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なぜ俺は青春ラブコメに巻き込まれる。

作者:月神
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第1話

 
前書き
 リクエストがあったので、ショウを主人公にした俺ガイル版を書いてみました。 

 
 人生には理不尽な目に遭うことがある。無論、全ての人間がとは言わない。
 俺――夜月翔も今理不尽な目に遭おうとしている。現在いる場所は職員室の平塚静という生活指導を担当している国語教師の前だ。
 正直に言って、どうして呼び出されたのか分からない。
 面倒事は嫌いなほうというか、好きな人間はいないだろう。故に課題の提出はきちんとしているし、校則といったものも守っている。呼び出されるような理由はないはずだが。
 というか、呼び出しておいて何故平塚先生はラーメンを食っているのだろう。こっちは昼飯を食べずに来ているというのに。配慮が少し足りないのではないだろうか。

「平塚先生、俺何かしましたか?」

 俺の問いかけに平塚先生は手で少し待てと返し、口の中にほうばっていたものをよく噛んでから飲み込んだ。

「ふぅ……今の質問への答えだが、君は何もしていないよ。だからそう怯えるな」

 別に怯えた顔はしていないと思う。悪いことをした覚えはなかったのだから。まあ職員室、それも生活指導を担当している教師に呼び出されるというのは緊張はしていたが。
 しかし、何故か分からないが俺は前からこの人に話しかけることが多かった。話すようになったのは……偶々先生の落し物を拾ったきっかけかもしれない。
 話す内容は、主に仕事や社会に対する愚痴や漫画について。後半はともかく、前者については聞いているだけなのだが。

「じゃあ何なんですか? 愚痴とかなら放課後にしてほしいんですけど」
「そう先を急ぐな。確かに愚痴りたいことは山ほどあるし、君に聞いてもらいたくはあるが、今回はそういうのとは別件だ」

 教師が生徒に愚痴を聞いてほしいというのは一般的にどうなのだろうか。
 こちらも何かしら相談していたりすればおかしくないのだが、あいにく俺は平塚先生に相談していたり愚痴っていることはない。
 それにしても、愚痴ではないとするとますます分からなくなる。それと同時に嫌な予感がしてならない。これから俺はとんでもないことに巻き込まれてしまうのではないだろうか。

「夜月、君は確か部活動には入っていなかったな?」
「……まあ」
「おいおい、露骨に嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか。君は普段無表情が多いからそういう顔をされると結構傷つくんだぞ」

 何もしていないのに呼び出されて部活の話になれば警戒するのは当然だと思うんですけど。というか、これくらいのことで傷つくあなたじゃないでしょ。これまでの愚痴からあなたが何度も男に傷つけられてきたのは知ってるんですよ。

「そうですか、それはすみませんでした。お詫びに話の他に愚痴も聞いてあげますよ」
「それは助かる……夜月、君は今のような言い回しを誰にでもしてるんじゃないだろうな?」
「あの……部活の話じゃなかったんですか?」
「いいから答えろ。君が思っている以上に女という生き物は、冷たくされている感じなのに急に優しくされると勘違いするものなんだ。教師として君が腐った男ではないか知っておく必要がある」

 普通ならば答えなくてもいいはずなずなのに、どうしてこうも妙に真面目に答えないといけないと思ってしまうのだろう。
 あれか、あれだろうか……平塚先生の実体験のようなものが感じられるから同情でもしてしまっているのだろうか。まあ何であれ、別に答えられないことではないし、変に誤解されるのも面倒だ。ここは素直に従っておこう。

「してるつもりはありませんけど。女子とは挨拶や事務的な会話くらいしかしてませんし、愚痴とか聞いている相手も平塚先生くらいですから」
「そ、そうか……私だけなのか。そうか……なら問題ないな」

 どうやら納得してくれたようだが……一般的な納得とどこか違うように思えるのは、俺の気のせいだろうか。何やらほんのわずかばかり寒気のようなものを感じたのだが……。
 ……前にこの人が生徒の頬すれすれにパンチを繰り出したのを見たことがある。
 そのときの平塚先生の目は実に恐ろしいものだったので、そのせいで俺は無意識にこの人のことを恐れているのかもしれない。納得してもらえなかったら鉄拳が飛んでくるのでは? と気が付かないうちに怯えていたのだろうか。……そういうことにしておこう。この話題に踏み込むのは危険な気がするし。

