせただけだけどね。

『ごめんなさぁい大神先輩~』
『私達ぃ……如何しても外せない予定がありましでぇ~』
『先輩なら休み前の金曜日だって予定はないでしょう……ですからお願いしますぅ』

余計なお世話だアバズレ共め!
何が“外せない予定”だ!? 昼休みの会話を私は聞いてたんだぞ……
『今夜、彼氏とデートなのぉ♥』とか『私達は合コン!! ちょ~気合い入ってまぁ~す』とか……

勿論私には彼氏なんぞ居ないし、合コンの予定もない!
仮に合コンに誘われたって、私の好みのタイプが居るはずないのだから、行く訳がないのだ!
万が一にも私のタイプが居たら……全員逮捕されるわ!

私のタイプは11~12歳の美少年……
えぇ……成人式を遙か昔に終えた私には犯罪になる年齢がタイプさ!
そんな子を合コン()の席に呼べるはずもなく、自宅で酒飲んでアニメグッズに囲まれてる私に、予定などあるはずないさ!

でも何で他人(ひと)の性行為の為に、私が残業をしなきゃならないんだ!?
今夜予定が入ってるのなら、日中に死ぬ気で仕事を終わらせりゃ良かったんだよ。
『え~これ分かりませんー♥ 如何やるんですかぁ?』と、若い男性社員に色目を使ってるから終わらないんだよ!

そんな憤慨を沢山抱えていたが、サディスティックに人生経験を積んできたお(つぼね)(かな)うハズもなく、渋々他人の仕事で残業する事になりました。
只でさえ楽しくない仕事を、より楽しくない状況で終わらせます。そして気付けば21時……しかも外は大雨!

怒りの収まらない私は“大神(おおかみ)麻里(まり)”と書かれた自分のタイムカードをレコーダーに叩き付ける様に通し、プンスカプンの状態で会社を出る。
まだ怒りの収まらない私は、守衛に怒鳴り付ける様に『お疲れっした!』と挨拶をし、プンスカプンプン状態で電車に乗る。

まだまだ怒りの収まらない私は、自宅の最寄り駅近くの居酒屋に入り、ドスの効いた声で『生、大ジョッキで!』と告げ、プンスカプンスカ一気飲みをする。
一向に怒りの収まらない私は、『麻里ちゃん何かあったの?』と聞いてくる居酒屋のオヤジに『うるせー黙ってお代わり持って来いやー!』とプンプンスカスカドカンな態度で接した。

私は酒が強いので、酔って記憶を無くす事はない。
だが脱ぎ上戸であるらしく、ある一定まで酔うと始末が悪いと周囲からは言われる。
しかし安心したまえ……私はまだ処女だ。

脱いでも襲われた事はない……
まぁ美人じゃないから……ね……
化粧っ気も少ないし……ね……

ってなワケで、怒りの記憶をプレイバック。
マッパで散らかった部屋の散らかった荷物の中に埋もれる私。
気を取り直して手にした缶ビールを一気に空ける。

「ぷはぁ~……よし、これで真っ直ぐ歩けるだろう!」
向かい酒で意識のハッキリしてきた私は、壁に掛けられたデジタル時計に目を移す。
そこには14時30分と時刻を表す物体が。

「げっ、もう昼過ぎてんの?」
まぁ別に予定がある訳じゃないから、今が何時でも問題ないんだけど……
そう思い周囲を見渡すと、大量の荷物で埋もれたテーブル(があると思われる場所)には、通勤用に使ってる鞄と返却予定が本日のアニメDVDが!!

やっべぇ~……本当は昨日の帰りに返そうと思って鞄に入れて会社に持ってったのに、怒りに忘れて飲んで帰ってきちゃった。
延滞料金は払いたくないし、どうせ予定は何も無いから返しに行こう。

それに今から行けばTS○TAYAへの途次にある小学校で、サッカー少年達が練習をしてるはずだ。
半ズボンの可愛い少年達が、私の為に太ももを露出させ若さをアピールしてるはず!
今夜のオカズ用に写真も撮っておこう。

そうと決まれば素早く行動。
部屋の端に積み重ねてある衣類の中から、わりかし綺麗な物を選び即座に装着。
枕元に置いてあったスマホを掴むと、ダッシュで外出!

