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ソードアート・オンライン ~白の剣士~

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無いもの/有るもの

 
前書き
久しぶりの投稿です!
それではどうぞ!! 

 
死銃事件から数日過ぎたある日、雪羅は以前仕事の依頼を受けた銀座の喫茶店で事後報告を聞くべく菊岡と会っていた。

「それで?その後判ったことは?」

「ああ、その後死銃のリーダー役だった新川昌一の供述では、三人ということになっている」

「やはりか・・・で、ザ・・・昌一が俺たちを襲ったぼろマントで間違いないんだな?」

菊岡は問いに対して軽く首肯した。

「彼の自宅アパートから押収されたアミュスフィアのログにも、該当する時刻にGGOに接続していたことが記録されている」

「そうか・・・」

雪羅は目の前に置かれた紅茶に口を付けた。紅茶に映る自分の顔から視線を外し、カップを皿に戻す。

「新川恭二のその後はどうなっている?」

新川恭二はあの後、公園のど真ん中で警察が来るまで抵抗もせずその場で逮捕され、警察病院に搬送された。雪羅と詩乃は事情聴取ということで警察に同行、起こったことを事細かに話した。
その後、雪羅に促され詩乃は精神科医のカウンセリングを受け、病室で一泊。その後は医者の勧めを断りアパートに戻って登校した。
雪羅は少し心配ではあったが、詩乃の意思を尊重し止めはしなかった。
その後も警察の事情聴取は続き、今朝、全ての聴取が終了したとの報告があった。

「新川恭二は取り調べに対して黙秘を続けているよ。今は医療少年院に収容されている・・・」

「今度、面会できるように手配してくれないか?」

「ああ、そう言うと思っていたよ。こちらからは何時でも行けるように準備しておくよ」

「すまんな、手間をかける」

「それと君に赤眼のザザこと新川昌一から言伝てを頼まれている」

そう言って菊岡は封筒に入れられた一枚の紙を雪羅に渡した。そこには取り調べ後に書いたとされている彼宛のメッセージだった。

『これが終わりではない、これからも負の連鎖は続くだろう。しかし、もしお前に俺に見せたような覚悟が、想いがあるのなら・・・見せてみろ。そして、断ち切ってみせろ、その力で───』

そのメッセージは短く単純なものだった。しかし、そこに込められていた思いに雪羅は苦笑する。

『ったく、無茶苦茶言ってくれるじゃねーか!』

「僕はこれで失礼するけど、君は?」

「俺は少し寄るところがあるから」

「いいのかい?朝田さんの所に行かなくて?」

「ああ、大丈夫だろう。あいつはもうそんなに弱くねーよ」

菊岡はニコリと「そうかい」とだけ言ってゆっくりと店を後にした。
雪羅も帰ろうと思い車椅子に手をかけると、ふと携帯が鳴った。メールの送り人はどうやら雫らしく、キリトたちが来たからエギルの店に来てほしいとの内容であった。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

菊岡との対談を終えた雪羅はダイシーカフェのドアの目の前に来ていた。
既に雫からみんな来ているとのメールが届いていたので恐らく自分が最後だろうと思いながら扉を開けた。

