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星になった女神

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4部分:第四章


第四章

「しかし。それを言えずにいて」
「それで今こうして」
「この神を生まれたというのですか」
「ええ、言えなくて。テスカトリポカには既に妻がいるから」
 不義であるというのだ。しかしそれでもだった。
「それでも。私は」
「確かに私は不義の子だろう」
 ウィツロポチトリもそれは認めた。
「しかしだ」
「しかし」
「それでも?」
「若しそれで私に至らぬところがあれば言うといい」
 胸を張っての言葉であった。
「父テスカトリポカも認めるし母コワトリクエもだ。それを認める」
「認めるということは」
「つまりは」
「そうだ、私を殺せばいい」
 胸は張ったままだ。言ってみせたのだ。
「その時はな」
「むう・・・・・・」
「しかしそれは」
「不義かどうかは問題ではない」
 ウィツロポチトリはまた話した。
「それよりも資質が問題ではないのか」
「資質が」
「それこそが」
「父と母が生まれなければいいと思えばそれまでだが」
 しかしそれでもだというのだ。
「だが。資質こそが大事ではないのか」
「では姉上は」
「それは」
「間違っていたのだ。だからこそ私は倒した」
 そうだったというのだ。彼は話しながら眼下に無惨な屍を晒しているコヨルショウキを見ていた。彼女は当然ながら事切れている。
「今こうしてだ」
「けれど」
 だがここでだ。クワトリクエが言うのだった。
「このままではコヨルショウキが」
「そうです、気の毒です」
「あまりにもです」
 弟神や妹神達もここで言う。
「母上、ですからここは」
「姉上は確しかに母上に無礼を働きました」
「しかしここはどうか」
「御心を」
「わかっているわ。それなら」
 それに頷いてであった。彼女は頷いた。
 そうしてであった。そのうえで言うのであった。
「では」
 前に出てだ。娘の亡骸を哀れむ目で見ていた。そうしてだった。
 右手を前に出してかざした。するとそこから白い眩い光が放たれて。娘の亡骸を包んだ。
 そうして彼女の亡骸は天にあがりだ。あるものになった。それは。
「星・・・・・・」
「星にですか」
「星に転生させて頂けるのですね」
「せめて星になって」
 コワトリクエはその星を見上げて言った。アステカでは星は神とされているのだ。
「そしてまたそこで瞬いていて。これからは」
「姉上、どうかここはです」
「御心を鎮められて」
「どうか」
 弟神達も妹神達もだ。それぞれ言う。その星を見上げてだ。
「そして今は天界で」
「お過ごし下さい」
 自然に祈っていた。星になった姉神を見上げながら。
 コヨルショウキは今も夜空にいる。そしてそのうえで瞬きを見せている。今彼女が何を考えているのかはわからない。しかし彼女は今もいる。夜空に瞬き続けている。不義もそこで見ているがそれについてどう考えているかはわかりはしない。だがそこに今もいるのである。


星になった女神   完


                 2010・6・5
 
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