ワンピース~ただ側で~
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おまけ4話『いざ戦争』
インペルダウンの脱出を図っていたキャプテン・バギーの組と麦わらのルフィの組が合流し、脱獄を計る彼らのうねりは更に大きく膨れ上がっていく。
ただ、やはり相手はインペルダウンの署長マゼランというだけあって手ごわい。
時間稼ぎを買って出たオカマ王イワンコフとその部下イナズマも既にマゼランの毒に敗北を喫し、現在はキャプテン・バギーの組にいたMr.3とルフィ、それに何人かの囚人たちがマゼランの足止めを買って出ているという状況だ。
その間に、それ以外の面子がひたすらにインペルダウンの正面を出て、そこから軍艦を一隻奪ってここインペルダウンを脱出するという作戦……だったのだが、遂に正面を突破した彼らが見た光景は少々予想外のものだった。
彼らの予想ではそれはもう何千人もの海軍が軍艦とともにそこにいるというものだったのだが、実情はその真逆。
「ええっ!?」
「軍艦がねぇぞ!?」
「奪うべき軍艦が一隻もねぇ!」
「海兵の一人もいねぇ!」
「そんな、これじゃどうしようもねぇじゃねぇか!」
「何もできずに俺たちぁここでマゼランを待つのか!?」
意気込み、扉を開けた彼らの目に映ったものは敵も敵船も無い、という為すすべがない状況。
インペルダウンの最大の防壁はその立地場所だ。周囲にあるのはただただ海、カームベルト。風もなく海底の巨大海王類たちが所狭しと巣食っているだだっ広い無風の海が広がっている。
「地獄の底からやっとここまで這い出てきたのに」
「くっそー、このまままた地獄へ堕ちるんだぁ」
囚人たちがへたり込む。
確かに諦めるには十分な状況で、マゼランもそれを見越して指示を下したのだから当然といえば当然だ。
マゼランの指示は実際に的確だった――
「安心せい! ワシラがおる! ここは任せてもらおう」
「師匠と海に出るっていうのも懐かしいですね……こんな時なのにちょっとだけ楽しくなってきた」
――はずだった。
マゼランに誤算があるとすれば、それはそこに『海侠』と『海坊主』という、海の異名を持つ男が二人もいたことだろう。
重い扉を船代わりに、ジンベエとハントが海を漕ぎ始める。扉の船に乗っているのはクロコダイルとその部下Mr.1。そしてバギーの3人だ。
「行くぞ、ハント!」
「はい、師匠!」
切羽詰った状況の中、二人の声が軽やかに海に流れ出す。
「おわー、見つかった!」
上で一人だけ騒いでる……無駄に派手な顔をしてる、たしかバギー……だっけ? の声はほとんど無視。
「来たぞ!」
「はい!」
敵軍艦からの砲撃を、師匠の掛け声に合わせて進路を変えて回避。背負ってる扉は重いけど師匠と二人で運んでるから、砲弾を見てから動いても十分に回避できる。
「避けられました! はやい!」
「ただの魚人と思うな! 海侠のジンベエだ」
「海坊主ハントもたった一人で軍艦を7隻沈めた男だぞ!」
「全艦砲撃!」
「あの二人を沈めればやつらは終わりだ!」
微かに聞こえてくる海軍の怒声。
軍艦7隻って……あぁ、エニエスロビーでのバスターコールの時の話かな?