「いらっしゃい」

渋い聞き慣れたマスターの声に俺はいつも通り返す。

「うっす、エギル。悪いな、店を使わせちまって」

「いいってことよ。それより、アイツらが待ってるぜ?」

エギルがクイッと親指で指した先には雫を含め詩乃やキリトもいた。

「よう、待たせたな」

「遅いわよシオン!」

リズベットこと篠崎里香はカウンターで雪羅に向かって不満げにそう言った。

「無茶言うんじゃねーよ。俺、車椅子なんだけど?」

「そうだよリズ。シオンは向こうじゃあんなだけど、リアルでは車椅子なんだから」

「アスナ、お前俺のことバカにしてるのか?あんなとはなんだ、あんなとは」

茶色がかったロングの髪を背中まで伸ばした容姿端麗な少女、結城明日奈は苦笑しながら言った。

「まぁ、確かに向こうのシオンは今じゃ想像できないほどの暴れっぷりだからね・・・」

雫もアスナの言葉に賛同する。
雪羅は今にも泣きたい気分だが、その気持ちを心の中にしまっておく。

「シノン、この今まさに心に傷を負った白髪の車椅子がシオンこと高嶺雪羅だ」

「知ってる、名前ははじめて聞いたけど」

キリトが雪羅を紹介すると詩乃は彼を見ながらそう言った。

「その、この前はありがとう・・・」

詩乃は雪羅に方に体を向けると頭を下げた。
彼は彼女に頭を上げさせてこう言った。

「シノン、聞いたとは思うがシュピーゲル、新川恭二は今医療少年院に収容されている。面会ができるのは鑑別所に移されてからだが・・・お前は来るか?」

雪羅の問いに対して詩乃は少し考え込んでから首を縦に振った。

「行くわ。会って、私が今まで何を考えてきたのか、そして今、何を考えているのか、話したいから・・・」

「そう言うと思ってた、後で菊岡に連絡入れとくからその時になったらまた連絡する」

「うん、ありがと・・・」

詩乃は再び頭を下げると雪羅は深い溜め息をついて頭をめんどくさそうにガリガリと掻いた。

「シノン、そう何回もありがとうなんて言われると調子が狂うからやめてくれ」

「えっ・・・」

「さしずめ、助けてもらったことに感謝の意を伝えたいところだが、俺はそういうのは求めていない」

「・・・・・」

「だが誤解するな。お前がそんな風にされると、こっちも気を使っちまうからな。お前はこれから“感謝する側”じゃなくて“感謝される側”になるんだから」

「感謝、される側・・・?」

そう言って雪羅はキリトにアイコンタクトを送った。キリトも頷くと

「シノン。まず、君に謝らなきゃならない。俺とシオンは、君の昔の事件のことをアスナとリズに話した。どうしても彼女たちの協力が必要だったんだ」

「えっ・・・!?」

「詩乃さん。実は、私たちは昨日の月曜日に学校を休んで、・・・市に行ってきたんです」

「なんで、そんな・・・ことを・・・」

詩乃はキリトの言葉を聞いて青ざめた顔をした。無理もない、自ら血で汚した事実を彼女は目の前にいる少女二人に知られてしまったのだから。
また拒絶される、一人になってしまう───
そんな風に思ってしまうだろう。しかし───

「それはお前が会うべき人に会っていないからだ」

雪羅は今にもこの場から逃げ出してしまいそうな詩乃に対してそう言った。

「どういう、こと・・・?」

詩乃の問いに対して彼は行動で示した。
店の奥に位置するPRIVATEと記された札が下がった扉を開けると、一人の女性が姿を現した。
その姿に遅れるように後ろから一人の少女が小走りで出てきた。

「はじめまして。朝田・・・詩乃さん、ですよね?私は大澤祥恵(おおさわさちえ)と申します。この子は瑞恵(みずえ)、四歳です」

「この人は昔、市で働いていたんだ。で、その職場っていうのが・・・」

「・・・町三丁目の郵便局です」

「あ・・・ッ」

詩乃は僅かに声を漏らし、ようやく理解した。今目の前にいるこの女性は自分が事件当時いた郵便局の職員の一人であることを。
しかし、彼女はまだ疑問に残っていることがあった。何故彼らは学校を休んでまでこんなことをしたのか?
しかしその考えは目の前で目尻に涙を滲ませた祥恵の言葉によって遮られた。

「ごめんなさい。ごめんなさいね、詩乃さん」

詩乃本人は何故謝られているのか理解できずただ呆然としていた。

「本当に、ごめんなさい。私、もっと早く、あなたにお会いしなきゃいけなかったのに・・・。あの事件のこと、忘れたくて・・・夫が転勤になったのをいいことに、そのまま東京に出てきてしまって。あなたが、ずっと苦しんでらしてるなんて、少し想像すれば解ったことなのに・・・謝罪も、お礼すら言わずに・・・」

