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リメイク版FF3・短編集

作者:風亜
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お願いがあるんだ

 光の戦士としての旅を終えて約1ヶ月────アルクゥがレフィアを連れて、慌てた様子でサスーン城のイングズの元にやって来た。

「イングズ! ルーネス、こっちに来てない?」

「どうした、二人共。ルーネスに何かあったのか?」

「昨日の夜から、家に帰ってないんだ……!」

「あたしのとこにも特別来てなかったから、イングズのとこにでも行ったんじゃないかってアルクゥと二人で来てみたんだけど……、ここにもいないみたいね」

 アルクゥよりは心配してなさそうなレフィアだがため息をもらし、イングズはアルクゥに問いかける。

「……何か、最近ルーネスに変わった所はなかったか?」

「何ていうか……、あの旅が終わってからのルーネスはぼーっとしてる事が多くて、話しかけても生返事ばかりだったんだ。レフィアやイングズに会いに行こうかって云っても、行かないって云うし………。昨日の夕方、1人でウル村を出て行こうとしてたから、どこ行くのって聞いたんだけど付いて来んなって云われて、それきり戻って来なかったんだよ……!」

「あたし達が自由に使っていい飛空艇は置いてあったままだったし、浮遊大陸からは出てないと思うんだけどね」

 レフィアがそう付け加え、イングズは一抹の不安を覚える。

「近い内に、こちらから会いに行こうとは思っていたが………どこへ行ったんだ、あいつは」

「僕、村の入口でしばらく待ってたんだけど、夜遅くに北側方面から少しの間空に向かって白い光が走ったのが見えたんだ……。何か、関係あると思う?」

「ん……? そういえば私も見たな。城の見張り塔から、北東に見えた。調査隊を近く派遣する話になっていたんだが──── 」

 アルクゥの話からイングズがそう述べ、レフィアが思い当たったように云う。

「ウル村の北側って、"祭壇の洞窟"があってそこからクリスタルのある場所へ行けるわよね。そこへ行ったかもしれないルーネスに、何かあったとか……?」

「行ってみるに越した事はないな、そこのクリスタルに話を聞いてみるのも手だ」





 ────輝けるクリスタルの祭壇前に、ルーネスの着ていた服の"脱け殻"のような物が、横たわっていた。

「そんな、ルーネスが……?!」

「え、何、服だけ残ってるってどういう事っ?」

「これは、一体………」

 アルクゥ、レフィア、イングズの3人は祭壇前に駆け寄った。……服の脱け殻の割には、中心部分だけ不自然に少し盛り上がっている。

「どど、どうしよう………ルーネスが服だけ残して、居なくなってるよ!?」

「落ち着きなさいよアルクゥ……! ちょっと、クリスタルさん! 何があったか教えてくれるかしらっ?」

 レフィアが顔を上げてクリスタルに問いかけるも、煌々と輝いているだけで以前のように語りかけてくれない。

「まさか………」

 イングズは片膝を付いて身を屈め、不自然に盛り上がっている中心部分に触れて揺すってみた。すると────

「ひゃっ、何か動いた?!」

「ルーネスの服の中に、何かいる……!?」

 レフィアとアルクゥは驚き、互いに身を寄せ合う。

『ん~……、んん~~………!』

 呻くようなこもった声を上げ、もぞもぞとうごめいて紫のタートルネックからいつもより小さい頭をぴょっこり出したその存在は─────

「え………? る、ルーネス?! しかも、小さい頃の……!」

 見覚えのある幼馴染みの幼い頃の顔立ちを目にして思わず目をこすり、二度見するアルクゥ。

「はぁ!? 何よそれっ、ミニマムの魔法で小さくなったとかじゃないの?」

「いや、違うと思うぞレフィア。ミニマムだったら、身に付けている物も共に縮むはずだ。……見るからに今のルーネスには、着ている服がぶかぶかだろう」

 イングズの云う通り、袖から手は出ていないしズボンの裾から足も出ておらず、ルーネスはタートルネックからいつもよりずっと幼い顔立ちを出したままキョトンとしていた。髪は全体的に少し短くなっていたが、髪形はそれほど変わっていない。

「ルーネス、お前………一体どうした。私は幼い頃のお前は知らないが、これは──── 」

「 ………? ────! いんぐじゅ!!」

 イングズに目の焦点が合うとパァっと笑顔になり、幼児化ルーネスはぶかぶかな両袖をバッと広げ、片膝を付いて身を屈めていたイングズの首回りに飛び付き、その際ズボンからするりと抜けてしまうが下半身はぶかぶかな衣服の裾に膝下まで隠れたのでセーフだった。