師匠だけじゃなくて俺も警戒されているらしいことがわかって、少しだけ誇らしい。
「ハント、お前さんいつの間にそんなことを」
「いやー、まぁちょっとありまして」
本当に色々とあった。
俺が仲間と共に過ごしてきた冒険の話を是非、師匠には聞いてもらいたいけど今はそんな場合じゃない。次々とまさに雨のように降り注いでくる軍艦の砲弾に、師匠が「おるわおるわ軍艦の群れ!」と呟きながら「ハント、回避は任せたぞ! ワシが甲板へと打ち上げる! 上の者もしっかり掴まれ」と言うだけ言って海に潜っていった。
「え!? なななに!? なんて言ったんだおい! 魚野郎!」
おいこら師匠のことを魚野郎とか言うな。
飛んでくる砲弾を避けながらも、内心で文句を言う。
「あれ!? 消えたぞ、あんにゃろう! 俺たち一人を置いて逃げやがったんだ!」
「師匠が逃げるか、派手バカ野郎!」
「誰が派手ッ鼻じゃ!」
「いってないだろ、それは!?」
っていうかこのバカ派手野郎はなんでついてきたんだろうか。一々騒ぐなら来ないでくれた方がマシなんだけど。あんまり強そうには見えないし……あ、でも俺もあんまり強くは見えないらしいから、実はこいつも俺程度には戦えるんだろうか。
そんなことを考えてると、ふと海中からの威圧を感じた。
「……ん?」
砲弾が飛んでこないことを確認して、海中を潜り込むと、そこでは案の定、師匠が技を。
あれは知ってる。
水を掴んで、それを捻って海流を作り出し、そしてその水を投げるという技だ。
その名も『魚人柔術 水心 海流一本背負い』
……俺は知っている。
師匠に魚人空手を教わった時に並行して教えてもらった技だ
だから、知ってる。技の型も、もちろん知ってる。
けど、もちろん俺には使えない技だ。
そもそも水の真髄を習得できない俺に、水心を知らなければ習得できない魚人柔術を使えるわけがない。魚人空手の真髄へと到達できなかった自分が、水心を最後まで理解できていない自分がそもそも魚人柔術を習得できるわけもなかった。
魚人空手のように発動は出来るとか、そういうレベルではない。水をつかむなんて理解できないし、水を投げるとかも意味が分からない。つまり、発動そのものが出来ず、つまりは俺には使うことの出来ない技だ。
「……」
あの時に覚えてた悔しさが浮かんで、自分の無力さを思い出す。とはいえ今の俺には魚人空手陸式があるんだから、あまりそんなところで凹んでいても仕方がない。今は目の前のことに集中しよう。
師匠によって放たれた、海中からせり上がってきた一本の巨大なウネリ。このうねりに乗っていれば俺も軍艦の甲板にまで打ち上げてもらえるんだろうけど、一隻の軍艦を奪うだけなら多分クロコダイルがいれば十分。俺がやることは海から他の軍艦を沈めるということだ。
よって、甲板まで打ち上げられないようにうねりを慌てて避ける。
「うぎゃあああああ!」
俺が避けた途端に聞こえてきたバギーの叫び声、それと共に巨大で重い扉が一気に打ちあがっていく。
「何だ、あの水柱! まるで生き物みたいに!」
「あれは何でしょう!?」
「わからん! ……だが、人が乗ってるぞ! クロコダイルだ!」
海軍連中の戸惑っているような声も、クロコダイルたちがいるということに気づいたその声も、既にもう遅い。
「成程、着いた」
「来たぁーーー!」
水柱に乗ったクロコダイルたちが甲板へと到着した。
「艦を奪いに来たんだ! 絶対に渡すな!」
「能力者は海に落とせばこっちのもんだ!」
上から聞こえてくる喧噪は、もうクロコダイルに任せる。
あとは、俺のやるべきことをやろう。
「あの艦が奪われるのも時間の問題、海軍にとっての大失態だ! 今すぐ沈めろ!」
「はっ! 砲撃用意!」
別の艦の砲口がクロコダイルたちの乗る艦へと向けられる。