目尻からは涙が溢れ落ち、隣で娘の瑞恵は母を心配そうに見つめる。祥恵は娘の頭を優しく撫でながら続けた。

「あの事件の時、私、お腹にこの子がいたんです。だから、詩乃さん、あなたは私だけでなく、この子の命も救ってくれたの。本当に・・・本当に、ありがとう。ありがとう・・・」

「命を・・・救った?」

「・・・本当に、勝手だよ・・・」

「えっ?」

不意に雪羅が言った一言に詩乃を含め皆の視線が俺に集まった気がした。しかしそんなことはどうでもよかった、雪羅は俯きながら車椅子の肘掛けを怒りの意を込めて強く握りしめた。

「命を張って救った恩人に対して、何もせずにただ忘れたいっていう傲慢な思いで、あなたは一人の少女の人生を変えてしまった。彼女が歩んできたのは“恩人”や“ヒーロー”のような明るい道じゃない。“殺人者”、“人殺し”のレッテルを張られた暗い日影の道だ。それがどれだけ辛いか、あんたに理解できますか?」

「・・・・・」

「ちょっとシオン・・・ッ」

リズが割って入ろうとしたがそれを雫が静かに制した。

「でも、それは決して間違いではないんだ。人は誰しもこんな状況になれば目を逸らしたくなる、逃げたくなる。俺はその選択を恨みはしない。だから・・・」

雪羅は祥恵に対してその目に焼き付けるかのごとく言った。

「だからせめて、子供に誇れる親であってほしい。子供っていうのは、常に親の背中を追ってるんだ。この子もそうだ、今まさにあなたの背中を追っている。そんな親がいつまでも過去を後ろめたく思ってズルズル引きずるなんて、カッコ悪いでしょ?親なら、大人なら堂々と胸張って、いつまでも子供の憧れであってくださいよ・・・」

そう言い残して雪羅は『終わったら呼んでくれ』とだけ言い残して店の外に出ていった。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

「はぁ・・・」

冬の凍てつく空気に身をすくめ溜め息をつく。吐かれた吐息は白く染まり、その寒さを物語っている。
外に出た雪羅は中から僅かに聞こえる一人の少女の嗚咽を聞きながら天を仰いだ。

「相変わらずだね、君は・・・」

「シュタイナー・・・」

先程まで裏にいたシュタイナーは雪羅に声をかけると缶コーヒーを投げ渡した。
バー兼、喫茶店の前で缶コーヒーというのはいかがなものかと思いながらも雪羅はそれを啜る。

「何のことだ?」

「君は自分がもっと価値ある人間だということを自覚した方がいい」

「生憎、俺は自分を過大評価する気はないんだよ」

「そう言うと思った。君はそういう人間だ、弱音を吐かず、危険だと判断すれば誰も巻き込まず、その身を差し出す。そうやって誰も傷つけずにやってきた、でも・・・」

シュタイナーの目はどこか悲しげだった。

「得たものは孤立だった。SAO(あの時)だって・・・」

彼は頭の中で考えてしまった。また、自分を傷付けるのではないかと。また、他者のために己を殺すのではないかと。
雪羅は缶を両手で包み込むと、それを眺めながら答えた。

「俺はあの時、ツバキが殺されてからはじめて後悔した。『もっと俺に力があれば』『アイツらを巻き込みさえしなければ』ってよ。怖かった・・・仲間が、大切な人が死ぬのは・・・。そして俺がとったのは、悲しいながら、誉められた選択ではなかった。それが最善だと思っていた、たとえ『裏切り者』『偽善者』と罵られようが構わなかった。それで皆が救えるなら、それで良かった」

彼は優しい。優しい故に誰も傷つけたくない。しかし、それは出来ないことなのだ。人は生きているなかで知らず知らずに誰かを傷つけている。
彼が優しさでとった行動は必ず誰かを傷つける。

