魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~
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第21話 「歓迎会」
「コングラッチレイショーン!」
「お疲れ様でした」
デュエルを終えた俺達を迎えてくれたのは、レヴィとシュテルだ。彼女達がこうして出迎えたということは、どうやらあちら側の準備は済んでいるらしい。
全員腹を空かせてるだろうし、ディアーチェの料理を目の前にしたらがっつきそうだな。
と思って視線を小学生組に向けてみると、何やらアリシアが怯えた様子でシュテル達を見ていた。いったいどうしたのだろうか・
「まさか……最後にふたりとデュエルなんてことは」
あぁなるほど、そういうことか。確かに研究員ではない俺ともデュエルをしたので、今のように思ってもおかしくはない。
「えぇ!? 流石に限界よあたしたち。主に兵糧的な意味で!?」
俺とのデュエルを終えた時点でぐったりしていたのだからそうだろう。ここに来るまでの足取りもかなり重たいものだったし。
にしても……バニングスは小学生の割りに難しい言葉を知ってるな。普通小学生は兵糧なんて言葉は使わないだろうに。
まあそれは置いておくとして、さすがにデュエル好きのシュテルやレヴィでも今からやろうとは言わないだろう。そんな俺の思考をあざ笑うかのようにシュテルは小さく笑い、ブレイブホルダーを構えた。
「今の私達は云わばコンシェルジュ……お望みとあらば一戦交えますが?」
真剣な顔で何を言っているんだこいつは。どこからどう見ても小学生達は疲れてるだろ。おそらく冗談で言ってるんだろうが……高町だけは目を輝かせてるな。可愛い顔して意外と戦闘狂なのだろうか。まあお兄さん達が武術をしているから可能性はゼロじゃないだろうけど。
「ええっ!? ボクもお腹空いたよシュテるん。み、みんな……ご飯ゆーせんだよね?」
慌てたレヴィの問いかけにアリシアとバニングスは大きく首を縦に振りながら、シュテルの耳にも届くであろう音量で腹の虫を鳴らした。
「ふふ、小粋なジョークといったところですよ」
「いや、今の状況じゃ笑えないだろ」
「まあまあ気を取り直して、会場にご案内~!」
レヴィを先頭に会場に入ると、そこには豪華な夕食が並べられていた。空腹が限界まで来ていた小学生達の表情が煌びやかなものに変わったのは言うまでもない。
「よくぞ辿り着いた」
「ようこそいらっしゃいました」
ディアーチェやユーリが代表で歓迎の言葉を述べてくれたが、フローリアン姉妹やグランツ博士の姿もある。足りないメンツはいないようだ。
「ディアーチェ、えらく頑張って作ったな」
「え……これディアーチェちゃんが?」
「別に我ひとりで作ったわけではない。それに急で時間もなかったのでな。あまり豪華なものは用意できなかった、許せ」
ターキーまで用意しといて何を謙遜してるんだか。充分にパーティーとして通用する品数だし、時間があったらどれだけハイレベルなものを用意するつもりなんだろ。それはそれで見たくもあるな。
「そんなことないよ。どれも綺麗で美味しそうで……ありがとう!」
「む……なら良い」
「しかし……本当に美味しそうね」
「うん。どんどん唾が溢れてくるよ」
「みなさんすでに限界のようですし、冷めないうちに頂きましょうか」
アミタの発言にディアーチェが博士に挨拶を促し、全員手を合わせて食前の言葉を述べる。
俺はディアーチェの腕前を知っているだけに、限界まで腹を空かせた小学生達がどのような反応をするのか気になった。なのでチラリと横を見ると、ちょうど料理を口に運んだバニングスと月村が見える。
「こ、これは……パリパリの皮にふっくら焼き上がったお肉」
「ほのかに付いている風味からして……表面にごま油を塗ってるのね!」
「それだけじゃないよ。中に香草だけじゃなくてきのこや蒸したお野菜も一緒に入ってる」
「お肉の旨味がしっとり上品に行き渡ってて……本当に美味しい」
「「お口の中がしあわせ~♪」」
さすがはお嬢様方、小学生なのにずいぶんと味覚が発達していらっしゃる。それに食レポとリアクションも完璧なようで……どういう風に君達は育ってきたんだ。
残りの小学生に意識を向けてみると、高町→フェイト、アリシア→高町、フェイト→アリシアといったように代わる代わる食べさせ合いっこをしていた。こちらはお嬢様方と違って何とも子供らしい光景である。
「……ん?」
料理を皿に取っていると、幸せそうな表情を浮かべる高町を見つめているシュテルが視界に入った。彼女の顔は至って平常運転に見えるが、付き合いが長いせいか何を考えているのか何となく分かる。
多分……高町達みたいに食べさせ合いっこをしたいんだろうな。ああ見えて構ってちゃんというか、人と接したいと思う奴だし。まあ猫みたいに気まぐれだったりもするんだけど。
予想はどうやら当たっていたらしく、シュテルは近くでガツガツと音を立てて食べていたレヴィへと意識を向けた。
「レヴィ、私達も……」
「んう? なに?」
「……何でもありません」
確かに相手にディアーチェではなくレヴィを選んだ点は良い。彼女ならば『あ~ん』といったことでも抵抗なくさせてくれただろう。が、食べ始める前にしないとダメだ。
というか、やりたいくせに押しが弱いな。あれか、やりたいけど自分のキャラ的に恥ずかしいのか。恥ずかしいと思うなら諦めればいいのに……あのシュテルさん、何でこっちに近づいてくるんですか?