それを阻止しようとして、その前に師匠からの水柱がその艦へと落ちた。艦を攻撃するというよりも艦の火薬を濡らすことが目的だったらしく、砲口を向けようとしていた艦からは「しまった! 火薬が濡れた!」という声が聞こえてくる。
さすが師匠だ。
なら、俺は他の艦を沈める。
魚人空手の海の宝刀(マリン・スパーダ)で真っ二つにするか、それとも魚人空手陸式の海竜で風穴を開けてやろうか。少しだけ考えて、いやけど悩むまでもない。まだ肌に感じる空気の違和感は消えていない。だったら陸式よりも純粋な魚人空手にしておいた方がいい気がする。
それに海の宝刀でクロコダイルがどんな反応を見せるのか、少しだけ気になるし。
「一気に、いくぞ」
誰にでもなく、自分に呟いてまずは海面に拳を叩き付けようとして、けどそこで師匠からのストップがかかった。
「む、待てハント!」
「……え?」
多分、他の誰に言われてもそんな急に言われても拳は止まらないんだけど、師匠に言われたらやっぱり体が反射的に反応してしまう。慌てて動きを止めた……あ、師匠以外にもナミにストップって言われたら反射的に止まってしまうかもしれ……うん、どうでもいいか、今は。
そんなことよりもなんで師匠は止めたんだろう。
そう思って顔を向けると「ドでかい技は使うな!」
「……はい?」
気配で俺がなにをしようとしているのかを、師匠は悟ったらしい。けど、それをやめろと言われても意味が分からない。軍艦だって真っ先に沈めてしまった方がいいに決まってるのに。師匠の言いたいことが分からずに首を傾げると、また師匠からの声が飛んできた。
「ここはカームベルド! 海底に何がおるか知らんこともなかろう! あまり派手なことをしては注意を引くことになるぞ!」
「っ」
なるほど。
それは確かにマズイ。
「それに、さっき海中で助けを呼んでおいた! 奴らのためにも海をあまり荒立てたくはない!」
「……助け?」
――なんですか、それ?
って言う前に気付いた。
師匠が海中で助けを呼ぶといったら師匠の友達しかいない。俺も知ってる。師匠に修行を受けていた時に何度か、師匠が会話している光景を見ていたことがあるから。
師匠が会話できる魚、ジンベエザメ。
見聞色で確認すると、思った通り。その群れが近づいてきていた。
なんの助け? って思ったけどたぶん俺たち側じゃなくて未だにインペルダウンで俺たちが軍艦を奪ってくるのを待っている奴らのための助け何だと思う。万が一マゼランの時間稼ぎに失敗した時に、俺たちが間に合わなかったときにジンベエザメでみんなを逃がすという作戦だろう。
……うーむ、流石にこういうところは抜け目がないなぁ、師匠は。
俺とかならそんなところまで絶対に気が回らないもんなぁ……そもそもジンベエザメと会話が出来ないけど
まぁ、それはとにかく。
海底にいる海王類の危険性と、今こっちへと来ているジンベエザメの群れの安全性を考えると、確かにあまり派手な技は使えない。
となると、俺に出来るのは撃水か槍波ぐらいか。
まぁ、それだけでも軍艦の一部は傷つけられるだろうし、注意を引けるだろうからやるだけやるしかないか。
とりあえずは雨のように降ってくる砲弾をやり過ごすため、体を水中へと潜り込ませた。
……この砲弾で海王類って気づかないものなのだろうか。
さて、ハントたちが軍艦の奪取をしようとしていた頃、軍艦を待つインペルダウン組には危機が迫っていた。
毒を通さないロウの能力者、Mr3とルフィの共闘によりマゼランの足止めに成功していたのも束の間、マゼランの奥の手により、そのロウすらも毒を防ぐことが出来なくなり、ルフィたちも遂には敗走。
ある程度の時間稼ぎには成功したものの、軍艦を奪取するまでの時間は稼げなかった。
インペルダウン正面で軍艦を待ち続ける一同に、ルフィたちと、マゼランに敗北したはずのイワンコフとその部下イナズマもが合流を果たし、脱出できるかどうかも遂に瀬戸際。後ろから迫りくるマゼランの脅威は既に彼らの真後ろにまで迫ってきている。
