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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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前書き
狙撃手バトル回 

 
さて……SEED製造機のある場所は、ここより大きな建造物である本棟だと見当をつけた。なので1階に戻り、本棟へ通じるゲートを開けてアスファルトの上に積もった雪に足を踏み入れようとした際、急に回線を開けていないはずの周波数140.48からCALLが入った。

~~♪

『サバタ、気を付けろ。その格納施設から本棟までは無数のセンサーと監視カメラが仕掛けられている。おまえでも気付かれずに地上を進むのは不可能だ!』

「あんた、誰だ……とでも返してほしいのか? “ねとねと”」

『だからその呼び方は止めてって何度も…………ハッ!?』

『な~にやってるのよ、ロッテ。一瞬でバレてるじゃない、というかそもそもサバタには隠す必要ないじゃない』

『いやぁ~、なんか偶にはカッコつけたくてさ、メンゴメンゴ!』

「その様子なら、そっちの心配はいらなそうだな」

『これでも私らは実戦経験は豊富だからさ、生半可な連中が相手なら余裕で返り討ちに出来るよ』

『でもサバタにはすぐ無力化されてたわよね。仮にもエース級が見るも無残な程形無しよ』

『うぐっ! ……ま、まあ、あなたのおかげで出来た一生分イジられるネタでからかわれてるけど、とにかく仲良くやってるわ!』

「そうか。ところで話を戻すが、地上を通って本棟に向かうのはやめておいた方が良いのか?」

『ええ、そうよ。そこの往来は幹部クラスのIDが無いと、私達ですら通れないセキュリティで固められているの。正直な感想を言うと、アースラ内部の防衛装置の倍以上強力ね』

『あー! せっかく私が言おうと思ってたのに、アリアぁ~!』

「……“ねとねと”の意見は放っておくとして、それならここから本棟に行くにはどうすればいい、リーゼアリア?」

『その格納施設の地下1階に、本棟へ通じる平社員用の通路があるわ。私達もそこを通って本棟へ入り込んだから、情報は確かよ』

『あ! でもちょっと強引に突破を図ったから、警備が強化されてるかも。うっかり見つかって8人くらいボコッちゃったんだよね……そっちが潜入する時は多分大変だと思うけど、ぶっちゃけ何とかなるっしょ!』

「その根拠のない自信には困惑するが、その前に少し訊きたい事がある。なぜおまえ達までここに入り込んだんだ? 何か目的でもあるのか?」

『まあ……そうよ。ヤガミ以外の事で、ちょっと清算しなければならない過去があってね。そのケジメを付けに来たのよ』

『だけどこの施設は私らが考えてたより結構大きいから、そっちと協力して探索を進めていった方が良いと思う。探し物は人手が多い方が見つけやすいからね』

「そうだな、協力体制を組む事に異議はない。ひとまず俺は情報通りに本棟へ移動する、そっちもぬかるなよ?」

『ロッテはともかく、私は大丈夫よ。むしろ一人でも十分なくらいだわ』

『ともかくって何!? 確かにここ最近良い所なしだけど、やる事はやるって!』

「……気を付けろよ」

『お互いにね』

『じゃあね!』

通信切断。それにしてもリーゼ姉妹との通信の間、向こうから変な歌が流れていたが、きっとどこかの部屋から漏れた音が無線に入り込んだのだろう。
しかし彼女達は潜入の難易度を上げた代わりに、ちゃんとした突破口を教えてくれた。もしこのまま進んでセキュリティに引っかかっていたら、面倒な事になっていたのは間違いない。その点では、警備が多少厳重になった事ぐらい受け入れてやるさ。

彼女達の情報を頼りに俺は格納施設に引き返し、エレベーターに再び乗り込む。地下1階に降りると、そこは武装社員が寝泊まりする場所のようで、廊下を中心にいくつもの部屋がずらりと続いていた。廊下は所々に戦闘の痕跡が残っていて、壁の一部が丸くえぐれていたり、監視カメラが壊れていたりするのを見ると、リーゼ姉妹は結構やらかしたんだなぁ、とつくづく実感した。
ひとまずそのおかげで廊下にあった積荷が崩れて、伏せれば身を隠せる場所が多く見られた。武装社員の数は確かに多いが、これなら十分発見されずに通り抜ける事が可能だ。
手近に転がっていた壁の破片をこの空間の隅に放り投げ、わざと物音を立てて彼らの注意がそれている間に、社員用通路の入り口へ走り抜ける。

