赤い服のアルバイト
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6部分:第六章
第六章
「そして最後に」
「最後に!?」
「今度は」
「空を」
サンタクロースは空を指差してきた。
「空を御覧になって下さい」
「何や?」
「今度は何が」
皆彼の言葉に従い上を見上げる。それまで彼等が橇を駆っていたその夜空を。夜の帳に覆われたその空を見上げるとそこにあったのは。
「あっ・・・・・・」
「雪・・・・・・」
「雪だ」
「クリスマスだからか?」
「その通りです」
優しい声で彼等に答えるサンタクロースだった。
「クリスマスにはこれですね」
「まあ言われてみれば」
「確かに」
その通りだった。クリスマスに雪があればそれで最高の舞台になる。サンタクロースは当然ながらそれがわかっているからこそ今ここで雪を降らしたのであった。
「そうだよな、やっぱり」
「ベタっていえばベタだけれどな」
「御気に召されたならば何よりです」
サンタクロースが気にかけているのはこのことだった。
「その場合は。どうでしょうか」
「気に入らない筈ないでごわす」
「んだ」
皆こうサンタクロースに返した。
「おいどんは鹿児島でごわすからそもそも雪自体見れるものではないでごわす」
「おらは青森の津軽だ」
まさに日本の北と南である。
「んだども。やっぱりクリスマスに雪ちゅうのは最高だべさ」
「そうですか。それは何よりです」
「サンタさん、おおきにな」
さっき遼太郎と話をしていたあの関西弁のサンタがサンタに礼を述べた。随分と明るい調子であるのは相変わらずであった。
「今日はごっつい楽しかったで」
「そうだよな」
彼の言葉に頷いたのはその横にいる遼太郎だった。
「何だかんだ言って。空を飛んで子供達にプレゼントをして」
言いながら右手をそっと差し出す。そこに雪が一つ、また一つと降りてきてそこで消える。
周りにはイルミネーションが輝いている。そういったものを見ながら言うのであった。
「いい一日だったな。これが俺達の」
言おうとした。しかしその前に皆が言うのであった。
「クリスマスプレゼント、有り難う!」
「そういうことだな」
彼等の言葉を聞いて微笑む遼太郎だった。夢の様な瞬く間の話であった。だがそれでもそれは確かに彼にとっても周りの彼と同じ経験をしたサンタ達にとっても最高のサンタクロースからのプレゼントだったのであった。赤い服の一日だけのアルバイトという。
赤い服のアルバイト 完
2008・11・27
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