新説竹取物語
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第五章
「それは」
「それはとは」
「お断りしたいのですが」
「それは一体」
「私は月に帰りたくありません」
俯いてだが、それでもだ。
姫は確かな声でだ、女に言うのだった。
「この国に留まりたいです」
「この国に」
「そうです、この日本という国にです」
「姫、しかし」
女は姫の言葉を受けて眉を曇らせて言葉を返した。
「それはです」
「ならないというのですね」
「そうです、姫は月の国の姫です」
それ故にというのだ。
「ですから」
「帰らねばならないと」
「私にはお父様とお母様がいます」
翁と老婆の方を振り向いての言葉だ。
「そしてです」
「そしてなのですか」
「そうです、私を心から想ってくれている方もおられます」
今度は帝に顔を向けて言うのだった。
「ですから」
「この国に留まられ」
「人生を過ごしたいと思います」
「そう言われるのですか」
「そうです」
絶対にというのだ。
「私はそうしたいのです」
「どうしてもですか」
女は姫のその目を見て問い返した。
「そう仰るのですか」
「そうです」
姫は今度はだ、顔を上げてだった。そうしてから女に答えた。
「私はこの国に留まります」
「ですが月には」
その国に、というのだ。
「姫の本当のです」
「お父様とお母様が、というのですね」
「おられます、ご兄弟の方も家臣の方々も」
「だからというのですね」
「お戻り下さい」
女も言うのだった。
「是非」
「どうしてもですか」
「そうです、お願いします」
「いえ、私のお父様とお母様はです」
まだ言う姫だった。
「こちらにおられますので」
「こちらの翁と老婆だと」
「ですから」
「どうしてもですか」
「はい、私はこの国に留まります」
「想ってくれる人もいるので」
「この国に。いさせて下さい」
姫の声は切実なものになっていた、その声には心があった。
「どうか」
「月に戻られたらどうされますか」
ここでだ、女は。
言葉を一旦止めてからだ、姫のその目を見つつ問うた。
「その時は」
「考えられません」
これが姫の返答だった。
「私の全てはこの国にあるのですから」
「月にはないと」
「例えお父様とお母様がおられても」
本当の両親がだ、その国にいてもというのだ。
「私の心はここにあるのですから」
「では」
「月からこの国を見続けます」
「そうするというのですか」
「そうです、何としても」
こう言ってだ、姫はその手を女に出さずに足も前に出さなかった。そうしてその場に留まっていた。その全く動かない姫を見てだ。
女もだ、目を一瞬伏せてからだ。こう姫に言った。
「では」
「では、とは」
「そのお言葉。月の帝とお后にお伝えします」
「そうしてくれますか」
「はい」
姫の血がつながっている両親にというのだ。
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