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第3話 我が祈りは旭日と共に 其ノ2
前書き
遂に明らかになる一葉の過去。
「ザバゲーにうつつを抜かした上に大分待たせといてなんなんでちが、期待はして欲しいけど過度な期待はしないでほちいでち」
「おい58っ、何やってるんだッ‼︎ 行くぞッ‼︎」
「い、いやでちッ‼︎ もうオリョールは行きたくないでちッ‼︎」
あれは今から10年前。
宇宙世紀0090年。
第1次ネオジオン抗争が終結し、各地の被害の復旧が漸く終わりそうな頃の事だ。
UC.0090. 2月6日
サイド6 リーア
地球連邦軍第19リーア士官学校
「おい……あれ……」
「〝ジングウジ〟の坊っちゃんだ……」
「あの問題児か……」
窓の外に広がる雪景色を眺めながら、周りから聞こえてくる声を聞き流した。
何処にでも噂好きは居るらしい。
全く飽きない連中だ。
「ねえ兄さん、ラトロワさんと一緒に今日PXに行かない?
偶には気分転換もいいでしょ?」
「……ラトロワとだけ行きゃいいだろ」
「お前も来るんだ、行かないと言っても連れて行くぞ?」
「…………パス」
入校から日が浅いと言うのに騒がしい連中だ。
まさか士官学校にまで付いてくるとは思わなかったが、正直言って有り難迷惑も良いところだ。
この世界に来てから早12年。
俺は親父達と同じ道……軍人を目指した。
はっきり言って連邦だとかジオンだとか、スペースノイドだのアースノイドだのルナリアンだの何て言う差別に興味は無い。
だが、同じ立場に立てば、親父達の事をもっと理解出来ると思った。
ただそれだけだ。
「おい見ろよ、ジオンが居るぜ」
数人の男子がラトロワを指差し、憚る気の無い大声で下衆な笑いを浮かべていた。
「……」
「どうした〝ラリー〟」
「興味ない、帰るぜ」
気だるそうにラトロワと俺を見ながら、ラリーと呼ばれた男は踵を返し、その場を後にした。
ラトロワの父親は元ジオン軍の将校だ。
今でもジオン出身というだけで迫害される例は少なくない。
ラトロワ自身のジオン訛りもあってか、この近辺では最早知らない者はいないだろう。
「……今回だけだぞ」
「流石兄さん、話がわかる〜♪」
「……」
俺が一緒に入れば何かと都合がいいだろう。
その後、1日の行程が終了して馬鹿騒ぎを起こした後、2人に連行されて寮に着いた時には、既に門限ギリギリだったのは言うまでもない。
◉◉◉
それから一年が経ったある日、俺達パイロット候補生は基地のシミュレータールームで死屍累々の様相を晒していた。
その日はシミュレーターでMS操縦訓練を行っていたが、教官であるエイジ・イワヤ教導官のシゴきを受け、俺を含む数人を除いてほぼ全員が床に突っ伏していた。
「さて、残ってるのは……貴様等か」
イワヤ教導官がニヤニヤしながら俺達を見た。
「ようし、次で最後だ。
αチーム、フィカーツィア・ラトロワ、マリモ・ジングウジ、bチーム、カズハ・ジングウジ……それから…〝ラリー・フォルク〟」
「……よろしくな、〝エースさん〟」
名を呼ばれたラリーは俺の肩を叩きながらシミュレータ・ポッドに入った。
ラリー・フォルク。
成績は全教科を通して次席。
特に対人白兵戦では俺を凌駕する。
因みに俺は全教科で主席でラトロワが3位、まりもが5位だ。
飄々として掴み所が無いが、協調性も高い。
が、プライドも高く、事あるごとに俺に競り合いを仕掛けてくる。
それ自体はいい、競い合う事で互いに自分の能力や技術を切磋琢磨出来る。
が、負け続けるというのは良くも悪くも心に負担をかける。
俺が初陣を飾ったグリプス戦役でもそれは顕著だった。
戦役初期のエゥーゴはティターンズの攻勢に押され、緒戦に置いて負け戦が続いていた。
それこそ、アーガマ隊が本格稼働を始め、ガンダムMk-2強奪事件が起こるまで。
俺の所属していたマゼラン級戦艦イツクシマでも、何人ものパイロットや乗組員が負け続けの戦況にストレスや苛立ちを募らせ、シェルショックやPTSDを発症させていた。
それらを踏まえて、ラリーの動向には今一度注視しなければならない。
ラリー自身が負の感情に押し潰されなければいいが…。
シミュレータ・ポッドのハッチを閉め、ノーマルスーツのヘルメットを被り、バイザーを下ろす。
主機に火を入れ、OSを起動。
メインシステムの自己診断プロトコルを立ちあげる。
機体はジムⅡ空間戦闘仕様。
スラスター推力と制御系統を宇宙空間での運用に適したものに換装したタイプで、グリプス戦役でも搭乗していた馴染み深い機体だ。