「麦わら、海坊主からだ!」
手渡された小電伝虫へとルフィは慌てて耳を傾ける。
『ルフィ、来たか!?』
「来た! まだあいつに追われてんだ! もうすぐ出口で止まっちまうよ!」
『悪い! 艦は奪えたけど、そっちに行くにはもうちょい時間かかる!」
「ええーー!」
ルフィの驚きの声に、ハントは子電伝虫越しにも伝わるほどに楽しそうな声で返す。
『けど、大丈夫だ! そのまま海に飛び出せ! 全員を海に突き落としてもいい! あとは師匠がなんとかしてくれる! 絶対大丈夫だからな! 頼んだ!」
そのまま子電伝虫の接続が切れたことを確認して、ルフィは「言う通りにするぞ、3! もっかい力貸せ!」とMR.3へと言いながら再びマゼランへと体を向ける。
「正気カネ!? 海へ飛んだら死ぬに決まっとろうガネ!」
制止する彼らの声を振りり、ルフィは今しがた合流したイワンコフの力を借りて、脱出を図っていた一同と共に海へと飛び降りた。
――そして、彼らはジンベエザメの背中に乗って見事にインペルダウンを脱出する。
途中、彼らにとって最大の防壁になるであろう正義の門も、ボンクレーの捨て身の活躍により、開かれて。
途中、ルフィたちの目的がエースを救うために海軍本部へと向かっているということをバギーたち脱出組が知り、一悶着起きかけたものの、結局はバギーがまとめあげて事なきを得て。
彼らは行く。
海軍本部へと。
――処刑開始まで残り3時間。
「バギー! バギー! バギー! バギー!」
甲板の方から聞こえてくる歓声を背に、ハントは一人で船尾へと位置取っていた。通過した正義の門は既に閉じられており、追いかけてくる軍艦は既にない。
一人で海を見つめながらそっと船の縁に手をかける。
時折跳ねる小さな水しぶきが頬にかかり、どこか気持ちよさそうに目を細めたハントは自分の手を握りしめる。
「っ」
彼の心に浮かんでいるのは、Mr.2ボンクレー。自分の身を犠牲にしてまで助けてくれた、元は敵だった友人を思い浮かべて、また視線を海へと落とす。
――気づけなかった。
ルフィやハントがただ前を走ることばかりを気にしている時、ボンクレーが彼らの犠牲になってまで道を開こうとしてくれていた。それに、ハントは気付けなかった。
「くそ」
悔しげにハントは呟き、歯を食いしばる。
「……ちょっとは強くなった、はずなのに」
ココヤシ村のみんなを救った。
自分よりも強い人間は山ほどいる。けど、そんじょそこらの人間には負けない自信がある。
ココヤシ村のみんなを救うために手に入れた力は、今では大切なみんなと一緒にいるためにある力となってハントを突き動かしている。それなのに、今この艦にボンクレーがいない。その事実が、ハントの顔を暗くさせていた。
「……」
今は閉ざされた正義の門を見上げて、そこから空へと視線を移行。
目を閉じて、顔を落として、全身に力を込めて、まるでそこから飛び出さんばかりに体に縮こまらせて……だが、そこで弱々しく開かれた目を海へと向けて、首を横に振る。
――違うか……うん、違うな。
何を想い、何を考えたのか。
自分の心を否定するハントの視線に宿るソレには一瞬前まで存在していた弱々しさが消えていた。
「今、助けるのはエースだ」
自分に言い聞かせるように吐き出した言葉。それに、ハントは何度も頷く。
――次はもう失くさない……だから、ボンちゃん。
また空へと視線を向ける。
――俺は謝らない。
「……ありがとうな、絶対にエースは助ける」
自分の体を抱くようにして「っくそ」とハントは吐き捨てる。
――それなのに……消えない、未だにっ。
今は何よりもエースの救出に全力を注がなければならない、集中しなければならない。それなのに、ずっと付きまとっている違和感が消えない。それどころかその違和感は膨らんでいる。
