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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第29話 気の強い女子ほど意外なものに弱い

 
前書き
どうも、蛹です。
委員長系の女子とかも学校ではすごく気を張ってるけど
休日とかに見かけると‥‥‥みたいなキャラが漫画ではよくいますよね。

これが俗に言う“ギャップ萌″なるものです。

最近の作品で言えば「金髪に赤いリボンのハーフ女子が
普段は顔に似合わず暴力的なのに、雷とか暗い所に弱い」
といった感じです(ニセ〇イの桐崎〇棘)。

だが、この作品は笑いよりシリアスの方が多い。
これを配慮したうえで第29話を読んで頂きたい。

なに、無理してシリアスにしたわけじゃない。
ギャップ萌に耐えられる魂を持ち合わせていないだけだ。

それでは第29話、始まります!! 

 
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

俺はジェーン。アスラ達の旅にワケありで同行している。

「そろそろ包帯とりかえよっか」

今話しかけてきたのはマリー。俺になついている。
とても優しい性格で、俺の包帯を毎回かえてくれる。

「わぁ、ケガ治って来てるねぇ」

全身数十ヶ所の傷はここ数日の間に塞がっていた。
元々、かすり傷みたいなものだったのだが。

「でも‥‥‥お腹は治らないね」

問題はそう、腹部の状態である。
単純な右ストレート一発を打ち込まれたものだが
それにより″鎧骨格″は粉々になり
内臓も相当のダメージを受け、今もほぼ紫色だ。
自分の腹とはとても思えないほど変色している。

「‥‥‥‥っ!」
「え!大丈夫っ!?」

包帯を巻き直していたマリーが慌てて訊いてきた。
彼女を少し驚かせてしまったようだ。
少し心配性すぎるのが彼女の短所だ。
常に痛いので、たまに声に出てしまうだけだった。