んで気付く。
「レンタルDVD忘れた!?」
と……

慌てて室内へ戻り、放置状態のレンタルDVDをTSUT○YAの袋ごと掴み、クイックターンで方向転換。
しかし何かを踏んでしまい激しく転倒!
積み重ねてあった漫画の山にダイビング。

だが美少年達の太ももを愛でたい私は元気よく立ち上がり再出発。
築年数が私より先輩なボロアパートを勢いよく呼び出して、いざ行かんサッカー少年達のパラダイスへ!
……と思ったけど、鍵をかけ忘れて再度Back。

何度か邪魔が入ったけど、もう忘れた事はないだろうから目的地までルンルン行進。
サッカー美少年達の楽園までは徒歩で15分。死ぬ気で走れば約5分。
スキップ行進の私は8分で到着だ。

そしてそして桃源郷に到着しました。
ウキウキ気分で校庭を見れば……
ダ・レ・モ・イ・ナ・イ……?

如何いうこっちゃと校庭を睨み付けて答えが降りてきた。
昨晩の大雨でグランドコンディション最悪。
“こんな状態じゃサッカーは無理だよね”って声が聞こえてきた様な気がする昨今……

ションボリとした足取りで、ここから徒歩20分のT○UTAYAまで30分かけて到着。
取り敢えず返却だけは済ませ、店内を物色。
この沈んだ気持ちを変えたい私は、頭脳は大人のまま子供になった名探偵に憧れを寄せ、レンタルする事に……

私もアノ薬が欲しい。
今の記憶を所持したまま、また子供からやり直したい。
そして美少年を喰べちゃいたい! 下の口で♥

な~んつって欲望丸出しの妄想しながらレジに並んで気が付いた。
私……財布……持ってきてな~い!!
まぢかよぉ~……

レジの女店員が怪訝そうな目で見る中、商品を元の場所に戻して店から出る。
はぁ~……なにやってんだ私?
昨晩から碌な事がないわ。

仕様がないから帰宅の途につく……が、如何しても気分転換をしたい私は、金がなくても大丈夫な場所を思い出す。
それは私が以前バイトしてたカラオケボックスだ。バイト禁止な会社に黙って働いてた為、バレて止めざるを得なくなった店だ。

高校を出て今の会社に入ったのと同時に始めたバイトなので、現在の店長よりも古株な私は、後日支払うツケが利く。
踏み倒す事など有り得ないという信頼があるから、顔パスで利用させてもらえるのだ!

ルンルン気分が戻った私は、早速(くだん)のカラオケボックスへ直行!
店の駐車場を眺めると、知人店員の車が数台……こりゃ問題なくツケで歌えるわね。
そうほくそ笑んでると、見慣れない高級車が目に入った。

そんな高級な店じゃないし、金だけは持ってる馬鹿共が来る店じゃないんだけど……
車の事は詳しくないが高そうな車だ。
青色で“レクサス”ってメーカーの車……しかも新車!

客の車だろうか?
店員でこんな高級車に乗れそうな奴は居ないし……
この時間は客が少ないんだけどなぁ……

こんな場末の店に来るなんてどんな物好きだ?
顔でも拝んでやりたくなったので、早速入店する。
そして店員に目で挨拶をしジェスチャーで“歌える?”と語りかける。

案の定ツケでOKをもらえたので、受付カウンター内にある防犯モニターに目を移し「外に止まってる高級車は、どの客の?」と尋ねた。
すると私には及ばないが古株店員の佐藤が「このカップルのじゃね? 今はコイツ等しか居ないから……」と言ってニヤニヤ答えてくれた。

何が楽しいのか薄気味悪くモニターに見入ってるから、その訳を聞いてみると……
「コイツ等イチャイチャしながら入ってきてさ……もう少し待てばラブホと勘違いして始めるぜ」と申告。
まったく……神聖なカラオケボックスを何だと思ってるのか!?

そう憤慨しながら私もモニターに目を向ける。
そして思う……イチャりたい気持ちも解る。
男は平凡な容姿だったけど、女の方は(すげ)ー可愛い!