その正体が、ハントにはわからない。
体を動かそうが、魚人空手陸式を撃とうが……別に、何も変わらない。それなのにずっとハントを違和感が襲っている。時折、それが消えることもある。けれど、フとした時にまた復活して、ハントの意識をその違和感がつつき始める。
「考えてる場合じゃない……集中だ……集中しろ……今は、エースの命が危ないんだ」
何度も深呼吸を繰り返し、何かにこらえるように歯を食いしばる。だが、そこでフッと息を漏らして体の力を抜いて笑顔に……かと思えば突如として、体の向きを変えた。
「どうしたんだ? ルフィ?」
笑顔のハントが振り向いた先にはルフィが。珍しくルフィが驚いた表情をしていることから、もしかしたら後ろから急に声をかけてハントを驚かそうとしていたのかもしれない。ルフィは「ああ、ハントがどこにもいねぇからよ」と少しだけバツが悪そうに頬を掻きながらそっぽを向いて答える。
そんなルフィの態度に、ハントが少しだけ楽しそうに「何か用か?」
「あ、ああ」
ルフィが言いづらそうに口ごもり、その態度で普段はニブいハントもピンと来た。何に対しても歯に衣着せぬ物言いをするルフィが言いにくそうにしている時点で、お察しといえばその通りだろう。
だから、ハントは言う。
「ルフィ、今はいいよ」
「……?」
「確かに、気になる。なんでここにルフィしかいないんだ、とか。他のみんなはどこにいるんだ、とか。考えたらキリがないくらいに色んな疑問が俺の中にある……けど――」
ハントの言葉に、ルフィが辛そうな表情を浮かべる。
船長としているにはハントの言葉はあまりにも耳が痛くて、聞いていられなかったのだろう。最後までハントの言葉を聞かずして、ルフィが頭を下げた。
「悪い、ハント……おれは皆を――」
「――謝るな!」
「っ!?」
ビクリと、ルフィが反射的に顔をあげてハントの顔を見つめる。
「俺は何があったかなんて想像もできない……けど、お前のことだから、麦わら一味のことだから懸命に戦ったんだろ? それでその結果今になってるんだろ? じゃあ謝るな、謝らないでくれ。精一杯戦ったお前が謝らないといけないなら、俺だってお前らと一緒にいられなくなったことをまた謝らないといけなくなるだろ」
「……そんなこと言いだしたらキリがねぇよ」
「ああ、俺もそう思う……だから謝らないでくれ。俺はお前が元気な姿を見て、それできっと皆がまだ無事だって信じていられるんだ」
ルフィが仲間を失ったようには見えない。何かがあって離れ離れになったんだろう。誰よりもルフィが今、無事な姿で目の前にいるからこそ、ハントにはそう思える。
「……」
「…………」
二人が、ジっと見つめあう。長い沈黙を破って頷いたのは、ルフィ。
「……わかった、そうだな!」
「今はエースのことを考えよう、ルフィ」
「ああ! エースは俺のアニキでお前ぇの友達だ。俺とハントで絶対に助けるぞ!」
「おう!」
「けど、お前ぇがいれくれてよかった。ハントがいるとやっぱ心強ぇ」
「それを言うならルフィがいれくれないと脱獄すら出来てないからな、俺は」
「しししし、そっか!」
「ははっ、そうだ」
二人が笑顔で、拳を軽くぶつけ合う。彼らはお互いに信頼の出来る大事な仲間なのだから。
――と。
「ん?」
「ぅぉ!」
突如、すさまじいまでの浮遊感が彼らを襲う。
「なんだ!? なんだ!?」
「波に乗ったっぽいぞ、ルフィ! けど、天気いいのになんでこんな荒波が!?」
「とりあえず甲板に行くぞ、ハント!」
「ああ!」
揺れる船。
そして――
「あ、そういやラブーンが待ってる海賊をラブーンに会わせたいってハント言ってたろ?」
「ん? ああ、もちろん」
「そいつ、仲間にしたぞ?」