「あぁ、大丈夫だ」
「そっか、良かった‥‥‥」

マリーは胸を撫で下ろした。
突然だが、少し疑問が浮かんだので訊いてみた。

「なぁ、マリー」
「ん、なぁに?ジェーンちゃん」

ちゃん付けにはそろそろ慣れてきた。
毎回呼ばれるので、あまり気にならなくなってきている。

「倒れてた俺に包帯巻いてくれたのはお前なのか?」

一番最初の巻き方と彼女のやり方は違っていた。
それに、手つきが結構たどたどしかった。
まるでつい最近からやり始めたような手つきだった。

「違うよ?」

やはり予想通りだった。
巻く為に裸を見られたのは少し恥ずかしいが
彼女が他人の治療に慣れていないのなら仕方ないだろう。

「最初はホークアイがしたんだよ?
 後は教えてもらった通りに巻いただけ」
「‥‥なっ!!?」

またお前か!またあの変態野郎なのか!
クソッ、よりによってアイツに見られるだなんて‥‥‥‥
~~~~~~~ッ!!治ったら絶対にブッ飛ばしてやる!!

「でもね、ホークアイは目をつむってやってくれたんだよ?
 ジェーンちゃんが恥ずかしいだろうからって」

え、アイツが俺の為に?ていうか
見らずに包帯を巻くなんて出来るのか?

「私が位置だけを教えてあげたの。
 ホークアイはね、意外と何でも出来るんだよ?」

料理に治療、そして援護射撃。裏方向きの特技ばかりだな。
でも‥‥‥‥俺の為なんかにそこまでしてくれるなんて‥‥‥‥‥嬉しい。
心から言える。すごく嬉しかった。

「いつもはえっちな事ばっかりしてくるけど
 本当はすごく頼りになるんだ。だから
 ホークアイの事あんまり嫌いにならないであげて?」

マリーは俺の目をじいっと見ながら言った。
やっぱり家族を悪く思われるのは嫌なのだろう。
彼女の気持ちも十分伝わって来ていた。

「‥‥‥あぁ」

少し。ほんの少しだけ、見直した。
アイツに直接言いたくはないが、そう思った。

「でも、ジェーンちゃん」

マリーはそう言いながら俺の服を上にたくし上げた。
“やっぱり見られていたか”、当然だよな。
あれは服を脱がされたらすぐに見えちまうからな。
そして、嫌でも目に入ってしまう。

「“左肩”の火傷の痕、どうしたの?」

俺の左肩から背中にかけて大きく焼けただれた痕があった。
マリーはそれについて真剣な目つきで訊いてきた。
俺の心情を察しての事だろうか。

「お前以外は見てないのか?」
「‥‥‥‥‥‥うん」

マリーは大きくうなずいた。

「ホークアイは目をつむってたし他のみんなは
 それぞれ自分の仕事をやってたはずだから」

彼女が言うからにはおそらく本当なのだろう。
仕方ない、いつか話す時が来るとは思ったが
いざ来てみると、少し不安だった。

「実はな――――――」

 ガサガサッ

「終わったか?」
「なっ!!?」

茂みをかき分けながらホークアイが乱入してきた。
俺は急いで服を下にさげた。
幸い、背中は茂みに隠れていたので見えてはいなかったようだ。

「ダメだよホークアイ!いきなり来たら
 ジェーンちゃんも私もビックリするから」

アイツは礼儀ってモノを知らないのか?
まぁ、向こうの迅って人も右半分に火傷の痕があったはず。
それを話題に上げてそのまま自然な流れで話すことにしよう。

「一応、オレが巻く時間の2倍は待ったつもりだったけどな」
「ホークアイは巻くのが上手だけど、私は不器用だから遅いの!」

それは意外だった。マリーは不器用だったのか。
確かに、料理や医療に関してはアイツの方が慣れて見えた。

「俺は女子力の高い男子だからな、ハッハッハッ♪」
「私だって、頑張ってるもん!」

マリーは頬を大きく膨らませて言った。
彼女は確かに不器用だが、努力家だ。
最初の巻き方に比べれば、今の巻き方はかなり上手になっていた。
それに、巻く時間もそれに比例して早くなっている。
数をこなせば、おそらくアイツにも引けを取らない程になるだろう。

「せっかくジェーンちゃんのや モゴッ!」

 ガバッ!

俺はマリーの口を両手で慌てて抑えた。
一緒にいて分かってきたことだが、彼女は天然だった。
隠し事も無意識にバラしてしまう程のド天然である。
今のも俺が抑えなければバレていただろう。

「ん、今なんて言ったんだ?マリー」

ホークアイは俺の不自然な動作に顔をしかめた。
俺はマリーの口から手を放した。

「えっ、ううん、何でもないよ!」

すごく不自然な会話になったが
ホークアイは深追いして来なかった。

「‥‥‥‥そうか、みんなが向こうで待ってるから
 なるべく急いで来いよ?」

そう言って、さっき来た茂みを戻って行った。
それを二人で見送ると同時に息をついた。

「火傷の件はまたいつか、みんなの前で話すことにする」