「どうにか見つからずに済んだか……」

社員用通路はそこまで狭い訳では無く、大人が5人ぐらい横に並べるぐらいの広さがあった。代わりに本棟までかなり長い通路が続いていたのだが、途中には監視カメラが数台ある程度で武装社員の姿は無かった。
ここで迂闊に安心して気を抜けば、それは素人の証拠だ。俺は逆に気を張り詰めて警戒し、冷たい汗が流れていく。その時、刺すような殺気がこちらに向いているような気がした。

ズドンッ! カンッ!

刹那の判断で俺は暗黒剣を抜き、どこかから発砲された銃弾を弾いた。そのまま流れる様に物陰に隠れて、敵の様子を伺った。

「狙撃か……厄介だな」

狙撃手が本棟にいると判断すると、こんなに見渡しが良く、尚且つ直線にしか進めない場所は狙撃には絶好のポジションだ。恐らくこの状況は並みの人間だったら、俗に言う詰みとも言い表せるだろうな。それこそなのはがシールドを張って直進するぐらい強引な突破を図るか、こちらも狙撃銃で何とか対抗するかしないと、物陰から出た瞬間から良い的にしかならない。

周波数140.85からCALL。

『サバタ、狙撃手は本棟の見張り台にいるようです。それと……狙撃手からゲイザーと同じ反応が検出されましたわ』

「という事は、FOXHOUNDの力をこの狙撃手も得ている訳か」

『そうなりますわね。恐らく元となったFOXHOUNDも優秀な狙撃手でしょう。そこから本棟までの距離は約300メートルですが、人一人を狙撃するには十分過ぎる距離ですわ』

「だが、この道以外では地上の雪原しか本棟へ行けない。そしてそっちの道はセキュリティが満載だ、今後の事も考えるとそちらを使うのは明らかに得策ではない」

『では、もしかしてここの強行突破を図るおつもりで?』

「当然だ、このまま縮こまっていても何の解決にもならん。ならば一縷の望みに賭ける方がマシだ」

『常々、あなたの決意には感服いたしますわ。……わかりました、では狙撃手が発砲するタイミングをこちらから伝えます。あなたはタイミングに合わせて回避を行ってください』

「心得た」

実に5年ぶりと久々で、更に居場所は離れているエレンとのコンビネーションだ。本当に上手く行くのかどうか、その事に対する不安や心配は当然ある。しかし……仲間を最後まで信じずに、やり遂げられる訳が無いだろう?

『カウントゼロで開始します。……3』

無線越しにエレンと呼吸を合わせ……、

『2……』

狙撃手のいる場所を壁越しに見つめ……、

『1……』

ゼロシフトの発動を瞬時に行えるようにセット。

『ゼロ! 発砲確認!』

俺が飛び出した直後、待ち構えていた狙撃手が発砲してくるが、それは同時発動したゼロシフトで回避する。やはり絶対に当たらなくなるゼロシフトの性能は凶悪なのか、狙撃手がほんの僅かに驚いているのがわかる。

『発砲……来ます!』

「はぁっ!」

エレンの声に合わせて、ゼロシフトを発動。銃弾は俺の身体を素通りし、床に跡を残していく。照準は正しいのに、その銃弾は決して俺には届かない。その事実を狙撃手は受け入れられなかったのか、徐々に発砲の間隔が短くなっていくのと並行して照準がブレていた。回避の回数が増えた事でその分ゼロシフトを使い、エナジーの消費が激しくなっていく。

そして目標まで10メートルを切った時、エナジーが枯渇した。

『サバタ!?』

「………」

最後の銃弾は回避にゼロシフトを使えない。その事に気付いたエレンが俺の名を呼び、狙撃手は残った最後の一発を、意地で持ち上げた狙撃銃の照準を俺の頭に定めて撃ってくる。
鋭い円錐状の弾丸が、ジャイロ回転しながら目前に迫り、無線機越しにフェイト達が息を呑む。遮る物も無く、凄まじいスピードで伸びる銃弾は真っ直ぐ俺に向かい……、

キンッ!