「こ、こら! いきなり何だ……!?」

「いんぐじゅ~、だっこだっこぉ~~!」

「ず、ずいぶん声もしゃべり方も見た目同様幼くなったわね……。"いんぐじゅ"なんて云っちゃって」

「あぁ……、訳が分からないよ?? どうしちゃったのさルーネスっ」

 レフィアは内心かわいいと思ってしまい、アルクゥはちょっとした目眩を覚えた。

「いんぐじゅ~、らいしゅき~♪」

「ら、らいしゅき………??」

 幼いルーネスに頭を擦り寄られ、云われた単語がよく分からないイングズにレフィアが解釈して教える。

「あなたの事が、"大好き"って云ってるんじゃない?」

「は……? そう云われても、困るんだが」

「いいじゃないの、幼いルーネスの云う事なんだから許してやりなさいよっ」

「……く、クリスタルさん! 僕の声が聞こえますか?! ルーネスに何があったか……もしくは何をしたか、教えてくれませんか!」

 アルクゥがいつも以上に声を上げて、光輝くクリスタルに問うが答えは一向に返ってこない。

「 ────僕ら、もう光の戦士じゃないから語りかけてくれないのかな……。それとも、僕らが聞こえなくなっただけ……?」

「う~ん、クリスタルから話が聞けないんじゃどうしましょっか。とりあえず、ウル村に行く?」

 レフィアの提案に、アルクゥは頷く。

「ニーナおばさん、驚くだろうなぁ……。ルーネスの小さい頃の服、まだ残ってるか聞いてみなくちゃ」

「ほらルーネス……、いい加減離れてくれないか」

「やぁだっ、いんぐじゅといっしょいる~!」

「ま、参ったな………」

「そのまま抱き上げて連れてってあげなさいよ、あなたにすごく懐いてるみたいだし?」

「む……、しょうがないな」

 レフィアに云われ、首回りから離れないルーネスの小さな体を抱いて立ち上がるイングズ。

「 ────そうして見ると、まるで幼いルーネスのお父さんだね」

「よしてくれ、アルクゥ。私にはまだ、そういうのは早いだろう………」

 イングズは、何とも複雑な気分になった。



 ────ウル村で育ての親のニーナに幼児化したルーネスを会いに行かせると、始めはやはり驚かれはしたもののルーネスの小さい頃を懐かしんでぎゅっと抱きしめ、今の体に合う服を探して着せてくれた。

そして、ルーネスに直接何があったか聞いてもイングズに懐きべったりするばかりで話にならず、アルクゥの提案でまずはサラ姫に相談してみたらどうかという事になり、サスーン城へ向かう道中────