「でも、そうじゃないんだ。俺は心のどこかで皆を疑っていた、信じきれていなかったんだよ。本当の仲間っていうのは、傷つくことを怖れず、仲間の背中を信じて預ける。今回の戦いで改めてそう思った・・・」

「シオン・・・」

「ザザに言われたよ。『これが終わりではない、これからも負の連鎖は続くだろう』ってな。確かに今後いつラフコフの連中が仕掛けてくるかもしれない。奴らは強い、でも俺たちはアイツらには無いものを持っている」

その言葉にシュタイナーは思わず笑みを浮かべてしまった。

「それと、お前には謝らなくっちゃな。すまない、また《鬼神化》を・・・」

《鬼神化》───
それは彼がザザ相手に見せたあの強制的にリミッターを外した状態で、怒り、絶望、憎しみといった負の感情がトリガーとなる危険なスキル、完全に堕ちればその精神は崩壊、二度と元には戻れない。
その理性を失うほどの力にSAOでのバーデン戦以降シュタイナーとシオンの中で今後二度と使用しないことを約束していた。

「それならモニターで見たよ。別に謝らなくてもいい」

「しかし・・・」

「それに、今回は収穫もあった。以前までなら暴れるだけ暴れて、目の前の敵を殲滅するまで止まらなかった。でも、今回は自分の力で押さえつけた」

「あれは運が良かった、あそこでエリーの声が聞こえてなかったら完全に呑まれてた」

「それでも抑えられた」

「シオン!」

雪羅とシュタイナーが話している中出入り口の扉から詩乃が出てくると、シュタイナーはそれと入れ替わるように店の中に入っていった。

「あの、あなたには改めてお礼を言いたい。今回の件じゃなくて、五年前、あなたは私を救ってくれた。あの時から、私は強くなりたかった。あなたのような強い人に・・・」

「強い人、か・・・。俺は強くねーよ、今までの戦いで俺はまともに一人で勝ったことはない。なのに周りは俺が一人で倒したかのように祭り上げる、全く迷惑な話だよ」

「キリトたちから聞いた。あなたは仲間を傷つけないために、巻き込まないためにあえて突き放す。すべて一人で背負って生きていく。それでもあなたの周りに人が集まるのは、あなたには人を引き付ける何かがあるから。私もそうだった、私もあなたの背中を追いたかった」

「ッ・・・」

詩乃は雪羅と同じ目線になるとその瞳に訴えた。

「シオン、私にあんたの背中を護らせて!」

「ッ!!」

雪羅の心は震えた。その瞳に、その言葉に───

「・・・俺の背中は無防備だぞ?」

「そうね、背中から撃ち抜いても解らないくらいに前だけ見てる」

「おい・・・」

「でも・・・」

詩乃は笑みを浮かべながら言った。

「こんなんで護れなきゃ、スナイパーのプライドが許さない」

「ほう、言うじゃねーか」

そう言って雪羅は拳を突き出す。

「これからよろしく頼むぜ、シノン」

「えぇ、任せなさい!」

彼女の顔を見て雪羅は確信した。彼女は過去と向き合う覚悟を決めたのだと。
彼女が今の状況から脱する方法───
それは彼女のことを許すこと。彼女に必要なのは罪でも、罰する存在でもない。彼女の存在を許し、受け入れてくれる存在が必要なのだ。
そして今日、その存在を得た。祥恵と瑞恵(存在を許す者)と自分を受け入れてくれる仲間を。

『そうだ、俺には奴らには無いものを持っている・・・』

彼ら(ラフコフ)に無くて、雪羅たちにあるもの、それは───


























命を張ってでも、護る価値のあるものだ─── 
 

 
後書き
これでGGO編は完結です!!
これからも御愛読いただけると嬉しいです!

コメント、評価お待ちしています!
ではでは~三( ゜∀゜)ノシ
 
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