武装はビームライフルかブルパップマシンガン、ツインビームスピア、ビームサーベル、60mm頭部バルカン。
武装選択でブルパップマシンガンを選び、画面に映し出されたサラミス級の甲板上のプチモビから受け取る。
宇宙空間では大気による威力減退がない為、運用に最も適したビームライフルを選ぶのが基本だが、これも馴れ親しんだブルパップマシンガンを選択した。
グリプス戦役では製造コスト・製造期間の掛かるビームライフルは、俺の居たような末端の部隊には滅多に補充などされなかった。
その為、MSに搭乗していた期間中、ビームライフルを扱う機会は殆ど無かった。
それならば、自分に合った武器を選ぶに越した事はない。
格闘兵装はツインビームスピアとビームサーベルだが、ツインビームスピアは外した。
これも扱った事がないので、俺にとってはデッドウェイトにしかならない。
《αチーム、全滅ッ‼︎ 訓練終了ッ‼︎
続いてbチームの訓練を開始するッ‼︎》
無線から巌谷教導官の声が響いた。
加賀姉さんの甲板の木片で出来た飾りのついた髪飾りを右手首に縛り付け、その上に手袋をはめる。
《状況を確認するッ‼︎ 一度しか言わんからよく聞けッ‼︎
現在我がサラミス級に接近する所属不明MS4機が高速で接近中だッ‼︎
ミノフスキー粒子濃度が高い為、機種は不明だが……内2機は〝ゲタ〟を履いているッ‼︎
貴様等の任務は座乗するサラミス級を安全圏まで退避させる、若しくは敵MS部隊を全機撃破する事だッ‼︎
サラミス級が撃沈、又は貴様等が全機撃破されると任務は失敗だッ‼︎
何としても任務を遂行しろッ‼︎》
《「了解ッ‼︎」》
《よぅしッ‼︎ 状況開始ッ‼︎
各機出撃せよッ‼︎》
「了解ッ‼︎ アンカー解除ッ‼︎
bravo1、出撃しますッ‼︎」
《bravo2、出撃しますッ‼︎》
脚部を甲板に固定していたアンカーを切り離し、スラスターを目一杯噴かせた。
甲板を蹴り、宇宙空間に躍り出て、ラリーと共に隊列を組んで無重力空間を突き進んだ。
《bravo1、お客さんだ。
…12時方向に反応4ッ‼︎ ミノフスキー粒子濃度が高過ぎて機種は判別不能ッ‼︎
スラスターの噴火色からザク系2、ドム系1、ゲルググ系1と推測ッ‼︎》
「サラミスに接近させるわけには行かないッ‼︎
散開だッ‼︎ ゲルググとドムは俺が抑えるッ‼︎
bravo2はザクを頼むッ‼︎」
《了解だッ‼︎》
敵の目前で散開し、左右に分かれる。
まず狙いをつけたのは先頭のゲルググ。
形状から見て、恐らくゲルググキャノンだ。
鹵獲されたベースジャバーに乗ったゲルググキャノンが此方に気づき、ビームライフルを撃ってくる。
宇宙空間を裂いて飛来するビームがジムⅡを的確に狙ってくる。
それを最小の動きで躱し続け、至近距離からベースジャバーに向けて頭部バルカンをばら撒いた。
ボッとベースジャバーから火の手が上がり、間も無く爆発。
ゲルググキャノンの右脚を巻き込んで宇宙に閃光の華を咲かせた。
直後、ソナーが後方から接近する物体を探知。
反射的に後方へシールドを向ける。
後方から接近して来たドムがヒートロッドを振り被り、振り下ろしたヒートロッドをジムⅡのシールドが遮った。
「よりによってドライセンかよ…ッ‼︎」
ドムタイプの最新鋭機が映るモニターに毒づきながらフットペダルを踏み込んだ。
《遅くなったな》
ビームナギナタを抜いて踊り掛かるゲルググキャノンが、飛来したビームを避ける為に宙を舞った。
ラリーのジムⅡがザクを蹴散らし、戦線に復帰したらしい。
「追い込むぞッ‼︎」
《任せろッ‼︎》
◉◉◉
「その後、俺とラリーは妙に気が合ってね。
度々訓練で一緒になってた事もあってか、仲良くなるのに時間は余り掛からなかったよ」
「「「へ〜」」」
「なんだなんだ、なんの騒ぎだこりゃ」
噂をすれば、件の相棒がグラビア雑誌片手に現れた。
「実はかくかくしかじか…」
「はぁ〜、昔の話なぁ〜」
感慨深い表情でラリーが遠くを見つめる。
「4人で色々やったよなぁ」
「大体営倉入りだったけどな」
よく訓練中に白熱し過ぎてリアルガチンコバトルになっては、巌谷少将を困らせた。
一番手のかかった教え子だと、自分ながらに理解している。
「一番ヤバかったのは〝アレ〟だな」
「ん? ああ〜、実機訓練のときの奴か」
「何があったの?」
雷が鳳翔の膝の上でお茶をすすりながら聞いてきた。
俺たちは顔を見合わせて眉を顰めた。
「ああ〜、えっと……あれは卒業前の最後の実機訓練だったかな……」
「実は、訓練中に敵に襲われてね」
次話二続ク
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