「……ねぇイングズ、あたしにも1回ルーネスを抱かせてくれない?」

「ん……、あぁ、構わないぞ。────ほらルーネス、レフィアにも抱っこしてもらえ」

 相変わらずイングズの首回りに抱き付いていたルーネスだが、大人しくレフィアに引き渡される。

「(あら、思ったより軽いかも。ルーネスにも、こんなにかわいい時期があったのね……。あたしもいつか、こんな子供欲しいわ)」

 自分の腕の中に横抱きし、幼子をいとおしげに眺めるレフィアに当のルーネスは────

「れふあ、ぺちゃぱ~い♪」

 胸元を小さな手でぺちぺち叩き、キャッキャする。

「ペチャパイ、ですって………?」

「わっ、レフィア、落ち着いて……!」

 一瞬殺気を感じ、ハラハラするアルクゥ。

「 ────いいわ、かわいいからお姉さん許しちゃう!」

 顔を寄せ、頬擦りするレフィア。

「ほら、アルクゥも幼児化のルーネスを抱いてみたら? こんな機会、もうないかもしれないわよっ」

「え? あ、うん……。さぁ、おいでルーネス」

「あるきゅ~♪ むにぃ~~っ」

「ふえ?! いきなり頬っぺたつままないで~……!」

「フ……、何とも微笑ましいな」

 イングズは、表情を緩ませた。



 ────幼児化ルーネスは結局の所、イングズに抱き上げてもらっているのがお気に入りらしく再びそうしてもらい、サスーン城のサラ姫の部屋まで行くと………

「あら? みんな揃ってどうしたの……ってイングズ、その小さい子はどこの子?? 何だか、見覚えあるけれど」

「ひめひめ~♪」

 イングズの首回りにしがみついていたのから離れ降り、サラ姫の足元に抱き付いた。

「あらら、もしかして迷子? ママとパパはどうしたの~?」

 抱き上げて胸元に寄せると、幼いルーネスは────

「ひめひめのおムネ、ふにふに~♪」

 小さな両手を人差し指にして、サラ姫の豊満な胸をつんつんし出したのでイングズは焦る。

「な、何て事を……ッ」

「こ~ら、いけない子ねっ。お尻ぺんぺんしちゃうわよ? ……でもかわいいから、許しちゃおうかしら!」

「なりません姫様、その子を早くこちらへ……!」

「あらイングズ、まさか貴方の子だなんて云わないわよね………?」

 鋭い眼差しを向けるサラ姫に、アルクゥが助け船を出す。

「さ、サラ姫! その子がイングズの子供じゃないのは、僕とレフィアが保証します! 何てったってその子は、幼児化しちゃったルーネスなんですから……!」

「 ────え? この子、ルーネスなの!? どうりで見覚えが………それにしても、小さい頃こんなに可愛かったのね~! 幼い頃のイングズを思い出すわ……!」

「サラ姫! その話あたしにも聞かせて! 小さい頃のイングズってどんな──── 」

「ちょっと待てレフィア、今はルーネスの事が優先だ、余計な話は………」

「あら、いいじゃないのイングズ。幼い頃の貴方だって、それはそれは可愛い──── 」

「お、おやめ下さい姫様……!?」

「イングズの話も気になるけど、サラ姫……、幼児化を治せる話って聞いた事あります? そもそも、ミニマムの魔法じゃなくて幼児に戻してしまう魔法なんてあったりしますか?」

 話を軌道修正するアルクゥ。

「ん~……、少なくとも私の知っている範囲では、小さい頃に本当に戻ってしまった話は聴いた事ないわね……。まして元に戻す方法なんて────ごめんなさい、力になれなくて」

「う~ん、こうなったら飛空艇でサロニアまで行って、図書館で古い文献を読み漁ったりした方がいいかな……?」

「ひめひめのおムネ、あっちゃか~い。むにゃむにゃ………」

「あら……、ルーネスが私の胸元を枕にして眠っちゃったわ?」

「ひ、姫様。さすがにもうルーネスはお預かりしますから、こちらにお渡し下さい……!」

「私は別に、このまま寝かせておいてあげてもいいけれど──── 」

 半ば強引に、サラ姫の胸元から眠ったルーネスを引き離すイングズ。

「……サロニアに向かうにしても出発は明日にしたらどうかしら、もう夕方だもの。今夜はみんな城に泊まってくといいわ、4人部屋の広い客室を使いなさいな。レフィアは、別室の方がいいかしら?」