「へーまた新しい仲間が増えたの……え、マジで!? ……っていうかなんで今だよ!? リアクション取りたいけど取ってる場合じゃないし! しかもすごい色々と聞きたいけど、聞いてる場合でもないし!」
「まぁ、気にすんな、良い奴だから!」
「気にするわ! ってうかそもそもお前が言い出したせいだろ!? なんで他人事扱い!?」
揺れるハントの気持ちをよそに――
「っていうかこんなこと言ってる間になんか波が凍ってるし!?」
甲板へと駆けながら「何が起きたんだよぉ!」と叫んだルフィの声に、同乗していた囚人のうちの一人が反応。
「わからねぇ! 急に大波にさらわれたと思ったら突然海面が凍って艦が氷につかまった!」
――もう、戦争は目前に。
マリンフォード。
海軍本部が居を構えるそこには、既に避難勧告を受けて一般の住民たちの姿はない。
そこで、既にエースの処刑を止めようという白ヒゲの一団と海軍が戦闘を……いや、戦争を始めていた。
そこはまるで世界の終り。
電伝虫の映像越しにそれを見る一般の人間たちにはそう思えるほどの光景。
突如として起こる、大津波。それらの大津波が一瞬で凍り、山ほどの大きさと思わんばかりの巨大な氷塊が空を飛び、また一瞬で蒸発。かと思えばまたいきなりいくつもの火山弾が凍った海面と白ヒゲ一味へと降り注いでいく。
目を疑うような、まるで自然災害のオンパレード。それら全てが各個人の力によって起きているのだからぞっとする。
「オーズを踏み越えて進めぇ!」
「おおぉぉぉぉ!」
怒号が入り乱れ、銃弾が飛び交い、命が見境なく散り消える。
エースを処刑する側にいるのは海軍本部の元帥、大将、中将たち。元帥たる仏のセンゴク、大将の青キジ、赤犬、黄猿、中将のガープや大参謀のツルが率いる10万人の海兵たち。
それに加えて王下七武海のそうそうたる面々。
世界一の剣豪と称される鷹の目、海賊女帝のハンコック、天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴ、暴君バーソロミュー・くま、そしてつい先日ルフィに敗れたゲッコー・モリア。
残りの二人は黒ひげとジンベエという、インペルダウンにいた人間のため、当然ここにはいないがただでは終わらないことが目に見えている、彼らもまたそうそうたる面々。
それに対するは白ヒゲ一味。白ヒゲを筆頭に一番隊長、不死鳥マルコ。3番隊長、ダイアモンド・ジョズなどがエースを救おうと戦場で暴れまわる。
局面は徐々に混迷を極めていくのだが、ふとそこへ――
「だからおめーはやりすぎだってんだよ!」
「こいつのまばたきのせいだ」
「ヴァターシのせいにする気!? クロコォ!」
「どーでもいいけどコレ死ぬぞ! 下は氷はってんだぞ~~~!」
「ちょ、こんな死に方は本当に嫌なんだけど! いやマジで!」
――彼らの戦争を割って入る声が、彼らの頭上から降ってきていた。
「おい、何だアレは……何か空から降ってくる!!」
全員がそれに驚いて視線を見上げるが、そんな視線や声はもう降ってくる声の主たちにすれば関係がない、
「あああああああ……あ、俺ゴムだから大丈夫だ!」
「貴様一人で助かる気カネ! 何とかするガネ~!」
「てめぇの提案なんて聞くんじゃなかったぜ、麦わらぁ! 畜生!」
「こんな死に方ヤダッチャブル! 誰か止めて~~~~~ンナ!」
「高っ! こわっ! 無理無理無理! 死ぬときはナミの側じゃないと嫌だああああ!」
それはルフィを筆頭に、Mr.2やバギー、イワンコフ、ハント。
騒がしくも。
だが、確かに。
「ぷはーーーー」
「海だ! 助かった! 海に落ちたぞ!」
「氷に叩き付けられて死ぬかと思った!」
彼らは戦場のど真ん中へと降り立った。
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