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暗路

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第五章

「行くぞ」
「ゴールまでね」
「離れるなよ」
 道夫はこうも言った、ここでも。
「何があっても」
「そうよね、離れたら」
「それも妖怪に狙われるからな」
「妖怪って一人を狙うから」
「だからだよ、いいな」
「うん、じゃあ」
 優子は道夫の言葉に従うことにした、そうして二人で後ろを何があろうとも振り向かないと決めてひたすらだった。
 ゴールを目指してだ、そしてだった。
 そのゴールに来てだ、そのうえで。
 二人はほっと胸を撫で下ろして周りに言った。
「いや、怖かった」
「ずっとびくびくしてたわ」
「何が出て来るかって思って」
「後ろからとか」
「すれ違った人も」
「あの人妖怪だったんじゃ」
 あのすれ違った人のことも話すのだった。
「絶対にそうだよな」
「そうに決まってるわ」
 絶対にと言うのだった。
「いや、振り向いたらな」
「その時は私達死んでたね」
「うん、絶対にな」
「そうなってたわよ」
「何か君達相当怖かったみたいだね」
 ゴールで待っていたお兄さんが二人の言葉を聞いて笑って言った。
「そこまで怖がってくれると嬉しいよ」
「何で嬉しいんですか?」
「怖いのに」
「いや、怖いからだよ」
 それこそが、というのだ。
「肝試しをしたかいがあったよ」
「それでなんですか」
「やったかいがあったんですか」
「俺達が怖がるからこそ」
「だからですか」
「そうだよ、やっぱりね」
 お兄さんは兄妹に明るい顔で話す。
「肝試しは怖がってもらわないと」
「面白くない」
「そう言うんですか」
「うん、本当にね」
 まさにそれこそといった口調だった。
「やったかいがあったよ、本当に」
「いや、あの路は」
「ちょっと」
 二人はお兄さんの明るい笑顔と正反対に曇った暗い顔で返した。
「怖過ぎました」
「もう本当に」
「実際に妖怪いましたし」
「そうよね」
「本物!?」
 お兄さんは二人の言葉に目を瞬かせて問い返してきた。
「まさか」
「いえ、いましたよ」
「女の人の妖怪が」
 二人はそのお兄さんに真剣に言い返した。
「俺達擦れ違いましたから」
「振り向いたら襲い掛かって来る妖怪が」
「だから必死にここまで来たんですよ」
「振り向かずに」
「そんな妖怪いるかな」
 すれ違って後ろを振り向いたら襲い掛かって来る妖怪と理解してだ、お兄さんは首を傾げさせつつこう言った。
「日本に」
「中国か何処かにいますよ」
「お兄ちゃんそう言ってますよ」
「そうなんだ、まあここ日本だから」
 そえで、とだ。お兄さんは二人の話を聞いてこう言った。
「いないと思うよ、あの路だって仕事帰りの人がたまに通るし」
「じゃあその人ですか?」
「私達がすれ違った人って」
「そうじゃないかな、まあ僕達も怖くて実は安全な場所を選んでるから」
 そうして肝試しをしているというのだ。
「大丈夫だよ」
「じゃあ俺達がすれ違ったのは」
「普通の女の人ですか」
「そうだと思うよ、絶対にね」
 お兄さんは二人に笑って行った、程なくして参加者は全員ゴールに集まってお兄さん達が皆にアイスを渡して終わりとなった。
 そのアイス、アイスキャンデーを舐めつつ家に帰りだ、道夫は優子に言った。
「どっちもゴール出来たしアイスも貰えて」
「よかったわね」
「ああ、今回は引き分けだな」
「どっちかがアイスを奢ることもなかったし」
「いいこと尽くしだったな」
「怖い思いしたけれどね」
 それでもと話しながらだった、二人は家に帰ってそれから風呂に入り歯を磨いて寝た。一週間後にはもう肝試しの話は昔話になっていた。


暗路   完


                             2015・1・24 
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