「‥‥‥‥‥‥‥うん」

マリーは思いっきり肩を落としていた。
完全にしょげてしまったようだ。

「ごめんね‥‥‥‥‥‥」

頭がさらに沈んだ。彼女は少し素直すぎる。
特に相手に悪いことをしたと思った時の反応がひどい。
その時の悲しそうな顔を見ると、心が痛む。

「‥‥‥別に怒ってるわけじゃない」

本当だ。怒りの感情は全くない。
ただ、恥ずかしいに似た感情が出てしまっただけだ。
それに全員の前で話した方が、まだ気が楽だ。
秘密って物は抱えたままでいると意外と疲れる。
出来れば必要最低限の事しか話したくはなかったが
ここまで馴染んでしまうと、話さないわけにもいかないだろう。

「さぁ、行こうぜ。みんなが待ってる」

俺はようやくコツを掴んだ、痛みの少ない立ち上がり方で腰を上げ
ゆっくりと茂みをかき分けて全員と合流しようとした。
だが、マリーは座り込んでしょげたままだった。

「‥‥‥‥‥行こうぜ」

俺はマリーに笑顔を与えた。
笑顔というのは意外と難しいものだった。
だが、下手でも良い。もらった物は少し増やして返す。
彼女の笑顔が俺の心を少しずつ癒してくれた。
だから俺も、少しずつ笑顔を返したい。

「‥‥‥うん♪」

マリーに俺の気持ちが伝わったのか
再び眩しいほどの笑顔をくれた。

また渡された。いつか全て返せるのだろうか?
そう思いながら二人で全員の待つ場所へと向かって行った。



    **********



「そう言えばよぉ」

ホークアイが俺を背負って歩きながら話しかけた。

「お前って結構軽いな」
「‥‥‥‥‥‥」

これは女として嬉しむべき事なのだろうか。
それとも、悲しむべき事なのだろうか。
今まで死にもの狂いで身体を鍛えてきたというのに。

「まぁ、ウチは全員が重いからなぁ」

アスラやリオさんは鍛えられてて重そうだ。
特に迅さんは思った以上に鍛錬されているのだろう。
そして、それが今の戦闘力を生んでいるのだろう。
だが、マリーはどうなのだろうか。

「私そんなに重くないもんっ!」
「ハッハッハッ♪ゴメンゴメン」

ホークアイは頬を膨らませているマリーに笑いながら謝った。
本人が言うからには、おそらく今のはホークアイの冗談なのだろう。
失礼な事を言われても頬を膨らませるだけで許す彼女は
本当に優しい女の子だった。

「あ、ジェーンちゃんは今は大丈夫?」

それに俺を良く気遣ってくれている。
俺はその問いに軽くうなずいた。
マリーは笑顔になると、少し離れて前を歩く
迅たちの元へと走って行った。
そして、向こうで楽しそうに話をしている。

「‥‥‥どうだ?そろそろウチには慣れたか?」

唐突にホークアイから訊かれて
少々驚いたが、俺はすぐに答えた。

「あぁ‥‥‥‥慣れたよ」

俺がそう答えた後、ホークアイは少しの間黙り込んだ。
何か変な事を言っただろうか。正しい返事のはずだ。

「‥‥‥‥‥‥これが初のまともな会話だな」

そう言えばそうだ。今までコイツとしてきた会話は
セクハラ行為からの罵詈雑言とその後の乱雑な返答ぐらいだろう。
それ以来、俺からは話しかけていない。

「‥‥‥‥そうだな」

だが話しかけられたら、もちろん答える。
俺はこの男に色々助けられているのだ。
今も俺は彼に背負われているのだ。

「お前には感謝してる」

それに、そんなにコイツの事は嫌いじゃない。
(無論、セクハラ行為と失礼発言を除いてだが)
何だろうか。何とも言い難いヤツだ。

「な、何だよそれ。急に言われたら、恥ずいなぁ」

ホークアイは後ろから見ても分かるほど照れていた。
頬が少し赤くなっていた。感謝される事に慣れてないのだろうか。
だったら少し恥ずかしいが、いじめさせてもらおう。

「‥‥‥‥‥ありがとう」

 ボッ!

ホークアイが音を立てて爆発(?)した。
分かりやすい反応だった。照れている。
完全に恥ずかしがっている。正直おもしろかった。
やっぱり、仲間は大事だ。それを改めて知った。
ありがとう。この幸せを、ありがとう。

「ん?そういえば‥‥‥‥」

ホークアイは空を仰ぎながらつぶやいた。
空は雲で覆われており、今にも雨が降り出しそうだった。

「‥‥‥‥何だか雲行きが怪しくなってきたなぁ。
 雨が降らなきゃいいけど」

俺も同意見だった。雨は嫌いだ。
あの時も。俺が火傷を負った時も、雨が降っていた。



    **********


 
 ザァーーーーーーーッ


ついに雨が降り始めた。雨音が周りで響いている。
水を吸いぬかるんでしまった地面を歩くのは
普通の山道を歩くよりもキツい上に今は俺を背負っている。
ただの人間であるホークアイには大変な作業だった。

「ホークアイ、変わるか?」

