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堕天使

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1部分:第一章


第一章

                          堕天使
 天使マキエルはこの時だ。神にこう告げられていた。
「近頃天界でも不心得者が多いな」
「はい」
 神の玉座の前に片膝をつく彼は落ち着いた声で答えた。
 周りには空と雲が広がり厳かな柱や階段も見える。神の宮殿においてだ。彼は神の前に控えそのうえで神と話をしていたのである。
 その神がだ。こう彼に言ったのである。
「そして堕天する者が絶えない」
「嘆かわしいことです」
「それは何故か」
 神はここで言った。
「私の命令に従わないからだ」
「神の御命令に従わないとは何と恐れ多い」
「私は神だ」
 神は己自身を言った。
「その神に誤りはあるか」
「ありません」
 マキエルはすぐに答えた。
「ある筈がありません」
「そうだ。神は過ちを犯さない」
 その絶対の自信がだ。神にはあった。
 その自信からだ。彼はマキエルに告げる。
「よいか。そなたは私に従うのだ」
「私は神の忠実な僕です」
 マキエルは礼儀正しく神に答える。
 見れば彼は銀の甲冑とマントに身を包んでいる。翼は六枚ある。豊かな金髪に見事な碧眼、彫刻を思わせる顔をしている。その彼が答えるのだ。
「それ以外の何者でもありません」
「そうだな。そなたの忠誠は絶対だ」
「神は常に正しいのです」
 またこう言うマキエルだった。
「ですから私は神のお言葉に従います」
「ではだ。そなたに命じる」
 神はマキエルの忠誠を聞いてから彼に言った。
「これから下界に行き二つの国を争わせるのだ」
「戦争を起こさせるのですね」
「そうだ。それにより二国の不心得者達を粛清する」
 神は何でもない様に言った。
「私を信じない者達をだ」
「そしてさらにですね」
「そうだ。周辺各国も巻き込む」
 戦争をするのは二国だけではないというのだ。
「多くの国の不貞の輩を地獄に送る為にな」
「悪魔共のあの世界に」
「不浄な者達は悪魔にくれてやる」
 やはり何でもないといった口調で言う神だった。
「どうとでもさせるのだ」
「では今より」
「人間共を争わせるのだ」
 またマキエルに命じたのだった。
「わかったな」
「おおせのままに」
 こうしてだ。彼は地上に降り立ちだ。そのうえでだ。
 両国を上から見る。するとだ。
 どちらも平和だ。そうしてだ。
 それぞれの教会に人が集まっている。そうして篤い信仰を見せている。それを見てだ。
 マキエルはだ。こう言うのだった。
「信仰の篤い者も多いのだな」
「そうみたいですね」
 従者の天使、子供の姿の彼サトエルが出て来て彼に応える。
「不道徳な者ばかりと聞いていましたけれど」
「そうだな。確かにそうした者もいる」
 空から見るとよくわかった。町の片隅ではだ。
 喧嘩をしたり盗みをしたりする者がいる。しかしだった。
 そうした者達ばかりでなくだ。そうした信仰を見せている者もいればだ。
 市場や工場で真面目に働いている者、それに田畑を耕している者もいる。そうした者達を見てだ。マキエルはサトエルに対して話す。
「だが多くの者はだ」
「真面目ですよね」
「真面目に働いている。不心得者は僅かだ」
「いるにはいますけれどね」
 だがそれでもだった。
「そんなのほんのちょっとですよ」
「そうだ。だがそれでもだ」
「はい、神は仰ってます」
「この両国の間にいざかいを起こしてだ」
「そこからですね」
「戦争にして周辺国を巻き込み」
 そしてだった。そこからだった。
「多くの者を地獄に送るのだ」
「それが神の御命令ですね」
「だが、だ」
 難しい顔でだ。マキエルは腕を組んでだった。
 そうしてだ。こう言うのだった。
 
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