黒い髪をポニーテールにして、胸の谷間を強調させた服を着ており、赤いタイトなミニスカートからはみ出る白いフトモモと、コントラストな黒いニーソックスを穿いた女は、男共のオカズ対象でしかないだろう。

きっとあの高級車は、この男の車に違いない。
でなきゃこんな良い女が付き合ってくれるはずないから……
金だけは有るボンボンなんだろうなぁ……でもその金だって親のだぜ、きっと。

あの女も、頭はスカスカなんだろうけど見た目だけで良い人生を歩んでるんだろう。
馬鹿な金持ちを引っかけて、処女の安売りで安楽人生をゲットしたのだろう。
……死ねばいいのに。

まぁいい……私は私で歌を楽しむだけだ。
佐藤が後輩の大石に命令し、私をあのカップルの隣の部屋に案内させる。
本音を言えば離れた部屋にして欲しかったけど、ツケで歌わせて貰うので文句は言わない。

暫く一人で熱唱し、満足感を味わう。
佐藤が気を利かせてウーロン茶をサービス(っても後日支払わされる)してくれたので、何やかんや2時間程歌ってました。

流石に疲れたので終了する事に。
しかし隣の部屋のカップルは、まだ歌ってました。
私より先に来てて、私より長く歌い続けるって……本当に中でヤってたのか?

「ねぇ佐藤……アイツ等、本当にシたの?」
思わず受付で性行為があったのかを確認します。
「それがさぁ……シないんだよ」
と残念そうに報告される。

「あの男……一人で4時間以上歌っててさ、しかも上手いんだよ! 飲み物を届けた時とかに聞いちゃったんだけど、凄い歌唱力なんだよ!」
交尾シーンを見る事が出来ず、ガッカリしながらも些か興奮気味に男の歌唱力を評価する佐藤。

「あ、そ……」
ヤってないんなら興味ない私は冷めた返事で佐藤の言葉を流し、明日支払いに来るからと念を押して帰路につく。

正直言えばビールでも飲んで帰りたいのだけど、金のない私は素直に自宅へ直行。
家の冷蔵庫にも冷えたビールがあるだろうから、今日はそれで我慢だわ。
昨日からのゴタゴタも歌ってストレス発散したので、あとは家でDVD観賞しよう。

そう思い(言い聞かせ)ながら駅前商店街通りを歩いてると、昨晩飲みまくった居酒屋からオヤジが顔を出し、「お、グッドタイミング。麻里ちゃん、昨日財布を忘れてったよ」と声をかけてきた。

「マジでか!?」
家にじゃなくて居酒屋に財布を忘れてきたのね!?
いやぁ~助かったわぁ。何が助かったって、今日もビール飲んで帰れるって事よ!

そうとなれば即行動。
オヤジに礼を言い、生ビール大ジョッキを注文。
イッキにそれを飲み干し宴の開始だ。



そして3時間……


とっても良い気分で自宅に歩を進める。
今度は財布を忘れず持ち帰りましたよ。
でも店内で脱いだ上着を忘れて、今上半身ブラのみ(笑)

途中何人か驚いた目で見てきたけど、そんなの気にしたら負けだと思うので、気にせず自宅へ千鳥足で帰ります。
帰宅後そっこーでビールを取り出し一気飲み。

気分が良いので当初の計画通りアニメを観賞しようと、DVDが積んである壁際に近付く。
すると“バギッ!”という音と共に私はバランスを崩す。
また何かを踏んだらしく、何とか転ばない様に体勢を整えようと試みる。

しかしアルコールで足下の覚束(おぼつか)ない私は、盛大に転ぶ事となりました。
だがこれ以上CDとかを壊したくない私は、何とか何も無い場所に身体を落とそうと……
でもそれすら失敗。

私が転んだ場所は大量の荷物……に隠された堅いテーブルの上。
“ゴスッ”という鈍い音が聞こえ、私の意識を刈り取った。








気が付くと暗闇で眠ってた私……
だがとても居心地が良く、二度寝を試みる。
しかし人生というのは無常で、そんな幸せな二度寝を許してはくれない。

凄い力によってこの居心地の良い暗闇から引きずり出され、眩い光を放つ外の世界へ……
思わず大声で叫んでしまいましたよ「おぎゃー!!」って!
そう「おぎゃー」なんですよ。それ以外言えないんですよ。

ちょ……まって……な、何よコレ!?



 
 

 
後書き
はぁ~書き上げるのに時間がかかったぁ~

蔵原竜太と同時に構想を練り書き始めたんだけど、
蔵原竜太と違い書きにくかった。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