アスラはホークアイに訊いた。
しかし、彼は首を横に振った。

「全然‥‥大丈夫だ‥‥‥軽い、軽い‥‥‥」

息を切らしながらそう答えた。
もはや、余裕は全く見られなかった。

「‥‥‥‥‥無理はするなよ」

アスラはそれ以上言わなかった。
迅はその反対側の位置を歩いている。
万が一、ホークアイが力尽きてバランスを崩しても
両側にいる2人のどちらかが支えられるようにである。

「ジェーンちゃんは大丈夫?」

マリーは俺に声をかけてきた。
俺はホークアイのカッパを着ている。
代わりに彼は簡易的な雨具をシートで作って来ていた。
何というか、その点は申し訳なく感じた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ」

だが仕方ない。俺は現在、熱を出していた。
やや冷え込んだ山の中なので中に毛布を仕込んでいる。
高熱を出しているはずなのに、毛布まで着ているというのに、寒い。
しかし、周りに心配をかける程のものではない。

「俺も‥‥‥‥大丈夫だ」

だから、俺はこう答えた。

「‥‥‥苦しくなったらいつでも言ってね」

マリーはそう言って少し離れた。
そして、一刻も早く山を抜けるために歩みを早めた。


 ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ


雨足は強くなるばかりだった。風も吹き荒れていた。
嵐の中、山道を進むのは自殺行為なのではないかと
誰かに問いたいほどだった。

「お‥‥‥‥俺―――――――――」

俺が言おうとしたその瞬間、絶望の時は訪れた。


 ガシャアアァァアアァァァァァアァァアアアァァァアアンッッ!!!


強烈な閃光と共に、落雷が俺たちの前に落ちた。
と言っても、正確には視界的な意味での前なのだが。
距離的には随分と遠くに落ちたのだろう。
しかし、その時は俺にはほとんど記憶がなかった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ッッ」

 ギュウッ‥‥‥‥

俺は力一杯ホークアイの雨具を握った。
彼はそれで俺の異変に気付いたようだった。

「おい、どうしたんだよ?あ、もしかして雷が怖いってか?」

ホークアイは冗談のつもりで言ったようだが
俺の耳には全く入ってこなかった。

「ん?おい!どうしたんだよ!?」

俺は震えていた。ガクガクと。惨めに。無様に。
苦しい。息が出来ない。恐怖が全身を包み込むような感覚だった。
俺はホークアイの背から降ろされ、木にもたれかけられた。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥‥‥」

俺の目からは涙が溢れんばかりにこぼれていた。
怖い。あの時の事が、今でも鮮明に、思い出された。
雨の日だけ表れる、俺の中の恐怖の情景。

「‥‥‥‥嫌だ‥‥‥‥‥助け‥‥‥‥‥‥‥誰か‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

俺は必死に手を伸ばしたが、それは何にも届かない。
そうして俺は再び暗闇の中に閉じ込められるのか。

 ガシッ!

「‥‥なっ‥‥‥‥!‥‥‥‥‥」

誰かが俺の手を掴んでくれた。
涙と雨で視界が滲んで顔がよく見えなかった。
しかし、確かに両手で掴まれていた。

「しっかりしろ!ジェーンッ!!」

その声の主は、ホークアイだった。
彼は俺の震える手をがっしりと掴んでくれていた。
ゴツゴツしていて、それでいて、温かい手。

「大丈夫か!?ジェーン!!」
「もう少し頑張れよ、ジェーン!!」
「踏ん張れよ、ジェーン!!」

迅、アスラ、リオさんもその後ろから声をかけて来た。
その後ろでマリーは笑顔でこう言った。

「大丈夫。みんな、ここにいるよ?」

その一言を最後に、俺は意識を失ってしまった。 
 

 
後書き
我ながら題名に似合わぬシリアスさ。
でも、そうしないと火傷の理由が出来ないから‥‥‥
この話そのものがボツになるからしょうがないんです。

大体こんな感じですよね。こんな感じでトラウマが蘇って
次の話で過去編突入みたいなのはよくありますよね。
私もしてみたくてやってみました。

突然に立てられた過去編フラグ(後付なんて言わないで)。
ジェーンの左肩の火傷と彼女が恐れる雷の関係とは?
というか、そもそも嵐の中どのようにして過去を語るのか?
そこは‥‥‥‥‥何とかします。

次回 第30話 会話が切られるきっかけって大体がクシャミ お楽しみに!! 
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