赤い服のアルバイト
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3部分:第三章
第三章
「御安心下さい」
「けれどトナカイが空飛ぶか?」
「飛ぶトナカイなんて」
ここで皆少しわかってきた。心当たりのない人間もまずいなかった。
「まさかひょっとして」
「それでです」
そのものズバリといった感じの言葉だった。
「このそら飛ぶトナカイと橇で皆さんにプレゼントに回って欲しいのです」
「ってことはあんた」
「やっぱり」
「そう、私の名前はサンタクロース」
何時の間にかモニターと共にマリンスタジアムのスコアボードの頂点にいた。赤い服を着た白い髭のその彼が。にこにことして笑っていたのである。
「皆さんよく御存知ですね」
「御存知も何も」
「本物かよ」
「本物です」
皆の言葉に堂々と答えもする。
「スオミ、即ちフィンランドから来ました」
「マジかよ」
「日本までわざわざ」
「今宵は特別の日」
サンタクロースは言う。
「ですから皆さんに来てもらったのです」
「皆にプレゼントを配る為にですね?」
「そうです」
やはりそれであった。
「赤いサンタの服に身を包み」
「ああ、これか」
「これだな」
皆橇の座席を見る。見ればそこにあの赤いサンタの服と帽子があった。おまけに白い髭まである。雪を思わせる白さと綿の柔らかさを併せ持つ見事な付け髭である。
「そうして今宵は日本の皆さんにプレゼントを配って下さい」
「けれどサンタさん」
一人がまたサンタに対して問うた。
「プレゼントっていっても一人一人違うし」
「そうだよな」
「プレステのソフトが欲しい子もいれば特撮のおもちゃが欲しいって子もいるし」
皆子供達の立場になって考えてみる。考えてみればそうなのだ。欲しいものは本当に人それぞれで全部違っていると言っても過言ではない。
「それに男の子だけじゃないですし」
「女の子もいますよ」
こうサンタに対して問うのであった。一人が何時の間にか皆になっていた。
「そこはどうするんですか?」
「俺達誰が何を欲しいかなんてわからないし」
普通の人でしかない彼等がわからないのも当然だった。彼等は神様でもサンタクロースでもないのだから。
「どうするんですか?そこんところは」
「靴下にプレゼントを入れるんですよね」
「はい」
靴下にプレゼントを入れるということにはにこりと笑って答えるサンタクロースだった。
「そうです。それは皆さんが御承知の通りです」
「じゃあ一体」
「誰の靴下に何を入れるか」
「全然わからないんですけれど」
「なあ」
「そんなのわからないよな」
「御心配なく」
しかしサンタクロースは不安を露わにさせる彼等に対してこう述べたのであった。
「それは。心配されることはありません」
「心配いらないって?」
「けれどやっぱり俺達そんなことは」
「プレゼントはそれを欲しい子に与えられるのです」
穏やかな笑みを浮かべて皆に述べてきたのだった。スコアボードの頂上のサンタクロースもモニターのサンタクロースもそれぞれ同じ顔になっている。
「それが欲しい子に」
「だからですか」
「大丈夫なんですか」
「そうです」
やはりにこりとして皆に話した。
「ですから。皆さんはそれぞれの子供達にプレゼントを配って下さい」
「まあ大丈夫っていうんなら」
「それなら」
当のサンタさんに保証されてとりあえずは安心した。そのうえで顔を見合わせて言い合うのだった。
「やりますね」
「今からですよね」
「まずは着替えられることを忘れずに」
このことを言うのを忘れないサンタクロースだった。
「貴方達は今日はサンタクロースなのですからね」
「そうだよな、やっぱり」
「赤い服に髭がなくちゃサンタじゃねえよな」
「そうだよな」
やはりそれは忘れてはならなかった。サンタクロースはその赤と白によりサンタクロースとなっているからだ。彼等もここでもサンタクロース本人に言われて納得するのだった。
「では。開始は夜になってからです」
「夜になってから」
「いよいよ」
「今宵子供達は期待に胸を膨らませて眠っています」
サンタクロースは柔和な笑みで語る。
「その子供達にプレゼントをするのが貴方達なのです」
「サンタの俺達が」
「おいよ、それってよ」
中にはうきうきとした顔になっている者もいた。
「すごかねえか?」
「ああ、そうだよな」
「すげえよ、これって」
今まで何が何なのかわからないまま聞いていたので実感が沸かなかったがここでそれがようやく沸いてきたのだった。沸騰するまでに少し時間がかかった。
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