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戦国異伝

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第二百二話 関東入りその四

「全くわかっておりませぬ」
「幕府に入っておったが」
「そして公方様のお傍にいたとか」
「公方様の、のう」
「金地院崇伝と共に」
「あの者もよくわかっておらぬがな」
 氏康は彼のことも話した。
「二人して」
「比叡山にもです」
 幻庵はこの山の名前も出した。
「怪しき者がおりましたし」
「杉谷善住坊に無明にとのう」
「あの者達のことも気になりますが」
「叔父上としてはじゃな」
「やはり天海が気になります」
 第一に来るのは彼だというのだ。
「その氏素性の怪しさ、齢」
「学も相当あるそうじゃな」
「法力も」
「その様な者が叔父上があまりよく存ぜぬとは」
 北条家の長老であり最大の知恵者である彼がだ。
「妙なことじゃ」
「そう思います故」
「調べてわかるか」
「いえ、例え風魔の者を使いましても」
 それでもだというのだ。
「わかることは少ないかと」
「左様か」
「はい、残念ですが」
「そうした者なのじゃな」
「尻尾を出さぬかと」
 天海はというのだ。
「我等には」
「今何処におるかもわかっておらぬな」
「幕府が倒れると共に何処かへと消えました」
「崇伝共々じゃな」
「織田家も探している様ですが」
 それでもというのだ。
「それでもです」
「一切わかっておらぬか」
「左様です」
 幻庵は氏康に語っていく。
「何もかも」
「何処に行ったのかが、か」
「織田家には甲賀者がおり」
 滝川が率いる彼等だ。
「そして飛騨者達もおります」
「一騎当千の忍達じゃな」
「その力は十勇士に比肩します」
 一人一人が天下屈指の忍と言われる幸村の家臣である彼等というのだ。実際に飛騨者達はそうまで言われている。
「その飛騨者達が幾ら探してもです」
「何処に行ったかわかっておらぬか」
「例え風魔であろうとも」
「見つからぬし何者か突き止めることも」
「適わぬかと」
「風魔は関東随一の忍じゃ」
 それこそ伊賀、甲賀と並び称されるまでだ。東の風魔とさえ呼ばれ天下にその力を知られている者達なのだ。
「その風魔でもか」
「甲賀でも飛騨者でも見付けられるとなると」
「大体風魔と伊賀、甲賀の実力は互角じゃ」
「はい」
「小太郎もな」
 その風魔を率いる彼もというのだ、そして実際にだ。
 氏康はここでだ、こう言ったのだった。
「小太郎おるか」
「こちらに」
 すぐにだ、風魔小太郎が部屋に出て来た。幻庵の後ろに忍装束を着た大柄な男である。
 その風魔にだ、氏康は確かな声でこう問うた。
「御主、天海のことを調べられるか」
「お言葉ですが」
「叔父上の言われる通りか」
「はい、実はそれがしも怪しいと思っていますが」
「調べようにもか」
 氏康は風魔の言葉に顔を顰めさせて言った。
「その手掛かりを掴もうにも」
「何処に行ったのか、その生い立ちもです」
「わからぬか」
「まるで闇の中にいた様な」
「闇か」
「左様です」
 そうしたものだというのだ。 
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