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俺はやはり間違った選択をした

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窮屈だ

 窓際からは春の暖かい日差しが差し込み、部屋の中には紅茶の注がれる音が響いていた。

 早乙女と俺は長机の端で本を読み、今日もなぜか部室に来て紅茶を注ぐ聖。

 この光景は放課後の部室の日常となってしまっている。

 本来聖はここにいなくてもいいのだが、何をどう間違ったのか2日に1回は部室に顔を出していた。

 聖は紅茶を淹れ終ると俺と早乙女のところにカップを置き、俺の近くに置いてあった椅子に腰かけ、自分で淹れた紅茶を啜っていた。

 早乙女の方に目をやると彼女もカップに口をつけているところだった。

 俺も紅茶を飲もうとカップに手を伸ばした時に早乙女が口を開いた。

「そういえば、どうして聖君はここにいるのかしら」

「ブフゥッ!」

「うおっ」

 早乙女の突然の疑問に紅茶を飲んでいた聖が口から紅茶を吹き出した。

 おい、俺の制服にもろ掛かってんだけど。ブレザーに染みがついたらどうしてくれんだよこれ。

 というより、こういうのって普通吹き出しても誰にもかからない設定だよね。
 
 なんで俺にだけかかるの。

 俺はモブだからそういう修正かからないんですね。はい。

 なにこれ。悲しすぎる。

 ひじりはハンカチで口元を拭きながら早乙女に言葉を返した。

「なんでって……。俺って部員だよね?」

 早乙女の方見て話せよ。それに、そんな不安そうに俺のこと見ないでくれ。俺が聞きたいくらいだよ。なんでお前いんだよ。

「入部届けを出された記憶もないし……。私にもなぜあなたがここにいるのかわからないの。……もしかしてストーカー?」

「えー……」

えー……。早乙女からしたらコイツはストーカーの認識なわけ。こいつもしかしなくても自分の周りにいる男子全員ストーカーだって思ってんじゃねぇの?
 こんな献身的なストーカー中々いないと思うぞ。
主に、お茶いれてくれたり教室の掃除してくれたりゴミ捨てにいってくれたり。
よくよく考えてみればその他雑用は全部あいつがやってるな。

まぁ、一応このままだと聖が報われそうにないので、助け舟を出してやることにした。

「そう簡単にストーカーって決めつけるのはどうかと思うぞ」

「あら。私のストーカーではなく羽武谷君の、と言う意味で言ったのだけれど」

「……色々とそれはやばいだろ。社会的に。それに雑用とかもやってくれてたんだし、細かいことは考えなくてもいいんじゃないのか?」

俺がそう言うと早乙女は少しの間考える素振りを見せた後、聖の方を見て言葉を発した。

「羽武谷君のいう事もそれなりに筋は通ってるし、それなり働いてもくれているので一応ここにいてもらってもかまわないわ」

それを聞くと聖は安心したようでホッと胸を撫で下ろしている。ホッとするところか、これ。というか、お前ゲイ疑惑浮上してんだけど。

 その光景を眺めていると扉が開く音が聞こえ、その方向を向く。

 そこには眼鏡をかけたセミロングの女子生徒が立っていた。

 その女子生徒は聖を見ると少し驚いた顔をするとこちらに手を振ってきた。

「加藤さんだよね。どうしたの?」

 どうやら彼女は加藤というらしい。顔見知りということは同じクラスとかなんだろう。

「とりあえず座ってもらえるかしら」

一応話は聞くようだ。


 ☆ ☆ ☆


 話を要約すると猫探しを手伝ってほしいというものだった。

 一昨日の夜から猫が家に帰ってきていないらしく一応張り紙や近所の人に聞いてまわっているらしいが効果は期待できそうにないらしい。

 そもそもこの部活は何でも屋というわけではないので、早乙女に意見しようとしたらものすごく睨まれた上に意味の解らない説教をくらった。俺って何か間違ってるのか?

 その猫探しのせいで俺は今早乙女と一緒に捜索に出ているわけだ。

 反論はできませんでした、はい。

 猫の特徴は全身真っ黒で赤い首輪をつけているらしい。

辺りを見回しているとふと、念話が俺の耳に届いた。

(猫探しってかなり面倒ですね)

(うるさい。黙ってろ)

