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鏡に映るもの

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8部分:第八章


第八章

 そうしてすぐに窓を開ける。ところがだった。
「むっ!?」
「なっ!?」
 フリッツが窓を開けた途端そこから砂が入って来た。砂はすぐに二人の目に入ってしまった。
「な、何だこれは」
「砂!?これは」
 それを認識するともう。二人は動けなくなった。
「い、いかん」
「眠い・・・・・・」
 急激に眠くなっていく。すぐに立ってはいられなくなった。
 そうしてその場に倒れ込んでしまう。後はもう何も考えられなくなり深い眠りに落ちてしまった。そうして。
 不意に頬に暖かいものを感じ瞼に光が差し込んで来るのがわかる。それに気付いて目を開けると。
「あれ・・・・・・!?」
「若旦那様!?」
 二人は何もない森の中の湖のほとりに身体を横たえさせていた。身体を起こしてもそこにあるのは森と湖ばかりで他には何もない。当然二人が昨夜いた城なぞ何処にもなかった。
「ここは一体」
「あのお城は」
 ないのだ。どれだけ周りを見回しても。二人はそのことに首を傾げずにはいられなかった。
「これはどういうことなんだい?」
「私にも何が何だか」
 二人共理解できなかった。何が起こったのか。それで首を右に左に捻っていたがやがて少し落ち着きそれぞれの身の回りを見た。とりあえずは。
「剣はあるな」
「斧もあります」
 それぞれの武器はあった。
「あと荷物も」
「お金もありますよ」
 続いてそういったものもチェックした。しかも二人のすぐ側にはハインリヒのあの馬までいた。彼は主の側まで来て彼を心配そうに見て顔を側に寄せてきていた。
「こいつもいるし」
「特に何もないみたいですね」
「しかしだ。どうして」
 ここでまたハインリヒは言うのだった。怪訝な声で。
「あの城は何処に行ったのだ?」
「それですよね」
 フリッツもまた主のその言葉に応える。
「見たところ何処にもですけれど」
「だが昨日は確かにあった」
「ええ」
 それは間違いない。二人もそれははっきりとわかっている。
「しかし今は何処にもない」
「幻だったんでしょうか」
「ううむ。一体」
「ははは、幻じゃないですよ」
「そうそう」
 ところがここで。不意に湖の方から声がしたのだった。
「あれは私達のお城でさ」
「驚かれました!?」
「!?湖の方から」
「今度は一体」
 その声に二人同時にその湖の方を見た。するとそこにいたのは。
 湖の上に彼等は浮かんでいた。そこにいたのはあの奥方に老婆に幼子に青い髪の女に。他にも色々といた。だが誰もが人間でないのがすぐにわかった。何故なら皆湖の上に立っているからである。
「ほんの悪戯のつもりでしたが」
「いやいや、かなり驚かれて」
「挙句には化け物と思われているようでしたし」
「そうではないのか?」
 ハインリヒはこれ以上はないという程に眉を顰めさせながら彼等に対して問うた。
「貴殿等は。違うというのか?」
「はい、違います」
 あの奥方が答える。今度はあの陰気さはなくやけに明るい顔である。まるで喜劇役者の様に朗らかに笑っている。それで顔まで変わって見える。
「私達は化け物ではありません」
「では何だ?」
「妖精です」
「妖精!?」
「そうです。妖精です」
「ですから鏡に映った時に」
 彼等は口々に明るく笑いながら二人に対して言ってきた。
「ころころ姿が変わりましたでしょ?」
「それだ」
 ハインリヒはそこを指摘する。
「それで化け物だと思ったのだ」
「姿は私でも」
 また奥方が言う。
 
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