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狐忠信  ~義経千本桜より~

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2部分:第二章


第二章

「この鼓でです」
「うむ、それをどうするのだ?」
「これを打つとすぐに出て来られたのです」
「おかしいどころではないな」
 義経はそこまで話を聞いてあらためて首を傾げさせた。
「その話は」
「そうですね。これは一体どういうことでしょうか」
「そうだな。それではだ」
 義経はその話を聞いてここで静に述べるのだった。
「今ここでその鼓を打ってみるのだ」
「これをですか」
「そうだ。すぐにな」
「わかりました」
「我々は奥に隠れておく」
 静にこう告げて忠信と共に後ろの障子を開けてその中に入る。そのうえで隠れて様子を見るというのであった。
 静は義経達が隠れたのを見届けてからその鼓を打ってみた。すると階段のところに忠信が現われた。まるでその音に聞き惚れているように階段にもたれかかって。
「何者!」
 静はその忠信を見てすぐに小刀に手をやった。
「忠信様はおられます。ならばそなたは一体!」
「わ、私は」
 その忠信は静が抜いたその刃を見てまずは素早く後ろに跳んだ。それはまるで動物のような動きであった。
「申し訳ありません。私は佐藤忠信様ではありません」
「では何者ですか!?」
 きつい声でこの忠信に問う。
「人ではないようですが」
「実はです」
 ここで彼は畏まり平伏しながら話をしtけいた。
「その鼓には訳があるのです」
「訳とは?」
「あれは桓武帝の頃でした」
 平安の頃である。この時代から見てもかなりの昔である。
「長い間旱魃が続き人々は困り果てていたのです」
「そのようなことがあったのですか」
「そうです。そして雨乞いの為に大和国の千年狐のつがいを狩り出しその皮から鼓を作ったのです」
「ではこの鼓は」
「そうです」
 その鼓を見て驚く静に対してまた告げたのだった。
「鼓を打つと忽ち雨が降り人々は救われました」
「そうだったのですか」
「それにより鼓は初音の鼓と名付けら宮中に入れられたのです」
「この鼓にはそうした縁があったのですか」
「そしてです」
 だが忠信はさらに言うのであった。その鼓を見ながら。
「私はその鼓の子でございます」
「というと貴方は」
「はい、そうです」
 答えると共にであった。白い煙が沸き起こると共に袴は黄色い毛でできたものになり尻尾が生えた。そうしてあの狐の耳が頭から出て来たのであった。
「やはりそなたは」
「そうです、狐です」
 ここであらためて己のことを名乗るであった。
「親が殺された時私はまだ幼く一日も孝行ができませんでした」
「そうだったのですか」
「それがあまりにも悲しくどうしたものかと考えているうちに生き長らえ」
 狐の言葉は続く。
「今に至るのです」
「そのようなことがこの鼓に」
「そしてです」
 狐は話に感じ入っている静に対してさらに言うのだった。
「せめて両親がなっている鼓に添っていたいと思い側にいましたが」
「その時に見たのですか」
「見るつもりはありませんでした」
 こう断りはした。
「静様が困っておられたで忠信様の御姿をお借りしてその時にでした」
「ではやはり貴方が忠信殿に」
「そして義経様にいざという時は自分の名前を使うように言われましたので」
 その時のことも話していく。
「そうして狐の身で義経様の御名前を頂戴した有難さ」
 話しているうちにその目から涙が出て来ていた。
 
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