 声の主はフォルネウスだ。

 捜索コースの近くに俺の家があり、鞄を置きがてらこいつを持ってきたわけだ。

 おそらく早乙女のあの力の入れようだと捜索は見つかるまで終わらないだろう。

 なので時間ぎりぎりまで粘って見つからないようであればフォルネウスを使って今日中に見つけてしまおうというわけだ。

 こんなことにあまり魔法は使いたくなかったが、俺の生活が懸かっているためしょうがない。

「しっかり探すしてくれるかしら。あなたは死んでもかまぼこちゃんは死なせないわ」

 俺の命は猫以下かよ。ちなみにかまぼこちゃんというのは猫の名前だ。

 にしても猫というのは中々いっぱいいるものだ。

 餌をあげている人がいるせいかここら一帯にはそこそこの猫が集まっている。

「なぁ、そろそろ終わりにしないか? 暗くなってきてるし」

「あなた何を言っているの? 私たちが今こうしている間にもかまぼこちゃんは寒さに震えているのよ」

 別にそんなに寒くないし、春だし。そんなこと言っても聞かないであろう早乙女はどんどん先に行ってしまう。

「はぁ~」

 俺はため息を吐いて前に進もうとするとフォルネウスが言葉を発した。

「マスター、Sオーバーの魔力を探知しました」

「Sオーバーってことはリア充軍団の1人か?」

「いえ、違います。男性なのですがこの男性に対しての検索を行ったところ管理局の事件で一件だけヒットしました」

 事件という単語を聞いた途端、嫌な予感しかしなくなったが移動しながら一応聞いておくことにした。

「3日前にSオーバーの次元犯罪者が管理局と一戦交えています。名前はグールス・ホイットマン。ロストロギアを強奪したようです。ですが、彼は管理局の追撃を振り切り、どこかの管理外世界に逃げ込んだ模様で捜索が続けられています」

「ほっとけそんな奴」

「そうもいかないのです」

 またもや嫌な予感がした。ご都合展開を俺は許しません、ご都合ダメ絶対。

「どうやら彼がかまぼこちゃんを連れているようです」

「おかしいだろ……」


 ☆ ☆ ☆


 俺は早乙女にあれやこれやと理由をつけてかまぼこちゃんの回収に向かうことにした。予想外だったのは早乙女がついてきたことだった。もう暗いから帰れと言っても聞かなかったのだ。

 一応、魔導師だということが悟られなければいいのだ。リミッターを普段からかけて魔力が感知されないようにしているから問題ないはずだ。Sオーバーとやりあおうなんて微塵も思わない。

(マスター。そこの路地を右に曲がって100メートル前方を対象が移動中です)

(わかった)

 俺はフォルネウスの指示に従って道を進む。

「ねぇ、本当にかまぼこちゃんはいるんでしょうね」

「あ、ああ。……多分」

「はぁ、頼りない」

 そんなこと言わないでください。私は見知らぬオーバーSに話しかけるなんて高等技術は持ち合わせていないんですよ。加えて言えば普通の人ともまともに喋れない。

(残り10メートルです)

 グールスはもうすぐ目の前だ。それにもう後を追われていることには気づいているらしい。先ほどから、ちらちらと後を振り返っている。

「あの、ちょっといいですか?」

 そういって俺が肩に手をかけた瞬間だった。

「さ、さわるなっ!」

グールスは声を荒げ、すぐさま俺と距離を置いた。腕にはかまぼこちゃんが抱えられている。

「その猫をすぐに返してください。その猫には飼い主がいて――」

 早乙女は声をかけたが途中でグールスがそれを遮った。

「ぼ、僕を騙そうったってそうはいかないぞ。そうだ、僕はもう絶対に騙されないぞ」

「何を言っているのかさっぱりわからないのだけれど。早くその猫を返してもらえるかしら」

 早乙女が再度グールスに呼びかける。グールスの態度に早乙女の言葉には多少のいら立ちが目立つ。

 だが、そんな早乙女には目もくれずグールスは抱きかかえているかまぼこちゃんに話しかけ始めた。

「ぼ、僕が君を守るからね。安心してね」

 なんかいろいろと気持ち悪いがとにかくかまぼこちゃんを返してもらわなければならない。

 グールスがどんなロストロギアを強奪したのか、詳細はわからないがとてつもない力を秘めていることは確かだ。無理にかまぼこちゃんを奪ってロストロギアを使われても困る。
 
 リミッターをかけているおかげでこちらが魔法を使えることはわかっていない様子なのが幸いだ。

「話しかけているのは私なのだけれど。こちらをちゃんと向きなさい」

「そうかい、君は本当に素直な子だね」

グールスはまた早乙女の言葉を無視してかまぼこちゃんに話しかけている。

早乙女は遂に我慢しきれなくなったのかかまぼこちゃんに手を伸ばした。

「ちょっ! お前」

俺は慌てて止めようとしたが既に遅かった。

早乙女はグールスの腕からかまぼこちゃんを奪い取り、俺のいる位置まで戻ってきた。

だが、その瞬間グールスを中心に大きな半円状の物が辺り一帯を一気に覆った。恐らくかなりの広範囲、高度に展開された。

「マスター。結界です」

「わかってる」

「羽武谷君。これは一体……」

とにかくここを離れた方が良いだろう。俺だけなら兎も角早乙女も一緒となると行動に限界がある。その上、早乙女は魔法のことを知らない。いくら頭の回る彼女でも多少の困惑はあるはずだ。

「また、また僕の手の平から奪っていくんだね」

グールスは下を向きながら何やら呟いているがそんなものを気にしている余裕はない。

「早乙女」

俺は早乙女の手を引っ張ってすぐに走り出した。

 
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