眼前に動かした暗黒剣の刀身で弾かれた。最初の狙撃をこの剣が弾いた事実に狙撃手は気付くも遅く、俺は既に1メートル以内に接近を果たしていた。そして負けを認めたのか、暗黒剣を突き付けられると潔く狙撃手は使っていた銃、“PSG1”を置いて両手を上げた

「……」

「やれやれ……俺にエナジーを枯渇させる程の狙撃手が、フェイトと同じぐらいの少女だったとはな……」

蜂蜜色の髪に、琥珀色の綺麗な瞳。整った顔立ちは恐らく一般的な視点でも可愛いと評されて相違ないものなのだが、浮浪児のように栄養を取れていないのか、心が痛むほど身体がやつれていた。喉元に大きな傷跡が刻まれている少女は、まるで罰を受けるのを待っていたかのような眼でこちらを見据えてきた。

「…………」

「? おまえ……なぜ何も話さない?」

そう訊くと少女は首を振ってから俺の手を取り、人差し指で手の平に何かを書いてきた。それを脳内で解読すると……、

『コエ、ナイ。ハナス、ダメ』

「ッ! ……そうだったのか、酷な事を訊いた。すまない」

喉元の傷から察するべきだった。彼女は負傷で声を失い、こうして指を介してしか会話が出来なくなっているようだ。手話はまだ覚えていないのか、それとも覚えさせてくれなかったのか、それはわからない。ただ……彼女がSEEDを使っているのはエレンが教えてくれたから知っているが、こんな哀しい程傷ついた少女からゲイザーのように強引に抜き取ろうと思う気持ちは抱けなかった。

謝罪を聞いた少女は、微笑を浮かべて再び俺の手に文字を書き始めた。一字一字を俺は見逃さずに解読していく。

『SEED、スナイパー・ウルフ。ケダカイ、オオカミ』

「……FOXHOUNDの狙撃手の名か。だが……俺はどちらかと言うと、おまえの名を知りたいものだ」

そう言うと彼女は否定の意を込めているのか首を振り、こう書いた。

『ナマエ、ワカラナイ。オボエテナイ』

「どういう事だ?」

『ワタシ、ジッケンタイ。ソレ、ヤクワリ』

「実験体だと!?」

『イツカラ、ワカラナイ。キオク、バラバラ。ワタシ、ドウグ』

「な…………!」

『ヤクメ、ココデソゲキ。デキナイ、ショブン』

「ふざけるなッ!! おまえは道具なんかじゃない、一人の人間だ! 記憶を消されて、実験体として生かされ、自己すら喪失してしまっても、それでもおまえはこうして生きているじゃないか! だからもう道具なんて自分から言うんじゃない!」

『イキカタ、ワカラナイ。ドウグ、カンガエナイ。ワタシ、コレデイイ』

「良い訳があるか! おまえはもっと自由に生きて良いんだ! こんな所に縛り付けられなくても良い、おまえだけの人生を謳歌するんだ!」

『ジンセイ……』

少女は自分の手を見つめた後、天を仰いで目を閉じた。その時、彼女の眼からほろりと流れた滴が光る。この少女はまだ世界に生まれていない。そしてそれをいい事に何にも知らせず道具として扱い、彼女に当たり前の生き方を教えなかった。そんな悲しい経歴を持つ彼女に、俺はかつて記憶を失ったザジの姿を重ねてしまって、もう見捨てる選択肢は消え去っていた。

こんな時に……いや、むしろ丁度良く周波数140.48からCALLが入った。

~♪

『お、繋がった! サバタ、本棟に無事たどり着いたみたいだね。良かった良かった』

『彼の事だもの、私達の想像もつかないような状況でもきっと生き延びるわよ。あんまり認めたくないけど、実力は相応に持っているもの』

「いいタイミングだ、リーゼロッテ、リーゼアリア。事情があって一度おまえ達と合流したい。今どこにいる?」

『えっと、ここは本棟地下2階の所長室だから、合流するならまず中央のエレベーターを使う必要があるわ』

『地下2階にいた敵は全て片付けてるから、そこからエレベーターに着けば合流まで楽なものよ』

「全て片付けたとは、随分大暴れしたな。潜入任務らしからぬ行動だ、魔導師にスパイは不向きな事がよくわかる……」

『まあ、こっちも色々思う所があってさ……それはともかく所長室は制圧したから、エレベーターを降りた所で合流するね』

『あなたの事だから心配は無用だと思うけど、周囲の注意はおろそかにしないようにね』

「わざわざ言われずともわかっている。それじゃあ後でな」

通信切断。またもリーゼ姉妹の後ろから流れていた歌の事は気になるが、それは置いておく。俺は少女の肩に手を置き、きょとんとする彼女に言い聞かせるように告げる。

「いいか? この先、おまえはもう戦うな。わかったか、どうしても戦うなら自分の意思で覚悟を決めてからにするんだ。それが出来なければ、どんな状況になろうとも二度と武器を持ってはならない。約束だ」