「一緒でいいわ! この3人と同じ場所で寝るの、慣れてるものっ」

 サラ姫からの厚意を受け、サスーン城で一晩一緒に過ごす事になった4人。



───イングズは、あどけなく眠るルーネスをベッドの1つにそっと寝かせ、上掛けをかけてやり一息ついた。

「フゥ……、面倒な事になったものだ」

「いっそこのままにしといてもよくない? あたし達で育て直すとか……!」

「レフィア、それはさすがに──── 」

「んぅ~、いんぐじゅどこ……? いなくなっちゃやだ……っ」

 うなされているのか、ルーネスは目をぎゅっとつむったまま左右に何度も寝返りを打つ。

「私はここに居るぞ、……大丈夫だからな」

 イングズが傍で片手を握ってやると、安心した様子で大人しくなった。

「なんでかな……、イングズにばかり懐くのって」

 若干不公平に思うアルクゥに、レフィアが自分なりの見解を述べる。

「元々、イングズにべったりしたかったんでしょ。幼児化したら素直に甘えられるようになったってだけじゃないの?」

「そうなのか? だが、私にはよく反発して──── 」

「だ~か~ら、素直じゃなかっただけだってば! ほんとはもっと仲良くなりたかったくせに、表向きは逆の態度とっちゃって……」

「あぁ、そっか。ルーネスはイングズの事、慕ってたんだね? ……だからって、クリスタルの前で幼児化しなくてもいいと思うけど」

 どうも腑に落ちないアルクゥ。

「もしかして、クリスタルに口止めしておいて故意に幼児化したとかっ?」

「そんな邪な願いを、クリスタルは叶えるのか………?」

 レフィアの考えに、呆れ気味のイングズ。

「だってあたし達、元光の戦士よ? 個人的なお願いの1つや2つ、叶えてくれたっていいじゃない。あたしも何か、願い出てみようかしら……!」

「まだそうとは限らないし、とにかく今はルーネスを元に戻す方法を探そうよ」

 1人盛り上がるレフィアを、落ち着かせるように云うアルクゥ。

「分かってるわよっ、あたし達も明日に備えてもう寝ましょっか。……イングズは、ルーネスと一緒に寝てあげたら? あなたが傍に居ないと、寂しがるでしょ」

「む……、仕方ないな」

 横向きに添い寝する形でベッドに入ると、小さな体をすり寄せてきた幼いルーネスをイングズは愛らしく思い、頭をそっと撫でて両腕の中に優しく抱き包んだ。

「(もし子供が出来たら、ルーネスのような息子というのも悪くないな。将来の事を考えると、ルーネスにもいつか子供が……? あまり想像つかないが────。お前は一体クリスタルの前で、何を願ったんだ………?)」






「 ────ぎゃあーっ?! どーなってんだあぁ!?」

 翌日の早朝、部屋中に叫び声が響き渡る。

……目覚めた時、間近に抱かれていた存在に驚いてベッドから飛び起きた本人はちょっとしたパニックに陥った。

「何だ……、朝からうるさい奴────んッ?」

「ちょっと~、静かにしてよね。もう少し寝かせて………あらっ?」

「なに、どうしたのルーネス………あ、元に戻ってる?!」

 イングズ、レフィア、アルクゥの3人が目を覚ますと、部屋の隅に逃げ込んだ幼児化ではないルーネスが、自分の身体を両腕で抱え込むようにして立ち竦んでいた。

────上半身に着ていたのと下半身に穿いていた物が身の丈に合わず短くなっており、ヘソが出てしまっている。

「な、なな……っ、何で一緒のベッドにイングズが────何が、起きたんだよっ。おれ何も覚えてない……!?」

「お、落ち着けルーネス、別に私は何もしていない! それにこの部屋にはアルクゥとレフィアも居るだろう、何もやましい事は──── 」

 慌てて弁解するかのようなイングズ。

「ルーネス、ほんとに何も覚えてないの? 自分が幼児化しちゃってた事とか………」

「は? ヨージカ……?? 意味分かんねーこと云うなよアルクゥ!」

「あ~らら、記憶がその部分だけぶっ飛んでるみたいね。じゃあ何、祭壇の洞窟のクリスタルの前まで行った事も覚えてないわけ?」

 レフィアが核心に迫った。

「へ? おれが……?? ─────ぁ」

 何か思い出したように、ハッとするルーネス。

「やっぱり自分から行ったのね! 何なに、クリスタルに一体何お願いしたのよ? 幼児化してイングズにべったりしたかっただけなわけっ?」

「んなワケあるか!? 小さい頃に戻してくれなんて一言も………おれ、ほんとは─────だあぁっ、もういい! アルクゥ、おれの元の服どこだ?!」

「あ……、村に戻らないとないよ?」

「……そんなヘソの出た身の丈に合わない格好では、人目を引くだろう。私の服を貸してやるぞ」

「い、いらねーよ! イングズのなんか着れるか! アルクゥの着てるコートみたいなやつ貸せっ」

「え? いいけど……うわっ、ムリヤリ脱がさないでぇ~!」

 ルーネスは、アルクゥから上着を奪って羽織った。

「いいやこれで……、村に戻るまでの辛抱だっ。じゃあおれ、帰る」

「あ~ぁ、幼児化してたあんた素直でかわいかったのにねぇ。元に戻った途端、ひねくれるんだから……。せっかくサスーン城に居てイングズが目の前に居るのに、何か話していかないわけ?」

「話す事なんか、ないし。……じゃあな!」

 イングズに一瞥もくれず、部屋を出て行ってしまうルーネス。

「ま、待ってよ! 帰るなら僕も……っ」

「ちょっと待てアルクゥ、────私に追わせてくれ」

 そう云ってイングズは、逃げるルーネスを追って行った。

「……アルクゥ、あとはイングズに任せましょ?」

「う、うん、分かったよレフィア。……でもルーネスがクリスタルに願った事って結局、何だったんだろう」

「さぁねぇ………ルーネスのあの様子だと、多分クリスタルは願いを叶えてくれなかったのよ。あんまり無理な事云うもんだから、お仕置きとして一時的に幼児化させられたんじゃない?」

「そうかも、しれないね。ルーネスの願い、何かは分からないけど………いつか叶うといいな」




END
 
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