「…………」
「いや、無言でやるなよ。それにやらないぞ」
「私の恥ずかしい姿を見たではないですか」
「それはお前の自業自得――んぐ!?」
問答無用と言わんばかりにシュテルは肉を刺していたフォークを俺の口の中に捻じ込んできた。味が最高なのは分かっているが、突然の出来事に味わう余裕はなく、俺は大いに咳き込む。
……この野郎、何で俺には押しが強いんだよ。他の人間にもそれくらいで行けよ。
なんて思って睨む俺を華麗にスルーし、シュテルは何事もなかったように食事を始める。どうやら彼女の内にあった欲求は満たされたらしい。本来したかったこととは別のはずなのに、何とも代用が利くものだ。
「こっちのもめちゃくちゃ美味しいじゃない」
「うちのママがいないときは王様がうちのコック長なのよ」
「凄いねディアーチェちゃん」
「世話になっておる故な。まだまだ母上殿には及ばぬが……」
ディアーチェ以上に凄いって……グランツ博士の奥さん何者なんだろう。博士達とは昔から付き合いがあるけど、何でか会えた試しがないんだよな。うちの両親とか叔母さんは会ってるらしいけど。
まあ会ったらあったで面倒な展開になりそうなのだが……。
これは俺の経験に基づく勘だ。俺には桃子さんやリンディさん、プレシアさんと意外と母親をやっている知り合いが多い。年頃の子供を持つせいなのか、あの人達は何かと色々な想像を巡らせてしまうのだ。
まったく……何で母親ってああなんだろう。うちの母さんもあの人達と会っているときは色々と話してるのかね。
そんなことを思っていると、ふとグランツ博士のほうに歩いていく高町が見えた。先ほど挨拶は済ませているが、知り合ったばかりの人間に躊躇なく近づけるのは凄いと思う。だがあれが子供らしさと呼べるものなのかもしれない。
「あのグランツ博士」
「ん、何だい?」
「さっき訓練室をいつでも使ってくれていいって言ってくれたお話なんですけど」
「あぁ、もちろん構わないよ」
「ありがとうございます。……えーと、その」
どうやら高町の本題は礼とは別にあるらしい。しかも言いづらいことなのか、言い淀んでしまっている。
あの子……いやあの子達は現在進行形で壁にぶつかってるわけだからな。これまでは自分達だけでやってきただけに、誰かしらにコーチでもしてもらいたいんだろう。
そう思った俺が助け舟を出そうとした矢先、俺よりも先に口を開いた人間が居た。
「何か困っていることがあるのなら、そこにいるふたりにコーチしてもらえばいいのではないか?」
発言したのはディアーチェ。彼女が言ったふたりというのはフローリアン姉妹だ。
何となくではあるが、ディアーチェの考えたシナリオの全容が見えてきた。現状の理解と打開するための手段を与える。それが彼女なりの祝福のようだ。相変わらず面倒見の良い奴……。
「お、それは名案だね!」
「ええぇ!? デュ、デュエルの相手ならともかく……わ、私達が教えるだなんて」
「そ、そーよ。私達よりももっと得意そうな人が……ほらそこの彼とか」
キリエ、人を売るような真似をするなよ……まあ彼女達と先に知り合ったのは俺だから理不尽とまでは言わないけど。
「いや俺は……」
「ショウ、謙遜は良くないと思うな。さっきわたし達のことギッタンギッタンにしたんだから」
アリシアの発言を皮切りに次々と小学生達の口が開いていく。
「そうよね……今思い返してみてもさっきのデュエルのショウさんは凄かったわ」
「うん……最初は行けるかもって思ったけど」
「2本目を抜いてからは一方的な展開だった」
「そうだね、みんなあっという間にやられちゃったし」
いやそれは……君達のデュエルを見てたから苦手な分野とか穴が分かってただけで、今日初めてデュエルしてたのなら多分勝てなかったと思うんだけど。
なんて言ってもこの流れは変えられるわけもないか。……はぁ、気が重たいけどはっきり言う他にないよな。
「悪いけど、いくら頼まれても君達のコーチをするつもりはないよ」
「えぇ、今まではなんだかんだで付き合ってくれてたんじゃん。何で?」
「……弱いから」
アリシアだけでなく、この場に居た全ての人間の表情が凍る。それに一瞬遅れて、自分が言葉足らずで発言してしまったことに気づく。
「あぁいや、今のは君達が弱いからって意味じゃなくて俺がってことだから」
「え? 弱いってショウさん、すっごく強いじゃないですか?」
確かにバニングス達から見れば俺は強く見えるのだろう。