「話を戻そう……君に友達はいるか?」

 急に真面目な雰囲気になったが、どうして俺は友人関係を心配されるのだろうか。確かに平塚先生と話したときはいつもひとりだったし、俺は愛想が良いほうではないけれども。

「多少は」
「それは少ないということだな?」
「まあ上辺だけの付き合いの相手を友人と思ってはいませんし、自分を偽ってまで他人に付き合いたいとは思ってませんから。そういうのは必要な時だけにしたいですし」

 これは俺個人の考え方なので納得してもらう必要はない。ただ否定されるのはご免だ。友人という定義は人によって幅が異なるはずなので、自分の意見を押し付けるのはやめてもらいたい。あんたはあんた、俺は俺なのだから。

「なるほど……ちなみに私のとき――いや何でもない。話を進めよう……夜月、彼女とかはいるのか?」

 友人の次は彼女ですか。あなたはいったい何を話したいんですかね。俺の交流関係を知って何の得があるんですか。
 というか、彼女『とか』って何だよ。別に同性愛とか腐女子の存在を否定するつもりはないけど、俺の恋愛対象は普通に異性だけだから。あいにく彼氏とか作るつもりはないからね。まあ彼女に近い相手のこととかを含めたかっただけかもしれないけど。

「生まれてこの方居たことはないですけど」
「そうなのか? それは少々意外だな……君は一見無愛想だが優しいところはあるし」
「あの、俺の恋愛事情とかが部活に関係あるんですか? 関係ないなら話を進めてほしいんですけど」

 ラーメンを食べた平塚先生と違って俺はまだ何も食べていない。あまり食べるほうではないが、人並みに食欲はある。昼休みはまだ終わりはしないが、食事をしてから多少はゆっくりしたいものだろう。

「う、うむ……関係あるといえばあるし、ないといえばないのだが」
「はっきりしませんね。まあいいです……それで先生は俺を何の部活に入れようと思ってるんですか?」
「それはだな……」
「あぁーやっぱりいいです」

 平塚先生が慌てた様子でまだ話していないと食い下がってくるが、何とも言いがたい微妙な顔を見せられては楽しい青春が遅れる部活動ではないだろう。
 俺は今の代わり映えのない毎日を気に入っているし、このまま平凡に卒業まで過ごせたらと思っている。自分から危険や面倒事に首を突っ込む必要はあるまい……

「夜月、君は私の話を聞くと言ったじゃないか。なのに全てを聞かずに答えを出すというのか。答えというものはきちんと話を聞いてから出すものだぞ。というか、話を聞くと言ったんだから最後まで聞け。お前みたいな奴がいるから世の中には幸せになれない女がいるんだぞ!」

 そりゃ話を聞くって言ったのは俺ですけど、最後のに関しては俺は悪くないでしょ。というか、あなたさっき俺のこと良い男みたいな感じに言ってませんでしたっけ。結婚とか真剣に考える時期だってのは分かりますけど、高校生相手に八つ当たりするのはやめてもらえませんか。

「分かりました、分かりましたから落ち着いて機嫌を直してください」
「いやダメだ。君の振る舞いは私を大いに傷つけた。なので放課後またここに来い。もし用事か何かで居なかったらメモを置いておくから、それに指示された教室に行け。分かったな?」

 いやいや、それは横暴すぎる……はい、分かりましたよ。だから睨むのやめてもらっていいですか。俺、愛想がないから怖がられているのか人からあまり呼び捨てにされたりしないほうですけど、ケンカとかはほぼ経験がないですから。
 なので平塚先生と殴り合って勝てる自信はないです。まあそんなことになったらお互いに面倒なので実際には起こりえないでしょうけど。

「分かりました……じゃあ放課後」
「うん、待っているぞ。……夜月、ちゃんと来るんだぞ」
「平塚先生に呼び出されてるのに行かないわけないじゃないですか」

 行かなかったらあとで何をされるか分かったものじゃないし。この学校の教師の中で誰を1番敵に回したくないかと言ったら断トツで平塚先生だ。悪いことをすれば多少の体罰はありだと思ってはいるが、この人のはさすがに怖い。機嫌を損ねるような真似は可能な限り避けなければ。

「じゃあ、今度こそ失礼します」

 そう言って一度頭を下げ、俺は職員室を後にした。放課後に得たいの知らない恐怖のようなものを感じてはいるが、放課後になるまでは忘れようと強く決意して。


 
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