「……(コクリ)」

真摯な言葉で放った言葉に、彼女は真剣に頷いた。すると少女は徐に地面に転がった自分の狙撃銃PSG1を拾い、俺に手渡してきた。彼女の意図を知るためにひとまず受け取ると、彼女は俺の手の平にこう書いた。

『アズケル。ワタシガ、ミツケルマデ』

「そうか……それが良いな。わかった、この銃は俺が預かる。おまえが自分の意思で戦う覚悟を持った時、この銃は返そう」

「……(コクリ)」

銃弾も渡してきた少女は、銃を手放して身軽になった手で、今度は俺の手を掴んだ。それは武器や兵器しか握って来なかった彼女が、初めて人間らしく他人と手を繋いだ瞬間でもあった。ただ、彼女の手が俺に触れた瞬間どこかから女性の声が聞こえ、その声はこう言っていた。

『たとえ傍観者でも、女や子供が血を流すのは観たくない。利用されてばかりのこの子は、誰かを殺すための潜伏はしてない。誰かに助けてもらうために潜伏していたのだと……今はそう思いたい』

そうだな……俺もそう思う、スナイパー・ウルフ。だから……この子は俺に任せろ。誇り高い狼の戦士に見初められたこの子は、光の当たる世界に解き放つべきなのだから。

周波数140.85からCALL。

『サバタ、ご無事で何よりでした。まさか暗黒剣で狙撃を弾くとは……恐れ入りますわね。それにしてもあなたが敵対していた者を助けるとは、正直に申しますと私も驚きました。でも……そこにいたらきっと私も同じ事をしていたでしょうね』

「だろうな。しかし……次元世界は世紀末世界よりはるかに平和で危険が少ないはずなのに、彼女みたいな境遇の人間がどうして生まれてしまうのか、全く理解出来ん。世界が平和になればなるほど、人は他者を不幸にしてしまう性質を持っているのか……?」

『人間にそんな悲しい性質があるとは、私も思いたくありませんね……。その少女の詳細はこちらでも洗ってみます。サバタは別件で潜入していたリーゼ姉妹と合流して下さい』

「了解した。それと少し気になるのだが……ゲイザーといい、この子といい、武器は明らかに地球産の銃器だ。これって確か管理局では質量兵器と呼ばれて違法になるんじゃないか?」

『そうですよ。管理局は質量兵器の使用を禁止していますから、法に照らせばどちらも犯罪者として扱われますわ。しかしこの場合は、アレクトロ社にデバイスではなく質量兵器を与えられた、という扱いになるので責任はどちらかと言うとアレクトロ社に偏りますね』

「そうか……」

『その子が外に出た際、犯罪者として扱われる心配をなさったのですね。安心して下さい、サバタ。ゲイザーには弁明の余地はありませんが、その子は強制されていたという事実があるので、無罪を勝ち取る猶予は十分にありますわ』

「すまないな、エレン。そちら側は俺にはどうしようもないからな、後始末は任せるぞ」

『何を言ってるんですか。一番危険な橋を渡っているのはあなたなのですから、むしろ感謝するのは私達ですわ』

「フッ……久々に昔の感覚を思い出した。あの時のように、また3人揃えたらいいものだな……」

『ええ。いつかまた、ザジも含めた3人で語り合いたいものです。そのためにもSEED製造機の証拠写真を収めて、裁判に勝利しましょう』

「……ああ!」

通信切断。声援を受けて活力が復活した事を感じ、俺は少女と共に本棟の中央にあるエレベーターの下へと向かうのだった……。
 
 

 
後書き
ウルフ・コピーの少女:お話で有名なリリなの世界ですが、もし話せない人間がいたら、という事から生まれたキャラ。 
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