でも俺は最初から強かったわけじゃない。どちらかといえば、最初は負けることが多かった。負けても楽しくはあったけど、やっぱり悔しくて……強くなるために考えて考えて考え抜いて、勝っても負けてもそれを繰り返してやっと今の力を付けたんだ。
けどあいつは……初めてのデュエルで通り名持ちに勝ってみせた。もちろん、相手に油断はあっただろう。だが勝ったんだ。
あいつの成長速度を考えれば、おそらくすでにこの子達に近いレベルに到達しているだろう。遠くない未来、きっと今の俺くらいになる。この子達の面倒を見ていれば、間違いなく勝率は下がるはずだ。
「……現状で満足するわけにはいかないんだ。俺にはどうしても勝ちたい奴がいる……だから、もっと先へ進みたい」
俺の言葉に小学生達の視線がシュテルに集まる。だが彼女は涼しい顔で佇んだままだ。
「彼が言っているのは、おそらく私ではありませんよ……私に対して今ほどの熱を向けてくれたことはありませんから」
「いや、シュテル……お前にも勝ちたいって思ってるんだけど」
「私に『も』ですか。そうですか……」
ああ……間違いなく機嫌が悪くなっていらっしゃる。目を合わせてくれないどころか背中向け始めたし、声もどことなくいつもより低くなってたし。
「……まあそれにコーチみたいな役をすでに引き受けてるからさ」
「それって八神堂さんとか?」
「いや……最近ブレイブデュエル始めたばかりの」
「……女の子?」
「そうだけど……」
アリシア、何でそんなジト目でこっちを見るんだよ。……いや、他の連中もアリシアほどじゃないけど何かこっち見てるし。別に不埒なことしてるわけでもないのに理不尽だろ。
「それって誰なの?」
「誰って……まあ一言で言えば従妹だけど」
「従妹? 王さま知ってる?」
「ん、ああ。確かにショウにはユウキという従妹がおるぞ……それにしても、あやつこっちに来ておったのか?」
「まあな」
ユウキの存在は小学生組以外は知っていたため、この場に漂っていた善からぬ空気が霧散し始める。だが今度は別の意味で不機嫌そうな目を向けられてしまった。
「ショウよ、ユウキが来ておるのなら何故ここに連れてこないのだ?」
「それは……こっちに来たの数日前だし、叔母から前もって知らされてなかったからゴタゴタしてたんだよ」
「はぁ……あの人は相変わらず仕事以外はどこか抜けておるな。だが、ならば今日連れてくればよかったではないか?」
「あいにく今日あいつは用事があったんだよ。アリシア達がいないってことで急遽T&Hからイベントデュエルに参加してくれって頼まれたんだとさ」
俺のした説明に一瞬ディアーチェは納得しかけたが、すぐさま怪訝そうな顔を作る。
「ちょっと待て……我の記憶が正しければ、あやつはデュエルの経験はなかったはずだが?」
「そうだな。初めてデュエルをしたのは数日前だ」
「……なのにイベントデュエルに出ておるのか?」
「ああ……」
ディアーチェは全て理解したらしく、ユウキのゲームに関する才能の高さに感心するどころか呆れているようで顔を手で覆っている。シュテル達も彼女のことを知っているだけに理解できたようで、首を傾げているのは小学生組だけだ。
「えっと……デュエル初めて数日でイベントデュエルに参加できる子っているの?」
「さあ? 初心者を対象にしたものならできそうだけど」
「私はそういうのは聞いてないけど……お姉ちゃんは?」
「わたしも聞いてないよ。でも……何か超凄い新人が現れたって話は聞いたかな」
「じゃあその人はショウさんの従妹ってこと?」
全ての疑問は解決できていないようだが、まあ俺がコーチを出来ない理由は理解してくれただろう。これであとはフローリアン姉妹にコーチをしてくれるように話を進めれば万事解決……
「あぁ、言い忘れていたけどユウキくんは2学期からショウくん達と同じ学校に通うそうだよ。彼女のご両親がこっちに来るのはまだ先らしいけどね」
「え……それってつまり」
「親御さんが来るまではショウくんの家で厄介になるってことかしら?」
「そうなるね」
そうなるね……って、グランツ博士笑い事じゃないんですけど。あなたは悪気はないんでしょうけど、何でこのタイミングで言っちゃうんですか。また俺に周囲の視線が……
「あれ? ……僕、何か不味いこと言っちゃったかな?」
「不味いことは言ってないですよ……言うタイミングが不味かっただけで」
「あはは……すまない、ショウくん頑張って」
「こんなことで頑張りたくないです」
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